ルリユール (一般書)

著者 :
  • ポプラ社
3.76
  • (57)
  • (96)
  • (83)
  • (14)
  • (2)
本棚登録 : 787
感想 : 123
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591136218

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ルリユールとは本の装丁や修復をする仕事。
    風早の街で、少女が出会った不思議な造本師の女性とは。
    繊細で心洗われるような物語です。

    瑠璃は叔母の新盆のために、母や姉より一足早く、おばあちゃんの住む街へやってきました。
    ところが、祖母は怪我で入院、瑠璃は数日を一人で過ごすことに。
    犬の次郎さんの散歩をしていて、街外れにある不思議なルリユール黒猫工房にたどり着き、クラウディアに出会います。

    赤い髪で青い目のクラウディアは、チキンラーメンが好きというチャーミングな女性ですが、ルリユールの腕前は素晴らしく、不可能に思えるほど。
    ‥もしかして魔女?
    黒猫工房の前には、喋る7匹の黒猫が。
    相当な思い入れのある人しか、この場所までたどり着けないらしいのです。

    子供の頃に借りたままになって傷んでしまった本を修復して欲しいという男性。
    思い出の写真は1枚しかないのに、アルバムを作って欲しいという老婦人みよ子の依頼。
    家族も家も失われても、幸福な笑顔ばかりの写真が本当はあったことを見て欲しい‥幸せだったのだと。
    このエピソードがとくに悲しみを癒されるようで、心温まります。

    さらに、クラウディア自身の身の上に遠い昔に起きたこと。この国に来た理由とは‥
    出だしの雰囲気からの予想以上に、ファンタジーでした。

    クラウディアに頼んで修復の仕事を習い始める瑠璃。
    図書館に勤めている母が持ち帰った本の修理を手伝い、本の痛みがわかるみたい、本の声が聞こえるようだといわれたこともあるのです。
    瑠璃はやたら家事が出来て、出てくる食べ物は美味しそう! 食べてみたくなりますね。
    そんな瑠璃もまた、子供には重すぎる悲しみを抱えていました。
    遠い海で亡くなった叔母とは‥

    ルリユールという一般名詞がタイトルというのはどうなのか?という気もするけれど。
    人は生きている本なのだ、という言葉にこめられた思い。
    丁寧な文章で、女性好みの綺麗なイメージが重ねられ、その内容は哀しみをすくい取るようにあたたかく切ない、祈りのこめられた作品という印象でした。

  •  「一冊の本を読むことは、一人の人生の物語を知ることだ」 どなたの言葉であったか思い出せませんが、本を自分の人生の一部として、大切に扱った方の言葉だと思います。

     本が財産であった時代から、古くなった本を修復し、本に長い命を与える職業がルリユール。いせひでこさんの絵本「ルリユールおじさん」でも、大切な本を修理する老人と少女の素敵な姿が描かれていました。

     本書はファンタジーの素材として、ルリユールを選んでいます。不思議な洋館に住む魔女(?)クラウディアの元へは、大切な本の修繕を願う人しかたどり着けない。そんなクラウディアの下でルリユールの仕事を教わることになった瑠璃。「どんな本を誰のために作るのか?」が問いでした。

     クラウディアの元を訪ねる人たちの、一冊の本への想いや物語と並行して、瑠璃の心に留まる想いも本の形になっていきます。どんな本になっていくのか。
     本を作る、という作業そのものを調べてみたくなりました。自分で本の装丁ができたら楽しいでしょうね。

     一つ読み込めず、気になるのは太朗さんと次郎さん。「みつみねのやまいぬのすえ」。不思議な縁で、丁度三峰神社にまつわる本「オオカミの護符」を読んだばかりでした。こんな本の偶然のつながりもおもしろい!

     海に面した石畳の街並みを歩く瑠璃は「魔女の宅急便」を、洋館の不思議な図書室では「アラジンと魔法のランプ」のイメージが浮かんでしまいました。

    本棚にもあります
     「ルリユールおじさん」 いせひでこ
     「オオカミの護符」 小倉美恵子


     

  • 中学生の瑠璃は、叔母の初盆のため祖母が食堂を営む風早の街を1人で訪れます。
    仕事やアルバイトが忙しい両親と姉はあとから来ることになっており、それまでは祖母と2人で過ごす予定だったのですが、ちょっとしたアクシデントから数日間1人で過ごさなければならなくなりました。
    見慣れぬ街で犬の散歩をしている途中に見かけた大きな洋館で、瑠璃は特別な体験をすることになるのです…。

    この洋館の主人は、長くて赤い髪に、青い目をしたクラウディアという女性で、類いまれなるルリユール職人でもあります。
    街の人たちもめったに姿を見たことがないという謎めいたクラウディアですが、実はとてもチャーミングな女性なのです。
    ひょんなことから、瑠璃は彼女のもとでルリユールの手伝いをすることになりました。

