とりつくしま (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
3.47
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本棚登録 : 2101
感想 : 221
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480428295

感想・レビュー・書評

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  • とりつくしまって、聞いたことあるようで、よく分からない言葉だなと思っていたら、『とりつくしまもない』のとりつくしまだ、と調べて分かったが、打消表現を伴わなくても意味があることを知り、漢字にすると「取付島」となり、『頼るべきところ。とりつくところ』の意味があるそうで、多く使われる方ではなく、正反対の方を表に持ってくるあたり、東さんならではの面白い視点だと感じさせられた。

    本書で共通しているのは、死んだ人が、生きているもの以外のモノになって、もう一度この世を体験出来るといった、本来、不可能であろう事が可能になる夢のような話で、そのとりつくしまとなる思いも寄らぬモノたちのバラエティさも、人それぞれの嗜好や人生観が窺えて印象的だし、必ずしも、死者にとって頼るべきところとなる訳ではない点にも、人生の妙味が詰まっているようで味わい深いし、何より、無生物に魂を宿らせるという、そのアイデア自体が、言葉にかけがえのない生の魂を宿す歌人、東さんの、短歌と小説といった異なる素材ではありながらも、魂の拠り所を変えて見せてくれる斬新な世界は心に響くものを感じさせられるし、歌も物語も関係なく、言葉を使って何かを表現したいといった、心意気や思いは充分に感じられたと思う。
    が、しかし・・


    これまでもいくつか、短歌以外の東さんの作品を読んできましたが、本書で私が実感したことは、やはり、歌人の東直子さんがいちばん好きなのだということでした。

    別に、二足の草鞋がどうとか、短歌以外の作品が好きではないとか、そういうことではないし、寧ろ、読み終えて、なんて酷い作品なんだと、はっきり思えるくらいの方が、却って、サバサバしたものを感じたのかもしれないし、本書を読んで思わず目頭を熱くされた方も、きっといらっしゃると思う。

    それでは、いったい何なのだというと、こういうのは言葉で上手く説明出来ないので、以前、私が感想を書いた、東さんと木内達朗さんのコラボ歌画集『愛を想う』の中にあった、ひとつの歌を掲載いたします。


    『焼きたてのレモンチキンにナイフ入れじわりと思う、思うのでしょう』


    少なくとも、この短篇集では小説というカテゴリの為、ある程度の説明しなくてはならぬ文章が、どうしても必要となり、それも含めて、東さんの小説という認識となるが、私の中の東さんは、上記の言葉だけで既に充分なのであり、言葉が少ないからこそ、逆にそこに、東さんの思いや生の魂がより鮮明に見えてくる気がする。ただそれだけでいい。

    • つくねさん
      たださん、こんにちはww

      とりつく暇もないって、ずーと勘違いしてましたorz
      なんと、島が正しいのですねww

      同じ言葉を使う表...
      たださん、こんにちはww

      とりつく暇もないって、ずーと勘違いしてましたorz
      なんと、島が正しいのですねww

      同じ言葉を使う表現方法でも琴線に触れる感覚が違ってくるんですかね。
      31音だけで充分伝わってくるから、補足は蛇足みたいな。
      不純物を削りに削ったなかの原石のような光。
      相当この歌人に入れこんでみえるようなご様子ですねww

      2023/07/06
    • たださん
      しじみさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます(^^)

      「とりつく暇もない」との勘違い、あるあるですよね。確かに、どっちだっけかな...
      しじみさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます(^^)

      「とりつく暇もない」との勘違い、あるあるですよね。確かに、どっちだっけかなと迷いそうだったので、今回、漢字や意味まで調べました。

      そうですね。
      言い方が難しいのですけど、31音で充分伝わるというのが、何かの正解ではなくて、あくまでも、東さんの生き様を知るのに充分ということでして、それは、言葉の選択や組み合わせ、そして順番からも、その時の詠み人の思いを酌み取れたり、31音だけの世界から、そこに書かれていない言葉や感情を、読む人それぞれが、思い思いに想像させられるような懐の深さも感じられて、一つの歌から、様々な解釈が生まれてくるのも、その書かれていない部分の素晴らしさがあるからだと、私は思っていまして、この31音という文字数は本当に絶妙だと思いますよ。

      東さんは、やはり人気のある方で、市の図書館に、歌集がほとんど無いのが残念なのですが、歌それぞれに、色々な持ち味があって、時に言葉で胸を抉られるような表現から、素朴で美しい表現、これは女性でないと書けないなと思わせる表現まで、心に響く歌が多く、私の好きな歌人の一人です。
      2023/07/06
  • 歌人である東直子さんの、不思議な短編集。
    亡くなってから、とりつくしまを探している人の願いを叶えてくれる、とりつくしま係。
    生き物ではなく物であれば、とりつくことが出来るという。
    帯には「大好きな人に今すぐ会いたくなる本NO.1!」と書かれていた。
    「やさしさに包まれながら号泣していました」とも。

    でも私はこの短編たちが好きになれなかった。
    泣けるポイントは、多分、分かっている。
    残された者としても、ここに故人の魂が移っているかもしれないと、思うこともある。
    ただ私は、死んでしまったあとに何故もう一度、切なさや寂しさ、嫉妬や現実の姿を、故人に思い知らさなければならないのかと、
    いたたまれない気持ちになってしまった。

