むかえびと (実業之日本社文庫)

著者 :
  • 実業之日本社
3.70
  • (12)
  • (31)
  • (31)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 362
感想 : 21
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (369ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408554167

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 誰もが何かを背負ってる。医師、看護師、助産師、ワケあり妊婦、さまざまな人達が命の現場となる産婦人科病院で絡み合う。
    柔らかい文章で登場人物の数だけ伏線を優しく張り巡らしていく手法は見事。
    巻末の解説に記載されてますが、現役の看護師目線での小説は珍しいそうです。優しい看護師の如く藤岡作品はどれも冒頭から手をとって作品の世界に導いてくれます。

  • パートの助産師・看護師はいるものの、常勤助産師は師長を入れて4人しかいない産科病棟…
    産科で勤務したことのない看護師のわたしでも、恐怖で震えてしまう職員構成です…

    しかも師長の性格に難がありすぎて、めまいがします。
    師長がそんな難あり言動を繰り返すきっかけは書かれていますが、だからといってまわりを振り回していい、というわけではありません。
    …とまあ、産科の現状については想像できる部分が多すぎるあまりに、読んでいて怒りどおしでした。

    この物語は単行本時「闇から届く命」というタイトルだったそうですが、文庫化にあたり「むかえびと」に改題されたそうです。
    しかし読みきったあとタイトルを見ると、「闇から届く命」も「むかえびと」も今ひとつ、しっくりきませんでした。

    「一分一秒を争う命の現場で働く“むかえびと”の姿をリアルに描く渾身の医療小説」という裏表紙のあらすじからは、どうしても出産にまつわる感動小説の香りがしてしまいます。
    確かに産科のお話であり、出産のエピソードも書かれているのですが、お話の半分くらいにはミステリー要素が入ってくるので、「むかえびと」というタイトルするのは、難しい気がします。
    あらすじやタイトルと、物語との小さなズレは、物語がどんなにおもしろくても読みきったあとの「おもしろかった」気持ちを減少させてしまうので、とてももったいなく感じます。

    そして小さなことかもしれませんが、なぜ背表紙上の絵が、主人公の美歩ではなく、佐野医師なんでしょう…そこも、小さくですが、もやもやしました。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    ミステリー要素の方はというと、実は早々に犯人と被害者の間の関係に検討がついてしまいました。
    かなしい出来事が起きたしくみこそ、説明を読んで「そうだったのか…」とおもいましたが、この人物の触れているこの物を使って「何か」しようとしていることは推測できました。
    また敏腕産科医師・佐野の不審な行動の理由も、その行動をとる背景はわからなかったものの、やろうとしている行動自体は推測できました。

    おもうに、「むかえびと」としての要素と、ミステリー要素両方を、ミステリー要素がやや多い配分で入れたが故、どちらの要素も弱くなってしまったような感じがあります。
    とても読みやすい文章、産科病棟や師長や医院長がおかしな考え方をしていると現場はさらに過酷になる、という大変さはリアルに伝わってきただけに、すこし残念におもいました。

  • 助産師を描いた医療小説+お仕事小説。最近メキメキと頭角を現している藤岡陽子さんの作品で、なおかつ生命の誕生を扱ったものなので、「泣かせにくるいい話なのだろうな」と思っていたのですが、いい意味で裏切られた感があります。

    主人公である若手の助産師、有田美歩。彼女の勤める産婦人科病院はなかなかにクセがある。先輩や後輩の助産師は頼りになるものの、院長は腕は不確かなのに尊大。さらに看護師長は院長の愛人で、この師長も仕事は満足にしないのに、部下にはヒステリックに当たり散らす。

    描かれるテーマも主人公が壁にぶつかって、そこから成長して……、というお約束の感じではなかった気がします。美歩自身、障害をもった姉がいて、親の世話を一身に受ける彼女に複雑な感情を抱いた過去があり、その経験ゆえ生命倫理や出生前診断に悩む妊婦たちの苦悩に真剣に対応する。そんな彼女の真摯な姿は、応援しやすくて、また描かれる問題は難しいからこそ読み応えがありました。

    他の描かれる事象もなかなかに重たい。若い女性のお産とネグレクト、そして中絶といった臨まれない子どもたちの話も心に迫る。作中で中絶手術の時、取り出した胎児の声が母体に聞こえないよう、助産師がガーゼで胎児の口をふさぎ、動きが止まるまで待つ、という描写があり、そんな心理的に厳しい手術の話も初めて知りました。

    優秀ではあるが、ストーカー疑惑のある同僚の医師。真面目だったはずなのに突然、仕事を欠勤しがちになった美歩の後輩助産師。それぞれのエピソードを回収しつつ、物語は進んでいきます。結末としては、完全なるハッピーエンドではないかもしれないし、物語全体としてみると、少し詰め込みすぎな感じも否めない。

    でも一方でシリアスな物語の展開に対しての、登場人物たちの新しい生命に対する想いには心を打たれました。母になるということの意味であったり重さであったりも、考えさせられます。

