ビッグデータという独裁者: 「便利」とひきかえに「自由」を奪う (単行本)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480864499

感想・レビュー・書評

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  • ブック紹介

    『ビッグデータという独裁者』
    -「便利」とひきかえに「自由」を奪う
     マルク・デュガン/クリストフ・ラベ 著
     鳥取 絹子 訳
     筑摩書房
     2017/03 224p 1,500円(税別)
     原書:L'HOMME NU(2016)

     1.これは人類史上の大革命だ
     2.テロリズムとビッグデータ
     3.ビッグデータが夢見る世界
     4.プラトンの予言
     5.ある契約 - ビッグデータの誕生
     6.ジョージ・オーウェルの『1984年』
     7.モノのインターネット
     8.王者たちの夕食会
     9.グーグルに殺される
     10.0と1の呪い
     11.未来は方程式である
     12.時間の支配者たち
     13.完全失業時代の到来
     14.ネットで買い物をし、覗き見して、遊ぶ
     15.ウィズダム2.0
     16.自分を取り戻す道
     17.すべてがウェブの捕虜になる

    【要旨】インターネットやビッグデータなど最新のデジタル技術は、ビジネ
    スや私たちの生活の利便性を格段に高めた。だがその反面、プライバシーの
    漏えいなど看過できないリスクがあることに、うすうす気づいている人も少
    なくないだろう。フランスでベストセラーとなった本書では、今や世界トッ
    プクラスの大企業となったグーグルやアップル、アマゾンといったテクノロ
    ジー系の企業を「ビッグデータ企業」と呼び、私たちのすべてを把握、監視、
    コントロールしようとしていると指摘。さらには人の生死(寿命)を左右す
    るとともに、民主主義や国家の存在を否定して世界中の人々を支配下に置こ
    うとしている疑いがあると警鐘を鳴らす。主著者のマルク・デュガン氏はフ
    ランスで小説家、ジャーナリスト、映像監督、シナリオ作家などマルチに活
    躍。クリストフ・ラベ氏はフランスの一般誌「ル・ポワン」のジャーナリス
    トである。
      ------------------------------------------------------------

    ●一握りの多国籍企業が私たちに自由を放棄させようとしている

     デジタル革命は私たちの生活スタイルをすっかり変えた。しかし、この革
    命はより多くの情報に、より速く接続できるだけでは終わらない。私たちは
    大人しく、自ら進んで隷属状態になり、透明化するように仕向けられている。
    結果、私たちは私生活を奪われ、自由を決定的に放棄することになるのである。

     主導者は、ほとんどがアメリカの一握りの多国籍企業、いわゆるビッグデー
    タ企業である。彼らの意図は、この社会を根本から変え、私たちを決定的に
    支配するところにある。

     私たちは1秒ごとに、健康や精神状態、計画、行動についての情報を生み
    だしている。つまり、データを発信している。これらのデータはその時点で
    集積されて処理され、次いで、保存能力も計算能力も巨大なスーパーコンピュー
    ターで相関関係に置かれる。

     ビッグデータの目的は、世界から予測不能なものを取り除き、偶然の力と
    決別するところにある。これまでは統計や、人口サンプルによる確率が推測
    の拠り所になっていた。ところがビッグデータ革命で不確かな推測は徐々に
    姿を消し、デジタルの集積による推測が真実になった。数年もすれば、相関
    関係を重ねていくことで、あらゆることについてすべてを知ることができる
    ようになるだろう。

     「AGFA」- アップル、グーグル、フェイスブック、アマゾンを総称しての
    略称 -は、わずか10年で世界のデジタル業界を征服してしまった。デジタル
    化された私たちのデータは私たちのものではなく、ハイテク産業の支配者た
    ちがそれを無料で横取りしている。私たちは丸裸にされる。ビッグデータ企
    業は私たち個人を犠牲にして権力を築き上げた。

     ビッグデータ企業にとって、民主主義はその普遍的な価値観も含めて、も
    う用のないものになっている。ベルギーのナミュール大学で法律を研究する
    アントワネット・ルーヴロワによると、これらの企業は「アルゴリズムによ
    る政治理論」を目標にしているという。

     ビッグデータによって形成される未来の社会では、国家や政治家が不要に
    なり、消滅してしまう恐れがある。もし、ビッグデータ企業がリアルタイム
    であらゆる社会政策に対する各個人の反応を知るようになったら、現在のよ
    うに4、5年ごとに投票することにまだ意味があるのだろうか?


    ●ビッグデータの極端な個人主義が人間の社会性を奪う

     私たちは自分の意志で、自由に接続していると信じ込んでいるが、じつは
    器械の言いなりになっている。コミュニケーションはルールに従い、メッセー
    ジも型や書式通り、友人関係もプログラミングされている……。アルゴリズ
    ムは私たちのIDの枠組まで規定し、フェイスブックに登録するときは、各自
    の人となりを記入する申請書も規格化されている。私たちの分身であるデジ
    タルのIDは単純化され、コンピューターが処理できるように短くされてしま
    うのだ。

     各自それぞれの好みを反映した記事やビデオ、サイトを提供することで、
    アルゴリズムはネットユーザーを一人の狭い世界に「閉じ込め」ようとして
    いる。ウェブの当初の精神、「つながりからつながりへ、知識の分野も広がっ
    ていく」とは真逆の結果である。

