アレクサンドリア (ちくま学芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480093363

感想・レビュー・書評

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  • 文庫化されたときに、カバーデザイン(特に題字)のデザインの美しさに惚れてマークしていたのだけれど、読むのを楽しみにしすぎてずるずると先延ばしにしていたものを、このたびようやく手に取った。

    エジプトのナイル河口の町・アレクサンドリアの歴史と文化をフォースターがまとめた解説本という風情である。本文がわずか150ページ程度と薄いので、さくっと読めると思っていたが、なかなか手強かった。アレクサンドロス大王による建造からプトレマイオス朝エジプト、ローマ帝国以後に、フォースターが生きた時代までの約2000年あまりがコンパクトに詰め込まれている、手際のよさに感嘆した。この分野は長く細かく書こうと思えばどうとでもだらだら書くことができるものだけれど、各章がポイントを外しておらずにてきぱき読める。地図も掲載されているので、本文に出てくる地名をたどるために見返しながら、当時のアレクサンドリアを想像するのも愉しい。さすがに第3章「哲学都市」は哲学の素養が自分にないので苦戦したが、ユダヤ哲学、ギリシア哲学、初期キリスト教、イスラム教のポイントがコンパクトに解説されていて、簡単なリファレンスにもできる気がする。

    全編が抑えた報告文のような文章で、フォースター自身がアレクサンドリアに抱いているであろう高揚感も表面からは見えないように仕上げられているのだが、かといって無味乾燥に陥らずに仕上がっていているのは、文章の取り回しの巧みさと、要所要所に配されている文学作品の断片だろうとも思う。フォースターだけではなく、おそらくヨーロッパ人にとっては、アレクサンドリアは今でもアラブ人の町ではなく、マケドニア王が建設し、ギリシア・ローマの多大な影響下にあった、欧州のルーツの町のひとつなんだろう。クレオパトラ7世の死の場面が3バージョンで付されているのも、そういうことの表れなんだろうと強く感じた。

    本編とは関係ないが、フォースター自身の記した出版・改訂のいきさつが実に不幸で、申し訳ないけれど半笑いになってしまった。しかも、そのいきさつに追い打ちをかける不幸なできごとが訳注にさらっと記されており、これがまたブラックなどたばたで、「笑ってはいけない」と思っても口の端で笑ってしまう、ただものではない都市への案内書でした。

  • "アレクサンドリア"、都市の歴史としては約2000年におよび、
    その名が示すとおりにマケドニアのアレクサンダー大王が造った街です。

    個人的には、伝説的な図書館があった街とのイメージを持っていますが、
    2000年もの時の積み重ねはさすがに、重みがありますね。

    本書はそんな2000年の流れを手軽に俯瞰できる一冊になっています。

    エジプト王朝からローマ帝国、トルコ時代、そしてナポレオン、
    都市を軸にして地中海の歴史を追っていくのは、ちょっとした旅行気分でした。

    著者のバックグラウンドはキリスト教的な価値観があり、随所でもそれが感じられますが、
    決してそれに固執することなく、客観的な記述になっていると思います。

    また一つ、いつか行ってみたい場所が増えました。

  •  E・M・フォースターの歴史ガイドブック『アレクサンドリア』(1922)が、昨年末に文庫化された(ちくま学芸文庫)。『眺めのいい部屋』『ハワーズ・エンド』『モーリス』で知られるイギリスの文豪の著作を読むのは、私にとってこれが初めてのこと。本書の初版が出た1922年、同性愛者のフォースターは最愛の青年モハメッドを、まさにアレクサンドリアの地で結核のために亡くしている。そういう意味で、著者にとっても思い出深い因縁の書であると言える。
     私が本書に手を伸ばした理由は、単純かつ現金なものだ。アレハンドロ・アメナーバル監督、レイチェル・ワイズ主演の映画『アレクサンドリア』をつい最近見たとき、この古代の学芸都市についてこれほど無知のままでいるのは恰好がつかない、と思ったからだ。映画としてすぐれているとか、そんな評価を吐くつもりはない。ヘレニズムの掉尾を飾った女性哲学者・天文学者ヒュパティア(370?-415A.D.)が、まだ新興宗教だったキリスト教の頑是ない信者集団に虐殺されるまでを扱った、ごく標準的な歴史ロマンである。以前にも拙ブログ上で白状したが、私はこの手のスペクタクル史劇に対して、どうにも点が甘くなる傾向がある。
     当時、詩で謳われるほどその美貌で有名だったヒュパティアは、講義をおこなった帰り、キリスト教徒たちに教会へつれこまれ、生きたままカキの貝殻で肉を骨からそぎ落とされて殺害された。映画ではその蛮行を、フレームの外で起こったこととし、オフの物騒な音だけで示したにとどまるが、確かにそんなシーンを見たいとは、誰も思わないだろう。

