暴力の人類史 下

  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (700ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791768479

感想・レビュー・書評

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  • 詳細目次は、『上巻』への感想文に置いてある。

    【抜き書き】孫引きです。
    pp.484ー487
    ―――――――――――――――
     理性の欠如が蔓延しているだけでも嘆かわしいことなのに、それでもまだ足りないのか、多くの評論家はもてる限りの理性の力をふるって、理性が過大評価されていると言いつづけてきた。〔…中略…〕左寄りの「批判理論家」とポストモダニストも、右寄りの宗教擁護者も、ある一点にかけては合意する。すなわち二つの世界大戦とホロコーストは、啓蒙主義時代以来、西洋がひたすら科学と理性を育ててきたすえの有毒な果実だったのだと。
    〔…中略…〕
     ホロコーストが啓蒙主義の所産だという考えも、ばかばかしくて怒る気にもならない。第6章で見たように、20世紀の大きな変化といえば、それはジェノサイドが発生したことではなく、ジェノサイドが悪いことと見なされるようになったことだ。ホロコーストを象徴する技術的、機械的な殺害手段にしても、それは派手に大量の人間を殺したというだけであって、大量虐殺を行うのに必須のものではない。それはルワンダでの虐殺が血まみれの鉈で行われたことからも明らかだ。ナチのイデオロギーは、同時代の国粋主義、ロマン主義的軍国主義、共産主義の運動と同様に、19世紀の反啓蒙主義の所産だったのであって、エラスムス、ベーコン、ホッブス、スピノザ、ロック、ヒューム、カント、ベンサム、ジェファーソン、マディソン、ミルに連なる思想系列の一端だったのではない。科学の皮をかぶってはいたが、実際のナチズムは笑ってしまうほどの疑似科学で、本物の科学にあっさりそれを見破られている。哲学者のヤキ・メンシェンフロイントは、啓蒙主義の合理性のせいでホロコーストが起こったという説に関して、最近の著作のなかで卓見を述べている。

     『ナチのイデオロギーは大部分において不合理だっただけでなく、反合理的でもあったのだと考えなければ、あのように破壊的な政策は理解しようがない。ナチのイデオロギーは、多神教に優しく、ゲルマン国家のキリスト教以前の時代を懐かしみ、自然に帰るとか「オーガニック」な存在に帰るといったロマン主義的な考えを採用し、世界の終わりを想像する黙示録的な思想を育て、そこで人種間の永遠の闘争がついに解決されると期待させた。〔…中略…〕理性主義と、それが関わっている嫌らしい啓蒙主義への軽蔑が、ナチの思想の中核にあるものだった。だからナチ運動の論客は、自然かつ直接的に世界を経験することであるヴェルトアンシャウング(「世界観」)と、概念化や計算や理論化によって実在(リアリティ)を解体してしまう「破壊的」な理知的活動であるヴェルト・アン・デンケン(「世界について考えること」)との矛盾を強調したのだ。「堕落した」リベラルなブルジョワによる理性崇拝に対抗して、ナチは、妥協やジレンマによって妨げられたり曇らされたりしていない、活力に満ちた自発的な生を標榜したのである。』
    ――――――――――――――――

  • 大著である。何とか読み終わった。そして、読んで良かった。歴史を俯瞰するとはまさにこの事を言う。著者の類まれなる探究、深掘り、定量化、博識、洞察力、妥協しない精神、クリティカルシンキング力そしてユーモアが全編に渡って繰り広げられており、壮大なる山登りをした気分。
    要は、人間は進歩しており、まだまだ問題は山積ではあるものの、退化することはあり得ないと言うこと。基調にあるのはホモサピエンスに対する肯定感と期待。
    この著者に大いに関心を持った。

  • 暴力を減らしたもの、それは読書、共感、理性!

  • 上巻に同じ

  • タイトルを見ると、人類が地球上に現れてから現代に至るまでの戦争や紛争の歴史が累々と記載されているかのような印象を受ける。だが、内容は真逆である。
    まずは歴史面から。狩猟・採集時代から農耕時代、そして中央集権的な国家の出現、さらに17世紀~18世紀にかけてのヨーロッパ啓蒙主義の時代、そして第二次世界大戦以降から現代に至るまで、一貫して暴力が減少していることを様々なデータを提示して論証する。
    次に、人間の心理面から。話題は人間の攻撃性に目が向けられ、攻撃はいくつかの心理学的システムにより発動されることを明らかにする一方、人間は協調や利他的行動を取ることが本来的に備わっていることも明らかにする。
    最後に、これら2つの論証の結果から、人類が暴力を減少させてきた要因について論及する。
    そこから見えてくることは、我々は人類史の中でも稀有の暴力の少ない時代を享受しているということだ。確かに、日々のニュースでは紛争や暴力の話題が絶えない。データで示される直近の急激な暴力の減少幅も、長い人類の歴史のスパンから見れば外れ値と言えなくもないかもしれない。それでも、人類はこれからもより暴力の少ない社会に向かっていくこと(向かっていくための努力をしなくてはならないが)について確かな説得力を持って我々に語りかけてくれる。我々の子や孫の世代にも、希望を持てる、そのようなことを感じることのできる名著。

  • 下巻では、上巻で述べられた歴史的背景を引き続き考察し、実際どのような要因が影響して暴力が減少してきたのか探っていく。
    後書きより抜粋すると、暴力の減少は6つの動向(平和化のプロセス、文明化のプロセス、人道主義革命、長い平和、新しい平和、権利革命)があり、5つの内なる悪魔(捕食、支配優位性、報復復讐、サディズム、イデオロギー)のいずれかが、4つの善なる天使(共感、セルフコントロール、道徳、理性)のいずれかに負けた結果だと言う。
    膨大すぎて自分でまとめるのは困難…。とにかく読み切れた自分に拍手。

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著者プロフィール

スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)
ハーバード大学心理学教授。スタンフォード大学とマサチューセッツ工科大学でも教鞭をとっている。認知科学者、実験心理学者として視覚認知、心理言語学、人間関係について研究している。進化心理学の第一人者。主著に『言語を生みだす本能』、『心の仕組み』、『人間の本性を考える』、『思考する言語』(以上NHKブックス)、『暴力の人類史』(青土社)、『人はどこまで合理的か』(草思社)などがある。その研究と教育の業績、ならびに著書により、数々の受賞歴がある。米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」、フォーリンポリシー誌の「知識人トップ100人」、ヒューマニスト・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた。米国科学アカデミー会員。

「2023年 『文庫 21世紀の啓蒙 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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