我らが少女A

著者 :
  • 毎日新聞出版
3.52
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本棚登録 : 818
感想 : 98
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620108421

作品紹介・あらすじ

合田シリーズ7年ぶりの新作。12年前の未解決事件を追う合田が関係者らの閉ざされた記憶を辿る。人間の犯罪の深淵をえぐる警察小説の金字塔!

感想・レビュー・書評

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  • 合田シリーズ最新刊。

    僕はたぶん「レディ・ジョーカー」しか読んだことないのだけど、さすが高村薫さん、と思った。とても重厚。
    続きが知りたくて早く読み進めたいのに、重力が強くてそれが許されない感じ。しかし、不快ではない。
    じっくり小説の世界と向き合うような読書となる。

    12年前、元中学美術教師が東京郊外の公園で殺害された事件。合田が担当したが未解決のまま迷宮入りしていた。
    風俗店で働く朱美が同棲相手に撲殺される事件が起きて、犯人の男が、朱美が12年前の事件現場で拾った絵の具を持っていた、と供述することから、朱美が重要参考人として浮上する…

    事件を取り巻く複雑な人間関係。交錯する12年間の様々な人生を多視点で描き出す。

    ― 人は皆、説明できないことの説明を探して生きているのかもしれないねえ…

    真弓が忍に言った言葉。
    この小説の重要なテーマを一言で表していると思った。

    小説はそれぞれの登場人物の「心」を掘り下げ、事件そのものの輪郭は浮かび上がっていくのだが、「我らが少女A」朱美の「心の闇」の正体がなんだったのか?そこだけ真空で謎として残った感じがした。「闇」がない怖さ、と言ったところか?

  • 高村薫を読むのは何年振りだろう?
    読後感は、ただただ疲れた。
    風景から人物から、あらゆるものの心象が描写されている。
    登場人物の造形は、物語との距離感によって濃淡はあるものの、これでもかというほど描かれている。
    物語が進むにつれてベールが一枚一枚剥がされて行くように一人一人の行動や心の動きが露わになっていく。
    真相は何なのか?最後に明かになるのか?どんでん返しが有るのか?伏線がどっかに潜んでいるのか?
    そんなことを考える暇も無く、もどかしい思いに駆られてページをめくる。

    何気なく手に取って読み始めたら止まらなくて、翌日の昼過ぎに読了。
    さすが高村薫。
    ちょっと放心状態。

    途中、未読の合田シリーズも読もうと思って図書館の予約に入れようとしたが
    さすがに重すぎて、しばらくは離れようと思う。
    感想にならんな。

    Amazonより
    一人の少女がいた――
    合田、痛恨の未解決事件
    12年前、クリスマスの早朝。
    東京郊外の野川公園で写生中の元中学美術教師が殺害された。
    犯人はいまだ逮捕されず、当時の捜査責任者合田の胸に、後悔と未練がくすぶり続ける。
    「俺は一体どこで、何を見落としたのか」
    そこへ、思いも寄らない新証言が――
    動き出す時間が世界の姿を変えていく人々の記憶の片々が織りなす物語の結晶

  • 味わえた一冊。

    自分にとって高村薫さんは間違いなく小説を読む喜びを与えてくれる作家さんの一人。

    とある事件が開いた12年前の未解決殺人事件の扉。

    あの日あの時、抱えていたそれぞれの感情とは…我らが少女Aと我らが登場人物でひたすら紡ぎあげられる物語。

    それはまるで誰もが遠い記憶を思わせるそれぞれかけがえのない淡い色となり、それが幾重にも重なり新たな色彩を創り出し、あの12年前の"時"を描きあげていくかのようだった。

    なくてはならない色彩、浅井忍の存在も、陰影のような合田と加納の混じり合う色彩も…思う存分味わえた。

  • 池袋である女性が同棲相手に殺された。逮捕された犯人より、女性の過去が話された、女性は過去の未解決事件の関係者ではないか。そして、その事件の再捜査が始まる。12年前、東京郊外の公園で元美術教師が殺害された。その捜査を指揮していたのが合田刑事。殺された女性が高校生だった頃の交友関係を警察は今一度あたる。ADHDの青年、地元駅駅員、主婦となっている友人達・親に波紋が広がる。
    少女の周りにいた人から情報を集め、少女の像が浮き上がる。時代を象徴する物・ゲーム、ADHDの心の移ろいが物語の世界を分厚くし、非常に楽しめました(写真が出てきてから長いな〜って思ったけど)。この時、別のこの人はこうしていたとか、少女と時代を追っていく構成がよかったかなあ。少女Aにみんな振り回されちゃって、そんなところが、じわじわきた。ドラクエとかぷよとかやっていたわたしはその時代を思い出しながら読めて。少々センチメンタルな感じになり、儚さ、悲しさを感じたりもした。燃焼系の歌も読んでから数日も頭に残りました。

