- Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
- / ISBN・EAN: 9784797321074
作品紹介・あらすじ
ローカルな相互作用から生まれるグローバルな秩序。脳のない粘菌が集団では迷路を解き、迷子のアリが豊かなエサ場を見つける。
感想・レビュー・書評
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この序文に痺れました。
(抜き書き)
何よりも、われわれは自分たちの接続された精神の、絶対的な予測不可能性とまったくのありえなさを保存すべきだ。そうすれば、これまでと同じように、あらゆる選択肢をオープンにしておける。
自分たちが何をやっているか観察するもっといい方法があれば素敵だろう。そうすれば変化が起こると同時にそれを認識できる。(中略)コンピュータはその手助けになるかもしれないが、わたしは疑わしいと思っている。都市のシュミレーションモデルは作れるけれど、わかるのは都市が知性的な分析の到達圏外にあるらしいということだけだ。(中略)これは面白いことだ。というのも、都市は人類の一番集中した集積であり、そのすべての人々が、最大限の影響力をそこに及ぼしているからだ。都市は独自の生命をもっているかのようだ。もしその仕組みが理解できないのなら、人間社会一般についても、多分大した理解には到達できないだろう。
それでも、どこかに入り口があるはずだ、と思うだろう。世界中の人間精神の巨大なかたまりは、一緒にまとまって、均質な生命体のようにふるまうようだ。問題は、情報の流れがもっぱら一方向だということだ。われわれはみんな、出来るだけ早く情報を飲み込むニーズに取り憑かれているのに、あまり多くの情報を戻す感覚機構を持ち合わせていない。告白すると、わたしは人間の精神の中で何がおきているかについて、アリの精神に関する理解以上のものはもっていないのだ。が、考えてみれば、手始めにアリを調べるのは良い出発点かもしれない。――ルイス・トマス、1973年詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2008-05-31
「創発」という言葉はもはや創発システムシンポジウムなど,私がよく行く学会でも,しばしば口に出すのが躊躇われる言葉である.
某学会の創発を関したセッションなど,殆どの発表で「創発」という言葉は使われない.
言葉が含むニュアンスが「凄すぎる」のだ.
一研究者はほとんどそんなレベルの研究成果には到達できない.
創発は創造や,創成,創出,発生などとは違う.
初学者はこのような点で,「何かが出来てくることが創発」と安直に考えがちだが,それは誤解だ.
創造+発生=>創発 ではない.
創発に近い概念に自己組織化があるが,その差を説明できるかどうかは多くの人にとって微妙かもしれない.
なんにせよ,サイエンスワードどしては苦しいことに創発の概念は定まりきっていないのだ.
しかし,ある程度共有された文献もあれば,多くの論述もある.
そのなかで,システム理論の研究者は結局のところその「凄さ」の構造を理解しきれていない,捉え切れていないのだ.
その点については私も反省しきりなのだが~
そのような背景にあって,この本の良さは,
おそれることなく「創発」という言葉を多用し例を挙げ,
さらにお話的な説明を繰り広げる点であろう.
アマゾンでの評価は決して高くないのだが,僕的には悪くなかったなあと思う.
