樽 (創元推理文庫 106-1)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (485ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488106010

感想・レビュー・書評

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  • 米澤穂信氏おすすめの本。米澤氏は親から勧められたというが、私もかなり昔から文庫本の後ろについているラインナップ紹介で題名だけは知っていた。

    パリからイギリスの港についた大きな頑丈な樽。受取り会社の事務員が出向くと樽には少し割目があり金貨がでてきた。さらに死人の手らしきものが見える。ラベルには「彫刻在中」とあるのだが・・ かくして不思議な樽の調査がロンドン、パリをまたいで始まる。

    「樽」の初版は1920年6月だが、物語は1921年3月末の事件として設定。当時すでに鉄道と電話と車もあるのだが、陸路での運搬はまだまだ馬車も使われていた。ここらへんの当時の社会情勢が伺えるのがおもしろい。御者が樽の運搬の参考人として調べられるが、馬車会社があり御者はその会社に雇われている。御者は今でいうなら運転手。馬車会社が今だと○○運輸になるのだろう。御者の雇い主も運輸会社だったり、製造会社だったり。

    また送り主がパリなので、パリでの容疑者の足取りは、ちょっと思いつくと列車に乗ってベルギーに行ったりしている。またパリからロンドンへの航路も何パターンかある。冒頭にその地図がついている。

    ロンドン警察でのメンバーに「ヘイスティングス」という名の巡査部長が出てくる。ちょっとしか出ないのだが、名前は単に同じだっただけか。

    最初はひとつの「樽」だったのが、走査が進むにつれ、あれ、一つではない? と航路がややこしくなる。が、そこらへんは刑事が整理する形で分かりやすく書かれている。結果が分かれば、ああそうだったのか、と言う感じだが、冒頭の埠頭で樽から金貨と死人の手が見えてくるあたりはどきどきする。


    1920発表
    1965.12.24初版 1986.112.5第51版 図書館

  • この本、書いておきたいことが、たくさんある!

    なんとも地味な題名、暗い表紙、知らない作家…
    母上から借りている(そして返さない)いつもの本、
    『東西ミステリーベスト100』(文藝春秋編)に載っていなかったら、
    決して手に取ることはなかったであろう。
    (ちなみにこちらの本で、第7位)

    ある日、本屋さんで見かけて買ってはあったけれど、
    なかなか読まなかった。
    先日、森茉莉さんのエッセイをパラパラみていたら
    「まるでクロフツの『樽』のような…」と言う記述があり、
    ムクムクと読みたい気持ちが湧きあがって、読んだ次第。

    …ロンドンの波止場に到着した積荷の樽が
    落ちてちょっと壊れた拍子に
    中から金貨が出てきて、また人間の手の様なものも見えた。

    連絡を受けた捜査陣が駆け付けた時には樽は忽然と消え…
    樽の出荷先と思われるパリにも捜査の手は伸びるが…

    登場人物はスコットランドヤードの刑事バーンリー、
    パリ警視庁のルファルジュ(この、発声したくなる、
    いかにもフランスなお名前が良いですね)、
    英仏混血(!)の私立探偵ラ・トゥーシュ…

    その他、ホームズに憧れている若い刑事、
    執事の中の執事のような老執事、
    などなど細かい人物描写が嬉しい。

    アリバイ捜査に関しては、
    イギリス、フランスなどの地名、駅名の地理感覚が
    全然無いもので、さっぱり…、
    なのでその辺は、ラ・トゥーシュ君に
    すべてお任せすることとした。

    時代としては、ホームズほど古くないけど、
    移動手段は馬車、列車、船、
    連絡は電話と手紙と電報。
    大きな荷物を運びたいときは自分で馬車を雇うんだね。

    バーンリーがパリへ捜査の協力をお願いに行くと、
    以前も共同で捜査に当たった事がある、と言う事で
    「この前はありがとう、よく来てくれたね、一緒に頑張ろう!」と
    大歓迎ムードが新鮮で面白い。

    大概、こう言う場面では「よそ者、なんだぃ!」みたいな雰囲気で、
    その後活躍して、結果を出してなんとなく打ち解ける、
    みたいなのが多いので。(それはそれで面白いが)

    バーンリーとルファルジュの友情も丁寧に描かれている。

    また、ちょいちょい、
    「じゃ、ちょっとご飯行こうか」、
    「この珍しい煙草、どうです?」とか
    「ありがとう、お祝いに美味しいもの御馳走しよう」とか
    本筋と関係ないところで、いろいろとほっこりするシーンあり。

    主要な登場人物は全員男性で、皆魅力的、
    男同士信頼し合って、捜査に打ち込んでいるのに
    ぐいぐいと音がする程引き込まれてしまった!
    そんなのは今は時代錯誤かもしれませんが、やっぱり憧れる。

    ラストはグッと緊張、拳銃アクションにハラハラ…そして…

    そしてそしてある人の、その後の便りを聞き、
    へぇ~でニコッとなって終わります。

    本格派でありながら、
    作者の優しさが随所にちりばめられた、上質な名作!
    急遽、大好きになり、
    古本屋さんでみつけたクロフツの短編集買ってきてしまった。

    前述の『ミステリー100』では
    クロフツは英米では忘れられた作家であるが、
    日本では根強い人気がある、と書いてある。
    フレンチ警部シリーズと言うのも、面白いらしいですね。
    真面目で地道な捜査をするところが、
    日本人に向いているとか。

