冷血(上)

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著者 : 高村薫
  • 毎日新聞社 (2012年11月29日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620107899

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冷血(上)の感想・レビュー・書評

  • フィクションでありながらノンフィクションを読んでいるような気分にさせられる小説である。
    とにかく描写が細かくリアリティにあふれる。
    これだけ事細かく書くためにはどれほどの綿密な取材をしているのだろう。想像するだけで気が遠くなる。

    高村薫の作品は「李歐」以来で本作が2作目。
    「李歐」はもっとドラマティックで息をつかせぬ展開だったような記憶があるが、本作はどちらかと言うと淡々と語られる。
    犯人側になった事件の顛末と警察側の捜査状況が事細かに描かれている。上下二段組みのうんざりするほどの長さだが、決して飽きさせるようなことはなく気づけば上巻が終わっていた。

    資産家のエリート歯科医師夫婦とその子供たちの生活と、底辺を生きている犯人達の生きざまの対比が印象的。
    本来ならば全く交差するはずのない両者が、惨殺事件の被害者と犯人と言う形になって交わる。
    犯人の動機は一体何なのか、疑問を呈する形で上巻は終わっている。

    早くも下巻を読み始めた。
    ☆5つにするか最後まで迷ったけれど、最終的な結論は下巻にて。

  • 上下ニ段組みの本である。
    故に、長い。読み応えがあり過ぎる。
    ニ段組みの本なんて、いつ以来だろう?
    高校時代に読んだカッパノベルズの高木彬光以来か? 
    はたまた祥伝社ノンノベルズの平井和正ウルフガイシリーズであろうか。
    いずれにせよ、文字の小ささとページ一杯に詰まった字の多さで読むのに最初苦労した。
    が──。
    この本、評判どおりに面白い。

    冒頭は中学生女子高梨あゆみ目線での語り口で始まる。
    その彼女が十三歳、子ども以上、メス未満になった誕生日の朝の感想である。
    そこから場面は一転して、彼女とは全く関係のない前科者、戸田ヨシオの語り口になる。
    冗長すぎるほど、細かい日常や心理描写が続くのだが、この記述が何故かけっこう飽きない。
    この男はいったいなんなのだ? と興味が湧いてくる。
    これからどうなるの? って感じだ。
    そしてもう一人の男、井上カツミの登場。
    こやつがまた、得体が知れない。やることなすこと何も考えていない。
    これをしたらどうなるのか? なんて全く意に介さない。
    ヤクでもやっているのか? 本能のまま行動する。
    ひょんなことで、戸田と井上が合流し、ハチャメチャな犯罪をし始める。
    その延長線上に、最初の登場人物である高梨あゆみが突如引っ掛かってくる。
    三人の視点が容赦なくあちらこちらへと飛ぶので、少し読みにくい。
    で、そこから悲劇が起こる。一家強盗殺人事件。
    強盗殺人事件なわけだから、単純に面白いなどと書いてはいけないのかもしれないけれど、面白い。
    ページをめくる手がどんどん早くなる。
    しかも殺人には深い動機などなく、「いやあ邪魔だったからついみんな殺しちゃってよお」てな按配なのだ。
    いったいどうなっていくのだ、この物語は?
    というところで、上巻は終了してしまう。

    まったくもって、罪作りな本だ。
    私の予約ミスのせいで、上下巻の連携がうまくいかず、下巻はなんと50人マチである。
    何ヶ月先になることやら……。
    頼むから20冊ぐらい購入してくれよなあ図書館どの、と祈るような気持ちだ。
    本屋で思わず新刊を買いたくなるほど、早く続きが読みたい。

  • 犯罪者たちの思考にあいた穴ぼこと、国道沿いのすかすかの風景。人々の暮らしを隔てる階層格差と、警察という組織の行動。作者が膨大な言葉をつくしてこれらを描写するのは、これら荒涼や不毛というものを、「要点をまとめて」表現してしまうことで、その実体から外れてしまうということなのだろうか? 下巻の犯行動機をめぐる章への助走であり、どこにたどりつこうとしているのかわからない犯罪者たちの行き当たりばったりの彷徨や、通報から始まる捜査手順の一部始終を精密にただただ追っていく描写が続くのだが、圧倒的なディテールが面白く飽きない。

  • 前半の登場人物ひとりひとりの細かすぎるくらいの心理描写の積み重ね。
    一転して後半の合田雄一郎を始めとする刑事たちの捜査状況の時系列を追った丹念な書き込み。
    一見ムダにも思える描写の積み重ねが物語にリアリティを感じさせる。
    これぞ高村薫の真骨頂。
    今はただ早く下巻を読みたいっ!!

