哲学の蠅

著者 :
  • 創元社
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本棚登録 : 198
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422930909

作品紹介・あらすじ

書物と共に歩んできた魂の遍歴の記録

世界の「正当性」を破壊しながら、人間存在の根源的な部分を抉り出し、現実への違和感を物語に託して世に放つ異端の小説家・吉村萬壱が、デビュー20年の節目に著す初の自伝的エッセイ。幼少期の鮮烈な体験と母親の存在は著者の人間形成に決定的な役割を果たすが、やがてそれに対抗する力として文学や哲学に傾倒してゆく。ニーチェやコリン・ウィルソン、井筒俊彦やヴィクトール・フランクルなど種々の著作のほか、映画作品や断片的なメモなど著者が血肉としてきた広義の「哲学書」を取り上げ、それらと創作との結び付きを考えながら、読むこと、書くこと、ひいては生きることそれ自体の意味を問う。

感想・レビュー・書評

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  • ◆内なる愚かさと向き合う[評]若松英輔(批評家・随筆家)
    哲学の蠅(はえ) 吉村萬壱著:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/158393?rct=book

    商品詳細 - 哲学の蠅 - 創元社
    https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4323

  • 芥川賞作家の随筆。

    これが著者の体験に基づいているのなら、人間的にあかんやろ、という内容ばかりなのですが、なぜか引きこまれていきます。
    いい人間にならなければならないという呪縛に囚われていると、逆にこの本のようなダークな内容に人間らしさを感じるのかもしれません。

    914.6

  • 初めて出会う著者と「蝿」の文字、シンプルな装丁、そしてまたシンプルな章立てと始まりの文「蛆虫」を読み、自宅へ持ち帰った。「よせばいいのに」ともう一人の自分が囁くのを抑えて。

  • 自伝的エッセイ、と何処かに紹介されていた。
    本当に「自伝」なんだろうか。

    関連して、太宰治さんの「恥」を思い出した。
    だらしない生活を送っている主人公をよく書く「私小説家」を訪ねていく、ファンの女性の話である。
    訪ねてみれぼ、シュッとした作家先生が出てくるという。

    私小説。考えてみれば、他の小説とどう違うのか分からないもの。文章にした瞬間、多分それは現実と同一ということはありえないし、どのような虚構を描こうと、そこに作者が存在しないことはない。
    全てグラデーションでしかない、はずだと思う。

    しかし、この本に書かれている内容は、吉村萬壱さんの作品のどこかで見かけた登場人物に見えることは間違いなく、あるいは、それらには吉村萬壱さんが投影されているのだろう、とも思う。
    だとすればまさか、とは思ったがすごい逸脱の仕方だとは思う。

    無茶苦茶な「小説」と、超常識的な「エッセイ」を著す方。本当は常識すぎるほど常識人なのでは、という印象を持っていたが、それはそれで勝手な思い込みなのかもしれない、と感じた。

  • [出典]
    https://twitter.com/SayakaFelix/status/1467597100418482176

    フェリックス清香
    @SayakaFelix
    吉村萬壱さん『哲学の蝿』を読んでいる。衝撃の連続で動揺しつつ、この土壌が『流卵』『クチュクチュバーン』『ハリガネムシ』『臣女』などを産んだのだと納得して読んでいたのだけれど、「狂 暴力」の章を読んで、この本が私のものに感じられてきて救われた気がした。この章が好きな人はたぶん仲間。
    午前5:49 · 2021年12月6日·Twitter for iPhone

