- Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480064189
作品紹介・あらすじ
縄文土器を眺めると、口縁には大仰な突起があり、胴が細く、くびれたりする。なぜ、縄文人は容器としてはきわめて使い勝手の悪いデザインを造り続けたのか?本書では土器、土偶のほか、環状列石や三内丸山の六本柱等の「記念物」から縄文人の世界観をよみとり、そのゆたかな精神世界をあますところなく伝える。丹念な実証研究に基づきつつ、つねに考古学に新しい地平を切り拓いてきた著者による、縄文考古学の集大成。
感想・レビュー・書評
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2010/07/04
「第一人者」ならではの決めつけ、思い込み、言いっぱなしが散見されるが、「第一人者」ならではの知見、洞察には深くうなづかせられるものがある。縄文時代の入門書として、縄文時代と現代を比較対照させながら「社会のあるべき姿」に関する考察を深める触媒として、まずは手に取るべき1冊と言えるだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
縄文時代ときいてイメージするような、装飾的な土器で煮炊きして埴輪をつくって…という短絡的なものではなく、縄文世界というべき、当時の人々の美意識、暮らしの中の知恵、こだわりがあったということがわかる。
そしてその縄文人の思想ともいうべき考えは、ときに現代に生きる我々にも通ずる根源的なことにも気づかさせてくれる。
新たな縄文像が見えた。 -
縄文の精神史でありつつ発想力を鍛えてくれる。縄文土器のデザインは機能的デザインとは対極にあり、物語性を付与した主体性を持つ「縄文デザイン」は彼らの世界観を表している。意味がなさそうでも意味は絶対あるのだなと思い知る。もちろん必要性に迫られたからという側面もあるけど、視点というよりも固定観念を改めないと、なんで縄で文様を付けたのかも、ピラミッドをつくったのかも理解できない。現代から縄文を記述するのは危うさを含むわけだけど確実に今のルーツがあるわけで。とても刺激的な本だった。
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縄文人の食事の支度は住宅の外で行われ、住居の炉はあかりとりでも暖房用でも調理用でもなかった。土器も住宅内には持ち込まれていなかった。
石斧や耳飾りが、未完成品を含めて自分のムラだけでは到底使い切ることができない量が残されている遺跡があり、他の地域集団への頒布を念頭に製作していたと思われる。 -
長年、縄文の研究に勤しんできた著者の真摯な気持ちが各章に散りばめられている。
現代人が及びもつかない、縄文人の生活スタイル。
12万年という天文学的な時間の経過だ。
縄文人の気持ちに思いを馳せる。
真っ白な気持ちで。そんな態度が重要であるとこの本で悟りました。
以下、内容
1章 日本列島最古の遺跡
2章 縄文革命
3章 ヤキモノ世界の中の縄文土器
4章 煮炊き用土器の効果
5章 定住生活
6章 人間宣言
7章 住居と居住空間
8章 居住空間の聖性
9章 炉辺の語りから神話へ
10章 縄文人と動物
11章 交易
12章 交易の縄文流儀
13章 記念物の造営
14章 縄文人の右と左
15章 縄文人、山を仰ぎ、山に登る
結びにかえて -
自ら、「縄文」の文字を綴った回数は日本一かも知れないと語る考古学者・小林達雄が、様々な観点から縄文文化を分析し、縄文人の世界観に迫っている。
縄文時代とは、約700万年前に人類が発生し、人類史上における第一段階である長い旧石器時代を過ごした後、約1万5,000年前に、第二段階である新石器時代に現われ、その後約3,000年前に弥生時代が始まるまで続いた時代を指し、縄文文化は、ほぼ現在の日本列島に重なる範囲に広がっていたことが確認されている。
本書で著者は、縄文土器、生活の定住化、住居と居住空間、居住空間の聖性化、動物との関係、交易、モニュメントの造営、山との関係など、様々な観点からアプローチを試みているが、以下のような考察が特に注目される。
◆現在世界では、第一段階から第二段階への移行の契機は農業の開始にあるとする考え方が一般的だが、縄文文化は、旧石器文化に続く新石器文化に肩を並べながら、本格的な農業を持たない文化として特殊な文化と位置付けられる。
◆縄文土器は、岡本太郎をして「ここに日本がある」と言わしめた、世界に類を見ない独自性と個性を持った土器であるが、その使い勝手の悪いデザインにこそ縄文人の世界観が表現されている。また、土器を使った煮炊き料理による食料事情の安定化が、縄文社会に農業を持つ他の新石器社会に引けを取らない文化を保障した。
◆居住空間には、炉(煮炊きや暖を取るために使われたのではない)や奥壁など生活の利便性に直結しない設備が作られ、住居の聖性化が図られた。そして、そのような空間から、物語、伝説、神話などが生まれた。
◆集団生活をするムラに生活に密着した諸施設が整った、縄文時代が3分の1ほど過ぎた頃には、大規模なモニュメントも作られたが、そのモニュメントの造営には数十世代もかかっており、それは、未完成の状態が続くこと、即ち完成を追い求めることにこそ縄文哲学の真意があったことを表している。
◆縄文文化はちょうど現在の日本列島の中に収まり、樺太、朝鮮半島に渡ることはなかったが、それは渡る航海術を持たなかったということではなく、そこに住んでいた人々とは言葉を共有せず、意思の疎通が容易に図れなかったということであり、それは取りも直さず、日本列島内に縄文日本語が行き渡り、それが縄文文化ひいては日本文化を形作ってきたことを示している。
言語学者の大野晋は日本語の祖形は弥生時代に成立したと考え、民族学者の柳田國男は日本文化の遡源を弥生農耕文化に求めるなど、縄文文化の評価については専門家の間でも見解が分かれている中で、著者の縄文文化を日本文化の遡源とする考え方に一切のブレはない。
日本文化・日本語のルーツを考える多くの材料を与えてくれる。
(2015年6月了) -
貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784480064189 -
縄文人とはなんぞや?
教科書でもあまり多くを語られることのない縄文時代。
長年縄文研究に携わってきた小林達雄先生が、これまでの研究から縄文人を取り巻く世界観について書かれています。
新書ということもあるのでしょうが、考古学の本によくあるような「○○式土器」などと細分された型式名称を使うことが避けられており、考古学に親しみのない人でも、他の考古学系の本に比べたらすんなりと読むことができると思います。 -
縄文文化は、長らく自然社会から農耕社会への過渡期とみなされてきたが、著者は、新石器文化と全く同様に旧石器文化に次ぐ、人類史上の第二段階であると唱えている。