名もなき人たちのテーブル

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861824494

作品紹介・あらすじ

11歳の少年の、故国からイギリスへの3週間の船旅。それは彼らの人生を、大きく変えるものだった。仲間たちや個性豊かな同船客との交わり、従姉への淡い恋心、そして波瀾に満ちた航海の終わりを不穏に彩る謎の事件。映画『イングリッシュ・ペイシェント』原作作家が描き出す、せつなくも美しい冒険譚。

感想・レビュー・書評

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  • 静かに少しずつ読みたい本。少年時代の二週間の船旅はこんなにも大冒険なんだなと思いました。抑えた筆致が物語をしみじみと味わい深いものにしています。ふとした時に読み返して、船旅気分を味わいたくなります。

  • 第二次世界大戦の終戦から約10年後。家の事情で今のスリランカからイギリスへ向かう少年の、船上での出来事・思い出とその後の人生が、交差して描かれている。

    本編とは全く関係ないのだけれど、「アジア人」という言葉が何度か使われていて、それが個人的にすごく印象に残った。
    日本から中東までの広い地域を「アジア」と括るのは大括りにすぎるのではないかとずっと思っている。肌の色や外見、言語、宗教など全く異なり、重なる部分も少ないのに、「アジア」と一括りにされることに違和感がある(し、西洋以外に対する差別意識も感じてしまう)。
    私もアジア人だけれど、この小説の主人公である彼とは文化的・地理的・歴史的な背景が全然違うので、同じ括りで呼ばれることに不思議な感覚を持った。
    東南アジア系、インド系などルーツをはっきり書くことの方が差別になるのだろうか?

    欧米のドラマなどで、イギリスの昔の貴族を黒人の俳優が演じていることなどがある。歴史的事実として、当時の貴族階級は白人しかいなかったはずなのに、そこを歪曲されると違和感がある。確かに歴史的事実を重んじると黒人の俳優たちは出演できない、または、役柄が限られてしまうのは差別なのかもしれないけれど…

    とにかく、「アジア人」というよりもう少し具体的に主人公の背景を知りたかったなと思った。文化的な背景は個人の人格形成にも影響すると思うので、彼がどんな人なのか想像するためにも。

  • 「おとなになるまえに、おとなになった」子供たちの21日間の船旅と、その後の人生。

    一気読みしてしまった!
    時々涙が溢れそうになるよ。
    美しい文章に乗って世界が流れている。
    変わることを止められない…。
    少年の冒険譚であり、成長ものであり、親子の物語であり、恋愛小説であり、ミステリであり…。
    様々な要素を含んで切ない。

  • 装幀に惹きつけられた。深い青緑色に小さく銀文字のタイトル。真ん中に客船の姿が控えめに浮き上がった感じで刷られている。子どもの頃に読んだ翻訳物ってこんな感じだったような…。読み終えてしみじみ、なんてこの物語にふさわしい本の姿だろうと思った。

    どういう物語かは、訳者あとがきに簡潔にまとめられている。

    「一九五四年、セイロン(現スリランカ)に住む十一歳の少年マイケルが、大型客船オロンセイ号にたった一人で乗って、母の待つイギリスへ三週間の船旅をする。船上で出会う個性豊かな人々との関わり、波乱に富んだ航海の模様、謎めいた事件、そしてマイケルたちのその後の人生が、過去と現在を行き交いながら、オンダーチェの持ち味である詩のような美しい文章で語られる」

    原典の文章の「美しさ」はもちろんわからないけれど、翻訳からでもその雰囲気は伝わってくるように思う。大げさでない静かな語り口に切なさがにじんでいる。「イングリッシュペイシェント」は原作を読んでいないのだけれど、映画の印象も、なるほど通じるところがあるように思う。

    あとがきにあるように、航海は波乱に富んでいるし、最後に明かされる「事件」の真相や、登場人物たちのその後の人生にも心動かされ、どんどん読み進めていける。と同時に、何気ない描写にしばしば目がとまり、忘れがたい印象を受けた。言葉にするとありふれているが、すべてのものは過ぎ去っていくけれど、それでもその中に真実はある、というような。

    一番強く心に残ったのは、オロンセイ号が真夜中にスエズ運河に入っていくところだ。マイケルと友人カシウスは船のへさきの手すりに危なっかしく腰かけながら、眼下の「絵のような光景」に見入る。

    「屋台で食べ物を売る人、たき火のそばで語らう技師たち、ゴミを降ろす作業。あの人たちもこうした出来事もすべて、二度と見ることはないとわかっていた。そして僕たちは、ささやかだが大事なことを理解した。じかに関わらずに通り過ぎていく、興味深い他人たちのおかげで、人生は豊かに広がっていくのだ」

    マイケルは後に、二十代の終わりの頃、船旅以降消息を知らなかったカシウスが、画家となり近くで個展を開いていることを知り、その画廊に出かけていく。カシウスには会えなかったが、そこにある絵はすべて、あのスエズ運河の夜を描いたものだった。この場面が胸にしみた。

