- Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
- / ISBN・EAN: 9784594080327
作品紹介・あらすじ
【本の内容】
自分らしくあるために、自分らしく生きるために
現代は情報が過剰ともいうべき時代です。マスメディアだけでなく、SNSを通じて、膨大な情報が我々の手に届きます。
こうした情報を活用するのは結構ですが、多くの人が情報に踊らされているようにも思えてなりません。
容易に流されることなく、自分自身で一つひとつの情報を吟味していくためには、
読書によって培われた「思想的軸」が重要となってきます。
「思想的軸」とは、必ずしも、思想そのものから導き出されるわけではありません。
面白いと思って読み始めた推理小説の登場人物の台詞の中に、
驚くべき洞察を見出すことがあるかもしれません――(「はじめに」より)
【目次より】
第1章 読書は「人をして善き方向に向わしめる」可能性がある
第2章 初めて読む人にとっては古典も最新作
第3章 やってはいけない! ヒトラー流“自分の世界観を強化する”読書
第4章 「活字の舟」に乗って
第5章 本の世界へ旅をはじめよう
第6章 不条理なこの世界で私たちは何のために生きるのか
感想・レビュー・書評
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他人の愛読書を知るのは、その人の人生の片鱗が覗えるようでゾクゾクする。
さて、本書の評判をきいて今回読んでみました。
うなづける箇所も多くあったのですが、1つ気になったのは、ヒトラーが読書家だったという話題(P68)で、独善的な読み方だとこの読書法を一刀両断していますが、自分に都合のいい(興味のある)部分だけを抜き出して読むという行為は、特に専門書を読むときには有効だと思います。
例えば、ゴルフ本で推奨されるスイング理論は何通りもあり、自分の体型やマネしやすい理論を取捨選択するというのも賢いやり方であるように、いいとこどり読書は否定されるべきものではありません。
ヒトラーの間違いは、そもそもの目標設定にあったわけで、これは誰しもが犯しうる大前提の問題であって、単なる読書理論の中で論じるべき話題ではありません。
また、安岡正篤「論語に学ぶ」では、「民は之をよらしむべし。之を知らしむべからず」という解釈は「指導者が民に理解してもらうのはむつかしい」という意味だという点や、孔子が政治の本質は何かと聞かれ、「兵(安全保障)、食(経済)、信」とこたえ、中でも最後に残すべきものは「信」だと断言する件(P179)は、安倍政権に読んで聞かせたい内容ですね。
ソクラテスの言葉もかみしめたい。「一番大切なことは単に生きることではなく、善く生きることである」(P209)
哲学者ホッファーの大衆運動の病理についての言葉も深い。「恋をしているときは、人は普通同盟者などを求めない。同じ相手に恋をしている相手を恋敵と呼ぶ。しかし、恋や愛ではなく憎悪を感じているときには、人はいつでも同盟者を求めるものである」(P245)カルト宗教は入信者に対して家族(愛の共同体)を敵視するよう指導されているのも同じ理屈から。
さらにホッファーの言葉は続く。「空っぽの頭は実際にはカラではない。ゴミでいっぱいになっているのだ。空っぽの頭に何かを詰め込むのがむつかしいのは、このためである」(P249)
最後は、パスカルの言葉。「人は正しいものを強くすることができなかったので、強いものを正しいとしたのである」(P254)
人生は短し、そのためには好きな先人のすすめる本をまず読んでみるという方法論は最強です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
借りたもの。
前半は読書をする醍醐味について。
半ばで中庸な読書方法について。
後半は本を足掛かりにした、人生哲学について。
政治学者の読書術とあったので、政治をより深く知るための、世界情勢を理解するためのおすすめ本や読み方を伝授するものかと思ったら、違った。(その辺りは池上彰氏がわかりやすくまとめているから、いいのだろう)
この本に関して特筆すべきは、「よくない読書法」を明言していることだろう。
自身の考えに固執する、補強するための読書を否定する。
政治の世界にかかわらず、一つの思想(イデオロギー)に固執することは排他的になり、異なる意見を‘悪’と見なす。その姿勢、その悪意を赦すわけにはいかない。
その例として、著者はヒトラーの読書法を例に挙げている。ヒトラーは自身の思想(世界観)を補強するために、選民思想や反ユダヤの本を熟読していたという。
著者は思想が偏向すること――カルト的思想となること――を徹底的に憎悪し、警鐘を鳴らす。
本を読む際にも反対意見を受け入れ、本を読む時は鵜呑みにせず、自分の意見を持つことが必要である、と。
……そのためにもたくさん本は読まないといけないと思った。
著者の読書量、特にジャンルの多さには驚かされる。
関心を持った書籍は全集なども含めて購入していた模様。(図書館で借りるじゃないんだ……)
