ドクター・ブラッドマネー―博士の血の贖い― (創元SF文庫)

  • 東京創元社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488696177

感想・レビュー・書評

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  • 終わり方に驚いたが、結局よくわからなかったのが正直なところだ。

  • 普通に好き

  • またずいぶん長いことかかってしまった……。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」のディックの長編。核戦争のあとの世界を生きる人々の群像劇。
    ディックの小説はあと「ユービック」くらいしか読んだことはないけど、それら2つとはまた違った読み味。いわゆる「終末もの」としての閉塞感や絶望感が強い。現在の世界のシステムが壊れるとどうなるか。なんて考えたことないもんな。頭がくらくらする。
    気分が落ちてる時に読めない小説。最後の幽かな幸福は希望なのだろうか。

  •  福島第一原発では相変わらず放射性物質に汚染された水がダダ漏れ状態で、これはまったくもって洒落にならない状況だと思うのだが、世の中は富士山が世界遺産になっただ東京でオリンピックをやることになっただと浮かれている。現在進行形で危機的状況だというのに、不思議なくらい人々はいつも通りの生活を営んでいる。僕らは何も考えずに毎日を生きているけど、外から見たらとても滑稽で奇妙な事なのかも知れない。
     だから、この小説を荒唐無稽と思えないのだ。
     フィリップ・K・ディックが1963年に執筆し1965年に刊行された長編SF小説“Dr.Bloodmoney”(もともとは“or,How We Got Along After the Bomb”という副題がついていた)。本書はその邦訳版である。

     核戦争後の世界。社会は崩壊し、人々は各地で小さなコミュニティーを形成、先端の科学技術が失われた世界で最低限の文化的な生活を営んでいる。放射線の影響か、突然変異によって超能力を身につけたフリークスが誕生したりしているが、人々はとりあえず平常を生きている。
     ポスト・ホロコーストという異常な状況だが、人々は淡々と生活している。異常な状況下で異常な事態に遭遇するケースが多いディックにとっては逆に「異色作」だ。
     工業は衰退し、食料の供給もおぼつかず、人々はネズミを食料として認識しかけている。タバコも工場での生産がストップしており、個人が作るタバコが高級品として扱われていたりする。
     なんかちょっと終戦直後の日本社会に似ていなくもない。実はそこで気になる記述があったりする。核攻撃が始まった頃の描写。
    『今はまだ逃げ出すときじゃない。[中略]しばらくは地上に出ないほうがいい、放射能があるから。それこそ昔日本人ども(ジャップ)が犯したミスだ。彼らはすぐ地上に出て安堵してしまった』(p97)
     第二次世界大戦における日本をディックがどのように捉えていたのかはわからないが、こういうイメージが作品の根底にあったのかも知れない。というか未だ原発問題が全然収束していないのに、もはや安堵しているかのような現代の日本社会に対する皮肉のようにも読める。

     解説で渡辺英樹が書いているように、ディックの他の作品でも核戦争が物語の背景として描かれる事はあった。でもそれらはあくまで舞台装置としての登場だった。今回は「核戦争後の人々の日常生活」というまさに背景としての登場ではあるが、かつてなく真正面から扱った点でも異色である。

     この作品世界では、人々の希望になっている人物が一人登場する。それは宇宙飛行士ウォオルト・デンジャーフィールド。彼はかつて火星に向けて飛び立ったが、直後に核戦争が勃発。地球を周回する軌道に留まって生き残った人々に向けてラジオ放送を続けているのだ。娯楽の少ない世界で彼のお喋りや小説朗読、音楽放送が人々の心を癒している。集会所で地域の住民が集まり、一台のラジオの放送に耳を傾ける様は、これまた高度経済成長期に街頭テレビで力道山の試合に熱狂していた日本人の姿とも重なるような。

     ちなみにこの小説、1987年にサンリオSF文庫から一度邦訳出版されている(『ブラッドマネー博士 または、原爆(ピカ)のあと私たちはいかにして生きのびたか』阿部重夫・阿部啓子訳)。僕はこのバージョンを読んだ事は無いのだけど、翻訳者・評論家の大森望によるとこの版では、デンジャーフィールドが放送中止の事態に陥った時にリスナーに向けて語った言葉が日本敗戦の日の玉音放送を下敷きにかなり大胆に「超訳」されていたらしい(『特盛!SF翻訳講座』p97、研究社)。
     そんな訳で唯一の被爆国であり今世紀最大の原発事故をやらかした現在の日本においてこの小説を紐解くといろいろ深読みしてしまうんである。

     後半、少し派手な展開もあるが、基本的には異常な世界での「日常」を描く群像劇である。多くのキャラクターが登場し明確に主人公らしい主人公はいないが、ある種SFというより普通小説の雰囲気が漂っている。まあだからこそ読んでいて退屈な部分もあったりするのだが、冷戦の影響下でディックが克明に描いた物語はとても興味深い。
     ピンとくる人にはくると思うが、このタイトルはスタンリー・キューブリック監督の1964年の映画『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(Dr.Strangelove,or How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)を基にしたものだ。解説によれば、当初“In Earth's Diurnal Course(日ごとにめぐる大地の中で)”もしくは“A Terran Odyssey(地上の冒険行)”というタイトルがついていたとか。編集者はずいぶん安っぽい題名に変えてしまったもんだなあと思うが、正直現在のタイトルの方が個人的には好みだったりする。
     ネビュラ賞候補作。

  • SANRIO文庫版は持っているが新訳ということで購入。持ってない人には朗報かもしれないが、真っ先に薦めるようなものでもないと思う。未訳の作品はそんなもんと思って読めば裏切られないでしょう。

  • とっ散らかった終末感は嫌いじゃない。

  • 2009年9月2日読了。久しぶりに読んだP・K・ディックの長編小説。解説に詳しいが「近未来における内的世界の崩壊を味わう、自殺願望を抱えた男」というお馴染みの設定がなく「核戦争後の崩壊した世界」という全人類が共有する恐怖・危機を描くことで、お話としてはある種すっきりとまとまった印象も受ける。とは言え、宇宙に取り残された男からラジオ電波に乗って送られるメッセージ(そしてそれに聞き入る人々・・・)や、フリークスが超能力を身に付けたり死者と交信したりするイベントはいつものディック節。冷戦の恐怖におびえる時代の正統派SF、として普通に楽しめた。

  • 2009/04/12 購入
    2009/04/25 読了 ★★★
    2015/12/21 読了

  • 最近読んだ本です。いつものディック好きな私には、うーん...って感じの内容でした。が、その発想の素晴らしさには目を見張るものがあります。やっぱりディック好き!

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