    「今こうして画廊で目にしているのは、あの晩カシウスと僕が光の繭に包まれて働く人たちを手すりから見下ろしていた、まさにあの角度で見た光景そのものだった。四十五度とか、それぐらいのアングル。僕は船の手すりに戻って見つめていた。これらの絵を描いていたとき、カシウスの心もそこにあったのだ。さようならと、僕はあの人たちみんなに告げていた。さようなら」

  • スリランカからイギリスまでの21日間の船旅は、少年にとって初めての冒険で、それは大人になってもなお色褪せない。

    オンダーチェの自伝的小説。
    思い出は時を経てより輝きを増し、その後の人生の糧となるのかも。

    マジStand By Me.

  • 中身以前に装幀が美しい。海の色を写したブルー。
    少年がスリランカからイギリスへ船で旅をする。少年が船中で出会う人々や事件によって子供時代を脱する成長物語であり、パマナ運河の場面の鮮やかさに見るように旅行記であり、人間関係の謎解きが隠されたミステリーでもある。読み手も、この青い大海原をゆっくりと旅しているような読書体験だった。
    オンダーチェは「イギリス人の患者」以来だが、うまい。特に少年マイナ=疑似作家本人が大人になってからの場面と交錯する加減が絶妙だ。船旅は、マイナ=マイケルにとって、特別でドラマが凝縮された人生の一コマ。11歳にしてクライマックスを迎えてしまったようだ。その後の人生では、初恋の従妹エミリーとの再会、船の中の親友たちとの別れなど、切なさが漂う。
    全体のトーンに対して「事件」があまりにヴィヴィッドで、違和感があるほど劇的だと感じたが、これはフィクションを貫くための作為か。ただし、それもあって映像的な印象がある。映画化して欲しいと思わせる。監督はもちろんミンゲラといいたいが、かなわないのが残念だ。

  • 前半だけだったら間違いなく☆5つ。
    少年の3週間の船旅が夢のようにうつくしく、それでいて自分もその船に乗っているかのように懐かしくて、うっとり。ひとつひとつのチャプターが短い、詩のような細切れ感も好き。
    ただ、これはほんとうに個人的な勝手な意見なのですが、後半、乗客たちの秘密があかされるっていう展開はべつに要らなかった気も。ただ少年の目をとおりすぎていく描写だけでも、じゅうぶん物語として成立していたのに。

  • マイケルオンダーチェ「名もなき人たちのテーブル」 http://www.sakuhinsha.com/oversea/24494.html … 読んだ。おおお、すごくよかった。。進行も文章も淡々としているのに読むにつれ自分の感情が揺さぶられてくる。余韻が半端ない。読み終わりたくなかった。静かで美しい佳品(つづく


    子供目線での記憶の中の人物像や出来事を大人になり当時の関係者とともに振り返り、新しい事実を知ることで、自分の記憶と感情が微妙に補正されていく様がせつない。アメリカが「スタントバイミー」で単純にマッチョに仕立てるものをこの静謐さと瑞々しさと苦さの配合はイギリスならでは(つづく


    船旅、子供/青年時代の色鮮やかな記憶、過去の人物との再会、というモジュールと、決して順調ではなかった主人公の半生(または充たされない現在)という設定は「ブライツヘッドふたたび」を思わせる。こちらも良品(こっちの根底は宗教と信仰)(おわり

  • 人は、いつ何をきっかけにして大人になるのだろうか。マイケルは11歳。セイロン(今のスリランカ)のコロンボから二つの大洋を越えてイギリスに向かう汽船の客となる。幼い頃に分かれた母親がイギリスの港で待っているはずだ。たった一人で三週間の船旅を過ごした後はイギリスの学校に入学することになっていた。

    あてがわれた船室は喫水線より下にあり、窓もなかった。食堂での席は七六番と決まっていて、船長たちのテーブルからもっとも離れた位置にある。同席する九人のうちの一人、ミス・ラスケティに言わせると、その席は俗にいう<キャッツ・テーブル>で、「もっとも優遇されてない立場ってこと」らしい。「名もなき人たちのテーブル」という邦題はその意訳。

    七六番テーブルには同じ年頃の少年が二人いた。喘息持ちでおとなしいラマディンと、学校の一年上で悪名高き反逆者カシウスだ。他にも、落ち目のピアノ弾きに植物学者、元・船の解体業者に無口な仕立屋といった面白そうな大人が何人もいた。親と離れ、一人で大人たちの中に交じって過ごす日々は、少年たちにとって刺激的だった。乗客の中には恐水病の治療のため本国に向かう貴族もいれば、鎖につながれた囚人もいた。子どもを使って盗みを働く偽男爵やら、旅芸人の一座といった曰くありげな人々の秘密を盗み見ては想像をたくましくする少年たちは、いつしか、その冒険の渦中に入ってしまうのだった。

