陪審員に死を (創元推理文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488195144

作品紹介・あらすじ

傷病休暇中のライカーが心を寄せる女性の周囲で、恐ろしい事件が次々と起こる。謎めいた女性の正体は? ニューヨーク市警の刑事マロリーが、相棒ライカーの事件に挑む。

感想・レビュー・書評

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  • マロリーのシリーズ7作目。
    さすがオコンネルという捻りのきいたブラックな設定で、濃厚かつスピーディ、そしてどこかユーモラスに描かれます。

    キャシー・マロリーは、ニューヨークの巡査部長。
    今回は、相棒のライカーが傷病休暇中。
    犯人に撃たれた心の傷を抱え、一向に復帰する様子がない。
    留守にしている弟の会社を切り回していて、そこの従業員の女性にほのかな好意を抱いている様子。
    ところがその女性ジョアンナはFBIに付きまとわれており、元は精神科医。
    事件の影に気づいたマロリーは‥

    マロリーは一目見たら誰もが忘れないような美貌でクールでカッコよく、優秀なハッカーでもある。幼い頃はストリート・チルドレンだったため、感情や常識に乏しい特殊な性格。
    刑事夫妻の養女になったが、あたたかかった養父母は既に亡い。
    そんなマロリーにとって、子供の頃から知っている兄貴分のライカーは唯一残された家族のようなもの。
    一部がまだ子供のように純粋なマロリーなのです。
    マロリーの強引なやり口に憤慨したライカーだが、マロリーの孤独と不器用な愛情に気づいて、何もいえなくなる。

    一方、<ショック・ラジオ>という番組では、パーソナリティが危険な扇動を繰り返していた。
    死神と呼ばれる連続殺人犯が、とある殺人事件で明らかに有罪な容疑者を無罪にした陪審員達を殺しているらしい。
    ‥ちょっと現実にはありえないと思うけど‥
    陪審員制度の問題点や、情報が拡大したときの危険性を皮肉っていると思われます。
    関係者が入り乱れる中、しだいに明らかになる真相とは。
    ‥FBI、かなりバカにされてる‥?

    人は愛する者のためにどこまで出来るか。
    もつれた事件の中の何気ないエピソードが、しまいには、号泣ものの切ないフィナーレへ。

    2003年の作品で、あちらではもう11作目も出ているそう。
    評価は高いのだが、日本人にはややとっつきにくい特殊な設定ゆえでしょうか?
    美貌で変わった性格のヒロインは、国内ミステリでもいくらか出ているので、前よりも受け入れやすくなっているかも。
    最近作のほうが出来がいいので、今後も楽しみです。

  •  ライカーがくすぶってます。マロリーがなんとか現場に引っ張り出そうと画策して、アクティブに動き回ります。

     英文のような日本語、取り留めもなく変わる場面、最悪の読み辛さなんだけど、面白いのよね。惜しい。

  • 読み終わってしばらくしてからジワジワと効いてくる、オコンネルらしい凝ったミステリ。

    正直言って、前半はちと辛かった。イカレた人ばっかり次々登場して、まあそもそもヒロインのマロリーも相当変だし、いつもなら彼女をがっちり支えるライカーが病んでるし。これはいったいどうなることやらと思っていたのだ。

    で、終わってみれば、さすがオコンネル。揺れ動く人物像の焦点が最後にぴたりと合えば、深々と胸を打つ姿が浮かび上がってくる。人は自分の大事に思う者のために懸命になるものだ。しばしば報われないけれど、それでも。

