私たちはどこまで資本主義に従うのか 市場経済には「第3の柱」が必要である
- ダイヤモンド社 (2015年12月11日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784478065204
作品紹介・あらすじ
企業と政府だけでは社会の問題は解決できない。経営学の巨匠が示す新たな経済社会とは?
感想・レビュー・書評
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ヘンリー•ミンツバーグ教授は、カナダの大学の経営学者。日本でも、著作はよく読まれている。私も、多く読んでいる。
来日されて、伊丹敬之先生、野中郁二郎先生と三人で対話セッションをやられたことがあり、見に行ったこともある。その時に、一緒に写真を撮ってもらったことが、少し自慢。
本書は、2015年発行。当時の、というか今でもそうだが、特に米国において、企業の力が強くなり過ぎていることに、ミンツバーグ教授は警鐘を鳴らされている。世の中は、政府などの公的部門・政府セクター、企業などの民間セクター、そしてNPOなどの第三部門・多元セクターのパワーバランスがとれているべきであるというのが、教授の主張。
企業が社会問題の解決の担い手であるべきとする考え方は、根強いし、実際に多くの企業がそう考えて、実際に行動している。CSRやCSVは、そういった考え方を表したものだと理解している。ミンツバーグ教授は、CSRやCSVに取り組む企業に対して共感を示しているが、それで社会問題が解決されるとは考えていない。目先の利益を優先してしまう企業が多すぎると考えているようであるし、また、民間セクターだけの力では社会問題の解決には不足と考えておられるようだ。
国連のSDGsという考え方がある。世界が、持続可能な成長を続けて行くために必要なことを、具体的な17の目標に落とし込み示している。その17番目の目標は、「パートーナーシップで目標を達成しよう」だ。
ミンツバーグ教授の考え方は、既に世の中全体で共有されているようだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今の資本主義はどこか違うよなという思いがあり拝読。
ソ連の崩壊は社会主義の失敗と考えられているけれど、政府が力を持ちすぎたことが原因であって、社会主義の問題ではないのではという指摘。
今は、民間企業が力を持ちすぎていることが問題というのも納得感。
この現状を変えていくには、多元セクターという政府でも民間企業でもない力が政府、民間企業と拮抗するパワーが必要とのこと。
利己主義から離れて、将来含めたみんなのためになる行動をしていこうと思う。 -
政府セクター(public)、民間・企業セクター(private)の従前の図式が、共産主義と資本主義をあたかも二項対立のように見せており、昨今の「資本主義の勝利」がまるで勝利ではなく、袋小路への一歩に繋がっている。ミンツバーグは、ここにNPOなどの多元セクター(plural)を加えた、三つのセクターのバランス関係を考えるべきだと主張する。
やや抽象的で包括的すぎるきらいはあるが、論旨はクリアで腹落ち感がある。氏の他の書籍同様、非常に読みやすく、この領域の初学者にもオススメできる。 -
ちょっと前に日経に記事が出てましたね
それでよろしいかなと -
最近よく言われているし思想の世界では昔から言われていることで、まあ普通ではある。一瞬で読める。ただし、ミンツバーグという経営学の大物がこういう本を書くことには意義がある。
多元セクター(plural)
左右二項対立から多元化でバランスをとる
コミュニティシップ
企業もコミュニティのように経営される方がいい
人的資源(human resources)
→ 知恵のある人間(resourceful human) -
原題はrebalancing societyということで、政治と企業の牛耳る社会を、第三セクターNGOなどでバランスのとれた世界に変えていこうとの主張。
確かに今の社会が資本主義に進み過ぎている感じは受けます。新しい見方を与えるという意味で本書はなかなか有用。
しかし、第三セクターが本当に有効になることについてイメージが湧かなかった。また、個人としてどうすべきかということもよく分からなかった。
企業のリーダーシップとして、独善的アプローチよりもコミュニティ重視がうまくいくということについてはなんとなく賛成である。 -
2017
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ヘンリー・ミンツバーグが、現代の社会構造について「バランス」を崩してしまっていると批判したもの。ミンツバーグがいうバランスとは、「政府セクター」「民間セクター」そして「多元セクター」の3つのセクターのバランスのことである。アメリカをはじめとする現代社会は、政府と地域コミュニティが弱体化し、私企業が強い影響力を持っており、バランスが失われている状態だという。一方、これに対して不満分子による革命は、別の形のバランスを欠いた社会に導くだけだとして退ける。
現在の状況を考えても、1989年は資本主義の勝利ではなく、共産主義社会がそのアンバランスによって自ら崩れただけであるというのが著者の主張である。「共産主義は、人間が人間を搾取するシステムだ。資本主義は、その逆である」とはうまく言ったものである。営利企業である民間セクターだけが突出しても、共産主義のように政府セクターだけによって社会がコントロールされても社会もよくならないというミンツバーグが、この本でその重要性を強調するのが「多元セクター」であり、各セクターのバランスの回復である。邦題は『私たちはどこまで資本主義に従うのか』だが、原題の「Rebalancing Society」の方が、著者の全体の主張に合致している。
「多元セクター」とは耳慣れない言葉だが、NPOやNGOなどがそこには含まれるセクターであると認識しておけばよいだろう。政府(public)と民間(private)に対して多元(plural)とpで始まる語を当てたというのもそのワードを使う理由でもあるが、ここに含まれるべき団体が非常に多様であるということもその大きな理由だ。また、個人指向のリーダーシップ、集団指向のシティズンシップに対して、協働指向のコミュニティシップを対置する。興味深いことにコミュニティシップについて、かつての日本企業を家族のような温かい雰囲気を持っていたが、非正規社員が増えて雇用の調整弁として扱われ、成果主義の導入が自分の業務範囲を超えて全体のために仕事をする習慣を失わせたと指摘する。
資本主義社会の中で、民間セクターだけに任せてしまうと、負の外部性の悪影響や格差の拡大を抑止することができないというのが著者の思いだ。アメリカ先住民の酋長の「私たちは、先祖からこの地球を譲り受けたのではありません。私たちは未来の世代から地球を借り受けているのです」という言葉が印象に残る。年金のことに関わらず、私たちは、未来の世代を搾取してツケを残してよしとしていないだろうか。民主主義や資本主義の論理では、未来の世代に対する責任を果たすことができないのではないだろうか。
『戦略サファリ』を書いたミンツバーグは、少しシニカルで知識を整理するのが得意な知識人であった。
『マネジャーの仕事』や『マネージャの実像』を書いたミンツバーグは反MBAで現地現物を重視する人であった。
あくまで自分の感想だけれども。
本書のミンツバーグは、経済格差に反対し、NPOやNGO押しのリベラル人。これまでのミンツバーグの著作とはかなり色が異なっている印象を受けた。バランス重視なところは一貫しているが、それが著者の思考の特徴なのだと思う。
自分としては、現地現物マネージャを称揚するミンツバーグの方により共感するのだけれども。
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『マネジャーの実像』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4822248364
『マネジャーの仕事』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/456124218X