([み]5-1)少年十字軍 (ポプラ文庫 み 5-1)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591144626

感想・レビュー・書評

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  • 史実に基づいた物語。

    少年十字軍という存在を初めて知った

  • 少年十字軍の悲劇を知っていれば
    この子達にどんな結末が待っているのか
    それを作者がどれだけ耽美、爛れた
    退廃的な世界に描くのかと思いながら
    読んでいったのだけど。。。
    神への信仰を表面にあらわしながら
    俗な人間の欲にまみれ浸りきった大人たちに
    (あぁ大人の世界を縮小版で濃縮している
    レイモンにもか)利用され、試され、裏切られ、
    翻弄される子供たちが、ただ一心に信じている
    苦難からの解放、自由な世界、導いてくれるはずの
    エティエンヌ。
    染まって汚れたものも、純粋なものも、全て背負い
    その身を削りながらたどり着く先は。
    ぜひ読んで、余韻に浸ってみてください。

  • 中世ヨーロッパ、エルサレム奪還のための十字軍遠征がさかんに行われた時代、羊飼いの少年に率いられた子供たちばかりの十字軍が存在したという史実をベースに、さまざまな登場人物たちの思惑が錯綜する皆川ワールド全開の長編。

    神の啓示をうけたという羊飼いの少年エティエンヌ(12歳)を筆頭に、序盤から彼につきしたがう子供たちは下は7歳から上は13歳まで。のちに加わる助修士のドミニクとジャコブでさえ15歳。彼らに対抗するように自ら十字の焼き印をつけて救世主たらんとする領主の息子レイモンもまた14歳の少年にすぎず、虚栄心の塊だけれどある意味彼はまだ純粋。

    そんな子供たちに比べて大人たちは皆一筋縄ではいかない腹黒さ。レイモンに従う騎士ベルトランはまだしも、聖職であるはずの修道士たちや、裕福なはずの領主や貴族さえ信用できない。そして記憶を失っている謎の男ガブリエル。

    ガブリエルが幻視する悪魔など、随所に幻想的なシークエンスもちりばめられているけれど、エティエンヌの行う奇跡は、たまたま目覚めてしまった治癒能力以外は、実は周囲が作り上げた眉唾もの。控え目で優しいけれど私欲がないゆえ流され体質なエティエンヌよりも、野生児のルーや、得体が知れないところがありながらも頼りになるドミニク、読者の視点にいちばん近い普通の子ジャコブなど、脇の子供たちが個性的で面白い。

    最終的に彼らは思いがけない人物の裏切りでグロテスクな試練に立たされるのだけれど、その乗り越え方、そして記憶を取り戻したガブリエルと子供たちの再出発で終わるラストはとても良かった。宗教的モチーフを扱っていても神秘や奇跡をクローズアップするわけではなく、どちらかというと危機を乗り越える力になるのは少年たちの信頼関係と機知なところも好きでした。

    解説:三浦しをん

  • マルセル・シュオッブに続けて読もうと決めていた。
    ブックカバーをかけようとして気づいたけど、ポプラ文庫なかなかお洒落だ。しかし「ついに辿りついた最高傑作」の煽りは余計なお世話では。

    13世紀の歴史的事件を描く幻想歴史小説。年代記でも散文詩でもない、汚れくたびれながら地を踏みしめて辿る長い旅路のお話。語り口は比較的易しいながら、無垢な子どもたち、信仰心を利用する教会勢力、その腐敗を目の当たりにする修道士、虚栄心の虜となって暴走する貴族の子弟など、様々な登場人物を配して重層的に広がっていく。醜さと美しさを同じ熱量で描ける著者の筆力が光ってとても魅力的。
    エルサレムを目指す物語でありつつ、その描き方が感動や賛美に偏らない、ある意味残酷に公平なところがポイントであるかも。エティエンヌがなす奇跡には疑問符がつけられる(ドミニクが言っていたのはてんかんの発作か)うえ、一部の子どもは「大人はずるい」を読者に共有させる。そして子どもを犠牲にするのは大人であるからして……。
    純粋な懐疑、自由意志による選択、幸福の希求が照らす「生きること」の問いがこの物語なのだと思う。そんなわけでラストシーンがとてもよかった。平和の国を目指す旅路が回帰する先に胸を打たれる。
    ドミニクがジャコブに行う告白は幾分唐突に思えた。これを掘り下げると別の物語になるのだろうか。