「本を鵜呑みにしてはいけない」という点からひと言…
死刑確定したソクラテスを逃がそうとするクリトンとの対話『クリトン』の紹介で、クリトンの説得を著者は「奇妙」と言う。しかし、藤村シシン『古代ギリシャのリアル』( https://booklog.jp/item/1/4408133620 )から鑑みるに、当時の価値観からして金持ちが友人のためにお金を使わないことは醜聞が悪くなったのでは?と思う次第。
パスカル『パンセ』からの引用は強烈だった。
‘人は正しいものを強くすることができなかったので、強いものを正しいとしたのである。’
真理だと思った。
読みたい本が増えた。 -
三島由紀夫さんの『潮騒』を読んでみたいと思った。
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今まで手を出したことのなかった分野の本も読んでみようかな、という気になった。学生時代から何度も読み返した内村鑑三の「後世への最大遺物」が紹介されているのも嬉しい。
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政治学者が実践する流されない読書
著作者:岩田温
読書とは「人として良き方向に向かわせる」可能性がある。教養については、思想的軸として、それは読書でつくられる「自分らしくあるために」「自分らしく生きるために」
タイムライン
https://booklog.jp/timeline/users/collabo39698 -
思想によってもたらされる左右の「正義」に対して、読書によってどのように立ち向かえるかを述べた本であるように思う。
齋藤紘一を絶賛しているのが、印象に残る。
【一体、齋藤はなぜ、グロスマンの作品を翻訳し続けるのでしょうか。一つは、若い世代にグロスマンの作品を読んで、全体主義の問題、権力と個人の問題について考えてほしいからだと言います。そしてもう一つは、若き日の齋藤がソ連という国家の実態を見ずに理想化していたことへの反省からだというのです】
グロスマンは、岩田温氏の述べるように、左右イデオロギーの対立にうんざりしているツイッター民や私自身にとっても必読だろう。
佐藤一斎の言志四録での読書術について、「著者が心底伝えたいことは何かを考えながら読む」「本に書いてあることは、すべて真実だと判断しない」「著者がどのような人物で、どういう状況の中で論じているかを考えないといけない」という三つがあって、おそらく三番目がしばしば抜け落ちてしまうところだ。詩を読む会を私はしているのだが、三番目が実はかなり重要だったりするのだが、詩集はどういう状況で書かれたかは、万葉でもない限りなかなか由来はわかりにくい。この三つを踏まえれば、思想本に感化されて洗脳されることはあまりないだろう。冷静に読める。
ホッファーについては「自分自身の失敗や絶望を、革命の理念や教義へと転換を図ろうとするのが悪しき人間の特徴ではないかというのが、ホッファーの一つのテーマです」と述べている。「大衆運動」において書かれる憎悪の共有。そして、その大衆が最も敵視するものは何かというと「家族」に他ならないという。「孤独な個人を巻き込んでいこうとする大衆運動は家族のことを敵視する傾向があります」としてホッファーの一文を引用する。いじめにおいても、まずは相手を孤立化させることが第一の手段である。『高まりつつある大衆運動が家族にたいして示す態度には、かなり興味深いものがある。現代の運動は初期の段階において、ほとんど例外なく家族に敵意ある態度を示し、家族にたいする信用を落し、分裂させるためにできる限りのことをした。』
基本的に、左右イデオロギーに振り回されず、いかに自分があるべきかを著者は思考している。読書がとてつもなく危険な行為でありつつも、読書は「読書は危険である」という読み方も教えてくれる。その危険とは「正義」「不正義」という思想のかたちだ。この「正義」の中に潜む狂気にどう向き合うかが哲学的なテーマとしてこの著書の中にある。
その他、作品と出会った縁を大切にすることや、太宰治は「トカトントン」「駆込み訴え」「津軽」、三島由紀夫は「英霊の聲」「わが友ヒットラー」それから「戦国策」も勧めている。
太田道灌の山吹伝説は初めて知った。
あと、ウォルター・スコットの「あらゆる悪徳の中でも、飲酒ほど成功の妨げになるものはない」を引いているところは笑った。 -
「後世への最大遺物」、「万物は流転する」、「弟子」、「国家」、「人間であること」を読んで見たいと思いました。子供には、「改心」を読んでもらいたいですね。
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よく知識人の読書本かと思いきや、なかなか納得のいく論点が並ぶ。ショーペンハウアーの『読書について』をゆがんで導入したヒトラーの読書法など。政治学者であるから、政治関係の本が多くて、知らないものも多く興味深い。
「流されない読書」という、一本筋の通ったタイトルに惹かれるが偏屈な理論家肌の知識披露ではない。