知財の利回り

著者 :
  • 東洋経済新報社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492761830

感想・レビュー・書評

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  • 知的財産を証券として扱うファンド、延いては市場が、イノベーションに如何なる影響を持ちうるかを、取材に基づき論じた本。

    知的財産権が、ライセンス料というキャッシュフローを生み出す以上、これを証券と同様に扱う見方が生まれるのは必然であり、唯一の障害は、十分な流動性が担保される市場が存在しないことであった。本書の主な取材対象であるインテレクチュアル・ベンチャーズ(以下IV)は、そのような市場の到来を見越しつつ、知財でポートフォリオを組むファンドである。本書の記述が事実であるならば、1号ファンドは2009年時点で投下資本1千億円で年あたりライセンス料が1千億円あり、今後5千億円程度になる可能性があるという。その場合、投下資本に対する年利回りは100%前後となり、リスクが限定的であるとすれば驚異的な成績であるから、新規参入が相次ぐことが予想され、知財市場の創設は時間の問題となる。

    本書における論点は、このような市場やファンドが多く創設された場合、イノベーションに寄与するか否か、である。IVは、知財が証券として整備され、流動性が高まれば、イノベーションへのインセンティブが高められるから、イノベーションは加速すると論じる。一方で、キャノン顧問の丸島氏などは、イノベーションとは、特許に含まれるアイディアだけで発生するのではなく、製品の製造や流通、ビジネスモデルまでが一貫性を以って実施されて初めて生まれるものであるため、知財を売るために「アイディアが記載された書類」が量産されることはあっても、イノベーションが促進されることはないと見る。むしろ、知財は独占権を以って他者の事業運営を妨害するものであるから、事業を運営していない組織がこれを持つことは、イノベーションを遅延させる効果しか持たない、とさえ言えるだろう。

    本書の発行から4年以上過ぎた現在、IVを取り巻く現状を見る限り、丸島氏を始めとする懐疑派に分があるようである。2011年には複数の企業を相手に訴訟を起こし、米国の新聞や週刊誌からはパテント・トロールと詰られ、発明を促すことも、発明者に報いることもしていないと非難され、リターンもIRR2.5%程度であり著しくないとされている。ついには、資金ショートを起こしており、従業員を5%レイオフするという報道まで出た。IVが主張するインテレクチュアル・キャピタルの時代は、まだ来そうにない。

    本書の発行から4年後の現在においても未だ不透明性が漂う領域に、丁寧な取材と著者独自の観点に基づく考察というメスを入れた好著。☆4つ。

  • 発明〜特許取得〜ライセンスビジネス という知の集積を図る新しいビジネスモデルで出資を募るIV社の評価。
    著者の危機感は過剰とも思えるが、それほどのインパクトを感じさせられるもの。

  • インテレクチュアル・ベンチャーズ(Intellectual Ventures)について書かれた本。興味があって読みました。
    仕組みや活動、歴史は分かったものの、将来についてはやはり未知数と言った印象。
    日本はオープンイノベーションに対応できるのだろうかと不安になる。。。
    もう2年くらい前の内容で少々古くなっています。(2年で古くなるのも驚きですが…)

  •  インテレクチュアル・ベンチャーズ(Intellectual Ventures)の実体とその威力に迫ろうとする本。関係者のインタビューが豊富に収められている。
     知財業界や産学連携の業界人の間で、インテレクチュアル・ベンチャーズ(IV)が話題に上ることが多くなった。
     IVがアジアの拠点として日本に進出したのは2008年と記憶に新しい。しかし本書の刊行時点(2009年11月)では、その実体は今なおヴェールに包まれていた。多くの知財人、産学連携の関係者の関心事は、「IVは何を目指しているのか?」「IVはどこへ行くのか?」であったろう。
     本書では、IVが掲げるインベンション・キャピタルの概念が、IVへのインタビューも交えて語られる。
     投資の対象がついに人間の頭脳に至ったこと、ノーベル賞級の頭脳が技術の将来を予見し、発明を発注すること、などなど こんなことが本当に出来るのだろうかと思われるかもしれない。これに対する現役の知財パーソンの反応も興味深い。そもそも発明とは何か?またインベンションキャピタルとは何か?IVの捉え方を考えるのに、示唆を与えてくれると思う。

