- Amazon.co.jp ・本 (1ページ)
- / ISBN・EAN: 9784892385872
作品紹介・あらすじ
野火で羽を傷めたカササギはイヌに助けられ、生きる希望を見いだす。無二の親友となったイヌとカササギだが、ある日、孤独を抱えたキツネが現れると何かが狂いはじめた。カササギの心に起こる動揺…。友情、裏切り、嫉妬、孤独。人間の性ともいえる様々な感情がうずまく。生きることの喜びと哀しみを凝縮した、ワイルド&ブルックス渾身の作品。
感想・レビュー・書評
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この絵本におけるきつねはメフィストフェレスなのかもしれない。誘惑する悪魔として。快楽の代償を支払わせようとする者として。
しかしそれだけでは説明のつかない、言いようのない悲しさが、轟々と吹き荒れるような何かが本作にはある。
それは例えば書き殴ったような荒っぽい色の落とし方であったり、閉じたはずの傷跡がじゅくじゅくと化膿してしまったような赤色の使い方であったり、きつねの何を考えているのか絶望的なほどわからない金色の目だったり、そういう荒廃した、虚無感に似た何かだ。
子どもが手書きしたような読みにくい文字、縦かと思ったら逆さまに書かれることもある文章の配置の仕方、それらが血の通ったエモーショナルな手触りを確かに読み手に与えていくにも関わらず、最後にたどり着いた場所に見えていた暖かみは蜃気楼かのようにスッと消えて無くなってしまう。
そんな突き放され方を、つまりカササギが感じた「過ちを犯してしまった」という感情を、痛々しく私たち読者は味わうこととなる。
わかりやすく思い浮かぶ比喩があるとすればこれらは「不倫」や「絶交」なのだろうが、何よりもきつねが最後に残した「これで、おまえもあのイヌも、ひとりぼっちがどんなものかあじわうことになるだろうさ」という台詞と、静寂の中で響く遠吠えが頭から離れない。
この感情は何なのだろう。哀しさだろうか。孤独を感染させた背徳的な喜びだろうか。わからない。わかりたくない。感情とはなんてやっかいなものなのだろう。
一度壊れた関係を修復することは、いちから始めることより難しいことを私はしっている。
だから、カササギがこれからたどる道が険しく辛い道なのだと、そのことは、そのことだけはわかっている。 -
片方の目が見えない茶色のイヌ。森の火事で羽が焦げてしまい飛べなくなった黒いカササギ。優しい心根のイヌは、カササギを背にして、藪を抜けユーカリの林を通り、青空いっぱいの草原を走りぬける。 カササギは叫ぶ「飛んで!もっと飛んで! 私があなたの目になるわ。あなたは私の羽になって!」やがて、妬みや恨みと寂しさをあわせもつ狡猾な目つきのキツネが現れて・・・。厳しい自然界で生き抜こうとする、傷ついたもの同士の心の交流を描く『ぶたばあちゃん』の絵本作家マーガレット・ワイルドとロン・ブルックスによる斬新な大人向け絵本。
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何の予備知識もなく読んだ。
感動した。
片目の見えない犬と、片翼をなくして飛べなくなったカササギ。
この二人(犬とカササギだけど、これは人間の姿でもあるので)の友情が育まれていくが、キツネが現れる。
キツネは嫉妬であり誘惑であり猜疑心である。誰の心にもそれは芽生えてくるのだ。信頼しあった二人の間にもキツネは忍び寄る。
希望の見えるラストではあるが、めでたしめでたしでは終わらないところがよい。
人間、そう簡単に困難を乗り越えられないこともあるのだから。
小学4年の教科書で紹介されているけれど、どこまで小4が味わえるかはわからない。大人がうまく手渡せるといいと思う。
マーガレット・ワイルドは他の作品も読んだが、この作品が特に心に残るのは、ロン・ブルックスの絵が素晴らしいからかもしれない。
こんなに見事な美しいキツネに囁かれたら、誘惑に乗ってしまいそうだもの。 -