    それにしても…
    他の作品でも感じたことだけど、どうやって取材していくんだろう。
    井上のパチスロ打つシーンや戸田のとっさにGT-Rを値踏みするところとかリアル過ぎる。
    毎度のことながら隅から隅まで手抜きの無さに感服。
    さすがは高村薫としかいいようがないわ。すごい。

  • 高村さんといえば、その昔「マークスの山」「レディージョーカー」で「このミス」第1位になり、私の作品をミステリーという枠で、ひとくくりにしてもらいたくないとかなんとかで、その後はその選定に合わないように作品の発表の時期をずらしたり、また本当にミステリー要素のない、哲学的な作品になっていき、しばらく遠ざかっていた・・・

    今回は私の好きな高村作品で、しかも合田雄一郎シリーズだ。
    私は「レディージョーカー」以来、15年ぶりだそうだ。
    15年たつと人間も、変わるし合田の変化もおもしろい。
    その当時は、いつも真っ白のスニーカーで、家庭も顧みない事件一筋の男だったのに、今回の合田はなんと、野菜作りが趣味なのだ。
    早朝4時に起きて、共同農場の作物の収穫などを手伝ってから、仕事に行く。
    時には、肥料のにおいが手に染みついていたりする。びっくり! 定年後の趣味のためという普通のその辺のサラリーマンと同じじゃない。人間くさい合田さんである。



    とまれ、話は進んで、後半「下」に続くのでありますが、段取りが悪くまだ順番が回ってこないのです(しくしく)

  •  死刑制度について議論するのに欠かせないというツイ友の勧めで読み始めたものの、殺人事件の加害者と被害者の日常を淡々と描写する最初の50ページで一旦挫折。というのも、一見幸せな歯科医一家の家族が惨殺される筋書きが読め、そのシーンを見たくなかったから、ジェットコースターが坂の頂上に上りきる前に下りようと思ったんです。僕、因みにホラー映画は嫌いです。
     それでも社会学者としての「義務感」で読み直し、殺人もそのプロセスはぼかしてあったので、何とかクリア。
     ただし、死刑廃止論者で知られる著者のポイントは下巻にあるので、この時点でレビューを書くのはとても難しい。犯人2人と被害者の生い立ち、警察内部の確執などがてんこ盛りの印象。
     面白かったのは、犯人が首都圏をぐるっと回る国道16号線に沿って移動し、沿線のコンビニ、ファミレス、スロット店、温泉ランドを利用する様子が、この間読んだ「ファスト風土化する日本―郊外化とその病理」の描写と重なること。地名で言うと、町田、相模原、八王子、福生、入間、川越、春日部、柏、千葉あたり。本の中でも、町田はのっぺらぼうな、個性のない街として描かれている。
     たぶん加速度がつく下巻に期待。

  • 高村薫は特別な作家だ。これほど濃密に描写できる作家はいない。
    その作家が「ことば」の限界を問う。

    カポーティの同名作と同様に理由なき殺人事件が舞台。

    捜査の過程で事件が再現されていく。それは調書であったり、論告求刑、弁論要旨、判決文だったりする。
    それらは事実を正確に表しているのか?