    クラウディアのもとには依頼人たちが、手には壊れた本を、心には重い事情を抱えてやってきます。
    クラウディアは彼らの話を聞き、本を直すだけでなく彼らのふさいだ心も治してしまうのです。
    そして、彼女のそばでルリユールの技を見ていた瑠璃の心も…。

    誰かにとって特別な本を、1冊1冊手作業で修復していくルリユール職人。
    クラウディアは依頼人たちに何かをするわけではなくただ本を直すだけなのですが、その特別な1冊を通して人の心をも治してしまうところに本の力を感じます。

    本と猫とファンタジー好きな私にはたまらない1冊でした。

  • ハートウォーミングなファンタジー。
    本を修復したり、特別な装丁をする、ルリユールの仕事。
    箱入りの上製本で名作全集を読んだ身なので、クラウディアの作った本の描写に、心惹かれた。
    誰のための、何のための本なのか。
    依頼人の思いに、じーんとくる。
    装丁も魅力的だった。
     

  • 本にまつわる不思議なストーリー。
    中学生の瑠璃が祖母の街で過ごした夏。ルリユールの女性と出会い、現実とは思えない経験を経て、成長する児童文学。
    ちょっとしたドラマを観たような気になれた。魔女のようなクラウディアの悲しみ。
    誰もが何かしら後悔を抱えて生きている。
    それを責めなくていい、それでいいと言ってくれているよう。
    装丁がすごく素敵。

  • 叔母の初盆をおばあちゃんと一緒に過ごすため、家族より一足先に風早の街にやってきた瑠璃。ところがおばあちゃんは怪我で急遽入院。瑠璃はおばあちゃんの犬やお店のことを世話しながら家族の到着を待つことになった。
    ちょっと心細さも感じていたが、ひょんなことから、この街にあるという、どんな本でも魔法のように綺麗に修復してくれるルリユール(本を修復したり美しい装丁を施してくれる人)の工房を見つけた瑠璃。ルリユールをしているクラウディアさんや、想いの詰まった本を抱えてその工房を訪ねてくる人々と出会い、不思議な、でもほんわりと心があたたかくなるような体験をする。やがて、風早で知り合ったさとしくんや、自分自身の過去ともつながるような出来事も…。
    お話全体を通して、夢か現か…というような雰囲気があって、ちょっとドキドキしながら読んでいた部分もあった。
    一番感じたのは、人と本とのつながりのこと。人の想いが本に詰まっていることって、結構たくさんあるんじゃないかな。私も本が好きで、たくさん持っている。そして、大切な思い出がある本もある。その思い出も丸ごと全部、綺麗に修復してくれる、そんなルリユールが実際にいたら素敵だろうな。

  • またひとつ風早の街に素敵な物語が加わりました。
    ルリユールのクラウディアと本の声を聞くことの出来る瑠璃の不思議な物語。
    本を愛する全ての人に手に取って欲しい、そんな物語でした。
    きっともっと本が大事で愛しくなる。
    「重たいです。でも重たい分、長くたくさん読めるから幸せです。幸せの重さなんです」という言葉がとても印象的。
    私自身装丁を含めて本を楽しんでいるので、必然的に単行本購入が圧倒的に多いのです。
    幸せの重さという言葉は本当に素敵な言葉。
    黒猫工房のお話の続きを聞かせて欲しい。
    きっと眠れないくらい楽しみな新刊になる。

  • 不思議なルリユール工房を舞台とした、
    魔女の師匠と弟子の少女による、
    児童文学作家の村山さんらしぃ、
    大人の児童文学ちっくな作品でした…。
    (ルリユール:本の製本、装丁、修復)

    お話やキャラクターは、よかったです。
    ただ、お話の骨格からは外れるためか、
    お客さんと修復する本のエピソードが、
    もぅ少し、しっかりと描かれていれば、
    よりグッドでした…。

    最近、電子書籍が、市民権を得て、
    どんどん増えてはきていますが…、
    人生の大切な思い出の品となると、
    やっぱり、味気なぃよね~とも…。
    ボクは、これからも「紙」です…。