    読み返したくなる名シーンがいろいろある。ミセス・オルテガと検死局長の普段隠されている人間味があらわになる場面が強く心に残った。

  • 献本でいただいた一冊となります。

    ニューヨークのソーホーを舞台した、なんとも骨太な警察ミステリー。
    主人公は“氷の天使”とも呼ばれる、キャシー・マロリー。

    ただ、シリーズ第7弾ということもあってか、どちらかというと狂言回しで、
    物語の軸は主にマロリーの相棒・ライカーの視点で進んでいきます。

    このライカー、マロリーの里親的な立場でもあるのですが、、

    前作?での、傷病休暇中の精神的な苦痛(トラウマ)と、
    どうにも後ろ向きに戦っているところから、物語が始まります。

    物理的な傷は治っているはずなのに現場に戻ろうとしない、
    そんなライカーに苛立ちを隠せない、マロリー。

    でもライカーにも、戻れない理由があったりして、すれ違い。
    そんなすれ違いに絡んでくるのは、ジョアンナという精神科医の女性。

    三角関係、といったわけでもないのですが、
    なかなかにディープな人間ドラマが浮かび上がってきます。

    こちらを物語の縦軸とするのであれば、横軸となるのは、、
    物語の根底を流れる一つの殺人ゲーム。

    こちら、とある殺人事件の被疑者を無罪放免で解放した12人の陪審員が、
    「死神」と呼ばれる殺人鬼に一人一人殺されていくとの“事件”です。

    その“煽り”のツールはラジオですが、今だとSNSになるでしょうから、
    この辺り、物語化出版された2003年の時代背景も垣間見えますね。

     “人は愛する者のために、どれだけのことができるのか”

    解説であげられていたこの一節が印象的で、マロリーの視点でも、
    ライカーの視点でも、、そして、ジョアンナの視点でも、考えさせられます。

    ラスト、それぞれが“何を得て、何を失った”のか、、

    惜しむらくは、シリーズ物ということもあってか、
    主要人物の描写が若干薄い点でしょうか、、

    シリーズ最初から読んでいたら、もうちょっと感情移入ができたかも、です。

  • 人ってほんま不器用。

  • 傷病休暇中に弟の清掃会社の手伝いを始め、警察に復帰する素振りを見せない相棒ライカーに苛立つマロリー。
    ライカーは清掃会社で働く女性に心を寄せていたが、彼女にはFBIが付き纏っているのだった。

    ライカーの再生と喪失。
    間違いなく有罪であろう殺人犯に無罪判決を下した陪審員を追い詰めるラジオパーソナリティ。
    異常な状況でキャラクタが見せるそれぞれの愛の形。
    書評家の川出氏の言うマロリーシリーズの一貫したテーマ『人は愛する者のために、どれだけのことができるのか』
    氷の美女マロリーの歪んだ愛情もまた一興。
    ラストシーンで鼻の奥が痛くなる。
    オコンネルはやっぱりいい。

  • マロリーシリーズ第7弾
    ライカ―を退場させちゃうのか?と焦った。
    氷の天使に残念な天才だけじゃダメだー

  • 香港に渡る前に愛読していた"氷の天使"キャシー・マロリーシリーズ。7年近く経って帰国、さて何冊新刊が出ているだろうと思いきや「吊るされた女」と、この「陪審員に死を」だけだった…それも分厚い、高い(涙)。やはり海外翻訳小説が絶滅の危機にあるというTwitter情報は本当なのだろうか。勘弁して…。
    黒ロングコートを颯爽と羽織り闊歩する、ブロンドで美貌の女刑事…って、脳裏に浮かぶのは「MATRIX」のトリニティー役のキャリー=アン・モス程度(あんまり彼女は絶世の美女ではないか)。確かに尾行だの潜入捜査だのには向かない目立つ存在だ。彼女が「社会病質者」だと、この作品の重要人物がハッキリと言ってのけるが、ソシオパスにしてはマロリーは「全く感じよく振る舞おうとはしない」し、人間的魅力が有り過ぎる。というのも、彼女を庇護するライカーやチャールズの視点でもって、読者が彼女を見守ってしまうせいだろうか。
    物語の重要な舞台となるのがチェルシーホテル。シド・ヴィシャスと、恋人のナンシー・スパンゲンの遺体が発見されたのはこのホテルのバスルームだった。アーサー・C・クラークがあの「2001年宇宙の旅」を書き上げ、リュック・ベッソンの「レオン」の舞台にもなったこのホテルに、攻撃的な猫(表紙の猫ですな)と住み続ける、身体障害と優れた知性を備えた謎の女性ジョアンナ。ライカーやその他の人物からの視点で彼女の描写が続くため、どうもマロリーの影が薄くなってしまう。
    そして吐き気を催すほど酷いヘイトスピーチ、差別的発言で大人気という「ショック・ラジオ」パーソナリティのイアン・ザカリー。高聴取率を誇る彼の番組では、彼が被告となったある殺人事件の裁判で、無罪評決を出した陪審員が次々に殺されている。その部下で”イカレアマ”と罵倒され嘲笑され続け精神のバランスを崩して行きながらも「有名になりたい」一心で音響係を続ける女。この二人の人物描写がいささか弱い気がする。
    まあ、まだ生きている陪審員も描かねばならないし、"死神"の連続殺人事件も説明しなければならないし、謎の死を遂げた妄想症の?FBI捜査官の事件も解き明かさなければならないしで、オコンネル様お疲れ様としかいいようがない。しかし続編は絶対に読みたい。創元文庫様お願いします~~~!