    未読の方は、表紙のつまんなそうな感じに怖気づくことなく、
    ぜひぜひお読み頂ければ!
    この本、お勧めです。

  • まさにミステリ黄金時代にふさわしい大傑作。名手クロフツのデビュー作である。大昔に一度読んだはずだったが、読んでみたらどうやら初読。手を出さなかったら、すごく損をしたところだ。

    船から降ろされた樽の中から金貨と女性の死体が発見される発端はとても印象的だ。消えた樽の追跡、犯人の割り出し、そしてアリバイ崩しと、物語は読者の興味をつかんではなさない。クロフツ作品というと、地味で退屈という先入観を持ちがちなのだが、なかなかどうして、飽きさせない。

    確かにトリックなどにはけれん味がなく、探偵役もきわめて常識的な人たちだ。でも、この作品が書かれてからずっとあとで読む身には、むしろマクベイン風の警察小説の味わいもあって楽しめた。

    さすが名作。すばらしかった。

  • 古典的名作。
    地味な捜査の連続だが、中弛みはしない。
    後半探偵役が私立探偵になるけど、パリとロンドンの警察官の捜査を個人の探偵が洗い直して、突破口を見つけるのは難しいのでは。
    コツコツと積み上げていくような捜査では、人海戦術が使える警察に、敵わないのでは?

  • なかなか良い

  • アリバイ物の古典名作として、作品名は何度か目にしていたのですが、やっと読む事ができました。

    最初の舞台はロンドンの港、積み荷として運ばれた1個の樽の中から金貨と人の手が見つかったところから始まります。
    一度は行方が分からなくなった樽が見つかり、殺された人物が判明したところから、英仏の探偵と警察が協力し、容疑者を追い詰めていくことになります。
    所謂、天才的な探偵の閃きにより解決に向かうのではなく、地道な捜査により少しずつ事件の全貌が明らかになっていくため、もどかしさはあるものの、中弛み感は感じませんでした。

    惜しむらくは、通勤時間に読んでいたため、読了まで2週間ぐらいかかってしまい、アリバイがキーポイントになっていることを知っていながら、登場人物の時間軸の動きが整理しきれなかったことです。まとまった時間をとって一気に読めば、もう少し面白さを感じられたのではないかと思いました。

  • 『スタイルズ荘』と同時代の作品である、古典的名作ということで、読んでみた。いろいろ流石ではあるけれど、いささかまだるっこしかったなあ。

    • たまもひさん
      昔読んだ時、本当は結構退屈したのに「名作」のご威光は強烈で、ホンネを呑み込んだものです。そう、やっぱり「まだるっこしい」ですよねえ。
      昔読んだ時、本当は結構退屈したのに「名作」のご威光は強烈で、ホンネを呑み込んだものです。そう、やっぱり「まだるっこしい」ですよねえ。
      2020/01/22
    • アヴォカドさん
      はいー、今の目で読んでるからでしょうか、捜査とか会話とか、まだるっこしくてモッタリ感じてしまいました。(大きな声では言えませんw)
      はいー、今の目で読んでるからでしょうか、捜査とか会話とか、まだるっこしくてモッタリ感じてしまいました。(大きな声では言えませんw)
      2020/01/22
  • 図書館で。
    古い作品なのでなんていうのか捜査がゆっくり。
    警察官は午前様まで仕事して朝の4時に電話でたたき起こされて現場に直行…と言うような作品をこの頃よく読んでいたので午前中ちょっと聞き込みに行ってランチをゆっくり食べて9時に会議をしたあとミュージックホールに行けるような平和な時代だったんだなあ…としみじみ思いました。

    お話的にはどう見てもあの人怪しいよね。まあ疑われた方もかなり怪しい行動してるけど。探偵役が最後に変わってびっくりしました。

  • 乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10の9番目、但し再読したのは創元推理文庫版、実は読んでいるのにあまり印象に残っていませんでした。ミステリーとしては非常に地味な作品です。しかし改めて読んでみると面白かったです。犯人がAでなければB、BでなければAという、容疑者が2人しかいない、第1部と第2部の主人公は刑事、彼らが捕まえた容疑者を今度は第3部で弁護士がその容疑者から弁護を依頼され真犯人の鉄壁のアリバイを崩していくと言う展開です。ドーバー海峡を行き来する樽、ベルギー、フランス、イギリスと3国にまたがったアリバイをどう崩していくのか、スリリングでありミステリーとしても堪能できました。またオリンピック男子サッカー、スペイン戦が行われたグラスコーも登場してきて「おお」と思いました。

  • アリバイものの原点となった路標的名作だそう。なんとも丹念で泥臭く緻密。地味だけれどもこれぞ推理小説。初版は1965年!

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著者プロフィール

フリーマン・ウィルス・クロフツ(Freeman Wills Crofts)
1879年6月1日 - 1957年4月11日
アイルランド生まれ、イギリスの推理作家。アルスター地方で育ち鉄道技師となったが、40歳で病を患い入院。療養しながら記した『樽』を出版社に送ったところ採用、1920年刊行。名声を博し、推理作家デビューとなる。50歳まで本業の技師を続けながら兼業作家を続けていたが、体調悪化で退職して作家専業に。その後、英国芸術学士院の会員にまで上り詰める。
本格推理作家として、S・S・ヴァン・ダイン、アガサ・クリスティー、エラリー・クイーン、ディクスン・カーと並んで極めて高い評価を受けている一人。代表作に前述の『樽』『ポンスン事件』、フレンチ警部シリーズ『フレンチ警部最大の事件』『スターヴェルの悲劇』『マギル卿最後の旅』『クロイドン発12時30分』 など。

F.W.クロフツの作品

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