  • 合田雄一郎シリーズ7年ぶりってことに驚愕。ええっ?もうそんなに経つんだ…。
    読み始めて、あれ?合田シリーズってこんな風に時系列に沿って淡々と事実を積み重ねていく感じだっけ?と。
    紙の本で一気に読めるからいいけど、これ新聞連載で読んでいたヒトはたまらんかっただろうなぁ。早く続きプリーズ!と毎日思っていたことでしょうね。
    「よくある」同棲相手殺人事件から転がり出た12年前の未解決事件の新たな1ピース。12年前には見えなかった事実、切り捨ててしまっていた証言、関係者たちの記憶の隅から掘り起こされていくそれらの断片。
    こうやって「真実」へと近づいていくのか、こりゃすごい忍耐が必要だ。その忍耐と対極にいる当時別件で逮捕された忍。ADHDの忍の内外の記憶が少しずつ「真実」を明らかにしていく、その過程にページをめくる手が止まらない。
    ADHDの忍の脳内状況、そしてそれに直結する行動がとてもわかりやすい、彼らには世界がこういう風に見えているんだろうな、と。あと、私にはまったく理解できないゲームの描写。髙村さん、相当ゲームの取材されたんだろうな。
    多磨の風景とゲームたちに関する知識があったらもっと楽しめたと思う、ちょっと残念。
    事件には必ず真実がある。誰が何のためにどうやってその事件を起こしたのか。
    その真実を明らかにすることと、事件と少しでもかかわりのある人たちの時間と記憶と思い、というものについてのひとつの完成形。

  • 過去の事件に複数の関係者が向き合い、複層に話が展開していくので、読み応えはあったし、久々に前のめりに本を読むということに取り組めた。

  • 高村薫作品、初読了。細かい人物描写と情景描写にまず圧倒された。ミステリー小説として読み進めていると、完全に裏切られた。恐怖と切なさと様々な想いに至る素晴らしい作品だった。他の合田刑事シリーズも是非読みたい。

  • なんだか不思議な読みごこち。
    ずっとカメラでこの事件を撮影でも
    していたかのような。

    雰囲気のあるミステリー。

  • ずーっとトーンが同じ。
    事件が少しずつ少しずつ動く。実際の事件解決ってこんなかんじなんだろうな。

    様々な登場人物の目線から語られ、日常のなかに事件がある感じ。時々事件にひっぱられ、また日常に引っ張られ、という不思議な感じのする作品だ。

    合田と加納の距離感が好きだ

    2020.2.16
    19

  •  数十年前の昔、池袋の文芸坐辺りでアラン・レネの映画を観ているときの感覚を想い出す。それは他人の夢を見せられているような感覚である。幾人もの夢のカタログのページをめくるような感覚。移り行く風景。心の変化。場面転換。脳内スペーストラベル。心象から心象への旅を通して、次第に明らかにされてゆく12年前の殺人事件とその真相。

     あまりに久々に手に取った高村作品は、やはり巷間に溢れる凡百のミステリーとは格段の別物であった。気高くさえ感じられる文体の凄み。観察眼の精緻。人間内部の幾層もの意識の深部へ沈潜して照射してゆく光の明るさ。彼らを囲繞する世界の仄暗さ。季節の匂い。風の触感。様々な言い尽くせぬ表現方法を総動員した小説作法は、やはり高村流と言うべき感性の豊かさによって編まれているかに見える。

     ミステリの畑から長らく遠ざかっていた高村文学が、また再び合田雄一郎とともに帰ってきた。同棲相手に殺害された少女の掌から零れ落ちた絵の具のチューブが、12年前の武蔵野に置き去りにされた未解決殺人事件の記憶に結び付く。合田は、警察大学校の教授として教鞭をとる。驚くべき立場だが、また翌春には捜査畑に帰ってゆくという立場で、過去の事件を現在の捜査責任者へ積極的に協力をしてゆく。

     しかしこの小説の主人公は合田ではない。彼ですら登場人物の一人でしかない。ここでは誰もが主人公である。巷間に埋もれる小市民たちでありながら12年前の事件に関わったことで、現在の状況にいくばくかの影響を感じつつ、始まった再捜査の状況にそれぞれに再び関わってゆく人間たちの数だけ生まれ、終息する悲喜劇でもある。

     フーダニット・ミステリでありながら大がかりな犯罪を扱っているわけではないが、多くの人の生活や時間が見事に事件に絡んでゆく様子が素晴らしい。ADHDの少年の意識の入れ替わりや、浮き沈みする記憶、彼の運動力が物語を掻き回す状況のメリハリも本書を一つの個性な作品として際立たせる。

     なおこの作品は2017年夏から一年間、日々連載された新聞小説である。連載時、日替わりで交代したという挿画家たちへの作家からの謝辞があとがきで表されている。単行本化された小説のページを、いくつもの異なる挿画が彩るという計らいも嬉しい。東京都下の事件を描きながら世界レベルの芸術性と、挿画も含めた美しい風景たちを混在させる素敵な本である。読後にぎゅっと心で抱きしめたくなるような物語でもある。

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著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

髙村薫の作品

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