本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797681277

作品紹介・あらすじ

これからの世界はどうなる?地球温暖化、パンデミック、国際紛争、格差拡大……。世界を次々と覆う難題を、従来の資本主義は解決できるのか。人類の未来を救うのは、資本主義の大変革か、新たなコミュニズムか。世界の知性の頂点に立つジャレド・ダイアモンドをはじめ、ブランコ・ミラノヴィッチ、ミノーシュ・シャフィク、ジェイソン・W・ムーアなど、いま、世界で最も注目されている学者8人に、資本主義の行方、世界の在り方、日本の進路について訊いた。◆ 「いま人類が直面する、最大の危機」 ジャレド・ダイアモンド危機への対応はフィンランドに見習うべき/アメリカ国内の二極化で、民主主義は崩壊するかもしれない/理想の例は、日本の明治維新◆ 「二つの資本主義が世界を覆う」 ブランコ・ミラノヴィッチ不平等を永続化させないために/「釣り合った結婚」が、不平等を拡大している?/アメリカと中国が向かう先◆ 「世界中の人をドーナツの中に入れる」 ケイト・レイワース自然科学が経済学に投げかけた課題/エネルギーを経済的思考の中心に据える/ティッピングポイントから離れる◆ 「倫理と経済、どちらが先か?」 トーマス・セドラチェクパンデミックによって、地球は新しい文明の段階に進んだ/ジョン・レノンの理想と、経済学者のアイデア/豊かな日本人が、なぜこんなに働くのか?◆ 「資本主義を再構築する」 レベッカ・ヘンダーソン「金融の回路を見直す」とは?/パンデミックが残した傷跡、パンデミックから得た教訓◆ 「社会契約をつくり直す」 ミノーシュ・シャフィク日本が悲惨な未来を迎えないためにやるべきこと/公平な社会をつくるのに、有効な税金とは?/社会を刷新するタイミングが訪れる/未来の世代の声を訊くシステム◆ 「資本主義は『脱物質化』する」 アンドリュー・マカフィー「脱物質化」とは?/テクノロジーの進歩は、加速していく/人類が豊かになるための、四つの要素◆ 「生命の網のなかの資本主義」 ジェイソン・W・ムーアなぜ今、マルクスに回帰するのか?/資本主義と農業の密接な関係/問題は「安価なゴミの終わり」大野和基(インタビュー・編)1955年、兵庫県生まれ。東京外国語大学英米学科卒。1979年~97年渡米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学ぶ。その後、現地でジャーナリストとして活動を開始。国際情勢から医療問題、経済まで幅広い分野の取材・執筆を行う。著者に『英語の品格』(ロシェル・カップ氏との共著)『私の半分はどこから来たのか』、編著書に『知の最先端』『未来を読む』『コロナ後の世界』など多数。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 未来の資本主義についての識者の見解を集めた書籍。資本主義の問題点、特に格差にについてはいろいろと指摘をされているが、これだけの人たちを集めてもその解決に決定打がないということは、現況を受け入れるしかないのか。

  • <目次>
    はじめに
    第1章ジャレド・ダイアモンドいま人類が直面する危機
    第2章ブランコ・ミラノビッチ2つの資本主義が世界を覆う
    第3章ケイト・レオワース世界中の人をドーナツの中に入れる
    第4章トーマス・セドラチェック倫理と経済、どちらが先か
    第5章レバッカ・ヘンダーソン資本主義を再構築する
    第6章ミノーシュ・シャフィク社会契約をつくり出す
    第7章アンドリュー・マカフィー資本主義は脱炭素化する
    第8章ジェイソン・ムーア生命の網のなかの資本主義
    あとがき

    機関紙”kotoba”(集英社)の2021冬~2022秋まで8回
    のインタビュー記事の完全版。大野氏のインタビュー。

    ①p17正しい選挙が行われないならば、民主主義の
    終わり。アメリカは民主主義はなくなり独裁国家になる
    可能性がある。
    ①p33もっとも警戒すべきは、新興感染症である。
    ②p442つの資本主義とは、政治的(国家)資本主義
    と、リベラル資本主義である
    ⑤p119パンンデミックによって各国とも格差が具体化した

  • 全体的には資本主義批判の内容。「新型コロナは抜き打ちテストで、気候変動は最終試験である」というフレーズが印象的。

  • 未来を語る人 (インターナショナル新書)

