グループ・ダイナミックス --集団と群集の心理学

著者 :
  • 有斐閣
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本棚登録 : 155
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784641173781

作品紹介・あらすじ

人は、他者やグループとのつながりの中で生活を営む「社会的動物」である。人が多数集まった際にどのような行動や現象が生じるのかを、具体的な研究例や実際に起こった事件の分析なども取り入れつつ解説した入門書。特に集合行動に力点をおいた。

感想・レビュー・書評

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  • 個人と集団の関係性に興味があり読んでみた。社会学の概念や考え方が参考になった。集団的浅慮や没個性化の問題は日本の組織でもよくみられるし(同調圧力で意思決定がなされる、責任が特定の人物に集中しない仕組みになっている)、匿名性による攻撃的な態度はSNSの誹謗中傷でもみられるなぁなどと、自分の周りで起きていることとあわせて理解を深めるのがおもしろかった。

  •  集団とは何かという話から始まって、集団の意思決定やリーダーシップに関する話、集団や群衆がどう行動するのか、テロやパニックが起こるメカニズムを解説した本。「社会的手抜き」について書いてある『人はなぜ集団になると怠けるのか』の本を読んで面白かったので、同じ著者の別の本、ということでこの本を読んでみた。
     後半の危機的状況の際の集団行動、というのはとても興味深いけれども、おれは教員なので、やっぱり教員という立場では前半の話がとても参考になる。以下、面白いと思った部分のメモ。まず「戦争中は明らかに自殺率が低下している」(p.12)という事象があって、「戦争は国民の大多数を国家と同一視させ、国民としてのアイデンティティを顕在化させるものと思われる。そのために多くの人々のアイデンティティが強固に、かつ安定したものになり、それが自殺率の低下につながったものと思われる。その意味で戦争は一時的に人々を幸福にする。」(p.13)という点が、色んな歴史を見ても真実なのだろうと思った。ユダヤ人の迫害もそうだけど、「強固になるアイデンティティ」は人を幸福にさせるという点は、悪用されればとても危険な、人の性質なんだと思う。次に、「ネットワークの中心にいる人は多くの情報に素早くアクセスできるし、また情報の統制も可能である。そのために地位が高まり、リーダーとして他成員から認知される傾向が強くなる。(略)逆に、中心から遠くに位置する人は他のメンバーとの絆も少ないために、他者が集団を去るとそれにつられて集団から離れる傾向がある。」(p.26)は、おれの経験からもものすごい納得。あるよなこういうこと、いるよなこういう人、という感じ。次は直接学級運営にも関わる話だけど、何かを決める時にすぐ多数決をして決めるという、「集団的浅慮」の問題。「集団的浅慮を防ぐ方法」として、色んな方法が挙げられているが、「ただこのような方法を使用した場合、メンバーの意見が一致せず、いつまでも最終結論に至らないといった負の側面も考えられる。(略)集団的浅慮を防ぎながら、しかも効率的に集団問題解決を行うことは容易なことではない」(p.77)となっているから、これは永遠の課題なのかもしれない。次にリーダーシップというのは、特に中学なら担任の生徒への関わり方という点で考えておかないといけない部分だが、「アメリカ陸軍マニュアル」というのがあって、「事態が緊急を要しているときや部下が課題に不慣れなとき、あるいは動機づけが低いときは指示命令的リーダーシップがよく、長期的効果を狙う場合は配慮的リーダーシップが望ましい」(p.89)ということらしいから、つまり集団の状態に応じて担任のあり方や目標とすべき事項というのは変わっていくべきものだということが分かる。それから、同じ日米の軍人マニュアルに書いてある、「適切な時期に行われる『良い決定』は、時宜を逸した『最良の決定』よりも優れている」(p.92)というのは、どこかで聞いたことあるよなあ。学校現場では、これを教訓にすべき事態というのが、ままある気がする。あとその続きに「課題を自家薬籠中のものにする」(p.94)というのがあるが、この「自家薬籠中」って言葉、どっかの大学の英文和訳の模範解答?か模試の解答だっけ?に「自家薬籠中」っていうのがあって、おれがこの言葉を知らなかったのでこの訳を見て驚愕したのを覚えているが、で、どういう意味だったっけ?という感じ。中身は、「過剰な監視や指示は怒りや敵意を生み出すが、逆にそれが足りなければ欲求不満を引き起こす」(p.94)というのは納得。てか最近の中学生ってかまってちゃんだから、監視がないとすぐ欲求不満を起こしてめんどくさいんだけど、って感じ。
     後半の出だし部分、「人間の最も本質的と思われる部分、すなわち愛や勇気、臆病や利己心等が顕在化する状況」(p.99)、という意味で「疾風に勁草(けいそう)を知る」という言葉があるらしい。おれも焦った時にとんでもなく余裕がなくなってイライラするので、でももはやこれはどうしようもないよなあ、と思ったり。あとは暴動に影響する物理的環境の研究、というのもあって、「暴力犯罪発生率は気温と比例する」(p.106)ということらしくて、20~24℃が最も攻撃的犯罪が発生する割合が小さい。教室の温度も25℃を超えないようにしよう。ちなみに19℃を下回ってもダメらしい。ウエーブの研究、なんて本当なんでもあるんだな、と思うが、「ウエーブは正式にはメキシカン・ウエーブとよばれ、1986年に開催されたワールドカップで最初に現れたと言われている。(略)群衆はまとまった行動をすることにより、その場の雰囲気をより楽しいものにしようと企図する」(p.110)ということで、みんなでまとまった行動をするのは楽しいらしい。あとは「祝祭群衆」による「群衆雪崩」の研究、というのがあって、明石の歩道橋将棋倒し事故、というのがあったが、「群衆詰め込み実験」(p.112)というのがあるらしく、これは実験だけれど恐ろしい。あと恐ろしいのは、「飛び降り自殺企図者をはやす野次馬群衆」(p.145)というのがあって、「野次馬群衆は非常に攻撃的であり、時には大声でわいせつな言葉を叫んだり、救助隊員に石やものを投げたりした。」というのも恐ろしい。災害分析の視点で、非理性的な行動を分析する際に、「行為者や観察者のいずれか一方からの視点だけで、危機事態の行動の意味づけをすることは問題がある」(p.160)という、「行為者―観察者効果」、「自己防衛的バイアス」は、誰しもありそうで、よく覚えておこうと思った。「危機事態への対処方法」(p.168-)という部分は、自分もそういう状況になるかもしれないと思うと、これを知っておくのは生きる上で役立つかもしれない。これまでに知らなかった部分で納得したのは、危機事態では「もち物に執着する傾向が強くなる」(p.168)という話。確かに。物を取りに戻って…、とか物を持ちすぎて…、とかありそうな話だよなと思った。それから「誤報効果」(p.173-)は深刻な問題。うちの職場で「火事です」が発報しても、もはや誰も動かない。これを軽減する方法も紹介されているが、本当に効果があるのか…。「ルーチンスの水瓶問題」(p.178)というのは面白そうだから、生徒にやらせてみたい。つまり、「いったん解決の枠組み(シェマ)ができて、過去それでなんとかやっていけていけるということを経験(成功体験)すれば、それにこだわり、硬直化して新しい事態に柔軟に対応できなくなることも考えられる。例えば訓練で想定していた事態と現実が少しでも異なると、立ち往生ということになりかねない。」(pp.177-8)というのは、すごく納得できる(けど、これも防ぐのが難しい問題だよなあと思う)。群衆の誘導の仕方に関する実験、というのもあるらしく、これによると誘導者が大声で叫んで指示を出すより、周囲の少数の避難者を引き連れて誘導する「吸着誘導法」の方が効果が高い、という、これはもっと知られてもいいのではないかと思った。「誘導者が人を引きつけて小集団の核となり、この集団がさらにまわりの人を引きつけるという小集団の波及効果によって、多数の人々が迅速に誘導されたと考えられる。」(p.192)ということだ。
     というように、学校現場に限らず、生活や社会のあらゆる場所で発生する「集団と群衆」について、その動きの特徴や心理のメカニズムを知っておくというのは割と重要なことで、これはもう中高教育の教育課程に入れてもいいんじゃないのかと思うくらいだった。こういう知識を身につけて、冷静に動けるのがいいんだけど、やっぱり勁草じゃないおれには難しいのかも、と思う。(22/05)

