- Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
- / ISBN・EAN: 9784594025342
感想・レビュー・書評
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読む前からある程度は想像のつく物語ではあるが、この本の肝はビジュアル的な光景や展開よりも、それを取り巻く人間の心理や狂気のほうにあるだろう。予測する悲劇へと向かう様は文字通り筆舌に尽くし難いものがある。隣の家の少女を対象とした歯止めの効かなくなった幼い暴力と性に、大人が大義名分を与えてしまっているというのは絶望でしかない。恐怖で縛る悪の大人という単純な構図ではなく、未熟な子供の指揮を取り、一人前の大人として扱っているからこそ事態は悪夢的に加速していくのだ。主人公の少年は善良ではあるが、その善良ささえも暴力と好奇心という魔物の前に無力に流され、保つのは至難の業であるというのがリアルだった。ビジュアルの鮮烈さや陰惨さにばかり目が行きがちな本作ではあるが、それ以上に読み手の倫理観を試されているのが本作の面白さだろう。評価としては5つ星だが、あえて1つ星を付けるのが本作に対する最大の礼儀な気がする。しかしこれは星1つの紛れもない傑作です。
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2019.04.05 図書館
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胸くそ悪いストーリーだが、どんどん読んでしまうホラーサスペンス。
人がもしその現場に立ち会ったとしたら、彼らと同じように止められないのではないだろうか。。。
だから、恐る恐る読み進めてしまうのだろう。 -
内容に対する嫌悪感と登場人物への憎悪と恐怖、そこにかすかな欲情が混ざってしまう自分にまた嫌悪感を抱いてしまう。久しぶりにページをめくらされるままにめくらされ、あっという間に読み終えてしまえる小説だった。
人間がここまで残酷になれるもんなんだなってことに恐怖はあれど驚きまではしないというか……作中の加害者が「少女」に行う最後の仕打ちは自分もアイデアとしては持っていたので、そのシーンが迫るところで「うわぁ……」ってドン引きする気持ちと「それ俺も考えてたけどねー!」って張り合う気持ちが同居してた。
正直な話、自分自身が持ち合わせている猟奇性への興味みたいなものがページをめくる手を加速させたのは事実だと思ってるんですよ。見たくないけど見てしまう、言葉にできないあの感覚。包み隠さず言っちゃうと、表題の「少女」が性的に辱められるシーンを読んでる最中は興奮を禁じ得なかったし。その後スッキリして自己嫌悪に陥るまでがワンセットなんですけどね。
この手の作品を心底忌み嫌うことができる人がいることは疑いようのない事実だし、そういう人がいるからこそ「隣の家の少女」はこれから先も傑作としてひっそりと世の中に、振り返って手を伸ばせば届くところに在り続けると思う。実際にあった事件を元にしてるという事実がまた、この作品のおぞましさに拍車を掛けてるよね。書店で手に取ったときには軽い気持ちだったけど、いざ読んでみたら自分が想像してたサスペンスやホラーという常識を簡単に乗り越えてきやがって……なんか……なんか明るい作品に触れたくて仕方がない。と、読後に思わせるだけの衝撃が詰まっているとんでもない一冊でした。はい圧巻。 -
(読了当時の読書メモから)
積読に入りつつも、手に取って読み始める勇気が中々出なかった作品。
(内容は既によく知られているであろうので割愛。というかわざわざ思い出したくないし、確認するために再読するなど後生だから勘弁願いたい。)
紹介文で知ってはいたけど、ほのかに救いを感じられるのはラスト近くの2、3ページのみで、読後感は相当に悪い―というより、フィクション作品でここまでキツいのもなかなかないのでは。
途中からは「とにかく早く読み終えてしまいたい」という思いだけでページを繰っていたような。
「評価」★5はその怖さというより、読んでいて味わう不快感、無力感、絶望感、読中読後感の悪さに対して。 -
これまで少なからずの小説を読んできたが、この作品以上に嫌悪感を覚えたフィクションはなかった。とはいえ、著者の筆力は大したもので、非道の行為を延々と単純に描いただけのストーリーを最後まで読ませる力量は認めざるを得ない。が、同時に相当の忍耐を強いる。主人公を敢えて「非力」な少年に設定し、眼前で繰り広げられる狂気のさまを、傍観者という極めて卑しい立場に置いたまま延々と見せ続けるのだが、それは読者自身を卑劣な側に「同化」させ、共犯関係へと陥らせることとなる。導入部で苦痛の度合いについての意味有り気な語りがあるのだが、それが読者に対する問い掛けであったことに中途で気付く。つまりは、拷問にも匹敵する精神的な苦痛にどれだけ耐えられるか、妙な表現だがマゾヒズムのキャパシティを「本作を読む」ことによって試しているのである。どんなホラー小説でも、救いの兆しや、束の間の休息を含めるものだが、ケッチャムは甘え無用とばかりに読者の期待を裏切り続ける。
中盤から過激さを増す醜悪なサディズムは、一切の救済を退ける。終盤に至ってようやく訪れる主人公の柔な改悛でさえ、もはや手遅れという罪悪感を助長するものでしかなく、無垢な少女を狂人がひたすらに蹂躙するという最悪なプロットは、肥大した不快感を残して暴力的に閉じられる。
例によって、スティーヴン・キングが絶賛しているのだが、恐怖の中でこそ輝きを放つ人間の尊厳や情愛を描いた物語(逆に言えば、それこそ大半の読者が望む)しか書けないキングにとって、ある意味別次元の書き手であるケッチャムの存在は驚異なのだろう。だが、人間の生理的な厭忌のみを刺激する本作品は「問題作」ではあっても、「娯楽作」ではない。また、常人には推薦しない方が無難だろう。後で恨まれることは間違いないであろうから。 -
隣の家に引き取られた少女がぼろぼろにされる話。気分が悪くなる話だった。こんな世界と無縁であることに感謝したい。最初にあったトム・ウェイツの言葉が心に響く。
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ここまで強烈だとは思わず…吐き気すら覚えるほど。
息詰まるものを感じながら、休憩もせずにページを繰ってしまった。
読んだことに後悔すらしているのに、何故か惹きつけて離さないのが、余計に嫌だ。
第三者であるディビットを視点にして、目撃したもの全てが生々しく書かれているのが憎たらしい。 -
ページを開く勢いが止まらない。映画ではとても再現できない、だからこその小説の良さだと思う。物語は狂っている。これは、事件だからだ。平穏な日常を過ごす、常識的な人間模様からは生まれ得ないドラマ。残忍かつ狂気。しかし、本質的には、人間というのは、そのような事件に好奇心をそそられるものだ。人は誰かを支配したい。しかし、ルールや感情移入、利害により、普通は実行しない。しかし、時代が違い、感性が異なれば、それが実行される事もある。異民族をジェノサイドし、奴隷を売買し、戦争を引き起こす人類の後ろめたい真理である。つまり、この小説は、後ろめたい真理を実行した、事件の記録であり、後ろめたい好奇心を擽られ、ページを開く勢いが止まらない背徳的な書物なのである。