    第1章 いま人類が直面する、最大の危機
    シャレド・ダイアモンド

    プーチンはナポレオンと同様の身長コンプレックスをもっています。最初は理性をもって話しますが、こちらが気に入らないことを言うと、顔を真っ赤にして慣慨する。 フーチンは 紛れもない独裁者で、 歴史の流れを変えることは間違いありません。

    国、つまり政府が大きな権限をもつ日本と異なり、我々の連邦政府のもつパワーは限られています。50の州は連邦政府に対して、日常的に訴訟を起こしています。そうした訴訟が、連邦政府が行動を起こすのを遅らせたり、妨げたりしています。

    アメリカ市民の間でベトナム戦争への反対運動が激しくなっていた1970年、 オハイオ州でアメリカ州兵が学生に発砲、殺傷するという事件が起きました(ケント州立大学銃撃事件) 。射殺された学生たちの写真は全米に報じられ、それがやがてアメリカ政府がベトナム戦争継続を断念することに繫がりました。

    アメリカは、裕福な民主主義国家の中で科学に対する懐疑主義が最も皿い楓でもあります。このパラドックスはどのように説明できるでしょうか。
    1つ目は、歴史的な経緯です。。アメリカが科学分野で世界のトップになったのは、第二次世界大戦中、そして戦後になってからと比較的新しいことなのです。
    2つ目は、アメリカの宗教です。科学に反対する懐疑の声は、特定の宗教、つまり福音派キリスト教原理主義プロテスタントの人から上がっています。彼らは科学を信用する代わりに、聖書に書かれていることを信用しています。

    今のアメリカは普通の民主主義ではなく、ハイパーデモクラシー(過度な民主主義)です。
    つまり、どんなに無教養な人でも科学的なことについて科学者と同等に自分の意見を言う権利がある、と信じているのです。これは、ときに良い結果をもたらすこともあるのですが、とても悪い結果をもたらすこともあります。

    心理療法の真髄は「選択的変化」です。これは、自分のすべてを捨てさるのではなく、自分の中で機能不全になっていて変えなければならない部分を見極めることです。。必要なことは「選択的変化」だけであることに気づかなければ、間・題に打ちのめされたままになり、手を付けられない状態になります。それと同じことが国にも当てはまります。

    1930年代の日本は、 なぜ失敗したのか?
    一つは自国のパワーを見誤ったことです。
    もう一つは、人はアナロジー(類推)で行動してしまうということです。過去に成功した経験があると、類似した状況下ではそれに頼って同じ行動を繰り返してしまうのです。1904年の日露戦争では、日本はロシアに勝ちました。ロシアに勝ったことで、アメリカにも勝てるだろうと期待してしまったのです。

    その質問は、結婚において女性のどういうところが男性を幸せにするか、という質問と同じです。結婚において男性を幸せにする女性の特徴はたくさんあります。それと同様に国に影響する地理的な特徴はたくさんあります。
    アメリカは大洋によって守られており、そのことがアドバンテージになっています。

    このパンデミックから学べる教訓は二つあります。一つはフィンランドのような国になれ、ということです。先ほど説明したように、フィンランドのようにあらかじめ将来の危機に備えておきなさい、ということです。

    二つ目の教訓は、新型コロナはグローバリゼーションによって拡大したので、グローバルな解決が必要であるということです。しかし新型コロナは唯ーのグローバルな問題ではありません。他のグローバルな問題に気候変動、資源枯渇、格差があります。これらはすべてグローバルな解決が必要な問題です。

    資本主義の最大の欠点は格差を助長することです。それに対し、民主主義は格差を軽減することが大きな目的なので、この二つのシステムは本来対立するものなのです。この二つはいわばベッドフェローの関係です。
    ベッドフェローというのは、本来敵対関係であるのに置かれた状況から行動を共にすることになった組織や人のことを指す言葉です。まさにこの二つのシステムに他なりません。

    いま必要なのは、「ステークホルダー資本主義」という言葉で表現されるような、 全体のことを考えた、もっと包括的な経済なのです。企業が、株主だけでなく、従業員や取引先 、顧客、地域社会といったあらゆる関係者の利益に配慮すべきという考え方です。