きつねが登場する物語を色々と探して読んでいますが、これまで出会った中でも、どう解釈したら良いか迷うきつねが現れました
登場するキャラクターは、片目を失った犬、翼を失ったカササギ、そしてキツネ
失ったもの同士が支えあって一心同体となって暮らしていたところに、ある日キツネが現れてふたりの仲を羨み、妬んで、裂く話です
心理テストにこういう内容のものがあった気がする
愛し合う2人の男女がいて
男が病気になってしまい
医者に助けを求めると女の身体を要求する
女はそれに応じるが、病気が治った男は貞節を失った女を責めて別れた
悪いのは誰か? というようなやつ
この作品では、上記の心理テストの中での、女が医者に身を任せた直後に相当する場面で話が終わるので、男である犬がどういう反応をしたのかは定かではないのですが、この物語の犬のキャラを鑑みるに責めたりしない、ただ悲しみそう
いやむしろ、女に相当するカササギはもう犬には会えない、死亡する可能性が高い
そのくらい、キツネはふたりの仲を徹底的に裂いた
恐ろしく悪どいキツネと言えます
この物語を心理テストに用いるなら、最も悪いのはキツネだと自分は回答します
しかし、最も感情移入出来るのは誰か? という質問でも、やはりキツネと回答します -
これは子供向けの絵本だろうか…
色々なものを突きつけられたような気持ちになりました。こんな感じの人間模様とか、ありそう…。 -
マーガレット ワイルド (著), ロン ブルックス (イラスト), Margaret Wild (原著), Ron Brooks (原著), 寺岡 襄 (翻訳)
翻訳が怪しいとのこと.「キツネ私訳」を検索. -
「絵本の読みあいからみえてくるもの」を読んでいて、手に取りたくなった。
三角関係をえがいた傑作。テキストもすごいが、やはり絵の迫力に圧倒される。キツネの眼のクローズアップに含まれる感情の多彩に射抜かれた。嫉妬、憎しみ、そしてこれは悲しみ?喜び? -
6年生に読み聞かせする絵本を探していて、この本を見つけた。
イヌとカササギ、そしてあとから来たキツネ。
そこに複雑な感情が漂い始める。
カササギはなぜ不安だったのか。
キツネはなぜ孤独だったのか。
イヌは…なぜ何もしなかったのか。
視点を変えればどの立場にも何か理由や意味があるように思える。
誰もが心の中に持っている光と影、善と悪。
私達の住む人間社会に、ふと置き換えて考えてしまいそうになる。
物語の最後もいい。
そこからまた物語が始まるような。
ハッピーエンドではないけれど未来に何か期待させる、
こういう終わり方は好きだ。
モヤモヤが残るから、面白い。
肯定的で善良な話ではないからこそ、心に残る。
こういう本を、もうすぐ中学に行く6年生に読んであげたかった。
あまりにじぃっと聞き入ってくれたので、
何も聞かずに教室を後にしてしまったけれど、6年生はどんな風に
感じてくれたのかちょっと気になる。
モヤモヤでもいい、自分だったら…でもいい、少しでも心に残ってくれたら
私はとても嬉しい。
最後になってしまったが、絵と文字もとても素晴らしい。
というか、ものすごい。
絵は、抑えた色味だけれど迫力がある。
文字は作者・絵・訳者とは別の方が手描きで書いている。
それが絵や物語にぴったり合っていて、この絵本の印象を更に濃くしている。
原作の文字も面白いという話を読んだので、
いつか原文のままの絵本をぜひ見て見比べてみたい。 -
絵も構成も印象的な絵本。
森の火事で片目を失ったイヌと羽を火傷したカササギ。
カササギは言います。
「わたしがあなたの目になるわ。あなたはわたしの羽になって!」
そんな2匹の前に現れたのは、ずるがしこい目付きの赤ギツネでした…。
読後、いろいろと考えてしまいます。
キツネの抱える妬みと孤独がじくじくと胸に残ります。 -
(中1の息子が書きました)
カササギとイヌは無二の親友。
カササギは片目の見えないイヌの目となり、イヌは飛べないカササギの羽となり、
お互いに助け合ってきた。