  • 2024/3/10購入




  • 創元社 吉村萬壱 「 哲学の蠅 」

    自伝的エッセイ。前半は幼少期の虐待や性癖などの告白、後半は作家活動から到達した文学論や人間観。圧倒的な暴力や排除に対して、文学の役割は何かを導き出している


    母への複雑な感情は理解困難。母子一体性が強すぎて、母から受ける虐待すら、著者にとっては、自由と保護の空間であった ことを示しているようにも読める


    最後の文「やがてスカスカの抜殻と化して風に吹かれて粉になった」は肉体の一部である母を失い、抜殻化したことを意味すると思う



    タイトルの「哲学」は 複雑な世界を意味し、「蠅」は 未来を変えられないことを知りつつ、母や社会に抵抗している弱者の抵抗を意味しているように思う





    〈世界〉
    映画
    「世界は複雑で、人生は一筋縄ではいかない〜複雑で意味の分からないものをそのまま受け止める〜知性で理解出来ずとも感性で味合う」

    「沈黙の中で風景を眺めると、世界は言葉で説明される以上であることが分かる」

    暴力
    「認知が少しでも異なる者の排除〜狂気の歴史〜一方的にしか物が見られない世界に閉じ込められている〜排除とは明らかに暴力である」

    「我々の社会は、町外れのゴミと同じように、社会の外へ別種の人間を排除することによって成り立っている」


    「存在以前の世界は一つであり〜そこは正邪、聖俗、善悪が一切の別なく溶け込んだ原初のカオスである。カオスとは聖なるものそのものである」

     
    〈人間〉
    客体
    「やられる側に慣れてしまうと、行為する主体としての力も弱まってくる〜客体としての生は自分で考えなくなる」

    熱量
    「誰にとっても、生きるということは並大抵のことではない〜人生とは、休むことなく流れ続けるベルトコンベアの上の無数の些事であり、生活するとは〜その些事を一つ一つ処理していくこと」


    「人は幸い人生を少しでも生き易いものにするために、様々な工夫を凝らす。精神を病むことも、自分が壊れてしまわないことの防衛策の一つ」

    創作
    「人は理由なくこの世界に生まれ、肉体を使って自分が生まれ落ちた世界を認識し〜死んでいく存在である〜人は誰でも、自分のいる場所からしか見えない世界を見ている」



    〈文学〉
    法悦
    「文学の世界は一つの物差しでとても計れないほど豊かで、ゾッとするほど暗く、頭がおかしくなるほど明るく、泣きたくなるほど繊細で、アナーキーでシュールでぶっ飛んでいる

    大学
    「この世には、個人の力ではどうにもならない圧倒的な暴力が存在するという諦めは〜私の文学的テーマとなっていく」

    哲学
    「文学とは、直接には経験していない見えない世界を、ただ言葉のみによって描き出すことができる媒体でもある」

    哲学
    「分からないなりに分かる〜どの哲学書も〜丸呑みにするのは無理なので、その周りをブンブン飛んで美味しい汁だけ吸う蠅になった〜哲学の摘み食いをする」

    「運命に打ち勝つためでなく、象徴的抗議に過ぎない〜屈せざるえない自分の未来を半ば受け入れつつ、あえて抵抗している」


    「文学などは不要不急の代物〜しかし、現実が 圧倒的な力で のしかかってきた時、文学に逃げこんで何が悪いのか」

    「小説を書くとは、自分の目に見えている世界を言葉によって正確に写しとる作業」

    「小説を書くことの土台にはこの世界や社会に対する怒りや反抗があり、その根底には恐怖の感情がある」

    「哲学や宗教の概要書〜この世界の本質が分かった気になってしまう〜そこで難解な哲学書に避難する〜精神は俄然解放される〜自由な空想世界を飛翔する〜蠅となって飛び回っている」





























  • なんだか、変だけどすごいものを読んだように感じる。時たまキモい表現が出てくるから初めのうちは嫌だったのだが、最後はもうなんともなく、いやなんともなくはないけれど、それほどでもなくなっているのが…
    でも、完全にこの人の思いを理解する事はできないけれど、わからないではないこととかむしろ強く共感してしまうところとか、多々あって、面白い時間だった。

  • 作家によるエッセイだが、小説かと思うような場面もあった。
    考えてみると、事実とそうじゃないものの差って曖昧なんだな。

  • 自身をさらけ出すことを私小説的というならば、間違いなくこのエッセイはそういうものの仲間だろう。
    文章は平易で読みやすいのだけれど、内容が大層に濃いので読み進めるのに力がいる。その分、大変に面白い。

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著者プロフィール

1961年愛媛県生まれ、大阪府育ち。1997年、「国営巨大浴場の午後」で京都大学新聞社新人文学賞受賞。2001年、『クチュクチュバーン』で文學界新人賞受賞。2003年、『ハリガネムシ』で芥川賞受賞。2016年、『臣女』で島清恋愛文学賞受賞。 最新作に『出来事』(鳥影社)。

「2020年 『ひび割れた日常』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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