  •  美貌の超クールな刑事キャシー・マロリー、そのシリーズ第7弾。え? まだ7作目だったの? と正直思った。一作一作が濃いせいか、もっと長くたっぷりと付き合ってきたシリーズのように思えてならないのだが、実はまだたったの7作目。一作目からここまで執筆された時間はしかし20年の長きに渡るものだそうだ。なるほど。じっくり書く作家らしいシリーズ。外れのないストーリーテリング。それでいて際立ったキャラクターを次々と生み出すフリーク・ストーリー。まさに唯一無二のオリジナリティを有したシリーズと言っていい。

     前作ではマロリーの乳母(しかし現在では浮浪者)が殺害されるショッキングなシーンから始まる。もちろんマロリーの幼少の秘密が解き明かされる重要な一作であったのだが、本書では、前作の最後に銃弾を四発もくらって瀕死の重傷を追った相棒ライカー刑事のPTSDによるトラウマと彼の恋とが主題になっている。恋の相手は、謎に満ちた女性ジョアンナ・アポロ。やれやれ。この作家は毎度毎度どうしてこうも魅力的で深みのあるキャラクターを造形してくれるのだろう。やはり奇才という名が相応しい作家だ。

     さて本書はこの物語のタイトル通りのストーリーなのであるが、ある事件の裁判に関わるの陪審員12名中、既に最初から10名もの陪審員が犠牲になって死んでいるという呆れた展開。誰が陪審員の正体を明かすのかというと、これまた驚愕、何とラジオ局のDJがラジオ聴取者からの情報提供を放送することによって陪審員の情報が一般公開され、まるで公開処刑のように陪審員が死んでゆくという無理がありそうな展開なのである。

     その無理な展開の中に、トラウマに悩み役立たずとなっているライカー。彼の掃除会社が受け持つ犯罪現場クリーニングの掃除人としてジョアンナ・アポロの登場。彼女に惹かれてゆくライカーという構図が出来上がり、様々な意味でライカーの危うさを懸念するマロリーと、それに協力するチャールズ・バトラーというセットによって、あっという間にオコンネル世界が構築されてしまっているというわけである。そして何よりも際立つキャラ。

     ジョアンナ・アポロとその周辺に広がる死のリング。狂気のDJイアン・ザカリー。死神による連続殺人と怯えながら生き残りを賭ける陪審員たち。警察小説でありながら、常にオカルト的なスリルを全編に漲らせるマロリーのシリーズ。冷酷なマロリーだが、地理に弱く尾行が下手であるなどの弱点が見え隠れしたり、ライカーへの優しさが深い底の方に垣間見えたりと、人間臭い部分が珍しく描かれている一面も本作では見逃せない。

     まだまだ翻訳を急いで頂きたいシリーズである。東京創元社は本当に翻訳が極めて遅い!

  •  ある裁判で陪審員をした人間が殺されていく。
     ラジオパーソナリティーは事件をあおり、FBIは狡猾な元陪審員の一人に振り回される。
     
     マロリーシリーズなんだけど、今回はライカーが主役って感じです。
     でもって、あれだけ強烈な個性の主人公を脇にして、どう動かすのかと思ったら、マロリー以上に強力な人物が登場。もっとも彼女は、マロリーの対極にいるような人で、なにより<大人>なんですけどね。
     
     そう、今回は完全無欠のような、少なくとも本人はそうであると思っているマロリーが実はそうではなく、そしてその欠落に必要なのは<時間>であるという、話であったように思う。
     <時間>を象徴する<大人>として、ライカーと元陪審員ジョアンナ・アポロがあったように思う。
     
     そんなこんなで、今回はいろいろ視点がかわるし、事件はからみあってよくわからない状態が続くので、ちょっとしんどかった。
     やっぱりストーリーを引っ張る主人公のパワーっていうのは、はかりしれないのものがあるのだろう。

     が、しかし、最後の最後にやられました。
     読み終わって、しばらくぼーーーっとしてしまった。

     うん。これが<大人の矜持>なんだと…マロリーが理解したかどうかがちょっと気になりますけどね。

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