    主人公の合田は煩悶する。

    「ことば」で表される動機や犯意はすべてを表現できているのだろうか?
    もちろん裁判では「ことば」で表現できなければ、つまり出来事を文章化できなければ一歩も先に進めない。残された文章だけが事実として記録されていく。
    それは真実なのだろうか?
    敷衍して「人の存在意義」を説明することはできるのか? そも説明する必要があるのか? 説明できなければ存在意義も無いことになるが、そんなことはないはずだ。

    作者はインタビューで「私は人間が言葉ですべて説明できると思いすぎているのが気になっていました。ひとりの人間が罪を犯す、それによって人が死ぬ。それらを言葉で断定して理解した気になることに、もっと慎重になっていい」と語っていた。
    現代は「はじめに言葉ありき」の西洋文明の支配下にある。その根本に向き合う傑作だ。

  • まるで透明な瓶からアリの巣を観察するような、物事のある断面を書き表す高村節。今回は管轄署に立てられた捜査本部のしくみでしたね。まるで自分がその中の一員になったかのような現実感。そして被害者犯人の人物像の光の当て方。警察物が好きな人にはたまらないんじゃないかと思うんですが?
    長いのが嫌な人にはお勧めできませんが。

  • 歯科医一家殺人事件は、なぜ起こったのか・・・
    歯科医一家の日常や、犯行に及んだ二人の男の行動が淡々と描かれているだけなんだけれど、なんだか迫力がある。
    この、何気なく大した動機も無しにやっちゃうトコが、今時のリアルか。

  •  「合田は無事、日頃の実在的な警察という職務のこちら岸へと帰還することができるのだろうか?」
     と書いたのは、2009年の『太陽を曳く馬』のレビューでのことだ。
     そして、合田は無事、帰還してきた。この『冷血』という新たな高村文学の形を伴って。

     取り扱われるのは一家四人殺し、というどこかで聞いたような事件。しかるに、その事件に至るまでの章が長い。殺人犯となる二人の男の過程と、被害者となる四人の家族の過程とが、併行線を描いたまま、交わることなく語られる。日常というのは、この二つの線が交じるということがない現象のことを言うのだろう。淡々とした無関係な描写が、交互に語られることによって、それらの日常と、異常な事態に至る経緯とが、次第に研ぎ澄まされてゆくスリリングな感覚。

     それは、あくまでも不条理である。不条理そのものと言っていい。しかし、二人の犯罪者が鬼畜の殺人に至る経緯と、彼らと針の穴のような接点でだけ吻合される一家四人の悲劇的な運命とを、読者は歯噛みするような想いで読まされる。これを読まされることが、本作品の最大の意味合いなのかもしれない。

     となると主役は合田であって合田でなくても構わない。殺人者たちは、他のもっと殺人にふさわしい理由を持った人間たちであってもいい。被害者家族は、もっと殺されるべき理由のある人たちであってもいい。しかし、それらの不適合要素で成立してしまうのが、事件のリアリズムというものなのかもしれない。今までの虚構よりもずっと遥かにドキュメンタリー的な描写で通される本作品のすべてが、それらのあってはならない不適合を、そしてそれゆえに激しい爆発的要素を、際立たせる。

     もちろんトルーマン・カポーティの『冷血』”Cold Blood”に想を得た作品であり、オマージュでもあろう。高村があの傑作ノンフィクションに、小説家としてのこだわりをもってフィクションの側から挑んだこれは小説作りであったに違いない。小説家はときに現実に材を取り、ノンフィクションというジャンルへの挑戦を表明することがある。一方で、ノンフィクションでは描くことのできない何かを水面に浮上させるために、敢えて現実に素材を取りながらも小説という脳内作業による加工を経て、フィクションとして紡いでゆく、そんな流れで生成される作品も後を絶たない。

     高村薫は、ノンフィクションを描く手法により、この作品『冷血』というフィクションを作り出したのである。前作までの福澤家サーガに見られた文学志向をかなぐり捨て、あくまで具体の描写に徹する。人間という、解明できない謎をいくらでも含み得る存在を、抽象ではなく、不条理ではあっても、敢えて行為の表現によってのみ、描き出す。

     被害者側はシンプルに見える。加害者側は生きて追求される。それが、犯罪ノンフィクションの構造になるのかもしれない。少なくとも、まるで何かの偶然な事故のような、この手の出会い頭的な犯罪に関しては。事件も冷血そのものだが、この具象を連ねた小説作法こそが、何よりも冷血そのものである。