    アマゾンは合法的に税金を払わずにすむことを、「ゲームのルールに従ってプレイしている」と言いますが、そのゲームのルールが間違っているのです。いまの社会は民主主義の装いをしていますが、経済力がそのまま政治力になるような構造となってしまっています。そうならないようにルールを変えなければなりません。

    第2章 二つの資本主義が世界を覆う
    ブランコ。ミラノヴィツチ

    何かを議論したり、解決しようとするとき、 少しでも優位な立場に立つため、エリートは政治も管理下に置こうとするのです。こうなると、システムの完璧な支配者です。家族の特権を維持しながら、法律さえも自分が有利になるように作るのですから。これは実に危険なことです。

    そうやってエリートがつくられ、次の世代でもその家族からエリートが生まれ、 エリートの創出が自己永続化します。これはリベラル資本主義にとって大きな危機です。実際に権力を維持していくエリートをつくり出すからです。

    このプロセスを止めるための施策が必要です。私はその施策として三つのアイデアを提案しています。
    一つ目は、相続財産をコントロールすることです。
    二つ目は公立学校での教育を私立学校での教育よりも優れたものにすることです。
    三つ目は選挙や政治的な目的のための資金の使用をコントロールすることです。

    投資という行動が金融資産を生み出すのですが、 残念ながら、二極化が生じ、裕福な人しか投資ができず金融資産を所有していないのが現状です。ほとんどの先進国では、 人口の30パーセントの金融資産はゼロかマイナスなのです。

    高学歴で大金を貯めた、あるいは地位や相続から大金を得た人たちです。彼らは賃金も高く、資本収入も多い。そういう人たちを私は「ホモプルーティア」と呼びます。具体的な数字を挙げると、アメリカでは、トップ10パーセントの三分のーの人が労働賃金でも資本収入でもトップ10パーセントに入っています。これは驚くべきことです。

    中国には、アンゴラやハンガリーや他の国も、そう簡単には真似できない特徴があります。それは、広大で人口の多い国土を統治するために中国で独自に発展した「地方分散型の権威システム」です。地方の経済政策についてはかなりの自由裁量を与え、 成功した地方の指導者には報酬を与え、他の地域でも試してみる。失敗した者は罰する。それを一党独裁の中央集権がコントロールする、というシステムです。

    レーニンが「共産主義とは何か」と説いたときの有名な言葉があります。それは「ソ連プラス電力の供給」という言葉です。カザフスタンやロシアはその点で成功しました。しかし、かつてのチェコスロバキアのように、より発展した国になると、すでにそれなりの技術革新が進んでいたので、そのようなシンプルなテクノロジー革命は必要ありませんでした。

    ポピュリズムは移民問題や他のことで支持度が変わりますが、金権政治はリベラル資本主義にあらかじめ組み込まれた力で、より長期的な力なので、私は金権政治のほうがポピュリズムよりもはるかに危険なものであると思います。

    資本主義のパワーとは基本的に人間の私利私欲に訴えることだからです。そうなると人は、利益を生み出すエンジンに燃料を供給し始めるのです。私たちはみんな利益最大化の小さなマシンになるのです。
    しかし、その部分を攻撃し、 商業化は必要ないと考えるのなら、成長は起こりません。

    脱成長は収入に大きな差がある世界では、実行不可能というのが私の意見です。貧しい国や貧しい人は永久に貧しいままになるか、 あるいは西洋や北米や日本やオ―ストラリアのような裕福な国で、収入の半分を失うことになるからです。収入の半分を失いたいと思う人はいません。

    第3章 世界中の人をドーナツの中に入れる
    ケイト・レイワ— ス

    世界は絶えず変化する動的なシステムで溢れています。私たちの身休は信じられないほど動的なシステムで、絶えず私たちをバランスが取れた状態に戻してくれます。金融危機、鳥の群れ、ファッションなどそこら中に動的なシステムがあります。ひとたび、この思考法の核を学ぶと、突如ありとあらゆるところにそれが見えるようになります。すると経済も複雑な、ティッピングポイント(不可逆的な変化を引き起こす臨界点)やフィードバック・ループのある適応システムであることに気づかざるを得ません。そのようなレンズを通して経済を見るとワクワクします。

