右利きのヘビ仮説: 追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化 (フィールドの生物学 6)

著者 :
  • 東海大学
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784486018452

作品紹介・あらすじ

生き物の「右と左」に関する進化の物語。主役はカタツムリばかりを食べるちょっと変わったヘビ。

感想・レビュー・書評

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  • イワサキセダカヘビの下顎の歯の数が左より右が多いのは、右巻きのカタツムリを捕食しやすいように特化したという仮説を証明するために、著者は様々な行動、実験を行う。結構読んでいて面白い。著者の懸命な努力が分かるし、間に挟まれるコラムも結構興味を惹かれる。実験の結果、セダカヘビがカタツムリを食べるとき首を右に曲げるという右利きということが分かる。その方が右巻きのカタツムリを捕まえやすいのだ。稀にいる左巻きのカタツムリだと上手く捕獲できずカタツムリを落としてしまう。この辺りの読んでいると、著者の熱がこちらに伝わってくる。右側の歯が多いこともカタツムリを殻から引きずり出すの都合がいい。セダカヘビが多くいる地域には、左巻きのカタツムリが他の地域より多いそうだ。セダカヘビの捕獲を避けるためにそんな風に進化したのか。
    あとがきに、こんなことが書いてある。
    生き物の持つ機能に対して存在理由を問うとき、「4つのなぜ」がある。例えば「赤信号で足を止めるのはなぜか」という問いに答えは4つあるのだ。「神経系からの命令を受けて足の筋肉が運動を止めるから」(至近要因)、「信号の赤い光線を視覚で認識するから」(発達要因)、「赤信号は停止の合図だとされているから」(系統進化要因)、「止まらなければ車に衝突されてしまうから」(究極要因)の4つである。前者の2点には、この本で取り上げられているイワサキセダカヘビについては、発達の過程で関わっている遺伝子が未知なので今のところ何も答えることができない。後者の2点には、セダカヘビは右巻きのカタツムリを効率よく食べるために非対称性を獲得したといえるのだ。
    うーん、不思議なものだ。何らかの要因でそう進化したのか。それとも、具合のいい突然変異が生き残ったのか。いや、要因に合わせて突然変異が起こるのか。いろいろと考えてしまう。気持ちとしては、完全にすっきりしないが、学問とはこういうものなのだろう。

  • 人間はもちろんのこと、ヒラメとカレイのように右型の種と左型の種の両方がいるような生物でも、脊椎動物なら必ず左側に心臓があると言えるそうだ。ところが無脊椎動物には、大胆にもそっくりそのまま左右を逆転してしまう仰天の進化を遂げた生物がいる。それが巻き貝である。

    サザエ、タニシ、カタツムリなど、私たちの周りにいる巻き貝はほとんどが右巻きである。しかしカタツムリなど一部の種においては、少数ながらも比較的たくさんの分類群で左巻きの種が見つかっているのだ。本書は、そんな生き物たちの「右と左」に関する進化の物語。主役はカタツムリとヘビだ。

    著者は、ある日ふとしたことから仮説を思い立つ。左巻きのカタツムリが誕生したのは、左巻きよりも右巻きのカタツムリを食べるのに熟練したもの ― つまり、右利きの捕食者がいるからなのではないだろうか。

    その後、カタツムリばかりを食べるというイワサキヘダカヘビの存在を聞きつけ、はるばる西表島まで調査に乗り出す。それにしても手を持っていないヘビが右利きとは、一体どういうことなのだろうか?

    答えは、口の中にあった。ヘビ類は人間にとっての両腕のように下顎の左右を別々に動かすことができる。しかも下顎の歯の数を数えてみたところ、右顎24、左顎16という左右差があることも見つけることができたのだ。かくして、右利きのヘビ仮説が完成したのである。

    しかしここまでは、あくまでも途中段階に過ぎない。実際に行動実験を行って証拠を得なければ結論にはならないのだ。そして、ここから机上の長い旅路が再び始まる。はたして、結果はどう出るのか?

    西表島の夜間フィールドワークに見られる深遠なる世界の描写。研究の要所要所で、奇跡的に他人が運び込んでくれる幸運。全てが著者の人柄によるものだと思う。何より「本当におもしろい研究は、誰にでもわかるものでなければならない」という信念が素晴らしい。

    冷静に考えれば、ヘビが右利きがどうかは実にどうでもよいことだ。でも放ってはおけない。そんな愛すべき一冊。

  • 分裂して増えるゾウリムシって寿命があるんだろうか? もしかしたらゾウリムシは不老不死なんじゃないだろうか? という疑問をずっと持っていて、同僚に力説したら、そうかもしれないけれど世の中にはもっと大切なものがたくさんある、と諭されたことがある。全く至極ごもっとも。同じようにヘビが右利きでも左利きでもどうでもよい。だいたいイワサキセダカヘビなんて見たことも聞いたこともない。

