海炭市叙景 (通常版) [DVD]

監督 : 熊切和嘉 
出演 : 加瀬亮  谷村美月  竹原ピストル  小林薫  南果歩  三浦誠己  山中崇 
  • ブロードウェイ (2011年11月2日発売)
3.57
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感想 : 41
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4944285021489

感想・レビュー・書評

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  • 2010年 日本 151分
    監督:熊切和嘉
    原作:佐藤泰志『海炭市叙景』
    出演:谷村美月/竹原ピストル/山中崇/小林薫/南果歩/加瀬亮/三浦誠己/村上淳
    http://www.kaitanshi.com/

    港町の海炭市。幼い頃に両親を失くし、二人きりで生きてきた颯太(竹原ピストル)と帆波(谷村美月)の兄妹。しかし颯太の働く造船所が規模縮小、大勢の労働者がリストラされることになる。大晦日の夜、兄妹はロープウェイで山の上に初日の出を見に行く。帰りのロープウェイ代が一人分しかなく、兄は妹をロープウェイに乗せて自分は徒歩で下るというが…。

    古い家に猫と住む老婆は、立ち退きを迫られている。市役所に努める甥(山中崇)が勧告に来るがとりあわない。ある日、猫がいなくなり…。

    プラネタリウムで働く隆三(小林薫)は、夜の仕事を始めた妻・春代(南果歩)との関係が完全に冷え切っている。息子もまた家族に無関心。隆三は過去の幸福を懐かしむが、妻も子も彼の気持ちをわかってくれない。やがて彼は妻の浮気を疑い…。

    小さなガス屋の二代目社長・晴夫(加瀬亮)は、浄水器屋(三浦誠己)と組んで新しいキャンペーンを始めるも上手くいかない。豪華な新居に越したばかりだが、妻に対してはモラハラ夫でさらに浮気もしており、そのストレスから妻(後妻?)は息子のアキラ(小山燿)を虐待している。何もかもうまくいかない上に晴夫は仕事中に怪我を負い…。

    浄水器屋の萩谷もまた鬱屈を抱えている。なけなしの金で飲みに行った店では、くだをまく酔っ払いが、常連客らしき男(村上淳)に追い出される。萩谷は酔っ払いに同情する。路面電車の運転士をしている父親と、母親の墓参りで久しぶりに再会する。大晦日の夜、父親の運転する路面電車には、颯太兄妹や、晴夫父子が乗っている。そして元日の朝、帆波の兄はついに戻らず…。

    函館をモデルにした架空の街・海炭市を舞台にしたオムニバスストーリー。やたらと映画化される佐藤泰志作品、小説は1冊も読んでいないのに、映画はこれで4作目(そこのみにて光輝く、オーバー・フェンス、きみの鳥はうたえる)

    一応舞台は現代にうつされているので皆スマホを持っていたりするけれど、そのことに違和感をおぼえるくらい、全体的な佇まいは昭和。貧しくても、貧しくなくても、人々はみな生活に鬱屈を抱え、地を這うようにして生きている。とにかく物悲しい。演者が皆はまっていて、余計に哀愁もひとしお。

    ある意味救いのないお話ばかりなのだけど、不思議とそこまで絶望的な気持ちにはならない。みんなこうやって、生きていくしかないんだよなあ、という諦念のようなものが、少しだけ希望に転嫁する感じ。そろそろ原作小説も読んでみるかなあ。

  • この作品に限ったことではないけれど、たとえば雑然とした小汚い部屋で一人でご飯を食べる姿を引いた絵で撮って寂しさを強調するようなシーンを見かけると、僕はいつも「これって見た目ほど悲惨なことなのだろうか?」と思う。これって見た目ほど悲惨なことなのだろうか。彼らは本当に画面に映し出されている印象ほど寂しくて不幸なんだろうか。

    そうした視点は彼らの寂しさを理解しているように見えて、実際は寂しさを押しつけているように感じる。彼らに寄り添っているように見えて、本当は自分にとって都合の良い不幸を他人に強要しているだけなのではないか。『海炭市叙景』から僕が受けた印象はそれと似たものだった。

    みんな一様にしめっぽく、ぼそぼそと暮らしているように見える。竹原ピストルの笑顔は人が良さそうに見える。猫と暮らす老婆は寂しそうに見える。

    けれども僕にはそれがどこかまったく別の場所で別の暮らしをしている人間が勝手に想像で創りだした、カギ括弧付きの「地方の寂しい人達」という類型的なモデルのように思えてならなかった。

    たしかにそれっぽくは見える。でもそんな人達は本当にいるんだろうか?そんな風にわかりやすく「寂しい人達」なんてどこにもいないのではないか?もっと別の形をしているのでは?そういう疑問が頭に浮かんで最後まで消えなかった。