  • ところどころ専門用語は出てくるが比較的読みやすい。集団の心理、パフォーマンス、リーダーシップについて勉強になった
    全体的に内容が広く浅く書かれており、気になったところについてはどうしても痒いところに手が届かない印象。

  • 【文章】
    読み易い
    【ハマり】
     ★★★・・
    【共感度】
     ★★★・・
    【気付き】
     ★★★・・

    ハインゾーンによると、若年層の人口比が高くなると、紛争やテロリズムが起こりやすくなる

  • 2019年6月読了。
    久しぶりに読んだ有斐閣の本(笑)。
    右開き、横書き、四六版。
    大変参考になったのは第I部の「集団」。
    集団の定義、どんな作用をするか、集団は意思をどうやって決めるか、集団の中のリーダーシップのあり方。
    学術書(と言っても300ページを切る、比較的に読みやすい内容)なので、ビジネス書のようにヘンに集団行動やリーダーシップを煽るようなものではなく、冷静に考えながら読むことができる。

  • 放送大学の社会心理学で、参考書に指定されていたもの。グループダイナミクスの概論書。事例が豊富で読みやすい。特異な分野のようにも思えるが、やはり心理学なんだなとも思う。

  • 社会心理学の実験の様子を写真を通して知ることができる。
    社会的手抜きの卒論で学生が参考にしていた。

  • 2部に分かれており、1部の「集団」では、集団とは何か、パフォーマンス、意思決定、リーダーシップについて説明。2部では、集合・群衆行動、集合行動の理論・実証的研究、危機事態の行動・実証的研究、スケープゴート現象、テロリズムについて説明している。

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著者プロフィール

大阪大学大学院人間科学研究科教授

「2011年 『グループ・ダイナミックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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