しかしそこにキツネが加わると、何かが狂い始めます。
まるで人間の本性を見ているかのような、不思議な作品です。
ちいさなえほんや”ひだまり”さんセレクト、
10才までに読みたい”こころが豊かになる110冊”より。 -
なんだ。
このズンとくる感覚は。
最初読みにくいと思ったけど、逆にそれが記憶に残る。 -
なんとも切ない話、他人を簡単に信じてはね~
真に信用できるものを見極めなくては… -
イヌとカササギの友情をねたむ、孤独の王者キツネ。友情をひきさこうとするキツネ。誘惑にのってしまうカササギ。
芸術的な力強いタッチの絵、手書きの文字も魅力。大判。
高学年~大人向けの絵本。小4国語紹介の本。
うならされてしまった! -
2011年11月13日
<FOX>
手書き文字&日本語版文字レイアウト/川端誠 -
高学年~の友達関係で生まれるねたみや嫉妬。いろいろなことで悩み、揺れる年代、特に女子向けに読み聞かせするとぴったりな1冊。
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色を抑えた絵が、素晴らしい。
赤い砂漠が印象的。 -
衝撃的な絵と文字。
キツネの目。
人間の心のどこかにある裏切り、後悔、愛。
魂が揺さぶられる絵本。 -
大人向きの絵本。
友だちになること、信じること、そして、裏切る葛藤。どの人も自分の中に必ず犬かカササギかキツネがいる。
何度も読み返して考えたくなる本。 -
独特の絵や手書きの文字などの雰囲気がいい。友だちって何かを教えてくれる。
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飛べないカササギと眼の見えない犬。そこへ孤独な狐が、、、
絵が力強く、字も工夫されている。子どもにはどうかと思うが、大人には面白い。 -
絵本カフェで何気なく手にとって、わあ! となりました。
いいとか悪いとかじゃないなあ。
読者の対象はどこかしら、と不思議に思うところもありますが、なんか心に変化球のようにきました。
手書きの文体がさらに攻めます。
あたしは普通に最後食べちゃうのかと思って読んでいたので、ううわ! となりました。 -
絵がこわい。文字がこわい。文章もこわい。そして結末も。
これは、絵本とはいえ、5歳児にはキツくないか?じゃあ、何歳だったらいいんだろう -
この本は心に「ガツン」と来るんですよね。
決して子供向けの絵本じゃないって感じ。
誰の心にもあるずるさと残酷さを見せつけられるような気になります。
迫力ある絵が、これでもか!ってくらいに視覚に迫ってきます。 -
ちょっと心が苦しくなるようなお話なのに、読み終わると爽やかな力が湧いてくる絵本。息遣いが伝わってくるようなタッチの絵と、斬新な文章のレイアウトに胸が躍ります。
この作品は凄く痛い、抜けなくて傷口が膿む棘みたいで、だからこそ傘籤さんの感想が読めてうれしいです
こちらは初...
この作品は凄く痛い、抜けなくて傷口が膿む棘みたいで、だからこそ傘籤さんの感想が読めてうれしいです
こちらは初読の感想では心理テストを例に上げましたが、それから別の作品も連想しました
『わたしを離さないで』のあの三人も、似たところがある気がしてます
ルースってすごく嫌な女の子でしたが、でも、気持ちは一番分かる! って思ってしまったのです このキツネと同じように
でも、人によって、犬とキツネとカササギのどれに反感を憶えるかは、違うのだろうとも思います
しかしどれに反感や共感をしたところで、読むとダメージの大きい作品だという事は変えられませんね
でも、すごく好きな作品でもあるのです!
『わたしを離さないで』のルースですか。なるほど言われてみれば似た関係性ですね。私は三人の特定の誰かに、というよりかは、犬、カササギ、キツネ、それぞれにどこかで自分を見出してしまう気がして、最後の場面で呆然としてしまいました。
たぶんいま「きつね本10冊」を作れと言われたら、この本は入ります。それくらい強烈な本でした。