冷血(上)

著者 :
  • 毎日新聞社
3.64
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感想 : 146
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620107899

作品紹介・あらすじ

『レディ・ジョーカー』(1997)『太陽を曳く馬』(2009)に続く、"合田雄一郎"シリーズ最新刊!

2002年クリスマス前夜。東京郊外で発生した「医師一家殺人事件」。衝動のままATMを破壊し、通りすがりのコンビニを襲い、目についた住宅に侵入、一家殺害という凶行におよんだ犯人たち。彼らはいったいどういう人間か?何のために一家を殺害したのか?ひとつの事件をめぐり、幾層にも重なっていく事実。都市の外れに広がる<荒野>を前に、合田刑事は立ちすくむ― 人間存在の根源を問う、高村文学の金字塔!

感想・レビュー・書評

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  • フィクションでありながらノンフィクションを読んでいるような気分にさせられる小説である。
    とにかく描写が細かくリアリティにあふれる。
    これだけ事細かく書くためにはどれほどの綿密な取材をしているのだろう。想像するだけで気が遠くなる。

    高村薫の作品は「李歐」以来で本作が2作目。
    「李歐」はもっとドラマティックで息をつかせぬ展開だったような記憶があるが、本作はどちらかと言うと淡々と語られる。
    犯人側になった事件の顛末と警察側の捜査状況が事細かに描かれている。上下二段組みのうんざりするほどの長さだが、決して飽きさせるようなことはなく気づけば上巻が終わっていた。

    資産家のエリート歯科医師夫婦とその子供たちの生活と、底辺を生きている犯人達の生きざまの対比が印象的。
    本来ならば全く交差するはずのない両者が、惨殺事件の被害者と犯人と言う形になって交わる。
    犯人の動機は一体何なのか、疑問を呈する形で上巻は終わっている。

    早くも下巻を読み始めた。
    ☆5つにするか最後まで迷ったけれど、最終的な結論は下巻にて。

  • 上下ニ段組みの本である。
    故に、長い。読み応えがあり過ぎる。
    ニ段組みの本なんて、いつ以来だろう?
    高校時代に読んだカッパノベルズの高木彬光以来か? 
    はたまた祥伝社ノンノベルズの平井和正ウルフガイシリーズであろうか。
    いずれにせよ、文字の小ささとページ一杯に詰まった字の多さで読むのに最初苦労した。
    が──。
    この本、評判どおりに面白い。

    冒頭は中学生女子高梨あゆみ目線での語り口で始まる。
    その彼女が十三歳、子ども以上、メス未満になった誕生日の朝の感想である。
    そこから場面は一転して、彼女とは全く関係のない前科者、戸田ヨシオの語り口になる。
    冗長すぎるほど、細かい日常や心理描写が続くのだが、この記述が何故かけっこう飽きない。
    この男はいったいなんなのだ? と興味が湧いてくる。
    これからどうなるの? って感じだ。
    そしてもう一人の男、井上カツミの登場。
    こやつがまた、得体が知れない。やることなすこと何も考えていない。
    これをしたらどうなるのか? なんて全く意に介さない。
    ヤクでもやっているのか? 本能のまま行動する。
    ひょんなことで、戸田と井上が合流し、ハチャメチャな犯罪をし始める。
    その延長線上に、最初の登場人物である高梨あゆみが突如引っ掛かってくる。
    三人の視点が容赦なくあちらこちらへと飛ぶので、少し読みにくい。
    で、そこから悲劇が起こる。一家強盗殺人事件。
    強盗殺人事件なわけだから、単純に面白いなどと書いてはいけないのかもしれないけれど、面白い。
    ページをめくる手がどんどん早くなる。
    しかも殺人には深い動機などなく、「いやあ邪魔だったからついみんな殺しちゃってよお」てな按配なのだ。
    いったいどうなっていくのだ、この物語は?
    というところで、上巻は終了してしまう。

    まったくもって、罪作りな本だ。
    私の予約ミスのせいで、上下巻の連携がうまくいかず、下巻はなんと50人マチである。
    何ヶ月先になることやら……。
    頼むから20冊ぐらい購入してくれよなあ図書館どの、と祈るような気持ちだ。
    本屋で思わず新刊を買いたくなるほど、早く続きが読みたい。

