- Amazon.co.jp ・本 (425ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488655037
感想・レビュー・書評
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ほぉ~これは凄い発想だなぁ!
鉄道軌道上を移動している可動式の都市「地球市」。
都市に住んでいる人間達は、ギルド員以外は外の世界を知らない。
主人公は、成人を迎えるとともに「未来測量ギルド」の一員となるが、
初めて見た外の世界で、彼が見たものとは…というお話。
何故か都市では女子の出生率が異常に低くて、
外の原住民から"交換"で女を調達してくるだとか、
「最適線」に追いつくために、常に数マイルずつ都市を移動させているとか、
とにかく謎だらけの設定。
この設定がだんだんと馴染んできた頃に、突入する第4部。
視点が入れ替わる事により、この異様な世界の真実を知る。
これぞ逆転世界!!凄いお話です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
その都市は、7階建ての建造物に匹敵する巨大な要塞。常に「最適線」に向かってレールを敷設して、年に36.5マイルづつ移動を続けている。都市で生まれ育ったヘルワード・マンは、650マイルの歳になった日、都市を運営する「ギルド」の一員となることを認められる。生まれてこのかた都市の外に出たことがなく、都市の内部で遠い理想郷「地球」の話を聞かされ続けてきたヘルワードが、生まれて初めて見る都市外の光景は、歪んだ太陽、歪んだ時空、「最適線」に向かって移動し続けないと「過去に飲み込まれる」後のない過酷な世界だった。都市の内部では新生児が極端に男子に偏り、人口を維持するために女性を外部世界から調達せねばならない。都市の移動に尽力し、女性の調達にも関わりつつ、必死に都市の生活を繋ぐヘルワードは、やがてこの世界の真実を知ることになる・・・。
これはやられた。THE SF!!!
あまり詳しく書くとネタバレになってしまうので大したことは書けないんですけど、久しぶりにSFならではのパラダイム・シフトの気持ちよさを体感できた作品でした。
開幕当初から、この物語はずっと都市の住民であるヘルワードの体験をフラットに描写していきます。異様な世界だということはすぐにわかりますが、読者がこの作品から得られる情報量はあくまでもヘルワードの理解の範疇にとどまり、ヘルワードと共に世界の有り様を体感していく構成になっています。
が、第4部以降、何の前触れもなくいきなり主人公が交代します。新たな主人公は、都市の外の人物。
ここに至って、都市の有り様が「あれ、これまでの認識とはちょっと違うんじゃ・・・」という揺さぶりが、ヘルワードにも、読者にも、等しく襲いかかります。
そして最終章の第5部。
ほあっっっ!?!?!?
・・・としか表現しようのない、この驚き。いやー、これは全く予想してませんでした。驚天動地です。
SFとしての詰めの甘さは、大いにあります。何故事ことに極まったのかという論理的な説明は表面的なものにとどまり、ロジカルな説得力は正直なところかなりイマイチ。都市の生活に拘泥したヘルワードが結局どうなったのか、都市の住民はどのように新たな世界にとけ込んでいったのか、そうした読者が一番気になるところが一切描写されないまま、この物語は幕を閉じます。
そんなわけで、全体的な評価は星5つというわけにはいかない感じですが、でもこの「うわーやられた!」感は特筆に値する見事な出来かと。という視点から、鴨は評価いたします。なかなかクセのある作品だなー。 -
建築関連の書籍を探していて、偶然たどり着いた1冊。タイトルと表紙とあらすじに惹かれ読んでみました。
3日間、逆転世界を堪能しました。すごく面白かったです。
最初は、都市構造や暮らしぶり、ギルドの内容だけでも充分に楽しめ、私なら6つあるギルドどれを選ぶか考えたり、地球市に我が身を置いて楽しむことができました。
『デステイン』の書がキーワードですね。
双曲線が出てきたときには置いてきぼりにされる一抹の不安がありましたが、なんとか…ついていけましたσ(^-^;)
四部で凄まじい「転」、五部での「結」をエリザベス一人で担ってしまったのは多少端折った感もありましたが…三部までの緻密さと対照的なのはワザとかもしれませんね。
「認識の変革」、わかります!