    この著者ならぼくの話を聞いてくれるかもしれないな、と思った。

  •  人間は、右利きが多いなか、少ないながらもある程度の割合で左利きの人がいる。ある種のヘビは右利きのものに進化しているものがいる。
     それが、細さんの研究対象となったイワサキセダカヘビ。

     イワサキセダカヘビは、セダカヘビ科の一種で、沖縄の八重山諸島に生息している。
     その骨格は、左右非対称で、右と左の歯の数が違う。そして、それが、右巻きのカタツムリを食べるのに特化した進化なのではないかと仮説をたて、西表島で研究活動をするのです。

     その西表島でのイワサキセダカヘビ採集や、夜間の熱帯雨林での現地調査の様子が印象的です。
     フィールドワーク、野外で調査するある意味実地派、肉体派の研究者もかなり多いです。なかなか見つからないイワサキセダカヘビや、その餌となるカタツムリを捕りに夜の森に入っていくのが、楽しげにかかれていました。実際のところ、様々なご苦労はあったのではないかと思いますが。

     左右非対称であることで、生きるのに有利なのか、今後研究が待たれるところがあるかと思います。これからに期待します。

  • 学研の科学を座右の書にしていた少年少女にとって、伝記が書かれるような偉人さんというのは一種のヒーローだった。
    そういうことを思い出せる本。

    表題にもなっている著者の研究について紹介した本であるが、内容は著者の研究生活の悲喜こもごもを綴ったルポルタージュのような、半自伝とでもいうべきもの。
    研究紹介本にありがちな、妙に愚痴っぽかったり変に専門的だったりということもなく、読みやすい。(テキストが面白いというのはこの手の本では希少である)
    構成がちゃんとドラマになっているし、研究内容そのものも刺激的で、大変魅力的な本に仕上がっている。

    生物好きなら読んで損なし。
    研究者生活の何たるかを知ることもできる点も良かった。
    自分も本になるような何かしらの偉業(?)を成し遂げて半生に客観的価値を付加していきたいなぁと、著者が羨ましく思えた。

  • 2013/11/2のなまけっとで細先生の講演を聴き、その場で購入したサイン入り本です。話がほんとにおもしろくて、あの楽しい講演がそのまま本になった感じです。
    ものすごく楽しい読書時間だった。やっぱり学問って、結果よりも研究している過程がなによりもおもしろい。細先生がどんな学生時代を過ごし、どうしてセダカヘビを研究することになり、研究を進めるに当たってどんな試行錯誤をし、どんな過程を経て論文掲載→学位取得となったか、研究の詳しい内容も含めて丹念に書かれていて、これから進路を決める中高生にぜひぜひ読んでもらいたいな~と思った。
    結果しか書いていない教科書がおもしろくないと言われるのも、当然だなという気がする。学習指導要領をちょこちょこ改訂して教科書検定を厳しくするくらいなら、この一冊を読ませた方がずっと理科離れを止める力になると思うんだけど。

  • 【静大OPACへのリンクはこちら】
    https://opac.lib.shizuoka.ac.jp/opacid/BB08506128

  • 8/13は左利きの日

    人間と同じように、ヘビにも利き手があるのでは?
    生き物の「右と左」に関する進化の物語。

  • 果たして左巻きのカタツムリが増えたのは、カタツムリを食べるヘビが右巻きのものを食べやすいように進化したからなのか。左右性に関する進化について記した文庫が出版されたとしたら、数ページだけさかれるような、限定的な研究内容。だがしかし、その確立のためには、ごく限られた地域に生息するイワサキセダカヘビを捕獲するために危険な石垣島の奥地を毎晩探索し、左巻きと右巻きが存在する貴重なオナジマイマイを手に入れ、飼育環境を整え、撮影方法を試行錯誤し、何日も待つ。それをまだ何の実績もない院生が成し遂げたというのだから、驚嘆の言葉しかない。多くの苦労と共に語られる研究過程に感じ入り、公聴会で評判になったときは嬉しくなり、論文投稿が何度もリジェクトされる姿には悔しくなる。そして読了後は自分の学生時代を思い出し、思わずため息をついてしまう。行動生態学の学生にかぎらず、研究室に配属される学生はすべからく読むべき一冊。

  • 若干、誤植が目立ちましたが、内容的には文句なしです。

    学術書であるにもかかわらず、非常に読みやすい。
    また、研究内容も、非常にわかりやすく、進化についての入門書としても最適。

    さすがは細さん。
    次の本も期待していますよ。

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著者プロフィール

東京大学大学院理学系研究科

「2019年 『ヘビという生き方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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