    自称男爵にスカウトされ、盗みの手伝いをするくらいのことは、そのスリルを味わっていられたのだったが、高僧を馬鹿にしたせいで呪をかけられた貴族の死にはラマディンが絡んでいた。殺人罪で捕らえられた男を父に持つ娘の悲運には皮肉屋のカシウスさえ胸を傷めた。果ては、同船していた従姉のエミリーが殺人事件に巻き込まれてしまうなど、少年の目に映る大人の社会は危険に満ちていた。

    今は、テレビ番組にも呼ばれるほどの有名作家となったマイケルが、少年のころの船旅を回想しつつ、二人の旅の仲間のその後、テレビを見たミス・ラスケティからの手紙に触発されたエミリーとの再会を語ることで、当時の自分には計り難かった大人の世界の秘密が解き明かされてゆく。少年時の胸躍る冒険の回想譚と思わせながら、じわじわとミステリ小説仕立ての大団円に向かってゆく、その手際はなかなかのもの。

    少年の眼から見ることで、キャッツ・テーブルの仲間はもちろん、それ以外の乗客たちがいかにも魅力に溢れて描き出されている。大人になったマイケルの目を通して描かれる同じ人物の評価の差に、実人生を知った物書きの視線が感じられ、その温度差に幾許か人生の悲哀を感じずにはいられない。少年時代の自分を視点人物とした児童文学風の物語と、回想視点を用いて描き出された大人の男女の出会いから恋愛関係、そしてその崩壊に至る人生模様の対比が鮮やかである。

    人は、いつから何をきっかけにして大人になるのだろうか。それは、幼いながらも自分以外の誰かを守ろうと決意した時点からではないだろうか。少年たちは、二十一日間の旅のなかで、その経験を得る。しかし、当然のことに、その時はそれに気づかない。彼らは、それを胸中に抱えながら知らず知らず日を重ねそれなりの歳になるのだ。

    三人は船を下りたときから別々の道を歩き始め疎遠になっている。マイケルは、かつてラマディンが自分を見つけ出してくれたように、今度はカシウスが自分を見つけられるように、あの船での出来事と、その後日談を書いてみようと思う。それが、この小説なのだ。

    主人公の名前や経歴が作家自身のそれと重なるため、自伝と読まれることを恐れ、末尾にフィクションであることを強調する一文が置かれている。もちろん、そうにちがいなかろう。嵐の晩、甲板にロープで身体を縛りつけ、波に呑まれるシーンをはじめ、キプリングの小説よろしく身体にオイルを塗りたくられ、ドアの上の隙間から他人の部屋に侵入する場面まで、あまりに冒険小説的エピソードに溢れすぎている。しかし、だからこそ、案外、細部は事実に基づいているのではないかと想像したくなる。わざわざ一頁を割いて、こう記してさえおけば、その筋で働いていた登場人物にも、いらぬ迷惑のかからぬ道理である。

  • ざっくりと言うと、ちびっ子が船で長旅して、それを大人になって回想しているだけなんだけども!しかもなんか地味に遊び回ってるだけな気もすると思いきや意外やイベントも盛りだくさんで涙あり笑いあり殺人もありとしっとりと語ると見せかけて波乱万丈なんである。いや語り口に騙されたということが今になってみると分かるこれはまさかのどんでん返しと言うかギャップ萌えかもしれぬよ。
    というわけでなんか不思議な面白さが不思議ちゃん好きなオッサンどもにもモテモテ。

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著者プロフィール

マイケル・オンダーチェ(Michael Ondaatje)1943年、スリランカ(当時セイロン)のコロンボ生まれ。オランダ人、タミル人、シンハラ人の血を引く。54年に船でイギリスに渡り、62年にはカナダに移住。トロント大学、クイーンズ大学で学んだのち、ヨーク大学などで文学を教える。詩人として出発し、71年にカナダ総督文学賞を受賞した。『ビリー・ザ・キッド全仕事』ほか十数冊の詩集がある。76年に『バディ・ボールデンを覚えているか』で小説家デビュー。92年の『イギリス人の患者』は英国ブッカー賞を受賞(アカデミー賞9部門に輝いて話題を呼んだ映画『イングリッシュ・ペイシェント』の原作。2018年にブッカー賞の創立50周年を記念して行なわれた投票では、「ゴールデン・ブッカー賞」を受賞)。また『アニルの亡霊』はギラー賞、メディシス賞などを受賞。小説はほかに『ディビザデロ通り』、『家族を駆け抜けて』、『ライオンの皮をまとって』、『名もなき人たちのテーブル』がある。現在はトロント在住で、妻で作家のリンダ・スポルディングとともに文芸誌「Brick」を刊行。カナダでもっとも重要な現代作家のひとりである。

「2019年 『戦下の淡き光』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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