  • 青少年向けのため、いつもの皆川先生らしくないかもね(笑… 叙述トリックもない ドロドロな展開もない、芳醇な描写や余韻たっぷりのエンディングが相変わらずいつもの皆川先生です。昔十字軍東征の映画を観たが、今回小説のベースの少年十字軍のお話は知らなかった。今度古屋先生の漫画も読もうかな〜

  • 13世紀に実際にあった少年十字軍をテーマに描かれたお話。
    難解そうに見えて、意外にさらさらと読める。それは、登場人物は多いのに、それぞれが生き生きと魅力的に描かれているせいかも知れない。

    エティエンヌに心酔する子どもたち、信じてはいないけれど追随する者、利用しようとする者、そして訳も分からずただ参加する者。様々な思惑が絡み合いながら旅は続く。

    神の不在、死後の世界と無宗教の人間には正直理解できない部分はあるけれど、中世的なちょっと暗くて閉鎖的な雰囲気は伝わってくる。

    身勝手な大人たちに腹が立つと同時に、エティエンヌがいれば大丈夫と無邪気に繰り返す子どもたちの残酷さにも慄然とする。すべてを背負い込もうとするエティエンヌが痛々しくて切ない。
    でも、史実よりも少し希望の持てるラストに救われる。

  • 世界史上、有名なエピソードに基づくお話。

    「少年十字軍」と言えばいい印象を持っておられる方は少なかろう。
    当時のヨーロッパや聖地をめぐる云々、縁のない日本で育ったものにはなかなか理解しがたいものがあるし、安穏と状況に納得いかぬことが多々ある。

    それはおそらく、当事者においても同じことであったろう。

    哀れな少年と彼をめぐる仲間たち、愚かな大人、誰一人幸せを享受できぬまま終わるストーリー。
    この先、彼らに平安が訪れるかどうか、かすかな希望すら打ち消される不安感。
    ヨーロッパや中東、アフリカ北部は歴史的にもこの先安定することはないことを知っている現代のわたしたち。

    悲哀のもとに終わってゆくであろう彼らに、つかの間の安息を願ってやまない。


    著者は昭和5年生まれの方、ということだが、古さを感じさせないどころか、新人作家のようなみずみずしさを含んでいる。故に作品中の哀れな人々の描写を冷静に受け止めることができた。

    前知識がなくとも楽しめる1冊なので、機会があれば是非読んでいただきたいお話である。

  • ハードカバーで読了。

  • 一点の染みもない潔癖な少年と無垢な子供たちが、乳と蜜の流れる聖地を目指す。罪に汚れた大人たちに利用されながらの旅の果て、新たな試練の始まりのラストに光明と切なさが入り交じる♪。

  • クライマックスの『試練』『選択』の残酷さよ……
    が、この二つこそが人間が一生負い続けるものなのかとぞっとした。
    なんといっても作者の筆力の素晴らしさ。手に汗握ってしまった……

    物語としても、これだけの人数が出てくるにも関わらず、一人一人が生き生きと活写されている。
    十三世紀という時代、どれだけ「神」という存在が人を救い、その何倍も人を苦悩させたのか。正直、何もかも「神」中心になる当時の人々の心情には寄り沿えないが、無垢な人々がいるのと同じくらい、狡猾に「神」を利用している人々の逞しさにも感心させられた。

    キャラクターがすべて素晴らしい。
    ラスト、「無」から生きる手ごたえを取り戻したいと思ったガブリエルの目に、実はルーこそが神のように見えたのかも、なんて思ったり……

著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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