家畜化という進化ー人間はいかに動物を変えたか

  • 白揚社
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  • Amazon.co.jp ・本 (552ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784826902120

感想・レビュー・書評

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  • 非常に興味深く読めた。

    以前読んだリチャード・ランガム氏の『善と悪とのパラドックス』でも論じられていた『家畜化』。英語でいうと「Domesticated(ドメスティケーテッド)」この日本語訳の「家畜」というとは、ニュアンスが違うんだよね。
    極論的な言い方をすると「自分で餌を得ることを放棄し、他者から餌をもらう状態」みたいな感じだよね。

    ただ、どんな動物も(人間も含め)『家畜化』されると、身体的な特徴が似てくるというのが非常に面白い。

    生物の進化の一片を顧みることができる良書。

  • タイトルが面白そうで手にとった。
    家畜と言えば牛や豚などが思い浮かぶが、狼や馬など様々な例を引いた記述がある。

    「人口の爆発的な増加は、人間以外のほとんどの生物にとって災難でしかない。」
    というのは全くそのとおりだ。当初1000万人だったのがいまは70億を超えるそうで
    本当に災厄でしかない気がする。それは生物の絶滅率も100~1000倍に跳ね上がるだろう。
    それを考えると、家畜になれば種として絶滅することは基本的には無いから、
    進化の観点から見れば家畜化に損はない。
    とは言え進化の主導権を人間ごときに握られることになる。

    家畜化は、動物側が人間のそばで暮らし始めて人に慣れることから始まるというのはちょっと興味深い。
    犬は本当に、サイズや毛色、骨格などのバリエーションが多いとは思っていたが
    食肉目全体のバリエーションをも凌駕するほどとは思わなかった。
    大きな身体的変化が見られるのに遺伝的変化が驚くほど少ないというのも知らなかった。

    尾を振るのは家畜化の影響で、家畜化された狼や狐は尾を振ることがある。
    人が近づいても攻撃してこない狐同士をかけあわせたら、
    第4世代から尻尾を振る子狐が出てきて、6世代では積極的に人間に接触したがる子狐が出てきて
    くんくん鳴いたり人の顔を舐めたりする。
    人の接触は最低限にしていてもそうなるのが不思議だ。
    被毛に茶色の斑点がまじったり、長毛になったり、たれ耳や巻き尾になったりもする。

    いわゆる”可愛い”見た目である発達段階初期の特徴である形質が
    成体になっても保持される=幼形進化により、
    発生発達の開始が遅れたり、速度が遅くなったりする。
    環境に適した形質のものが生き残り子孫を残すことでその方向に変化が進んでいくわけだ。

    動物愛護に携わっているので、可愛い見た目にする為に、顔が小さくて目が大きい個体を
    かけあわせ続けることで、そのとおりではあるがその分歯が生える部分がなくて
    きちんと生えなくて死んでしまう兎がいるとか、そういったことは知っているし
    マンチカンも知っていたが、トゥイスティーキャットは知らなかった。人間は業が深い。

    人間の意図を読み取る=哺乳類の多くにとって攻撃的行動であるアイコンタクトに耐えられる
    という発想がなかったので、なるほどと思った。

    日本人は200年ほど前から比べると寿命が伸び、身長も高くなった。
    見た目も幼くなった。
    自己家畜化という説は非常に興味深い。

  • 人間は動物や植物を自分たちの都合の良いように変えてきた。
    今ではどれも当たり前のように見える動物たちの生態そのものが
    自然なものではなく、人が関わってきた中で現れたものなのだと気付かされる。

    もちろんこの本はそこに善悪を見ているわけではない。
    あくまで進化についてのメカニズムを説明する理論の一つとして
    「家畜化」というプロセスを観察している。

    人に慣れて、警戒心を落とすような進化は同時に
    顔の骨格が変わっていったり、尾の変化、あるいは体のサイズの縮小など
    関係のなさそうな外的な様相にも影響を与えていく。

    それにしても多くの動物が登場する。
    章のタイトルになっている動物だけでこのようになる。
    キツネ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジとヤギ、トナカイ、ラクダ、ウマ、人間。
    そして各章の中でそれぞれまた複数の品種の変遷について語られる。
    人間以外は。

    この本は家畜化というプロセスがヒトにも適用されるだろうことをイメージしながらも
    人間の比較すべきサンプルがない、という点でその限界も提示している。
    限界を踏まえた上でしかし、興味をそそられる論点についてもたっぷりと語られている。

    「家畜化」というと「隷属」のようなネガティブなイメージがありそうだが、
    寛容さ、コミュニケーションへの志向性、ということであればどうだろうか。
    それらを選択するような世界をヒト自身が創り続けてきたのは間違いのないことだ。

    もちろん、いろんな動物が出てくるので
    ヒト以外の生物進化の歴史をのぞく本としても面白いです。


    >>
    イエネコは「尾を立てる」という新しい行動を進化させている。友好的であることを相手に示すシグナルだ。ヤマネコは社会性が低く、この行動はまったく見られない。だが、ライオンはイエネコと同じように尾を立てる。これは収斂進化の一例だが、ライオンとイエネコは共通祖先を持っているので、収斂が起こるのも当然ともいえる。尾を立てる行動は、ネコ科動物のなかでも社会性のかなり高いものだけが進化によって獲得できる行動のレパートリーの一つなのである。(p.102)
    <<

    最後の一文は完全にスキルツリーの考え方みたいで面白い。
    いや、しかし、取れる行動の幾らかは生物学的に予め選ばれているという話で、それ自体も非常に興味深い。

    >>
    人間はまた協力するという意図をもって非言語コミュニケーションを行う能力でも、チンパンジーより優れている。(中略)チンパンジーはさまざまなジェスチャーを行う。しかし、指さしをして他の個体の注意をそちらに向けさせるという行動は、いまだかつて報告例がないのである。人間の子どもは、一二ヶ月までには指さしによって自分が何をしたいのか示すだけではなく、大人が欲しがっていると思われるもののありかを示すこともあるのだ。(p.375)
    <<

    言われてみれば確かに!となる。
    しかし、一方で警戒を群に伝える行動などはある。
    ここには他者のコミュニケーションと言っても種類があって
    それぞれに可能になる、ならないの条件があるということだろう。面白い。

  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB28846413

  • 様々な動物を家畜になるまでを分析説明した本である。著者は進化神経生物学という日本では聞きなれない学問の専門家である。家畜は、犬、猫、豚、馬、牛、羊、ヤギ、トナカイなど様々な動物にわたる。人についても書いてあるがそれは不要な感じがする。
     ジャーナリストやペット愛好家が書く本とは一線を画している。

  • 野生のオオカミから飼犬へ、イノシシからブタに、ヤマネコから飼い猫へと家畜化された過程の話。
    動物は家畜化されることで攻撃性がやわらぎ、性差も小さくなる。
    さらに動物だけではなく過去の霊長類からホモサピエンスへの進化もまた自己家畜化の道を辿ったという論点もおもしろい。
    『サピエンス全史』と比べたら地味な展開だけれど、進化生物学的にもっと掘り下げられた内容で読み応えがある。

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001181636

  • イヌ、ネコに始まる家畜化の考察。
    終盤のヒトで印象的な仮説の紹介があるが、意見を押し付けないところが安心する。巻末の付録含めて面白い。

  • ◆7/17オンライン企画「食のミライ」で紹介されています。
    https://www.youtube.com/watch?v=jCW1km6G9LY
    本の詳細
    http://www.hakuyo-sha.co.jp/science/kachiku/

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