灰地に赤の夫人像

  • 彩流社
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  • Amazon.co.jp ・本 (146ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784882023722

作品紹介・あらすじ

スペイン語圏で多くの読者をもつデリーベスの最新作。独裁者フランコの死を前に騒然とした空気に包まれたカスティリャの小都市で、つつましい生活を送る画家が、亡き妻の思い出を娘に語りかける悲哀に満ちた物語。

感想・レビュー・書評

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  • 父から娘へ……スペインの人気作家が描く愛する妻の生と死。フランコ独裁政権末期の騒然としたカスティリャを舞台に、抑制された筆致で綴る死の叙事詩。現代スペイン文学の秀作。
    原題:Señora de rojo sobre fondo gris
    (1991年)

  • 全編一人の男性のモノローグの小説。
    どうやら父親が娘にむかって話しているらしい。その娘は何かの理由でしばらく家に来ることができず、母(=語り手の妻)の死にも立ち会えなかったようだ。語り手はどうやら画家らしく、そのインスピレーションの元は亡き妻だったようだ…。

    目次も章立ても全くない。おそらく久しぶりにあった父と娘が亡き母について語り合っているのだろう。
    脳腫瘍になった妻の最期の日々、妻がいかに自分を支えてくれたか、どんなに魅力的な人間だったか、いかに周りの人に愛されていたか。そしてその妻をこんな形で突然に失った慟哭を、娘の前で静かに語り続ける。そのモノローグだけでできている小説。

    娘に向かって話しているのだから、登場人物は2人にとって説明不要。いきなり「あの◯◯が…」と話し出す。時間も過去のあらゆる時点を行き来しながら家族の、夫婦の、そして夫婦になる前の出来事を語り続ける。

    読む方にとっては始めは「???」の連続になってしまう。しかし読み進むにつれ父親の話を聞く娘の気分になり、「母さん」の人となりが生き生きと浮かび上がってくる。そしていかに主人公が妻を愛していたかが伝わってきて、その妻の最期を語るところでは胸にずしんとくるものがあった。

    ミゲル・デリーベスが亡くなった夫人に捧げた小説。早くからデリーベスの文才を見抜き、小説の執筆を勧め、フランコ政権の検閲下のもと創作活動を支え続けた夫人への報恩をこめたラブレター。

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著者プロフィール

Miguel Delibes Setién (1920-2010)
20世紀のスペインを代表する作家の一人。『糸杉の影は長い』(1947年:岩根圀和 訳、2010年、彩流社)でナダル賞を受賞し文壇登場。自然の中で伸び伸びと生きる子どもたちを描いた『エルカミーノ(道)』(1950年:喜多延鷹 訳、2000年、彩流社)で確固たる地位を得た。以後、家族・子ども・自然・死をテーマに、独自のスタイルで数多くの作品を発表し、セルバンテス賞を始め、多くの文学賞を獲得した。時期的にはフランコの厳しい検閲(1940-1975年)と重なるが、検閲を巧みにかわし抵抗した『ネズミ』(1962年:喜多延鷹 訳、2009年、彩流社)や『マリオとの五時間』(1966:岩根圀和 訳、2004年、彩流社)などの作品もある。その他の邦訳された作品に、『そよ吹く南風にまどろむ』(喜多延鷹 訳、2020年、彩流社)、『落ちた王子さま』(岩根圀和 訳、2011年、彩流社)、『翼を失った天使』(ミゲル・デリベス 著、近藤勝彦 訳、2007年、私家版)『異端者』(岩根圀和 訳、2002年、彩流社)、『灰地に赤の夫人像』(喜多延鷹 訳、1995年、彩流社)、『赤い紙』(岩根圀和 訳、1994年、彩流社)、『好色六十路の恋文』(喜多延鷹 訳、1989年、西和書林)がある。



「2023年 『無垢なる聖人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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