    • vilureefさん
      え~、上下二段組みなんですか・・・(^_^;)
      私も図書館予約中ですが上下セットで予約してしまいました。
      ソロモンの偽証はバラバラで予約...
      え~、上下二段組みなんですか・・・(^_^;)
      私も図書館予約中ですが上下セットで予約してしまいました。
      ソロモンの偽証はバラバラで予約してくださいと言われましたが、この本はお咎めなし。
      あー、でも読み切るかな。
      ちょっと不安になってきました。
      でも楽しみです(^_-)-☆

      ちなみに私の利用図書館、田舎のせいなのか、ネット予約不可のせいなのかこの本も予約5人位しか待ってません(^_^;)
      2013/02/04
    • koshoujiさん
      vilureefさん、コメントありがとうございます。
      上下二段組みで、かなり文字数が多いです。
      最初のほうは視点がポンポン変わるので誰の...
      vilureefさん、コメントありがとうございます。
      上下二段組みで、かなり文字数が多いです。
      最初のほうは視点がポンポン変わるので誰の話か分かりにくい面もありますが、
      途中から悪役二人のキャラと行動が興味深くて引き込まれます。
      ですので、二巻同時でも読みきれると思いますよ。
      とにかく、上巻を読み終え、犯人も事件の詳細も呈示されているのに、この後、分厚い下巻でどうやって話をつないでいくのかが気になって仕方ありません。
      ああ、早く下巻が読みたい!!
      2013/02/05
  • 「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」という言い回しを、近ごろ犯罪報道などで時々耳にする。

    これはある程度(警察側の)決まり文句で、被疑者がその通りの単語をしゃべったとも思えないのだが、犯行の動機としてわかるような、わからないような、宙ぶらりんな印象を受ける。

    この小説は、その辺の曖昧さをえぐろうとする。

    ネットを通じて相方となった見知らぬ同士の2人組が、歯科医夫婦と子供の4人を強殺する。

    (最初は犯人像そのものがつかめない、ネット社会の闇を描くのかと思ったら違った)

    2人は、犯行およびその後のずさんな行動のゆえほどなく逮捕されることになるが、調べが進んでも動機や殺意が一向に明らかにならないのだ。

    小説は、調べの様子や調書をたんねんに描き出して行くが(その特異な文体を思う存分書こうというのが、例によって作者のもう一つの動機かも)、犯人の答えは「わからない」とか「なにも考えていなかった」に終始する。はぐらかしたり嘘を言っているのではなく、そうとしか説明しようがないらしかった。

    犯罪(起訴事実)を構成するためには、明確な動機や殺意の有無が必要だという。確かに我々も、なにか事件報道があった時にそういうストーリーがあれば安心する面がある。

    しかし、言語がそもそも意志や感情のごくわずかの部分をシミュレートしたものにすぎない以上、それが動機や殺意すべてを表せるはずがない。

    ある動機があったとして、それをたとえば「α」とする。

    だが言語に引き写した時点で、それは「α」辺縁のもやもやしたものが削り落とされ、結果的に「a」や「A」という、少し違った形しか表していないかも知れない。

    「α」を「α」と表しうる、外形的な明確さというものが果たして存在するのか? その辺をあぶり出そうというのが小説の主題のようである。

    これは例の合田雄一郎シリーズの最新刊。

    犯人に相対する主人公は、例によって「考え過ぎの虫」のキライはあるが(刑事には向いていないのでは、と思われる(笑))、突き詰めて考え過ぎると答えがなくなる、ある意味人間存在の不如意をよく表現していると思う。

    後半は地味な問答が続くが、面白かった。

  • 犯罪者たちの思考にあいた穴ぼこと、国道沿いのすかすかの風景。人々の暮らしを隔てる階層格差と、警察という組織の行動。作者が膨大な言葉をつくしてこれらを描写するのは、これら荒涼や不毛というものを、「要点をまとめて」表現してしまうことで、その実体から外れてしまうということなのだろうか? 下巻の犯行動機をめぐる章への助走であり、どこにたどりつこうとしているのかわからない犯罪者たちの行き当たりばったりの彷徨や、通報から始まる捜査手順の一部始終を精密にただただ追っていく描写が続くのだが、圧倒的なディテールが面白く飽きない。

  • 前半の登場人物ひとりひとりの細かすぎるくらいの心理描写の積み重ね。
    一転して後半の合田雄一郎を始めとする刑事たちの捜査状況の時系列を追った丹念な書き込み。
    一見ムダにも思える描写の積み重ねが物語にリアリティを感じさせる。
    これぞ高村薫の真骨頂。
    今はただ早く下巻を読みたいっ!!