厳密さを求めすぎて書かれた本だったら,ここまで「創発」という言葉についてかけなかったんじゃないかな? -
自己組織化についての本。
変動する外部要因に対して恒常的にシステムの全体性を保つ仕組み、また特定の要素に統率されずに全体が組織としての一定の動向を示すメカニズムについて。 -
概念としては研究者に定着してきていると思うが、言葉としての認知はまだまだ。アリのコロニーや都市ができていく様子を自己組織化の見地からアプローチ。「創発」の面白さを紐解いてくれる書。
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ネットはどんどん自己組織化する
なんとなく寒い日が続く。仕事環境がどんどんデジタル化し、モバイル化しているので、どこでも仕事ができるという楽さといつでも仕事をしているという消耗感の中でバランスしている。でも最近感じるのは、やはり、人間と人間がフィジカルにコンタクトするというのが、一番、エネルギーを食うということだ。ロジカルとは言い切れない、局所戦。いつでも仕事ができるんだから、当然、土日もないよねとなるのだが、そこはやはり人間の社会のリズムで、土日に激しくフィジカルコンタクトを求める人は少なく、デジタルには活動していても、どこかそこは穏やかな安息日の感じがする。
この週末は、けっこう、戦争疲れを引きずったせいか、ぼくのまわりは比較的静かだった。あんまりファイルを大量に添付したメールを打ち込んでくる連中もいないので、オフィスにも行かず、パソコンを背負って、街に出た。
きわめてアナログな神保町で、もっとも簡単に、好みの本に出合える東京堂で、橋爪大三郎の最近の社会学論集、山形浩生が新しく訳したスティーブン・ジョンソンの創発(蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク)やら、日本のプロ野球は崩壊するって本やら、大量に仕入れて、デイパックに入れて、小川町のスタバへと行った。
カフェラテとサンドイッチを食いながら、靖国通りを行きかう一を見ながら、買ったばかりの本に読みふけった。
昨日は、曇っていて寒かったが、明るい曇天の日で、妙に心が落ち着いた。
ジョンソンの本は、性格はともかく、その書物選球眼については一目を置く、山形氏の翻訳であり、デジタルコンピュータの父の一人と目されるアラン・チューリングの形態生成から、ジェイン・ジェーコブスの都市論から、アリの生態、シムシティやゼルダなどの自己組織型プログラムの作り出す、生態系のようなコンピュータゲームなどに通底する自己組織化ネットワークの発展をめちゃくちゃ読みやすく書ききっている。
山形氏の口語的訳も、クルーグマンよりは、ブルース・シュナイヤーやジョンソンなどソフトウェア世界の分野でフィットする気がした。
どんな学問も本質的につきつめていくと、どこかで紋切り型になっていく。その紋切り型をつねに破壊するフィードバックループが必要になる。
末端の局所戦闘が、中央司令塔なしに、マクロの解につながっていくという自己組織化の論理は、たしかに、社会の常識をなぞっただけのような学問をこなごなにしてしまう小気味よさがある。
2004-05-24 / ASH -
ある組織の全体の動きを統括しているのはペースメーカー的存在ではないことが多い。
それを構成する要素自身が単純な規則に従って動くことで全体として自然と秩序が生まれることがありそれを創発という。よりくわしくいうと、自己組織化には以下の3類型がある。
1、変数が2から3個の単純なシステム。惑星の公転や電流。
2、何百万という変数からなる無秩序的複雑性。気体中の分子のふるまい、遺伝子プールの中の遺伝形質パターン。
3、変数相互が関連した組織的複雑性。創発。
3では局所的な相互作用がグローバルな秩序につながる。著書ではそれらの具体例を見ている。蟻、脳のニューロン、都市内部での人間、ソフトウェア。
Cf 訳者、山形浩生の感想 http://cruel.org/books/books.html -
複雑系について具体例をもって説明している。簡単ではないが、複雑系の本のなかでは読みやすい。本書の内容で実生活への応用ができそうなものをいくらか発見することができた。
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ミクロなおバカの総和が質的に異なる、高度で複雑な秩序やシステムを生じさせる「創発」という現象を粘菌・都市・脳・ソフトウェアの例を持ってぶちまけた本。未だ先の領域を模索し続ける「自己組織化」「複雑性」の話の一つなのでどの例示も非常に興味深く面白い。
ただし、問題もある。冒頭に書いた「創発」って現象の説明は良く分からないと思う。要するに「オーケストラが産み出すアンサンブルの素晴らしさ」だと言えば一発で分かる。一つ一つの独立したパートが組み合わさるとすげーという奴。が、この表現からも分かるように民主的っぽい響きがあったり、絵画や音楽などの芸術分野の方に親和性がありそうなところから、作者はユートピアを導き出す解決策として捉えている節がある。一言で言えば「ニューエイジ臭い」
訳者自身による批判
http://cruel.org/cyzo/cyzo200405.html
僕もこの批判には全く同意する。ちなみに訳者は注でもバンバン突っ込みを入れている。そんなにこの本の主張に同意しないならじゃあ訳者がなぜこれを訳したのか。多分他の中途半端な理想主義者やニューエイジに悪用されるのを恐れたんだと思う。この領域は科学的なフロンティアであることは間違いないし、ここから導き出される知見はでかいポテンシャルを秘めている。が、それを誤った目的に使われたくないと。
もちろんここでも推薦されているようにAI・ネットワーク関連に従事もしくは興味がある人も必見
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001285.html -
6点
山形浩生氏がページが進むにつれて文句タラタラ。都市の自己組織化の話は非常に面白かったです。 -
これは興奮した。買おう。創発、自己組織化、遺伝アルゴリズム、複雑系など知らなきゃいけないことを認識した。
→ 雑記帳7館18頁