    途上国への経済介入のほとんどが、経済学者のジョージ・デマルティノがいう「マキシ・マックス」の原則に従うことで間違えるといいます。それは「あらゆる可能な政策の選択肢を挙げ、その中から、もし成功すれば最善の結果をもたらすであろう選択肢を選ぶ」という原則で、問題なのは、その選択肢が本当に成功するかどうかは十分検討されていないことです。

    経済学を専攻している学生にコモンズのことを聞くと、ほとんどの学生は生態学者であるギャレット・ハーディンの「コモンズの悲劇」のことを語ります。ハーディンは、 コモンズは機能しないということを言っています。しかし、彼の理論は理屈だけで何のエビデンスもありません。

    コモンズとは所有と共有アクセス、そして共同での創造のことです。経済が健全であるかどうか、今までとは違った角度から測定するために、 GDPから離れ、そのような新しい測定基準を作らなければなりません。

    今こそ人間性を育むことを考えるときです。経済学はずっと、人間は利己的で、競争好きで、合理的な存在であるという前提で考えてきました。果たして本当にそうなのでしょうか。我々は本気になって、そのストーリーを書き換えなければなりません。
    最も重要なことは、我々は生物界の一部に属しているだけであって、その頂上に位置しているわけでも、我々が生物界を所有しているわけでもない、ということです。

    イギリスの経済学者、マリアナ・マッツカート教授の研究によって、起業家としての国の役割が明らかになりました。リスキーな投資を行うのは往々にして国家です。リスクが減少したとき、初めて民間セクターが姿を現すのです。

    アムステルダムや中国がパイオニアになっているのは、彼らが新しいスキル、新しい道具、新しいビジネスモデルを学び、将来必要となるインフラを設けているからです。これから一〇年も経たないうちに、他の国や都市はなぜ自分たちはもっと早く行動しなかったのだろうと後悔することになります。私たちは今すぐ、行動を起こすべきです。

    第4章 倫理と経済、どちらが先か?
    トーマス・セドラチェク

    デジタル化とデジタル・トランスフォーメーション (DX) には大きな違いがあります。
    DXはすべてのことがデジタルになることです。そのDX が今回一気に進みました。

    アルコールを飲むと楽しくなり、賢くなった気分になります。でも翌朝にツケが回ってきます。実際にアルコールを飲んでエネルギーが湧いてくるわけではありません。あなたがやっているのは土曜の朝使うエネルギーを金曜の夜にもってきているだけです。そのツケは必ず後で払わないといけません。金融政策も財政政策もそれと同じです。

    我々は宗教を通してではなく、貿易を通して、平和を愛し、より繁栄するようになることを発見したからです。これは私からみると皮肉な解決策ですが、非常に良い解決策です。

    経済学は倫理そのものよりも倫理を促進させる叮能性をもっています。我々は、特に先進国では、人類として中世のキリスト教社会よりもはるかに集団として倫理的です。
    かって我々は倫理的な行動は国家の繁栄に影桦を及ぼすと思っていました。今の経済学はその逆になったと思います。つまり富があなたの倫理に影響を及ぼすということです。それこそアダム・スミスが言っていることだと思います。
    だから私は経済学は「善と悪」の圏外に出てしまったと言ったのです。互いに商売さえできれば、倫理は問題にならないからです

    人は意味のない苦しみや心配事に耐えることができません。精神医学者のヴィクトール・E・フランクルが言うように、「絶望は意味を欠いた苦痛」なのです。どんな苦難もその意味を理解すれば耐えることができる。
    だから人類には未来の方向性を指し示す物語が決定的に正要なのです。そして、過去を綿密に研究してはじめて、 我々は未来について予測できるのです。最終的には未來の研究は過去の研究になります。

    人はみな自分の心の中に信じる何かがあり、できるだけ良き人であるべきです。が、我々が人類として共有している物語は経済学的に、心理学的に、哲学的に、 倫理的に筋が通るものでなければなりません。だから私はこういうすべての分野を統合しようとしています。

    日本の状況はそれとは正反対です。非常に豊かな社会であるのに、ヨーロッパ人の視点からみると、国民はリラックスしていません。チェコでは我々は人生を楽しみたいと思っています。ですから、我々にとって仕事は、それほど重要ではありません。