正しいと思えた世界がぐるんと反転する感覚は、方向音痴な私が「あれ、反対向きに進んでた!」と気づくのと似ています(笑)。
そういう意味では『シャッターアイランド』『シックスセンス』『セブン』『バタフライエフェクト』あたりの映画が大好物なら、オススメできる作品!
ただ、実際の年代や企業名(IBM(笑))の表記は、この作品の賞味期限を作ってしまったようでとても残念。黒電話のダイヤルを回したり、ポケベルが過去の物となって現実味を削がれ興醒めしてしまうよう。
この記述さえなければ、今後も時代が色褪せることなく読み継がれていくのになぁ。
とはいえ、今年度お気に入り作品は決定です☆ -
新刊情報をチェックしてて、積読の中から掘り出しました。
どっか宇宙の方のことと思いきや、やられた~って感じでございました。 -
クリストファー・プリーストの代表作にして最高傑作と名高い本書は、SF的”パラダイムシフト”を感じる作品でした。
主人公ヘルワードの生まれ育つ”地球市”-全長1,500フィート、全7層からなるこの要塞都市は、年に36.5マイルずつレール上を進む可動式都市である。成人を迎えたヘルワードは初めて都市の外に出ることを許され、そこで、歪な世界の様態を知覚するのであった…
なぜ都市は動くのか、動かなければならないのか、「過去へ下る」とはなにか、そして最適線とは…? そんな謎だらけの世界で、読者は主人公ヘルワードの物語を通じてそれらの答えを知ることになります。こういった一種の閉鎖社会で、世界の様態が謎に包まれた作品というのは、もちろん本書に限りません(すぐに思いつくのはクラークの「都市と星」だったりする)が、われわれが知覚するこの世界と一風変わった世界を扱う作品は、読んでいてとてもウキウキするもので、それはいわゆる現実逃避に近いものかと。ただ、それこそがSF作品を嗜むひとつの理由に違いなく、こういった作品を読んでいると、「あぁ、SFを読んでいるなぁ」とあらためて思うのです。
誤用の感こそありますが、本書のように、読書中は世界が転じ、本を閉じると現実に呼び戻されるこの感覚は、なんだかSF的パラダイムシフトという言葉をあてはめたくなるのでした。そして、洒落がきいたことに、本書では、物語の終りに本当の意味でのパラダイムシフトが起こってしまいます。いったい知覚していた世界が変わってしまうことは、どんな気分なんでしょうか。 -
ファンタジーっぽいのを想像してたら、全然違くて、わくわくした。こんなにSFだったとは!主人公ヘルワードの見る世界がなかなか理解できなくて、でも時間や空間が伸縮するところが相対性理論みたいですごい。この世界観だけでもすごいのに、妻となるヴィクトリアとの葛藤からこんなオチにつながっていくなんて全く予想できなかった。すごく面白かった。
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移動する都市、その社会を描く序盤では
各ギルドを経験する主人公とともに奇妙な世界の
状況を把握していける。
途中チラチラ描かれる人物の年齢に関する
主観、相対、絶対?の観察、女性達との南への旅で、
時間や空間がカギなのだろうとわかるが、
さて、その舞台は、そしてなぜ?という点は
当然ながら、なかなか明らかにならない。
この世界の状況に慣れるまで、
グーッとひきつけておいて、
それが明かされた後のテンポの速さと
描き方があっさりと感じられることよ。
『双生児』でも『魔法』でも多少感じたが、
物語を追うだけではなく
その間に、与えられたものをしっかりと
自分なりに考えて組み立てておかないと、
深く楽しむのは難しいのかもしれない。 -
英国SF界の鬼才と言われた著者の、最高傑作と評される作品。初めて読んだのは中学生ぐらいだったかな…とにかく世界観の構築・アイデアが秀逸すぎます。最近再読して、あらためて脱帽しました。
「地球市」と呼ばれる全長1500フィート7層の移動要塞で生まれ育った主人公ヘルワード。閉鎖された空間で育った彼は成人の日に初めて都市の外へ出ることを許されるが、そこで彼が見たのは月も太陽もいびつに歪んだ異常な光景だった…というストーリー。
今では隠れた名作になっちゃってますが、とにかく一読してほしい。ただ、読み手を選ぶ作品でもあると思います。まぁ、だから万民受けしなかったんだろうけど。 -
若林