物狂ほしけれ

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582833744

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  •  車谷のエッセイ集のうち、読み逃がしていた一冊。

     前半は「徒然草独言」という連作エッセイ。タイトルのとおり、吉田兼好の『徒然草』の一段を取り上げ、その内容に即したエッセイを綴るというもの。本書のタイトルも、『徒然草』冒頭の名高い一節――「つれづれなるまゝに、日暮らし、硯に向ひて、心に移り行くよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、怪しうこそ物狂ほしけれ」――から取られている。

     天の邪鬼でひねくれ者であるところ、そして何より、“世捨て人になりそこねた「贋世捨て人」”というイメージ……兼好と車谷には、相通ずる部分がいくつもある。車谷が『徒然草』に深い共鳴を寄せるのは、よく理解できる。ゆえに好企画だとは思うが、エッセイとして面白いかといえばさほどでもない。
     『徒然草』の内容についての斬新な解釈があるわけでもなく、「いまさら『徒然草』でもあるまい」という気がしてしまう内容なのだ。

     後半の「反時代的毒虫の作法」は、相変わらずの車谷節ともいうべきふつうのエッセイ群。
     これまで車谷作品を愛読してきた者にとっては、「どっかで読んだ話」が大半。しかも、過去に発表したエッセイや講演記録からの引用がやたらに長い。
     たとえば「金と文学」という一編は、全24ページ中じつに12ページまでが過去の自作エッセイの引用で占められている(!)。ひどい手抜きもあったものだ。

     前半の「徒然草独言」も、作品の性格上、『徒然草』からの引用と現代語訳が半分くらいを占めている。要するに半分近くは引用で成り立っている本であるわけだ。

     というわけで、本書はもろ「やっつけ仕事」。
     車谷のエッセイ集でよいのは、『錢金(ぜにかね)について』と『業柱(ごうばしら)抱き』。その2冊を読んでいる人にとっては読む価値のない本である。

著者プロフィール

車谷長吉

一九四五(昭和二〇)年、兵庫県飾磨市(現・姫路市飾磨区)生まれ。作家。慶應義塾大学文学部卒業。七二年、「なんまんだあ絵」でデビュー。以後、私小説を書き継ぐ。九三年、初の単行本『鹽壺の匙』を上梓し、芸術選奨文部大臣新人賞、三島由紀夫賞を受賞。九八年、『赤目四十八瀧心中未遂』で直木賞、二〇〇〇年、「武蔵丸」で川端康成文学賞を受賞。主な作品に『漂流物』(平林たい子文学賞)、『贋世捨人』『女塚』『妖談』などのほか、『車谷長吉全集』(全三巻)がある。二〇一五(平成二七)年、死去。

「2021年 『漂流物・武蔵丸』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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