    自覚もなく世を去ってしまった者にとっては、とりつくしまのような時間が必要なのかもしれない。
    「例えとりついた事により辛い思いをしようと、もう一度あの人に会いたい」そんな故人の思いも、確かにあの世には存在するのかもしれない。
    でも、もういいよ。
    そう思ってしまった。

    死んでしまってから、業による苦楽の果報を受け取らなくても良いではないか。
    改めて思い知る、自分の死。
    見えてくる真実、新たな事実。
    それは喜びに通じることも有るだろうが、ある種の諦めや割り切りにより気持ちを整理しなければならない場合もある。
    余計に未練が残る場合もある。
    そんな思いは、生きているうちだけで充分だ。

    そんな風に思ってしまって、泣けなかったし、私にとっては、後味の悪い1冊になった。
    もう少し老いてから読めば心に響いたのかもしれないが。

    ただ、死んでしまった者目線の表現が独特の浮遊感を呼んで、これは歌人である東さんでなければ書けないだろうなと思った。
    ロージンやリップクリームの、本体から離れた一部を表現した文章は流石だった。
    そしてどのストーリーも最後の1文に胸が痛む。
    だから余計に私は、もういいんだよという気持ちにとらわれてしまった。

    私も勝手なものだ。
    大切な人が亡くなれば、私だってきっと故人が使っていた物に話しかけたりするだろうに、
    こうした物語を読むと、物にとりついてまで、そんな思いをしなくていいんだよと思ってしまう。
    死者には、感情に揺らいだりしないで済むような、暖かく明るい何処かで浮かんでいて欲しい。
    と、レビューを纏めていたら、涙が出てきた。

  • 短編なので読み進めやすかったです。
    ただ、どの物語も結末がなんとも言えない気持ちになるもので、私の好みには合わなかったです。
    自分が死んでしまった後、何か1つだけ物にとりつき、朽ち果てるまで目の前の景色を眺められるとしたら、あなたは何になりますか?
    …と、死後、みんな「とりつくしま」を用意してもらえるけど、大切な人の様子を見れる人、見れない人、…様々な人がいて、各々の死後の思いを知れる本でした。それぞれの物語に幸せな結末を望んで読み進めたわけではないけど、結末がなんとも言えない微妙な気持ちになる話ばかりだった。
    帯に「大好きな人に今すぐ会いたくなる本NO.1」と書いてあったけど、私には当てはまらなかったらしい。むしろ、自分がとりつくしまになった様子を想像しているうちに、大好きな人を悲しませたくなくて、絶望的な気持ちになった。
    好みに合う人もいるかとは思いますが、おすすめはできません。

  • 言うほど面白くない。短編というより掌編で、作品が小さすぎるからあまり展開もできず。

  • 亡くなった人がモノになって、もう一度この世を体験出来る。それを導く「とりつくしま係」思いがけない死を迎えた人が未練を断ち切れず、愛する人のモノになり見守る気持ちは分かるけど、私は嫌だな。死んだら私も残された人にも「無」で有りたい。死んでからも何かを思うなんて嫌だわ(笑)生きてるうちが花。それがいい……と、つくづく思いました。きっと感動本なんだろう……私、ひねくれてるのかなぁ。だって死んでからも悲しい思いなんてしたくないんだもん。

  • いきなりこの世からいなくなることなんて
    想像できないけど
    いつ何が起こるか分からない 。
    なるべく未練がないように…とは思うけど
    なかなかそんな風には生きられないし。 。
    死んだら何にとりつきたいかなぁーって考えながら読んでたけど、なかなか決めれないなぁ。
    死んでるけど笑えるのがいいなぁ。

  • ちょっとホロリとして温かい気持ちになれるような本が読みたいなと思って選びました。
    しかし。一般的な感覚と私の感覚がズレているのでしょう、はっきり言ってゾッとしました・・・

    死後、モノになって言葉も発せず自分の意志で動くこともできず、ただ世界を見つめるだけの存在。
    大切な人の思い出のマグカップになって生活を見守っていたら大切な人が新しい恋人を連れてきたり、母の補聴器になるも投げ捨てられたり・・・

    いつまでモノでいられるって明言されてなかったと思うんだけど、モノ自体の寿命が尽きない限り永久的にだったら。怖すぎる・・・
    そういう意味では一番最初の「ロージン」が私の中では一番しっくりきたかな・・・私も消耗品がいい。

  • イマイチ。。。

  • 「ロージン」が一番好き。

  • 亡くなった人が大切な人の何かに取りついて、それは一瞬だったり、一生だったり。淡々としていて特に涙を流したりなどもなかったけど、心があったまる本ではあった。2017.1.12読了

著者プロフィール

歌人、作家。第7回歌壇賞、第31回坪田譲治文学賞(『いとの森の家』)を受賞。歌集に『春原さんのリコーダー』『青卵』、小説に『とりつくしま』『ひとっこひとり』、エッセイ集に『一緒に生きる』『レモン石鹼泡立てる』、歌書に『短歌の時間』『現代短歌版百人一首』、絵本に『わたしのマントはぼうしつき』(絵・町田尚子)などがある。「東京新聞」などの選歌欄担当。近刊にくどうれいんとの共著『水歌通信』がある。鳥好き。

「2023年 『朝、空が見えます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

東直子の作品

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