     神の視点によって睥睨される事件の全貌、といった究極の冷血さ。ノンフィクションの手法。高村らしからぬ具現描写による作法。それらの新機軸こそが、本作品の読みどころであり、高村ファンの新しい当惑でもある。そうしたいくつもの不穏な要素を孕みながらシンプルかつ、バイオレンスの極北が示される本書。まさに衝撃の力作と言えよう。

  • 読み始めは『マークスの山』のような路線に戻ったのかと思ったが、
    そんなことはなく、『冷血』というタイトルが似合う作品だと感じ入った。

    犯人は、所謂ありがちな道を外した若者で、「なんとなく」で生きている。
    被害者家族は、才能に溢れ、裕福で恵まれた幸せな家族である。
    ふたつの道は交わらないはずであった。
    犯人の場面でパチスロについて長々描写したかと思えば、
    被害者の場面で世界の違いを見せつける。
    この丁寧に描写される生活圏の比較に胸が痛くなる。

    後半の捜査の場面になると、合田が出てくる。
    福澤三部作を経て、諦めを抱き、それでも葛藤している姿が哀しい。
    警察内部も権力闘争なども緻密に描かれ、圧巻だった。
    下巻も楽しみである。

  • 下巻にまとめて。

  • 被害者家族と加害者の生活が丁寧に描かれています。

  • 久しぶりに女史の小説を読みましたが、高村節は健在でした。合田刑事も齢を重ねるにつれ、暴発することなく中年の渋さが滲み出てきたようです。個人的には「照柿」のころの合田刑事が好きでした。この作品に2カ所ほどふれている『パリテキサス』もライクーダーの音楽とともにとても印象的な大好きな映画でした。また観たくなってきました。そう、このように女史は私のこころをくすぐって来るのです。だから、女史の小説は時々読まないと。

  • 大変密な人間観察、この人の力全開

  • 動機のない犯罪の不気味さと死刑制度についても考えさせられた。以下に詳しい感想があります。http://takeshi3017.chu.jp/file6/neta6705.html

  • 長くて読むのに一苦労。独特の書き方で読み慣れるのに少し時間がかかった。

  • 久しぶりに読み応えのある大作。後半は、もういいとチョット食傷だけどね。

  • 文体変わった?今作は(行ったことがある、という意味で)知ってる地名がいっぱい出てきて、そういう意味でちょっとわくわく。

  • カポーティは読んで無いのでどこ迄なぞってるか分かりませんが、一家四人惨殺事件を背景にした合田警部もの。合田が出てくるまでの前半はひたすら鬱。読んでて鬱になりかけました。
    川崎の中1殺害事件の犯人像と井上の姿が二重写しになる既視感というか残像感(もちろん世田谷の方がより近いのだが)。作家の想像力ではなく、最近は少なくなったけど昔はこういう意味の無い凶悪な殺人が多かったのだろうなと。

  • 久々にお会いしても、やっぱりいつもの合田さんな感じ。
    下巻は、何が起こったのかを、ひたすら時間との戦いで追っていくことになるんかな?

  • 時期が時期だけにしんみりと読んだ。警察の捜査の描写の細かさは相変わらずだ。私、合田は好きなキャラクターではないんだが、今回は意外と嫌いじゃない。

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冷血(上)の作品紹介

『レディ・ジョーカー』(1997)『太陽を曳く馬』(2009)に続く、"合田雄一郎"シリーズ最新刊!

2002年クリスマス前夜。東京郊外で発生した「医師一家殺人事件」。衝動のままATMを破壊し、通りすがりのコンビニを襲い、目についた住宅に侵入、一家殺害という凶行におよんだ犯人たち。彼らはいったいどういう人間か?何のために一家を殺害したのか?ひとつの事件をめぐり、幾層にも重なっていく事実。都市の外れに広がる<荒野>を前に、合田刑事は立ちすくむ― 人間存在の根源を問う、高村文学の金字塔!

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