街場の戦争論 (シリーズ 22世紀を生きる)

著者 :
  • ミシマ社
4.16
  • (56)
  • (68)
  • (25)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 636
感想 : 58
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903908571

作品紹介・あらすじ

日本はなぜ、「戦争のできる国」に
なろうとしているのか?

安倍政権の政策、完全予測!

全国民の不安を緩和する、「想像力の使い方」。

シリーズ22世紀を生きる第四弾!!

改憲、特定秘密保護法、集団的自衛権、グローバリズム、就職活動……。
「みんながいつも同じ枠組みで賛否を論じていること」を、別の視座から見ると、
まったく別の景色が見えてくる!
現代の窒息感を解放する、全国民必読の快著。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本書の構成は以下の通り。
    第1章:過去についての想像力
    第2章:ほんとうの日本人
    第3章:株式会社化する日本政治
    第4章:働くこと、学ぶこと
    第5章:インテリジェンスとは
    本書の題名は「街場の戦争論」であるが、それに沿った文章が書かれているのは、第1章から第3章まで、特に第3章。第4章と第5章は、別の話である。

    本書の発行は、2014年。本書の「まえがき」で、内田樹は「"次の戦争"が接近していることを肌で感じる」と書いている。当時は安倍内閣のもとで、自民党を中心に改憲議論が盛んだった時期であり、実際に自民党の改憲草案も発表されていた。内田樹は、その改憲草案の主目的・最優先課題は「九条を廃止して軍事的フリーハンドを獲得する」ことだと述べている。更に「軍事的フリーハンド」とはどういうことかを考えているが、日本が米軍の同盟軍として以外の、独自の考えに基づいて軍事的に行動を起こす(例えば、日本の自衛隊が、独自に、米軍とはインディペンデントに、北朝鮮と軍事的紛争を起こす)ことは、今の日本とアメリカの関係から考えるとあり得ないわけであり、「軍事的フリーハンド」は理屈としてはあり得ても、現実問題として、それが手に入るわけではないと論じている。そして、それは誰でも分かることであり、自民党政治家も、それを分かりながら、改憲草案を作っているはずだと論じている。それでは、それが分かっていながら、何故、自民党は憲法を変えて「軍事的フリーハンド」を得ようとしているのかを更に検討する。内田樹の考えでは、それは、「戦時政府」が国民に対して超法規的にふるまうことが出来るためであり、要するに、自民党改憲草案は、時の政府が、一種の独裁制を敷くことを憲法的に、すなわち、国の仕組みとして可能にしようとしているためだと論じている。
    自民党の改憲草案は、「緊急事態」という章を新たに書き加えている。
    「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
    2. 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前または事後に国会の承認を得なければならない」
    すなわち、内閣総理大臣が「特に必要があると認めた」場合には、閣議決定のみで、いつでも緊急事態宣言を出し、「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」(第99条)とされており、要するに、「緊急事態」期間中は、内閣総理大臣のやりたい放題となるわけである(国会の承認は、国会の多数を得ていれば取得可能)。ある期間、緊急事態であることは確かで、それが一時的に許されるとして、では、どの期間、それが許されるのかということについて、自民党の憲法草案は「100日ごとの国会承認」を条件としており、それは、要するに(国会で多数派を得ていれば)永久に「緊急事態」を続け、永久に内閣が勝手に法律と同一の効力を有する政令を制定することができる仕組みとなっているわけである。行政府(内閣)が、永遠に立法府(国会)を超越して権力を握れる仕組みをつくろうとしているのが、自民党の改憲草案であり、当然、それは無茶苦茶と内田樹は主張しており、私もそう思う。
    自民党の人たちが、何故、このような改憲草案をつくろうとしたかについて、内田樹は、緊急事態にいちいち国会審議等を行っていては、「効率が悪い」と考えているからだろうと推察している。すなわち、株式会社と同じく、トップに(CEOに、改憲草案の場合には内閣総理大臣に)重要なことを決定する権限を与えた方が効率的だと考えているのだろうと推察している。これが、第3章の「株式会社化する日本政治」の意味合いである。