    断片的にぼんやりと描かれる彼らの内面に自分を好きな形で投影して共感する、というこの映画の構造は好き嫌いがはっきり分かれるところだろうと思う。ある意味で鏡のようになっていて、だから僕自身はこの映画を好きにはなれなかったが、それでもこの映画に登場した彼らはきっと誰かにとって自分を重ね合わせる触媒になりえるんだとは思う。

    この映画のキャッチコピーが「わたしたちは、あの場所に戻るのだ。」というものだと知って、なるほどという感じがした。

    加瀬亮はとても良かった。

  • 結局、みんなどうしようもないところで生きている。
    5つの話のオムニバスとなっている作品なのだけど、海炭市というひとつのさびれた地方の街の中の、人々の虚しさとほんの少しのたくましさが始めから終わりまで感じられる。
    エキストラの出演が多く、函館市に住む人の協力があって成り立っていると知って驚いた。綺麗な街をアピールする場面はどこにもなく、霧がかかったような港、雪に埋もれた家、知らないふりをされたように静かに走る路面電車。
    小さな映画館を出て、さびれかけた商店街を歩いて家まで帰り、なんだかとても泣きたい気持ちになった。

  • 画面的にも心情的にも、どんよりと曇った2時間半であった。

    不遇の作家と言われる佐藤泰志の、18の短編からなる同名小説が原作とのこと。

    登場人物たちを、短くひとくくりに表現すると、全員が「不幸」である。

    町ぐるみで、映画『ブルーバレンタイン』が淡々とくり広げられているような、観ていて、決して楽しい気分になれるタイプの作品ではない。

    しかしそれでも、ほとんどの人物が腐っていないのがこの映画の救いであり、それゆえにこの侘しさに浸ることが、自浄作用になる。

    小説のほうは、作者の自殺をもって未完となったそうだが、意志を継いで、この映画で作品が完結されたと言ってもいい出来だった。

    老婆と猫のエピソードにその心が重ねられていたように思う。

  • 時代においていかれようとしている小さな街で、大切な存在を失いかけている小さな人びとがいる。彼らが大きな声で感情を表すことはない。辛うじて繋ぎ留めているものが壊れてしまいそうだから。それでも喪失はすでにここにあるのだ。
    隣で初日の出を眺めているのに、すでに失われているような恋人の顔、子を宿した猫の腹の重さ、ふいに交差する記憶の手触り、それでも毎日を運んでいく電車のアナウンス。架空の街、架空のキャラクターなのに、この場所をたしかに知っていると思う。一人ひとりの暮らしぶりをそっと見つめるような映像が優しい。それぞれの家の台所や居間に、職場に、彼らなりのやり方で生きてきた時間の蓄積がたしかに感じられる。
    素晴らしい俳優、脚本、カメラ、すべてが見事につなぎあわされて、架空の街の物語を現実以上の現実にしている。傑作。

  • 「そこのみにて光輝く」の映画を見、しばらくして原作を読んだころに、岡崎武志さんの「読書の腕前」で名前を見かけた。
    あのエッセイでは特定の少数にカルト的に読まれていた過去があるらしいが、すでに代表作が文庫化、映像化も続々進んでいる。
    夭逝という肩書きがなければ見いだされなかったかもしれないし、長生きすればさらに活躍したかもしれないし、なんとも言えないが。

    群像劇という程度しか前知識を入れずに鑑賞。
    夫婦? と勘ぐってしまうような兄妹の挿話から始まり、随分と年季の入った婆さんの挿話の途中で、あーこれは係わりのない群像劇だと勘付きはじめ、陰気臭男こと小林薫の挿話になったころには核心した。
    その後、ガス屋の若社長の挿話、東京戻りの浄水器営業マン、と続くが、どれも陰気かつ美しい。
    兄妹が見た初日の出の美しさと、その後に兄が遭難する山の重暗さが、その後ずっと通奏低音になっていたと、終盤で気づかされる映画的マジックがある。素敵だった。

    少しだけ劇的・作為的・芋芝居なところがあるが。

  • よく分からなかった。ただ何家族かのプライバシーを垣間見ただけ感覚。暴力が苦手なのに、それを知らずに観てしまっった。

  • 寒い町の人たちの年末年始。みんな不幸で、これは生き地獄八景なのか、と思って見たが、話が進むにつれ、それだけにおさまらない滋味を感じるようになった。些細な救いも見出せるからだろう。日の出、日の入りのシーンはロメールを思わせた。あと、あがたさんが喫茶店のマスター役で出ており、浄水器を売りつけられかけていた。函館ゆかりの映画ゆえの出演かな。

  • 何も無いんだから
    自由なはずなのにがんじがらめ

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