- Amazon.co.jp ・本 (704ページ)
- / ISBN・EAN: 9784596541376
感想・レビュー・書評
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いつもの猟奇的な単独犯ではなく、犯罪組織が相手主人公ウィルの恋人サラが連れ去られてしまう。(組織への潜入捜査とかもあったけど、それよりも武装していて爆破テロを実行するタイプ)
犯罪者と行動を共にするサラパート
前半ほぼ落ち込みまくってるウィルパート
操作で協力することになったFBIにイライラしまくるフェイス(ウィルのバディ)パートに分かれて進行
松田青子さんの「女が死ぬ」という掌編にあった物語のために女が死ぬことについて「話の進行のためだけに登場人物が死ぬ軽さ」を気にしていたのだが、この作者は被害を受けた後についても描いているという話が解説にもあり、確かに容赦なく、重たい。
過去のシリーズ作品でも感じていたので納得。
200ページまでは数日かけ、残り400ページは一気読みしてしまった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
カリン・スローター『破滅のループ』ハーパーBOOKS。
ウィル・トレント&サラ・リントン・シリーズの最新作。700ページの大ボリューム。このシリーズは読み方を覚えると極めて面白い。
カリン・スローターの描く犯罪は冷酷無比にして大胆であり、全く情け容赦ない。そして、こうした犯罪に翻弄され、心身共に痛め付けられる主人公というのが1つのパターンになっている。本作もまた、冒頭からウィルとサラの束の間の幸せを奪うような大事件が起こり、二人に最大の危機が訪れる。
恋人の検死官サラと束の間の平和な時を過ごしていたウィルは、たまたま近くのアトランタの中心部で発生した爆発事故現場に急行する。途中、車の多重事故に遭遇した二人は救命活動を行うが、事故車の中に居たのは爆発を引き起こして逃走中の犯人たちだった。ウィルとサラは車内に1ヶ月前にショッピングモールの駐車場から拉致されたCDC疫学者のミシェルの姿を発見し、犯人たちとの対決を試みるが、ウィルは負傷、サラは犯人に連れ去られる。サラが連れ込まれたのは……
事件はこの後、思いもよらない展開を見せる。
本体価格1,236円
★★★★★ -
今まででいちばん面白かったかも。(って何度も思ってるんだけど)
これまでは連続猟奇殺人ばかりだったが今回はテロ。ダッシュはなんとなく俳優のラミ・マレックさんを想像してた。後半はところどころ雑なところがあるものの前半はなかなかスリリングだった。サラが犯人のDNAを集めようとするのは自らの死をリアルに覚悟しているからだと知ったとき、サラが死ぬわけないと思いながらも心配でたまらなくなった。ふと読むのを中断したとき、いまじぶんがどこにいて昼なのか夜なのか何時なのかわからなくなったほど熱中して読んでた。ウィルに関する極秘資料とても好き。
は〜、グウェンはもちろんだけどミシェルも好きになれなかった。やっぱり女性の登場人物に好きなひとが少なすぎる〜。でもウィルとサラが好きなのでまた続きも読みたい。もうレナやアンジーは出てこなくていい! -
厚みあったけど、一気読み。面白かった。
サラとウィルもちょっと前進したね。 -
テロって色んなところで計画されてるんどろうなぁ。怖い!
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「緊張と緊張の緩和」とは、桂枝雀が"笑い"について語ったことだが、これはすべての"面白さ"に通ずる。
カリン・スローターはまったくその名人だ。
そして、こんなむごい話を書きながら、彼女は思いやりのある、気遣いの行き届いた人なのだ。
だから、私は彼女の話を読んでいられる。
まずはプロローグである。
たった数ページで、子供を持つ母親、中でも娘を持つ母親の緊張と緊張の緩和が描かれる。
子供、特に娘のいる世の母親は共感して頷くところが多いのではないか。
なに、つまらなそうだ?
では試し読みをどうぞ。
あなたはきっと揺さぶられる。
https://viewer-trial.bookwalker.jp/03/8/viewer.html?cid=8dc33d70-f7fd-4c40-8791-7d2fc1a059a4&cty=0
舞台が変わって本編に入ると、サラが、母親キャシーと、叔母のベラとキッチンにいる。
結婚するとかしないとかで、家族の女性だけであれやこれや言い合うのは、女性向けの小説や、コージーなどで定番の場面だ。
うんうん、これねと、女性なら思うことだろう。
なに、つまらなそうだ?