     フォースターの冷徹な筆致は、1個の都市が王命で建設され、理想的に育まれ、多くを生み出し、あこがれをもって見つめられたのち、衰退の道を避けがたく辿っていくプロセスを、淡々と素描してみたにすぎない。戦渦に巻き込まれたり、不運な火災が起きたり、暴徒によって略奪されたりするうちに、アレクサンドリア図書館は跡形もなく消滅した。文明とは、そうやって複合的に息の根を止められるものなのだろう。福島原発をみれば、わかる。人災と天災が重なり、その後も長期にわたってまずい対応(と非対応)が続いたりして、文明の終焉が、うっとうしいほど万端に準備されてゆく。
     ある種のSF映画のように、宇宙人の襲撃や隕石の落下によって終わるなら、いっそさっぱりしている。だが現実的には、もっとグズグズとしてネバネバした煉獄のような崩壊のプロセスがあるにちがいない。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/738154

  • 今から100年近く前に書かれた本でありながら、街の輝きを現代に蘇らせるような躍動感のある文体で、引き込まれるように読んだ。
    特に、アレキサンダー大王から始まってプトレマイオス朝誕生からクレオパトラの死による終焉、図書館を中心に成熟する神と人間の関係を考え抜いた哲学、後のキリスト教団誕生、イスラム教の支配、植民地化…。
    著者がイギリス人なので、イスラムからの視点は弱いけれど、街自体が人間のように生き生きと輝いている様が分かる本でした。
    アレキサンドリアに行きたくなります。

  • ●ちと物足りない内容だったように思う。しかし、各時代におけるアレクサンドリアの様子を描いており、概観は理解しやすいかも。

  • 後書にもあるように、現実の街に華やかな時代の面影はないらしいので、この本を読み、同名の映画を観て(本にもヒュパティアが登場)、横浜での美術展を思い出すのが正しい脳内旅行。英国流ユーモアが効いて面白く読んだ。

  • E.M.フォースター氏(1879-1970年)というイギリスの作家の方が書いた、アレクサンドリアへの観光者向け歴史書割愛版ってトコロでしょうか。コレを読んでアレクサンドリアに行けば、楽しみ倍増ってのがコンセプトじゃないかと。初版というか原版が1922年発行なので、若干パクスブリタニカな雰囲気を漂わせつつ、アレクサンドリアの歴史を紹介してくれます。

  • 『眺めのいい部屋』や『モーリス』のE.M.フォースターによる、でもこれは小説ではなく、アレクサンドリアという街についての歴史案内小著です。予備知識としていくらかのものが必要かもしれませんが、この著だけでも楽しめます。歴史(文化・芸術含め)案内とはいえ、さすがフォースター、読み物として面白い。「ギリシァ精神が多くの迷いから解き放たれ、物質世界にたいして、かつてない支配力を持つに至った時代に建設されたアレクサンドリアは、ある意味ではギリシァよりもはるかにギリシァ的な都市であった。もちろん時とともにロマンスもつけ加えられたが、アレクサンドリアはまず一切の過去を持たぬ、純白に輝く驚異の大理石の都として出発したのである。」という文章なども美しい。随所に英国人フォースターらしい皮肉が利いた表現も見られる。アレクサンドリア、なんとも複雑にして抗い難く魅力的な都市です。それをこの文庫1冊で、それもフォースターの文章によって俯瞰できるのが嬉しい。

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