みちくさ道中

著者 :
  • 平凡社
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本棚登録 : 164
感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582835922

作品紹介・あらすじ

人生、思い通りにいかないところにドラマがある。迷ったり、立ち止まったり、より道したり。まっすぐ働く姿をみつめ、ひっそり暮らす日々の泡をすくい取る、直木賞作家の初エッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 今年1月20日の日経新聞の文化欄掲載の木内さんのエッセイ『目前心後』を読み、時折読み返している。

    本当に心に沁みる美しい文章。
    言語化するのが難しい心の機微が美しい日本語で綴られている。時代小説は何冊か既読ですっかりファンになったが、エッセイも実に味わい深い。

    存じ上げなかったが日経新聞へのエッセイ掲載は以前からあったようで、木内さんが直木賞受賞された2011年ごろの作品を1冊にまとめたものを手に取った。初版2012年。

    木内さんが紡ぐ日本語はなぜにこんなに美しいのだろう。

    日頃の生活でなかなか掬い取ることが難しいちっちゃなもやもや、迷い、落としどころが見つからない違和感や怒りが、丁寧に切り取られ、言葉で光を与えられて際立ち、こちらの心に沁みてくる。

    しかし木内さんの言葉で呈されるものは過剰な価値や意味付けを排し、決して押し付けがましくなく、そっと間の前に置いてくれるのだ。心地よい。

    ネットの普及で世界中から、時空を超えて過去も未来からも、情報が寄せられる私たちの日常。
    何が正しくて、何が間違いなのか。
    人とはどう生きる生き物なのか。
    人生とは?
    など自分自身と対話し、掘り下げる間もなく、溢れかえる情報に翻弄され、日々が条件反射的生活。脊髄反射ともいえるかな。

    私はどうありたいのか。何を選ぶのか。何を手放すのか。どこへ向かうのか。
    決して自分の世界のなかに閉じこもるのではなく、大きな時間の軸や自然環境、人間社会のなかで生きている、生かされているという相対化を図る間もなく、忙殺されていることに気づく。
    何でも手に入り、頑張れば夢がかない、情報や努力は裏切らないと信じていても、現実は厳しい。


    本文86頁より

    蛇口をひねれば水が出て、冷蔵庫には常に冷えた飲み物があり、ガスや電気のおかげで24時間快適に過ごせる。そういう中にあっていつしか人は、たいていのことは思い通りになるものだと勘違いをしてしまったのかもしれない。だからほんのささいな挫折でも、驚いて立ち尽くしてしまう。どうして思った通りにいかなかったのかと、理不尽ばかりが先に立ってしまうのだ。それは案外、不幸なことかもしれない。自分を取り巻く大きな世界の存在を知ることもなく、小さな箱にはの中にとどまってしまうからだ。

    どんな仕事も、どんな人生もそもそもがそう思い通りにいくものではないのだ。絶対という安心も世の中にはない。それを知って物事に臨める人は、きっと強い。人事を尽くして天命を待つ、というけれど、そのときどきでいる限りのことをして、祈る気持ちで実りを待つというのはとても自然なことではなかろうか。そしてこのスリリングでドラマチックな日々こそが、人の歩みを豊穣に彩っていくような気がする。

    以上抜粋。

    図書館で借りた1冊がとてもよくて、kindleで電子版を購入。私のお守りになる1冊。旅行などにはぴったりで持っていこう。

  • 将来の夢はなくとも、何が起きても「なんとかなるさ」と一旦据え置く。
    思い通りにいかぬところにこそあるドラマを、「これはこれで面白かった」と思える胆力をつちかう。
    全体が把握できれば、自分に課された仕事への理解もより深くなる。
    正義が通るようになるまでは楽な過程ではない。時間もかかる。でも無駄にはならない。

    人生の先輩からの腹落ちしやすい教訓の数々。

  • 沢山の事を経験した上で発言される、優しさのある言葉。そうでない言葉はいくら私でも分かる(つもりだ)。

    他人に媚びない姿勢で交わされる、心地よい議論。
    そういう人と仕事ができる幸せな気持ちを思い起こさせる。

    茶色の縁がはっきりした眼鏡と、ひとつに結えた髪、タイトなベージュのニットとツィードパンツに手入れされた革の靴。
    私が歳を重ねても到底なれそうもない、芯のあるあの人に重なる。

  • 第一線ではなく
    そのすぐ横にあるような
    掘り出し物を紹介してくれる
    小説読み好きの友がいる

    ほら これっ
    と手渡してくれたのが
    「占」だった

    「うん これは秀作だね」
    「そうでしょ、
     木内昇さんのモノにハズレはない!」
    と にこやかな笑顔で
    その友は応えてくれた。

    その「ハズレがない」秘訣が
    このエッセイには詰まっている

  • なんで、木内昇の小説が好きなんだろう、小説の主人公が愛おしくなるのだろう、と思ってきましたがこのエッセーを読んで、わかりました。主人公たちは木内昇という作家そのものであり、それぞれの小説は作家の「質(たち)」が時代と擦れ合う「運命」を描いているからなのです。そして、自分が木内昇という作家の「質(たち)」に共感と尊敬を感じていることをはっきり自覚しました。不器用で、正直で、頑固で、シンプルであることを大切にしている、そんな変えようのない生き方。ちょっと賢く思われたかったり、難しいことをうまく裁こうとしたりしている自分が恥ずかしくなるような原則…いや原則というような大袈裟なものでなく、性向みたいなもの。「万波を駆ける」の田辺太一、「球道恋々」の宮本銀平、「笑い三年、泣き三月」の善三に並んで、木内昇本人も好きなキャラクターになりました。「ドカベン」「キャプテン」が大好きで、好きな野球選手のバッティングホームを真似ている小学生の女の子、幼稚園から大学まで「叩きつけるバッティングがうまい」しか褒められたことのない女性、彼女の創り出す主人公、これからも追っかけていきます。

  • あとがきで『作家としての木内昇というのは人格ではなく屋号である。ひとつひとつ仕事を積み重ねていった先に、この屋号が「あそこのものだったら大丈夫」という合図になればうれしい。』がとても良い。信頼して読んでます。

  • 文学

  • 「直木賞作家」という看板(があるとしたら)からはとても想像できない、(他人から見たら)地味ーでちょこっと楽しいけどしんどいこともあったりな毎日を送っていそうな作者の雑記。前半の方が楽しく読めました。にまにま。

  • 「櫛挽道守」や「よこまち余話」が好きなので、木内さんってどんな方なのだろうとドキドキしながらエッセイ集を読んだ。そしてますます木内さんが好きになった。言葉の一つ一つが丁寧で、なんだか背筋が伸びる気がする。とはいえ、変な妄想の話があったり、中高時代の話を面白く書いていたりもする。文学少女ではなくてスポーツ少女だったみたい。「作家としての木内昇というのは、人格ではなく屋号である。ひとつひとつの仕事を積み重ねていった先に、あそこのものだったら大丈夫、という合図になればうれしい。」これからも応援しています!

  • エッセイも作品も漂う雰囲気が似ている。さっぱりした潔い感じがした。じわじわ読むでは、作品へのアプローチの仕方が思い掛けないものだったりして、また読んでみたくなった。

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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