いずれくる死にそなえない

著者 :
  • 生活の医療
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784910700014

作品紹介・あらすじ

僕らに必要なのは「下り坂の哲学」だ。 日本の高齢者人口は世界一、寝たきりも認知症もすぐそこにある我が事だ。なのに、やれ筋トレだ脳トレだと「健康な老い」という無理ゲーにはまって死ぬまで安らげない。僕らに必要なのは「下り坂の哲学」だ。 EBMの大家である名郷直樹さんが、そんな僕らに「安楽寝たきり」から「ことほがれる死」へという道を指し示してくれた。老いを楽しみ死をことほごう、これは僕らの時代の人間賛歌です。 ——高木俊介(精神科医)

感想・レビュー・書評

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  • クリニックで訪問診療などを手掛けていた名郷医師の書籍。

    たくさんの高齢者を見てきた医師が、「健康で長生き」「ピンピンコロリ」の矛盾や、「下り坂」の人生の考え方などを示してくれている本でした。

    下り坂を過ごしている親の世代の介護をしながら、そして自分がこれから歩む道として、1つの考え方を教えてもらえました。

    「健康で長生きする」、素晴らしい言葉に見える。けれど、事実として、誰もが必ず「死」を迎える。「死」を先延ばしにして、見えないようにしているだけなのでは?先延ばしにしているからこそ「死」は「不安」になってしまうのでは? たしかに、言われてみたらそうかもしれない。


    私の安い脳みそでは理解しきれていない部分も多いのだけれど、私なりに理解できたことを書いておこうと思います。


    ・高齢者の医療は、「病気」と「老化」の線引きが難しい。医療が介入しても、現在の状態を維持する、もしくは維持できなくなるのを先延ばしにすることしかできない(医療を提供すれば良くなる、と言う人たちは少ない)。

    ・血圧、糖尿、コレステロールなど、検査をして薬を飲む人は多いが、データをみても寿命を「1年程度」先延ばしにするぐらいの効果しかない。

    ・「寝たきり」になりたくない、「ピンピンコロリ」が理想、と言いながらも、健康を追い求めることで「老化」のみが残る。老化の先にあるのは「寝たきり」。

    ・「ピンピンコロリ」と「寝たきり」の間の「寝たきり」を模索する。

    ・むしろ「医療」を遠ざけて、「下り坂」の支援、をするのがいいのではないか。

    ・若い人でも疲れた時には休むように、高齢になり起きているのが大変になってきたら寝て休んでもいいじゃないか。

    ・高齢者は、老化のコントロールに失敗して「寝たきり」になるのではない。
    ・介護者の対応が悪かったために「寝たきり」になるのではない。
    ・ほとんどの人は、「寝たきり」になって「死」を迎えるのだ。

    ・「安楽寝たきり」のすすめ
    「寝たきり」は悪だという「呪い」からの脱却。(介護者に負担がかかりすぎないように支援する必要も含めて)

    ・そして、「ことほがれる死」へ。


    現在の「健康で長生き」が当たり前と思われている時代に、すぐさま高齢者の医療を否定することが正解ではないでしょうし、その前に「寝たきり」の支援を充実させることも必要だけれど、老化を単なる「下り坂」なんだから仕方ない、と受け入れられるようになったら、楽になるのではないか、という考え方に目から鱗でした。

    医療が発達して「死ねない」時代、死が身近にない時代。少し見方を変えることでちょっと楽になる気がしました。


    親の様子を見ていて、「老化」が「不可逆な変化」であると、だんだん認識してきたときに読んだので、余計にしっくりしたのかもしれません。何もないときに読んでも、ふーん、と読み流していたかも。

    ちょうどいい時に、ちょうどいい本に出会えました。

  • 非常に面白かった。
    章が細かいので読みやすい。
    80を越えた人の訃報にも「ショック」「まだまだ活躍して欲しかった」という反応に常々違和感を抱いていた。
    医療、介護の視点から一つ一つ疑っていくこの本はとても説得力がある。
    それでも怖いし安楽というわけにはいかないだろうけど、考え方の獲得として多くの人に読んで欲しい。

  • 医療に対する向き合い方を見直させられる一冊。「寝たきりになったら困りますよ」という言葉の背景にある、「寝たきり」に対する差別を認識させられました。まだ自分の言葉では表現しきれないような、ぐちゃぐちゃした感情が渦巻いています。医療と生活のちょうどいい距離感を模索したいです。

  • ・ピンピンコロリの人は少なく、狙って目指せるものでもない。

    ・多くの人は寝たきりを経て、死に至る。

    ・寝たきりは案外、多くの人が忌避するほどには辛いものでもないことが多い。

    ・死を避けるのでもなく、自殺や安楽死のように過剰に死を求めるのでもなく、自然に死ぬ形が良いのでは。

    ・個々のケースではすでに達成されているが、社会がそのようには実装されていない。

  • 医学書というより、一般向け啓蒙書と言った方がよさそうな、名郷医師の新著。そのせいもあってか、より本音に近いところで語られている印象で、氏の目指す方向性に、ほぼ全面的に賛成である身としては、本書も『我が意得たり!』っていう部分がほとんど。”治療”っていうのと”先延ばし”っていうのでは、聞いた感じのニュアンスがかなり違ってくるけど、実際問題、医療の大部分は先延ばしだもんな。寝たきりをことほぎ、死にがいを求める世の中、きっともっと過ごしやすいものになると思うけど。もちろん、考え方の強要なんかは出来ないけど、本書で示されるのも一つの道として、市民権を得ても良いのでは、と。

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著者プロフィール

1961年、愛知県に生まれる。自治医科大学卒業。愛知県作手村国民健康保険診療所に12年間勤務。へき地医療や研修医教育を中心に活動し、2011年6月に西国分寺でクリニックを開業。地域家庭医療に従事し、20年以上にわたりEBM(エビデンスに基づく医療)を実践する。著書に『EBM実践ワークブック—よりよい治療をめざして』(南江堂)、『気負わず毎日使えるEBM超実践法』(金原出版)、『「健康第一」は間違っている』(筑摩選書)、『65歳からは検診・薬をやめるに限る』(さくら舎)など。

「2021年 『いずれくる死にそなえない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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