     人間は第一に社会的な動物である。人間の力は集団にあるのである。とこ
    ろが、人間を構成する要素ともいえるこの連帯性が、ビッグデータの推進す
    る極端な個人主義に攻撃されて消えてしまった。

     デジタル業界が確信していることがある。器械は人間より優れているとい
    うことだ。そのことから、ビッグデータ企業は、世界は器械に統治されるべ
    きだと考えているのは間違いない。

     器械が私たちの代わりに決めることがますます増えていくことになりそう
    だ。そのいい例が金融の「超高速取引」である。決済の過程では人間の特権
    が完全に消され、コンピューターが徐々に株式市場を牛耳るようになってい
    る。フランスでは諜報活動に関する法案が可決され、テロリストを見抜くア
    ルゴリズムをインターネットの各オペレーターに設置することが許可された
    ばかりである。

     私たちは完ぺきすぎて取扱方法もわからない器械の奴隷になってしまって
    いる。そして、このようなやり方を正当化する原則はつねに同じ。「悪いこ
    とを何もしていなければ、あなたに関することをすべて知られても心配する
    ことはない」である。


    ●お金を持っている人が優遇される不平等な社会に向かう

     消費者の期待をより多く知ることと、行動範囲の見極めを目的に、ビッグ
    データはSNSを利用するユーザーの情報からその人となりまでとらえている。
    人間はただのコードの列となり、プロファイルとしての分類はシステムの基
    準に沿って行われている。

     ここでいったん、世界をコード化する0と1の力を認めたとして、問題は、
    それが世界を明快にわかりやすくするというビッグデータ企業の約束とはまっ
    たく違っていることである。ここで行われているのは、すべてをデジタルに
    して縮小することだ。現実を0と1に転換することで、私たちにとって基本
    となる、感覚の次元を切り離した世界が作られている。単純化することで、
    物事を理解するうえでの基本の要素が奪われている。アルゴリズムでは相関
    関係を計算するだけで、「なぜ」という質問には答えず、「どうするか」だ
    けが重要になっている。原因は知らされず、結果だけに興味が向くようにさ
    せられている。

     「なぜ」が避けられるのは、それに答えると複雑な現実にぶつかり、その
    原因を処理するのにお金がかかるから。結局、数字は論争を避けるというこ
    とだ。数字こそ法律。数字が私たちに規範を押しつけているのである。

     さらにビッグデータ企業は、時間を支配して、寿命を延長できると思って
    いる。グーグルが創設したカリフォルニア・ライフ・カンパニーの計画表で
    は、病気は兆候があらわれる前にやっつけ、2035年までに寿命を20年延ばす
    となっている。

     しかし、あまり表立ってはいないがビッグデータ企業には別の野心がある。
    将来、お金のある人たちを対象に長寿ポイントを売るというものだ。

     人類の富の大半が一握りの人間の手に集中しているのが明らかになったあ
    と、今度は、残された最後の平等が崩れ去るのを目の当たりにすることにな
    る。死に対しての平等である。

     グーグルの優先課題の一つである寿命の延長は、世界でも一部の富裕層し
    か手に入れられないだろう。同様に、普通の人々が都市に集中して密集状態
    になっているなか、同じ富裕層のみが環境が保存され、テクノロジーのおか
    げで犯罪も予防できる安全な場所で生活するのだろう。


    ●感性や直感、混沌とした知能などを守り抜くことで抵抗すべき

     コンピューターと違って、人間の脳の計算力には限界があり、偶然に左右
    される。しかし、それを解決するために、人間は近道を思いついた。直感で
    ある。直感からは、思いがけない発見も生まれている。同じことは、不完全
    な記憶にも言える。忘れることは人間が知能を育むうえで必要不可欠なので
    ある。

     コンピューターに対して人間の脳が一撃を加えられるのはもう一つ、リス
    クをおかすのが好きなことである。すべてを数量化したいビッグデータは、
    このリスクをも統計にして、予測できないことや偶然性を消去するようにし
    ている。ビッグデータにとって予測できないことは悪の骨頂なのだ。

     ビッグデータ企業のプロジェクトは超個人主義にのっとっており、国境も
    国家もなく、主権主義的なイデオロギーはすべて時代遅れになっている。そ
    こでの抵抗運動は、人類をこのゲームの中心に置き直すことだろう。つまり、
    感性や直感、混沌とした知能など、生き残るための担保を守ることである。
    唯一この条件でのみ、0と1の世界で人間性の部分を守り抜くことができる
    だろう。

    コメント: 本書で指摘されているビッグデータ企業による企みは、若干陰
    謀論的な決めつけも見受けられるため100%真実であるとは言えない。ただ、
    リスクがあることは認識し、対抗手段について思いを巡らしておいても損は
    ないだろう。フランスで刊行されベストセラーになった本書の主張は、米国
    のプラグマティック(実利主義的)な価値観へのヨーロッパからの反抗と見
    ることもできるのではないか。「0と1」への単純化への流れを食い止める
    には、本文にあるように感性や直感など人間の複雑さを前面に出すのが有効
    だ。ヨーロッパの伝統でもある文化・芸術へのコミットメントをより高める
    のも一つの手段といえる。日本人としてはアジア的な混沌とした感性を自覚
    するといいかもしれない。

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