     このレビューは、2011年1月に書いている。
     本書の刊行(2009年)後、2010年はIVにとって激変の展開となった。日本法人の総代表に加藤氏を据える人事はテコ入れとも見える。そして、ついに米国にてIVは訴訟カードを使ってきた。このような動きに関連して、IVの情報は、公式ブログや海外ブログ等、英語ではそこそこ情報が得られるものの、日本語の情報は海外と比べると少ない。曰く、イノベーションエコシステムを私企業が行うことに対する懸念等が述べられているに留まる。これについてのIVの反論は、本書を紐解けば分かるだろう。
     2009年時点では、IVについて、ほとんど情報が知られていなかったこともあり、この時点としては可能な範囲でよくまとめられたと思う。しかし、本書を読んでもなお、インベンションキャピタルとは何か、腑に落ちてこない。結局は何なのか、よくわからないのではないだろうか。
     では、2011年以降において、本書はどのような見方をすればよいのだろうか。
     それは、「訴訟カード」を使ったことがないという状況下で、大学などの研究機関がどのようにIVを捉えているかを見るのに役立つだろう。IVとの提携を決めた研究機関等の関係者が、何を懸念していたか。どのような経緯で提携を決断したのか。それは本書に収められたインタビューを参照すればわかる。
     知財関係者、産学連携関係者が、これからのIVの動き、イノベーションエコシステムの実現可能性を推し測る上で、本書は、当時の関係者の声などを収めており、日本語の文献としては役立つと思われる。

  • インベンション・キャピタルというビジネスモデルの会社をテーマにした本でした。確かに公開していることが少なく、怖いなーとも思いましたが、またひとつ新しい市場ができかけているかと思うと面白いと思います。
    今後も注目です。

  • 2010年3月、米マイクロソフト創業者で会長のビル・ゲイツ氏が、東芝と共同で小型原子炉の開発に乗り出すとのニュースが世界中を駆けめぐった。

    このニュースを受けて、同僚から「遂にインテレクチュアル・ベンチャーズが動き出しましたね」と言われた。『知財の利回り』という本を読んでから、このインテレクチュアル・ベンチャーズが非常に気になる。この会社、一体何をしようというのか。非常に不気味だ。

    この本は知財関係者以外にもオススメです。

  • 著者は、岸氏で、氏はジャーナリストである。
    本書の内容は、知財を金融商品に変えてファンドの如く振る舞っている
    インテレクチャル・ベンチャーズについて、そして知財ビジネスについて
    述べた内容となっている。

    恥ずかしながら、インテレクチャル・ベンチャーズについて本書で始めて知った。
    どうやら、知的財産権を買い、ポートフォリオを形成、リスクをコントロールしながら
    収益を上げていくビジネスモデルと思いきや、みずからアイデアの具現化にも
    手をかし、資金も投入するというビジネスモデルであるという。

    ただ、本書にも書かれていた通り、リターンが一年で20%とかなり高く、
    さらに、色々な指揮者からおかしな点も指摘されている。
    要は、うさんくさいビジネスである側面もある。

    まぁ、ここまではインテレクチャル・ベンチャーズの事であるが、
    ここではっきりさせなければならないのは、知的財産というものに目を付けた
    着眼点は個人的には面白いと考えている。

    そもそもこのようは知財の流動化、証券化?、金融商品化になった流れは、
    オープン・イノベーションにあるらしい。つまり、一社で新しい技術を発明する
    のではなく、多くの企業と一緒になって発明するって事だ。

    そのような背景があるのだから、IV(インテレクチャル・ベンチャーズ)のような
    企業への需要はあるのだろう。

    しかし、腑に落ちないのは知財が確定してもすぐにはビジネス、つまり利益に直結
    しない事である。そこから製品化し、発売し、損益分岐点を越えないと利益は出ない。
    なのに、IVは1年目で20%のリターンを支払っている。

    まぁそこがうさんくさいって言われる所以であるが(笑)、
    知財に関しては、これから考えるべき点である事は変わりはない。

    以上

  • インテレクチュアル・ベンチャーズという会社を通して特許の現状について書かれた本。著者はこの会社を当初、パテントトロールなのではないかと思って調べていくが、これまで訴訟をおこしたことがないという説明を聞きいったん矛を収める。マイクロソフトの上層部が設立に加わっているものの、実際に何か製造するわけでもなく、特許を買い取って企業にライセンスすることでロイヤリティーをとったり、研究者に新しい特許を考えるように資金を出したりすることが業務の中心だとかでちょっと怪しげではある。一つの製品で必要とされる特許はVHS:3社20件DVD:35社400件BluRay:60社2000件とハイテク化にしたがって多くなっており、中国などはライセンスフィーの支払いをいやがって独自の規格を押しつけたがるんだとか。読みにくい文章だが、パテントトロールをめぐる話や国際規格の裏側の話は面白かった。

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著者プロフィール

岸宣仁
1949年埼玉県生まれ。経済ジャーナリスト。東京外国語大学卒業。読売新聞経済部で大蔵省や日本銀行などを担当。財務省のパワハラ上司を相撲の番付風に並べた内部文書「恐竜番付」を発表したことで知られる。『税の攻防――大蔵官僚 四半世紀の戦争』『財務官僚の出世と人事』『同期の人脈研究』『キャリア官僚 採用・人事のからくり』『財務省の「ワル」』など著書多数。

「2023年 『事務次官という謎 霞が関の出世と人事』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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