    はいっ、本の良さを再確認できる、
    全編で優しさのあふれる作品でした…。
    ルリユールにも、興味を持ちましたね。

  • 不思議な魔法のようなお話。
    とても可愛らしい。

    職人好きの作業見学大好きな私としては
    本が修復されていく様子を
    もう少しじっくり読みたかったかな。

    風早の町って、不思議なことが多いなぁ。

    ちょっとゆるい作品が続いたので
    退屈してしまった。

    読む順番は大切だな。
    ちょっとパンチのあるのが読みたい。

  • 「ルリユール」という言葉を KiKi が初めて知ったのは、いせひでこさんの「ルリユールおじさん」という絵本で、でした。  この絵本を読了した時、KiKi はそれまで絵本を読んで味わったことがなかった深い感動を覚えました。  と、同時にその「ルリユール」という職業にある種の憧憬を覚えました。  子供時代から本は大切に扱うように教育を受けてきた KiKi の実家には多くの本があるけれど、さほど痛みのない状態のものがほとんどで、「必要に迫られていない」から実際に自分でやってみようとまでは思わなかったけれど、今ではソフトカバーの本が多いだけに、本当にお気に入りの本は補強という意味も兼ねて自分でもやってみたいと思うほどには興味があります。

    時代の流れの中で、電子書籍もそこそこ活用している KiKi だけど、やっぱり紙でできた本の魅力は捨てがたく、本当に気に入った本は可能な限り「本」で揃えたいと考えがちな KiKi。  装丁が美しい本にはついつい引き寄せられがちな KiKi。  そんな KiKi にとって「ルリユール」の仕事は収入の多寡は知らないけれど、本当に素敵な職業だと感じられます。

    さて、そんな「ルリユール」と題されたこの作品。  ルリユールの技に関しては期待していたほどには描写されていなかったのですが、物語全体に流れる穏やかな時間とどこか鄙びた風景、そして登場する人たちのちょっと切ない人生にホロリとさせられる作品だったと思います。

     

    思い入れのある本を「クラウディアの黒猫工房」で修復してもらうと、その本にかかわる人々が抱えている悩みや重荷、心の傷といったものが癒される・・・・・。  本が持ち込まれ修復されているまでの描写にはとても優しく暖かい時間が流れ、「物を大切にする」、「手作業で直す」という行為が本質的に持っている「真心」とか「物を介しての人と人のつながり」とか「思い出を大切に守り伝える」という感覚を呼び起こされるような気がします。

    物語は以下の4章で構成されています。  どのお話にも気持ちがほっこりするものがあったのですが、特に KiKi のお気に入りだったのは第3章の「黄昏のアルバム」でした。

    第1章: 秋のアリア~宝島
    第2章: 星に続く道
    第3章: 黄昏のアルバム
    第4章: 魔人の夢~ボスポラスの人魚
    災害で被災した智史君が被災する前に虐待を受けていた猫を拾い、その猫を飼うために一家で引越しをしたんだけど、その家のある場所が土砂崩れにあいやすい場所でした。  たまたま災害があった日、本当だったら家族みんなでドライブに行く予定だったのをちょっとしたことで拗ねていた智史君の我儘で予定が変更となり被災。  智史君を除く全員(猫も含め)が亡くなり、そのことに傷つき自分を責め続けていた智史君の姿に、亡くなった猫が心を痛め自分が拾われて以来幸せだった時代の記憶を写真にしてアルバム制作を依頼にきた・・・・・というお話です。  

    「みよ子は幸せな猫でした。  あの二年間、智史君の家で家族として暮らすことができて、幸せだったんです。  むしろ、自分のために大切だった家族を死なせてしまったと、ずっと思っていました。  みよ子がいなければ、智史君の家族は、あの家に引っ越さなくてすんだんですから。  そのアルバムを見てごらんなさいな。  おうちで暮らした、二年間の日々の思い出です。  みんな笑っているでしょう?  あなたもお父さんとお母さんも。  (中略) だから、あなたはこれからも幸せでいてください。  その写真と同じに、笑っていてください。  (中略)  みんな幸せだった。  みよ子が見ていました。  この2つの目で。」
    そんなアルバムなんて非現実的であることは百も承知だけど、ルリユールが本を修復する際には依頼人の思い入れの深さに応じて使う素材の色や柄を選び、二度とほつれたりしないように可能な限りの技を尽くす姿勢に通じる精神・・・・・みたいなものがこの逸話には切々と描かれている、そんな風に感じました。  と、同時に手仕事全般に通じる「使う相手を思う気持ち」「作業の一つ一つにかける時間と手間にこめられる作り手の思い入れ」をあらためて感じました。

全123件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1963年長崎県生まれ。『ちいさいえりちゃん』で毎日童話新人賞最優秀賞、第4回椋鳩十児童文学賞を受賞。著書に『シェーラ姫の冒険』(童心社)、『コンビニたそがれ堂』『百貨の魔法』(以上、ポプラ社)、『アカネヒメ物語』『花咲家の人々』『竜宮ホテル』(以上、徳間書店)、『桜風堂ものがたり』『星をつなぐ手』『かなりや荘浪漫』(以上、PHP研究所)、げみ氏との共著に『春の旅人』『トロイメライ』(以上、立東舎)、エッセイ『心にいつも猫をかかえて』(エクスナレッジ)などがある。

「2022年 『魔女たちは眠りを守る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村山早紀の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×