牛を屠る (シリーズ向う岸からの世界史)

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  • 解放出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (140ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759267242

感想・レビュー・書評

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  • 仕事が今イチ自分に合ってないなぁと思いながら仕方なく続けているが心のどこかで他にもっと自分に合う(自分がやりたい)仕事があるはず!と思いながら年月は過ぎてなお未だに最初の仕事を続けている私に。

  • 屠刹場で働いている人の話
    潔いくらいにそれ以下でもそれ以上でもなく牛を屠る話に尽きる
    迫力があって熱気が伝わってくる

    作者の屠刹の仕事をする経緯については偶然であるが
    屠刹という仕事のバックにある黒いものについては
    あえてはっきりとは語っていない

    あえて語っていないところにいろいろな含蓄を感じるし
    簡単に語れないアンタッチャブルな部分であることを推察する

    ただ、やはり食肉関係の仕事に従事するということは
    社会的には色眼鏡で見られることが多く
    実際結婚などに支障がでているらしい

  • 「生き物の命を頂いていることに感謝しましょう」という路線には行かず、業務の内容や情景を淡々と綴っている。価値観の押し付けがないのでむしろいろいろ考えさせられる。
    働くこと、働き続けることの難しさや、職人の矜持を感じた。

  • 内澤旬子の「世界屠畜紀行」は食肉と言うものを真っ向から捉えた名著でした。外から積極的に理解しようとする姿勢は素晴らしかった。
    この佐川氏の本は、実際に9年勤め上げたリアルな手ごたえのルポです。無数の家畜達を屠ってきたその実感なので、これ以上のものはなかなか出てこないのではないか?屠畜、皮革などの所謂穢れ思想から抜け出すことが出来ないものを真正面から捉えるには、その場に当事者として居るしか方法が無いのではと感じました。
    これは頑なに目を逸らさないで凝視するとか、ガチガチになるのではなく、必要不可欠な仕事として皆が自然に受け止めて行ける社会になるべきと感じました。

  • ドキュメンタリーとして面白い。仕事というものへの眼差しというか姿勢というかそんなものへの愛情が感じられる

  • 魚は〆て捌く映像がメディアや書籍などで公開され、当たり前の行為として扱われている。
    一方で、現代社会においては魚以上に消費量が増えている「肉」に関しては、上記の過程は一切表に出ることはない。水中で生きる哺乳類についても同様である。
    命を奪う行為であることは同じであるにも拘らず、どこかで線が引かれる。表に出ないことで、線の引かれ方はその世界の中と外との関係のようにも機能し始める。屠る世界の内側にいる人々と外側にいる人々との間に線が引かれることになる。
    この境界部分に向き合い、共通認識として線を引く試みを行っていないことが、海外との捕鯨や海豚漁でのやり取りにおいて、自らの文化として語れない日本の現状にも繋がっているのだろう。

  • ワナ猟のペーパー免許を持つ夫(あまり本は読まない)が、面白かったというので読んでみた。一つだけ読んだことのある著者の小説はあまり好みではなかったので、さほど期待してなかったが、これは確かに読みごたえがあった。心身ともにがっぷりと仕事に取り組んだ人にしか書けない重みがある。

    屠殺(著者はあえて負の歴史を背負うこの言葉を使っている)という仕事の現場を、そこで働く人の立場から書いたものって、他にもあるんだろうか。内澤旬子さんの「世界屠畜紀行」の中で東京芝浦屠場が詳しく紹介されていて、たいそう興味深く読んだのだが、これも鎌田慧氏の「ドキュメント屠場」も、外部の人によるルポだ。根強い偏見がある中、熟練を要する仕事に職人として携わる心性が、日常の描写から浮かび上がってきて、強い説得力があった。

    内澤さんが同じことを書いていたが、佐川さんも部落差別について実感としてほとんど知らず、屠殺についてそうしたことと関連づけて考えたことがなかったそうだ。この点は、関西在住者の感覚とは大きく違う。忌避感はしぶとく潜在していて、何かの拍子に表に出てくる。本書も「世界屠畜紀行」も、屠畜といえば避けて通れないこの問題を、あえて主眼に置かずに書かれたものだが、それがかえって問題の本質を考えさせることになっていて、良書だと思う。

  • 著者の飾らない冷静な語り口が良かった。他の著書も読んでみたいし、この本で紹介されていた屠殺に関する著書(「世界屠畜紀行」「ドキュメント屠殺」)も読んでみたい。

  • 読みたかった一冊…ないなぁ〜と思ってたら出版社故にきな臭い書架の片隅にありました。
    仕事としての屠殺のテクニカルな部分にフォーカスした裏キッザニア的な内容をそれを職業として体験していた小説家が書くのだがら臨場感は半端ない。メンタル面もさらりと付け加えられ読み物としては表現が不謹慎ながらも面白かった。
    興味のひとつである職選びの動機もシンプル、もっとも職安ですがる思いで求人票や捲った経験者にはわかりやすかったと注釈をつけておくが。
    肉が最初からパック詰めで存在しないこと、そしてそれを取り巻く偏見や誤解…視野が広がることは良いことだよ

  • みんな肉を食べる。
    その肉はどうやって自分たちのもとにやってきたか考えたことはあるだろうか?

    この著者は、屠場と呼ばれる場所で働いていた。
    昔から、肉を解体する作業は人々に忌み嫌われていた。
    いつから、その仕事は部落の人が行う仕事というイメージがつくようになった。
    著者は部落の人間ではない。
    たまたま就いた仕事がこの仕事だったのだ。
    屠場の様子がなまなましく書かれていて、特にナイフで手を怪我するところは読んでいて、こちらの手が切られているかのような気分になってしまうが、屠場の仕事の辛さ、やりがいなどがいっぱい伝わってきた。

    今、食育というものが流行っているが、自分たちが食べる肉がこういう人々の手を通じて、自分たちのもとにやってくることも学んでほしいと思う。

著者プロフィール

1965年、東京生まれ・茅ヶ崎育ち。北海道大学法学部出身。在学中は恵迪寮で生活し、現在は埼玉県志木市で暮らす。2000年「生活の設計」で第32回新潮新人賞。2002年『縮んだ愛』で第24回野間文芸新人賞受賞。2011年『おれのおばさん』で第26回坪田譲治文学賞受賞。

「2021年 『満天の花』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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