    私は内田樹の見解に賛成(こんな憲法はダメ)である。
    ただ、上場している株式会社が従うべきとされる、「コーポレート・ガバナンス・コード」は、社長の暴走を止められるようなガバナンスの仕組みを構築することを求めており、株式会社の方が、この改憲草案よりもましな状態かも知れない。「ガバナンスの効かない株式会社化する日本政治」という方が正確かもしれない。

  • 僕とミシマ社との付き合いは2008年の「謎の会社、世界を変える。~エニグモの挑戦」に遡る。当時の勤務先が表参道だったため、よく青山ブックセンターや山陽堂書店に通っていた。そこでよく平積みになっていたのがミシマ社というよくわからない出版社の本だった。今では書店の必須アイテムになった手書きPOPの走りだったかもしれない。

    次いで新潮新書「日本辺境論」で内田氏の著作に出会い、読み進むうちに気がついたら合気道多田塾に入門するほどに傾倒してしまった。(ミシマ社代表の三島邦弘さんも多田塾生なのでおふたりとも僕の兄弟子というわけ)

    そんなわけでミシマ社から出る内田先生の本はちょっと襟を正して読むのだけれど、これはいつもとちょっと雰囲気が違った。ミシマ社と内田先生に底通しているのは、真面目ななかにもどこか(いやかなり)楽観的なところがあって、世の中の問題を真っ向から見据えて取り上げながらも最後はなにか希望を抱かせてくれる、そんな空気ではないかと思う。しかし、現在の第二次安倍政権が向かっている先にはかなりきな臭く、悲惨なものを見ているようで、すこし筆致が重いように感じる。

    日本が60年間忌避してきた「戦争」というものを、わざわざたぐり寄せようとしている人間が、少なからずいるという事実。彼らはもちろん自分自身が戦場に行って危険にさらされることも、自国が戦場になって自分や家族が殺されることも想定していないだろう。「自衛隊員のいくらかは死ぬかも知れないが、その損失を補ってあまりある利益、国益があれば良いだろう」と考えているはずだ。あるいは「戦争ができる能力を高めるだけで、まさか戦争にはならないだろう。万一そうなったら、自分と家族は安全な国に逃げることはできるだろう」か。

    そうした人間が政治や経済を動かしている現状。そしてそんな政治家を選んでしまう(あるいは投票すらしない)国民。

    そこへの諦観が、本書では少しずつ強まっているような気がする。

    東日本大震災と原発事故。

    あれほどの災害と事故があってなお、そこから何も学ぼうとしない日本人に、やや絶望的な気分になってしまうのは僕だけではないと思うけれど。

    微力だけれど、ひとりひとりの意識が変わっていくことがただひとつの方法だと思う。そのために理想を掲げること。文芸や芸術にできることはそれしかないのかもしれない。

    • midnightwakeupperさん
      「民主党のような素人政治はこりごりww」ということだけは学んだようです
      「民主党のような素人政治はこりごりww」ということだけは学んだようです
      2019/01/23
  • これは2014年の内田樹の本である。
    ここで彼がいってるのは、ここ何年かのみんなの理由のわからない焦り、や不安といったものは、いまが戦争と戦争のあいだの期間だから、ではないだろうか、というものだった。
    もちろん、第二次世界大戦と第三次世界大戦でございますよ。
    そう、私もそう思う。
    二年たって2016年にアメリカはトランプを大統領に選んだ……。
    オーストリアはかろうじて極右政権になるのを免れたが危機一髪だった……。
    48対51なんて、おせじにも差があったとは言えない。
    これでしばらくは保つだろうが、いつまでもたせられるか……。
    来年にはフランスとドイツの選挙があるのだ。
    とりあえず北欧とイギリスがひっくり返ることはないだろうが、フランスが極右になったらドイツはもう、もちこたえられなくなるだろう。
    いくらナチスに対する反省を引きずっていたとしても……。