残念。ここからはもう試し読みがない、本を手にとってもらうほかない。
あなたがうなずいていたとしても、ダレてしまっていたとしても、それはここで最後になる。
この緩和の後には、緊張の波しかない。
せいぜいここで呼吸をゆるめておくのがいい。
強い緊張と弱い緊張だけでは、しかし読者は疲れてしまう。事実私は疲弊した。
けれども、続けて読んでいられたのは、あのサツマイモや下痢腹があったからだ。
カリン・スローターはこれがうまい。
緊張が持続している時、呼吸が浅いままの時、突然、想定外のなにかを投げ込む。
異物、滑稽なもの、サツマイモ、下痢腹、緊張の緩和。
これで肩の力が抜けて、また呼吸ができるようになる、私は無事に読んでいける。
読者を窒息死させないよう、カリン・スローターも気遣ってくれているのだ。
そして彼女は、そんな死の危機の数々を長らく脱してきた読者に、さらにサービスを提供する。
『マギー・グラント副本部長が登場した。フェイスは、真面目な生徒のように見られたくて背筋をのばした。マギーはフェイスにとって励みとなる存在だった。タマが生えた女に変わることなく、アトランタ市警の食物連鎖の最下層である交通指導員から特殊作戦の指揮官までのぼりつめたのだから。』 (87頁)
退屈極まりない会議の席で、その人が登壇するからと、あのフェイスが姿勢を改めた人物は、マギー。
この名前には、覚えがある。
『警官の街』は、1973年のアトランタを舞台にした、カリン・スローター(2014)のノンシリーズ作品だ。
当時のアトランタは、男と女で社会的立場がまったく違った。
そんな男社会の中で、警察組織が、さらに極まった男社会であることは間違いない。
その社会の中で、警官として働く女性たちの物語である。
ヒロインの名は、マギー。
これは、あの彼女ではないか。
『警官の街』の後、彼女らはどうなっていくのか、つづきはないのかと気を揉んでいたのだが、ついに再会することができた。
当然、もう一人のヒロインにも会える。
『品のいいブロンドが立ち上がり、手を差し出しながら近づいてきた。年齢はアマンダと同じくらいだが、もっと背が高くほっそりとしていて、美しくない女に気まずい思いをさせる美しさの持ち主だった。
「情報部のケイト・マーフィ次官補です」』 (202頁)
フェイスが気後れする美人は、もちろんあのケイトである。
二人とも無事だったのだ。
あのアトランタの街で、頭をふっとばされもせず、四肢を失うこともなく、その上、素晴らしい昇進を果たしている。
マギーはなんと姓が変わっているし、ケイトの部署には、間違えようのない姓の人物がいる。
彼女らが、ここまで登って来た道筋が垣間見える。
女性たちのハードボイルド作品『警官の街』は、カリン・スローターが、当時の女性警官たちに話を聞き、入念なリサーチをして書き上げた作品である。
手元にある方は幸運だ。『破滅のループ』読了後には、ぜひ読み返してほしい。
新しく読みたい人は、難儀である。絶版の上に、古本が高騰している。
本来、税別1000円なのだが、今やなかなかの価格だ。
しかし、この高騰ぶりには覚えがある。
同じくカリン・スローターの『開かれた瞳孔』が、こんな様ではなかったか。
その後、ハーパーブックスから出版されたのではなかったか。
再版を待つか、古本を探すか、どんな方法かはともかく、『警官の街』は読むべき作品だ。
そして、それゆかりの人物たちが、これからもウィル・トレント・シリーズに出てく
れると嬉しい。 -
勢いのあるストーリーにまたまた2日で読んでしまうことに。700ページもあるのに、止められませんでした。全く、すごいお話。とんでもない企みだけど、ありそうな気もするくらい、今のアメリカが抱える闇を見せてくれたようです。医学の専門知識が怒涛のように押し寄せ快感でした。
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カリン・スローターの作品はぐつぐつと煮詰めたシチューのようだ。濃縮された様々な食材が、混在し、溶けて、一体となった混合物。作品中でいう食材は、主に人間である。様々な毛色の人間たちが、煮え滾るスープの中で、煮詰まって、ぶつかり合う鍋の底のような世界だ。
ウィル・トレント・シリーズ。そのコアなヒーロー&ヒロイン=ウィルとサラとが主役を務める、実に王道の作品。本シリーズの未だ初心者のぼくにとって、ウィル・シリーズなのに、毎度、他のキャラクターが主役を務める感の強いのがこの作家の特徴。つまり、キャラの立った人物像が、予め考え抜かれ、設計された凝ったシリーズなのだと言える。
本書はシリーズ中、最もシンプルな作品と言っていい。通常の殺人事件に始まるミステリーとは言えない。最初にとある人物の誘拐シーンで幕を開ける。そのほぼ一か月後、いきなり病院で爆弾テロ勃発。逃走現場での撃ち合いの中にウィルとサラの姿、そして誘拐された女性の姿。そんな、ど派手な幕開けである。
700ページ弱の長大なページをほぼ全編緊張の状況が埋める。凶器のテロ集団。感染症に苦しむ子供たちでいっぱいのキャンプ。渦中のサラ。ウィルの潜入。ジョージア州警察のバックアップ。男性作家にさえ書けないほどの度はずれた暴力描写や、緊張感の緩まない心理描写。ウィル、サラ、ウィルの相棒である女性刑事フェイスの三つのシーンで構成される複数多面描写による、時空間的厚みと、それを支えるストーリーテリング。
この物語の題材は、差別とヘイトが人種間に産みつける憎悪、その発火点、そして際限のないほどのテロリストたちの冷血性と、悪魔性である。この種の徹底した悪と闘うのが我らがヒーロー&ヒロインたちなのだが、彼らの世界のディテールが読者の枯渇しようとするヒューマニズムを救いあげる。
その断面は、男女の恋愛、家族の愛情などをもって細密画のように丁寧に描かれる。悪に対する善なるものとして。今回、テロ組織が用意する悪魔の兵器とその準備段階でかなり疲弊してしまう神経を、善なる側の愛情や友情が救ってくれる。無論救われない魂の数と平衡を取っているとは言えないまでも。全体が残虐さに満ちたという意味ではシリーズ屈指の一作であるにしても。
個人的には、面白さはあってもどうも好きになり切れない作家である。パトリシア・コーンウェルを継ぐ、時代の売れっ子女流作家であるが、同じ感じで面白さだけが読む原動力であるけれど、内容の残酷さ、容赦なさは二人とも同じような側面を感じる。でも、コーンウェルを結局は全作読んでしまっているように、このままキャラクターたちに引きずられてしまいそうな自分を、ぼくは自分でよく知っている。不思議なことに。