    「我々は豊かになったので、週三日労働でいい」というのは資本主義にとってハレルヤの瞬間(喜びの瞬間) でしょうが、成長資本主義は常に成長、成艮、成長を続けたいのです。だから成長資本主義は悲劇なのです

    我々には二つの方向しかありません。一つはテクノロジー、もう一つはエコロジーです。
    実際に何か行動を起こすとき、環境に良いやり方を選べることを我々は知っています。
    そのやり方を学んだ国は坐かな経済大国になります。フィンランド、デンマーク、スウェ—デンなどの北欧諸国は非常に體かな経済圏ですが、彼らは環境に多くの注意を払っています。一、 二年先のGDP成長のことを考えるよりも、 もっと長期的な思考をする必要があるのです。

    第5章 資本主義を再構築する
    レベッカ・ヘンダーソン

    健全で豊かな社会は自由市場と政府とが互いに良い緊張関係を保っています。市民が力をもち、 彼らが自由市場と民主政治のバランスを取っていくことで、 はじめて強靭で健やかな社会をつくることができるのです。

    企業の最高幹部の人たちは、これまでサプライチェーンを設計するのに低コストで効率を良くすることだけを考えていればよかったのが、これからはリスクとレジリエンスのことを考えなければならない、と言っています

    「新型コロナウィルスは抜き打ちテストで、気候変動は最終試験である」

    人は呼吸しなければ生きていけません。しかし、呼吸することが人生の目的ではないように、金を儲けることが企業の目的ではないのです。

    第6章 社会契約をつくり直す
    ミノーシュ・シャフィク

    幸福度を決める要素は何か、いろいろな国を比べてみると、本当に重要な要素が三つあることに気づきました。
    1つめは健康です。これに関して日本はかなり優秀です。平均余命も非常に」い。肥満の問題もありません。
    2つ目は人間関係の質です。日本では家族の規模も小さくなり、核家族が増え、人々は以前よりも孤立しています。
    3つ日は有意義な仕事です。男性にとって日本の労働環境は非常に厳しいと思います。そして、かなり進歩したとはいえ、女性の労働はまだあまり歓迎されていません。上級管理職の女性の数は男性よりはるかに少ないですね。二つ日の人間関係と三つ日の有意義な仕事という要素が、日本の順位を低くしていると思います。
     
    私が言っているのは、六歳からではなく、もっと早く、生まれてから最初の1000日の間に投資しなければならないということです。その間に脳の発達が起きるからです。そうすることで大人になってからも学習を続けられる脳が形成されます。

    第7章 資本主義は「脱物質化」する
    アンドリュー・マカフィー

    「地球に負担をかけずに豊かになれる」ための要素として、テクノロジ— の進歩、資本主義、反応する政府、市民の自覚を「希望の四騎士」として挙げられています。
    四つの中でどれが一番重要かを決めるのは難しいことです。我々が住んでいる地球への負担を減らして繁栄するには、その四つの要素がすべて必要だからです。その一つの要素でも欠けてしまうと、未来はかなり悲観的なものになってしまいます。

    2018年にノーベル経済学賞を受賞したポール・ローマー教授の「内生的成長理論」という経済成長理論から来たものです。
    経済成長は自国がもっている資源から来るものではない。国の地理的な大きさや人口、あるいはエネルギーから来るものでもない。それはアイデアから来るものである、というのが彼の基本的な考えです。

    第8章 生命の網のなかの資本主義
    ジェイソン・W ・ムーア

    とても重要なことなのですが、西洋で支配的な文明観、つまり、一方に人間、もう一方に自然を置いて両者を対比させる考え方は、この世界をそのまま表した世界観ではありません。こうしたものの見方は、西洋が行う文明化計画にあらかじめ組み込まれています。

    例えば、ヨーロッパの帝国は一四九二年以降、アメリカの先住民を、人間としてではなく、野蛮人、 つまり自然の一部として分類しています。ヨーロッパの人の生活が良くなればなるほど、アメリカ人の労働は安価になり、文化的な意味でも価値が低いとされました。

    私の使う「資本新世」は、資本主義を経済システムとして捉えてはいけない、と読者に知ってもらうために使いました。資本主義をエコロジ—(生態学)として捉えるために元のコンセプトを発展させた言葉です