    もちろん彼はこの本の終わりのところで、10年後に、そんなことはなかったよ、世界は平和を保ってる、内田さんの思い過ごしだったね、と笑って言えるようになっているといい、といっている。
    私もそう思う。

    でも、2017年を迎える前に、もう一度この本を読んでおいたほうがいい、とも思うのだ。

    というわけで、これも司書は読んどけ本である。

    いくさが始まればどっちの陣営も一番ひどい目に遭うのは子どもに決まっているのだから……。

    2017/02/13 更新

  • 内田先生の本を普段は手に取られない方はタイトルで敬遠するかも…とちょっと思っていましたがこれは今こそ読まれるべき本だと感じましたね。
    出版からちょうど一年ほど経つのですが、今の日本の現実は(残念ながら)内田先生のおっしゃる通りになってきています。出版当時出なく1年後の今読んでよかったととても思います。

    何だかよくわからなかった「戦争へ向かいたがる空気になっていく」理由や過程、そういう人たちが目指しているものが良くわかりました。次の日の新聞の記事を読む目が前の日と変わっているのを感じました。
    本書を読んでいる最中、目からうろこが落ちっぱなしの気持ちでした。良い悪いではなく「全く違う文脈の中で眺める」「みんながいつも同じ枠組みで賛否を論じていることを、別の視座から見る」ということはものすごく重要なことだと思いました。
    自分と違う視点や考え方であっても否定や反論をせず、ちょっと止まって考えてみるのも必要なことだなと考えました。

    内田先生のおっしゃるように「想像力を広く使う」のを忘れずに社会を見てゆかなければと思いました。
    これからも内田先生の刺激ある言葉を受け止めて続けて行きたいですね。

  • 今の政治に疑問を少しでも疑念を抱いている人は読んでいて本当に損はない本だと思います。

    戦後70年のアメリカとの関わり、大きな大きな見えざる力が働いていること、そして人類の歩んできた民主主義の歴史に逆行するような改憲の動き。
    根本に流れているのは経済成長を最優先させる政治・スタイル。国民も踊らされていないで、意を持って行動をしよう。
    私は内田さんの考えにはすごく同感できることが多い。

  • いつもながら、著者の本を読むと、自分で考えることの大切さを教えてくれる。この本も例外ではない。
    あとがきにある「まったく違う文脈でながめる」ことを実践してくれるからだろう。
    平日は朝から晩まで企業に勤め、大新聞を毎日読んでいる私の様な人は、まさに読むべき一冊。

  • 「現代の窒息感を解放する、全国民必読の快著。」

    ミシマ社のPR
    http://mishimasha.com/books/machiba5.html

  • 2014/10

  • 第二次他世界大戦における日本の悲惨な負け方故に日本人は反省の機会(それを望んでいたかどうかは別問題のように思えるが….)を失ったのではないか?という問い(よりマシな「負け方」をできる時期が有ったのに逸したのではないか?)に触れ、これは今を生きている我々にも無関係の問いではないことを痛感。
    大戦中に日本人が成した行為への反省と同時に、成さなかった行為への反省も行わなければ未来に残すための反省とはなり得ない。
    今現在進行中のロシアとウクライナの戦争もまた、起こった理由を言い立てるだけでなく起こらなかったシナリオは有ったのかについて考える事が将来起こり得る悲劇を回避する一つの手段となり得る。
    起こらなかった出来事に思いを馳せることで未来に繋がる道が立体的に見える事はあり得る。

  • 内田樹さんの本には、毎回他の人が思い付かないようなことが、誰にでもわかるような言葉で書かれている。
    やさしく伝わる言葉遣い、鮮やかな実例や例え話。
    他の誰も言う人がいないので自分が、という態度。
    とても尊敬する、知的な方です。

    戦争について、憲法の解釈改憲について、平時と非常時について、いつもの慧眼。
    「この国の政府は、非常時にはこういう振る舞いをします。必ず。」と言い切った部分は、コロナ対応をまともにしない政府を見事言い当てています(何も嬉しくありませんが)。
    大変示唆に富んだ一冊です。

全58件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

内田樹の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×