    それにしても…
    他の作品でも感じたことだけど、どうやって取材していくんだろう。
    井上のパチスロ打つシーンや戸田のとっさにGT-Rを値踏みするところとかリアル過ぎる。
    毎度のことながら隅から隅まで手抜きの無さに感服。
    さすがは高村薫としかいいようがないわ。すごい。

  • 高村さんといえば、その昔「マークスの山」「レディージョーカー」で「このミス」第1位になり、私の作品をミステリーという枠で、ひとくくりにしてもらいたくないとかなんとかで、その後はその選定に合わないように作品の発表の時期をずらしたり、また本当にミステリー要素のない、哲学的な作品になっていき、しばらく遠ざかっていた・・・

    今回は私の好きな高村作品で、しかも合田雄一郎シリーズだ。
    私は「レディージョーカー」以来、15年ぶりだそうだ。
    15年たつと人間も、変わるし合田の変化もおもしろい。
    その当時は、いつも真っ白のスニーカーで、家庭も顧みない事件一筋の男だったのに、今回の合田はなんと、野菜作りが趣味なのだ。
    早朝4時に起きて、共同農場の作物の収穫などを手伝ってから、仕事に行く。
    時には、肥料のにおいが手に染みついていたりする。びっくり! 定年後の趣味のためという普通のその辺のサラリーマンと同じじゃない。人間くさい合田さんである。



    とまれ、話は進んで、後半「下」に続くのでありますが、段取りが悪くまだ順番が回ってこないのです(しくしく)

  • 第一部は三者の視点で語られる。
    多感な少女と、何かが麻痺している若い男二人。

    どちらも互いの人生が交錯することなど想像もしていない。いや、上流家庭の少女にとって「不良」とはせいぜい大人ぶった同級生くらいで、本当に刑務所を出た男のことなど認識の外だろうし、底辺の男たちにとっても実際の上流家庭は「階層が違う」世界の話である。

    読者には両者が事件の「被害者」と「加害者」として遭遇するとすぐにわかるのだが、初めは何も考えていなかった加害者が「偶然」被害者を認識し、不幸な結末へのカウントダウンが刻々と進んでいく緊張感が息苦しい。

    事件は第二部で決着したように見えるが、下巻がある。
    何が出てくるのか、事件に対してぼんやりと抱いている安堵感が根底から崩壊させられる不安感しかないのだが、読みたくないのに読まざるを得ない気持ちになっている。

  • 虫歯のこととか、暴走族、パチスロ、健康ランド、コンビニ、躁鬱、もちろん警察の捜査の仕方とか組織。あいかわらず細かく取材や調査をしている。
    第一章 事件
    前科者の二人が出会い、衝動的にATM強盗(失敗)、コンビニ強盗(成功したがはした金)、空き巣(失敗)を繰り返していく様が時系列に。
    最終的に皆殺しにされる一家の日常が13歳の長女の視点で書かれる。13歳少女、所詮たいしたことないと思いつつ、未来への希望と恐れ。まだまだ子供な弟。親にも気を遣う(私は使ってなかったが)。
    ここで一家惨殺の詳細が書かれるのかと、びくびくしながら読み進めたが、そんな作家さんではない。
    第二章 警察
    時間になっても出勤しない歯医者を不審に思い、関係者が自宅まで。事件発覚。合田さん登場。野菜作ってて朝4時起きの毎日らしい。野菜すか。
    夫妻はダイニングあたりで待ち伏せされて鈍器で殴られ(音はしなかった模様)、子供たちは寝ているところを鈍器で殴られ、電気毛布にくるまれ。警察が見た事実のみ語られる。
    緻密な捜査により、犯人にたどり着く。で軽く自供する二人。

    読む前は冷血ってさ、この二人のことなんだと思ってたのよ。そんなタイトルをつける作家さんではない。
    恐ろし気な下巻を読み進める。

  • 他の作家さんの長い話は割と好きな方なのだけれどこれはダメでした
    ストーリーとは直接関係なくても物語が膨らむような人物の内面とかはいつもは面白く読むんだけど今回に関してはこの部分必要?っと考えてしまって入り込めなかったです

  • 感想は下巻で

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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