    そして何よりネグレクトや、障害を持って産まれた子、そして中絶でお腹の中だけで命を終えた子。そんなすべての命に対する慈しみが感じられて、それが本当に良かった。藤岡陽子さんも、折に触れて追いかけていきたい作家さんになりそうです。

  • 「むかえびと」いい言葉だな

    生命について、いろいろな立場から考えることができる

    テレビドラマ化しやすそうな、そんなストーリー

  • さらに1年後のエピローグがあるのなら、理央さんが佐野先生の病院で皆んなと一緒に働いていると描かれていることを願っています。

  • 心の深くが揺さぶられるような作品。生きること、働くこと、子供のこと…様々な想いが溢れてきた。

  • 主人公の美歩は6年目の助産師。むかえびととも呼ばれ、メインテーマは出産。後半はその中で巻き起こる同僚や院内の問題に話が移っていく。

    1年以内に9割が亡くなってしまう13トリソミーの赤ちゃんを出産した女性の話があった。中絶を悩んだが「悲しむ覚悟」を決め出産した。天くんと呼ばれ30時間を家族3人で過ごした。その後弟が産まれ「私たちは4人家族なんです」で涙が止まらなくなった。

    後半は問題を抱えた病院内での話に移る。出産の話からは若干遠のいたが、過酷な環境で働き続けた助産師と医師たち。改善させるツラいきっかけを作った後輩の理央だったがそれも若さ故。失敗を成功させて欲しい。
    先輩助産師の草間さんはカッコいいし、若い理央も頑張っている。佐野医師も意志が強い。とても思いやりのある主人公の美歩も草間さんのようになるんだろうな。

  • 思わぬミステリ要素が入っていた。祝福されて生まれてくる命ばかりじゃないんだなって思った。

    「くよくよらしたってしょうがないのよ。生まれてきたら、ただ、懸命に生きることだけ考えていたらいいの。辛いことも悲しいことも、生きていたら誰にでもあるの。無傷のままではいられないの。それが当たり前」

  • 大好きな作家さんのおひとりです。
    現役の看護師さんでいらっしゃる藤岡陽子さんの描く"新しい命"に向き合う助産師(むかえびと)の物語は、リアルで厳しい、でも、美しい。
    懸命に働く、ひたむきさ、高き志が、眩しくて羨ましくて。そして、わたしの心の底の清らかなるものを刺激します。
    藤岡陽子さんの医療小説を読むと、"誰かのために役に立つ自分でありたい"と、想うことしばしば。
    その気持ちがきっかけで、小さなボランティアを始めました。

    感動的シーンの一つを・・・
    七年間におよぶ不妊治療を経て妊娠に至ったが、胎児に異常が見つかった妊婦に、主人公・助産師の美歩の脳性小児まひを持って生まれた姉・美生の話、過去に染色体異常の子を取り上げた時の話をする。
    姉への思いも素敵なのですが、過去の出産の話が更に心を打ちます。

    『赤ちゃんは出産から三十時間後になくなったが、息を引き取る瞬間まで、家族の時間を三人で過ごしたのだ。』

    生まれてすぐに赤ちゃんは亡くなってしまいましたが、産むと決めた時の妊婦さんの台詞が凄い。

    『子供を産まなかったら、一生後悔で苦しむかもしれない。それなら悲しむ覚悟をしようと思う。わが子に会って、抱きしめて、ありがとうを伝えるために、悲しみを受け入れようと思うーーー。』

    "悲しむ覚悟(悲しみを受け入れる)"・・・言葉が見つかりません。

  • 良かったです!
    助産師という「命」に関わるお仕事について。
    生まれてくる命はどれも尊い命に違いはないけど全てが喜びにあふれて迎えられるわけではない。悲しい現実も命の選別に苦悩する場面もある。
    妊婦さんに寄り添い「命」を預かる「助産師」という職業の重みみたいなものを改めて感じました。

    出産のリアルな現場だけじゃなくミステリー要素も楽しめます。
    身勝手な男に気分の悪い思いや医療の闇の部分を見た気もしますが、今後も追っていきたいと思わせてくれる作品でした。
    シリーズ化して欲しいなぁ♪

    『仕事をするって、生きることなのよ。真剣に働くってことは、真剣に生きるってこと』

    『真実を知って、ようやく動き出す時間がある。それはきっと、誤魔化したまま堆積していく時間よりも本人にとっては重要なはずだ』

全21件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

藤岡 陽子(ふじおか ようこ)
1971年、京都市生まれの小説家。同志社大学文学部卒業後、報知新聞社にスポーツ記者としての勤務を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大学に留学。帰国後に塾講師や法律事務所勤務をしつつ、大阪文学学校に通い、小説を書き始める。この時期、慈恵看護専門学校を卒業し、看護師資格も取得している。
2006年「結い言」で第40回北日本文学賞選奨を受賞。2009年『いつまでも白い羽根』でデビュー。看護学校を舞台にした代表作、『いつまでも白い羽根』は2018年にテレビドラマ化された。

藤岡陽子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×