    階級社会や労働階級に対して、従来のマルクス主義者や環境保護主義者とは異なる見方が出てきます。その見方とは、資本主義が繁栄するのは、自然を破壊することによってではなく、生命の網を無償で、あるいは低コストで働かせることによってであるということです。
    これが、人種差別や性差別でみられるように、特定のグループの政治的、文化的な評価を下げることに繫がるのです。それらが、剰余価値を搾取する、附級の力を盤石なものにするのです。
    このように、マルクスの卓越した洞察力を、現在の前代未聞の地球危機の時代に取り込むことができるのです。


    イデオロギー的に言うと、資本主義の発明の一つは、世界を最初から文明化された世界と野蛮の世界、キリスト教と非キリスト教に分離したことです。これは資本主義の歴史を通して、何度も形を変えて繰り返された、イデオロギー上の分離です。

    ほとんどのマルクス主義者や環境保護主義者たちが共有している、自然対社会という従来の見方を捨ててもらうことです。このような見方は、人間の労働を含むすべての生命の網を営利目的に変えようとする、支配者たちの考え方なのです。

    資本主義は経済のシステムではないし、社会のシステムでもない、ということです。それは「自然の組織化の様式」です。プロジェクトとしての資本主義と、歴史的プロセスとしての資本主義は区別しなければなりません。まず、資本主義者や帝国による、長期にわたるプロジェクトがあります。そのプロジェクトは私がデカルト主義的二元論と呼ぶ、社会と自然を分離するイメージで、世界を改造できます。

    しかし、現実はまったく違います。人類が折に触れ、生命の網と密接につながっている、資本主義の歴史のプロセスがあります。それが大衆の抵抗や反乱や階級の対立を引き起こしていました。それは現在の「気候正義」を求める幽いに、明らかに鑿がっているのです。

    資本主義は生命の網を生み出しますが、生命の網によって資本主義も生み出されるという弁証法を忘れてはなりません。資本主義は気候変動を生み出しましたが、現在の気候変動は、資本主義的骰業の限界を生み出しています。

    資本主義の起源は、西欧では一四世紀にあります。気候変動、農業—生態系の枯渇、民衆の暴動に繫がった病気、つまりペストの時代です。それが資本主義の台頭に繫がりました。

    我々はどうして資本主義のロジックが機能しないのか理解しなければなりません。それには二つのカがかかわっています。
    一つは安価な自然の終焉と共に起きたことで、資本主鐘の力の源泉になるものが、今それ自体に敵対していることです。資本家は、利益を出すために再投資することができますが、それよりも資本そのものがさらに富を生み出すようになつているのです。

    二つ目は、これはフロンティアが徐々に閉じていることに関係があるということです。
    この状態で、世界経済に何が起きるのでしょうか。安価な自然の意味のあるフロンティア、つまり、私が四つの安価物と呼んでいるもの— 労働力、食耕、エネルギー、原材料—がない状態で、起きることは再分配への方向転換ですが、 金持ちから貧しい人への再分配ではなく、逆再配分のロビン・フッドです。つまり、中流階級、労働者階級から、大金持ちへの再配分です。

    マルクス主義についても非マルクス主義についても、共産主義についても非共産主義についても好きなことが言えますが、実際の歴史を理解したければ、それは乱雑で取り散らかったものとしか言いようがありません。啓蒙への真の道を据供してくれるようなレシピ本はありません。マルクスは、「科学に王道なし」と言いましたが、「社会主義に王道なし」と言っていたかもしれません。紆余曲折だらけの道で、終わりのない学びの道です。

  • 資本主義に対して各識者が色々な主張をしているが、中には反対するような論説もありそれぞれが論理だっているので難しい問題なのだと再認識。脱物質化で環境問題にも対応できると言っているアンドリューマカフィー氏の章だけハテナがたくさんあった。人類が利用している資源量は近年になって減ってきているという主張だが、そもそもが採りすぎですでに環境破壊が相当進んでいるのに、どれほど利用資源量が減ってるからOKと言えるのだろうか?さすがに今までと同じ経済活動で良いとは言えないと思ったが、本を読んでみたい。
    原発問題は「化石燃料に比べればマシ」という一方、「長期的なリスクあるからダメ」というところで、やはり政治的な決断でしかない。

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

「2018年 『歴史は実験できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ジャレド・ダイアモンドの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×