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- / ISBN・EAN: 4988104083968
感想・レビュー・書評
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最初から最後まで食い入るように観てしまいました。映像構成によって虚実を巧みに融合させることで、スリリングに、そして妖しく美しく、容赦なく人間の隠れた欲望や不満を暴き立てて堕としていく様が見事。徹頭徹尾、不穏で、不可解で、曖昧なまま終わるのも、いかにもフランソワ・オゾン監督らしい。
高校教師のジェルマン。彼はある日、生徒のクロードが書いた作文に心惹かれる。
クロードがクラスメートであるラファの家を訪れた時のことを綴ったものだが、クロードが覗いてみたかったという「普通の家庭」と、それを眺める自らの危うい心の内の独特で緻密な描写が彼を惹きつけた。そして、文末には「続く…」の文字が。
続きが気になってしょうがないジェルマンは、クロードに作文の個別指導をはじめる。
クロードは、毎日のようにラファの家に通い、そして、それを基にして毎週続きを書くようになる。
しかし、その内容は、どこまでが嘘でどこまでが本当かわからないが、どんどん危険で、そして、それ故に魅力的なものになっていく。
やがて、思う存分愛する文学を語り、高レベルの指導をし、それによってうまれる優れた作品をいち早く読み、そして、他者の家を覗き見する快楽に溺れたジェルマンは…。
ラファとジェルマンの二つの家庭をもてあそんで楽しむかのようなクロードの姿は、不気味。けれど、その美貌と謎めいた雰囲気も相まって、妖艶で、蠱惑的で、魅入られずにはいられないのです。彼の本心が最後までわからないままなのも、この物語の吸引力を高めています。
長年内に秘めていたはずの様々な不満や鬱屈、好奇心を、クロードに巧妙に刺激されて利用されて堕ちたはずのジェルマルが、意外にもそれなりに幸せそうに見えるのも、強い印象を残します。人は自分の本質を理解してくれる人には弱いということの暗喩なのでしょうか。
いかにもオゾン監督らしい、謎と蠱惑の世界が楽しめる人向けの作品です。
けれど、虚実入り乱れる映像の大胆な構成と、どんどん進む展開の速さの融合のおかげで、最後まで中だるみなく刺激的に楽しめるので、オゾン作品に馴染みのない人の入門版としても最適な気がします。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
作文添削をしていた冴えない高校教師ジェルマンはクロードという生徒の作文に心を奪われる。ジェルマンは彼に小説の書き方を指導することにするのだが…
派手な展開で見せる、という映画ではないですが面白かったです!
話の展開としてはクロードが持ってくる作文をジェルマンが批評していくというもの。毎回クロードの作文は「続く」で終わり、そこまでの感想をジェルマンが言っていくわけですが、
自分が小説好きだからかどうかはわかりませんが、クロードの書いてくる小説に自分もジェルマンと一緒に突っ込んだり、「そっちの方向にいっちゃうのか~」と思ったり、
そんな風に楽しんで見ることができました。
そうしているうちに、小説の出来事が本当に実際にあったことなのか、それともクロードの創作なのか分からなくなってきます。
そして、ジェルマン自身クロードの小説が気になるあまり思わぬ行動をとってしまうことに…。
小説の続きが気になるジェルマンの行動はそこまで入れ込まなくても、と思う反面、アニメやマンガの続きが気になったり、長い小説を続きが気になるあまり深夜まで一気に読んでいる自分としては、
他人事とは思えないところもちょっとありました。案外映画好きより小説好きの方が感情移入できる映画かもしれないですね。
それとクロード役の少年の美青年ぷりもよかったです。やっぱり外国人には外国人にしかない色気があるなあ、としみじみ思いました。 -
個人的にこの邦題は好きじゃないな。陳腐なミステリーみたいで。
内容は教師と生徒というか読み手と書き手の繊細な駆け引きという感じなので、謎めいた原題の方がしっくりくる気がする。
創作にはミューズの存在が必要な場合があるけれど、クロードにとってのミューズはラファではなく『王』である読み手。では書けなくなったジェルマンのミューズはクロードなのか。
読書も映画鑑賞も作り手と受け取り手の共犯で成り立つ。作り手は受け取り手の望むものを提供しているのだからこの物語の結末はジェルマンが望んでいたものなのだろう。
起きていることはさほど派手なことではないので退屈する人もいるだろう。でもフランソワ・オゾンにしては難解な内容ではないので観やすいと思う。 -
作文の添削ばかりで刺激のない毎日に嫌気が差している高校の国語教師ジェルマン(ファブリス・ルキーニ)は、クロード(エルンスト・ウンハウアー)という生徒が書いた同級生とその家族を皮肉った文章に心を奪われる。その秘めた文才と人間観察能力の高さに感嘆したジェルマンは、彼に小説の書き方を指南する。かつて諦めた作家になる夢を託すようにして熱心に指導するジェルマンだが、クロードの人間観察は次第に過激さを増すように。そして、その果てにジェルマンを思わぬ事態に引きずり込んでいく。
現実なのか虚構なのか分らなくなる展開が秀逸。ジェルマンがクロードに翻弄されていく様がスリリングで引き込まれます。美しくも危険な香りがするクロードとラストシーンが印象的です。 -
映画を見ているのに
小説を読んでいるみたい。
なんでかな、
映像を見ているのに
さらなる想像を求められているからかなぁ。 -
オゾン作品は裏切りませんね!いやむしろ、裏切られまくって、観終わった後はいつも疑問符でいっぱいになりますが!
フランス映画は大好きだけれど、いくつになってもフランス人のメンタリティー(いわゆるエスプリ?)は一生理解できないんじゃないか、とも思ったり。
元がスペイン語で書かれた舞台ということもあり、登場人物が少ないです。邦題よりも原題、dans la maisonの方がしっくりきますね。含みがあるというか。
ファブリス・ルキーニがさすがの貫禄です。どこかユーモアを感じさせつつも、哀愁や挫折感を漂わせるあたり、演技に深みを感じます。彼が情熱的に生徒の作文を指導すればするほど、過去の栄光がちらつく。それについての描写は、ほとんど皆無だというのに。想像力をかきたてる、というのは使い古された言い回しではありますが、映像で、役者さんが描かれていない人生の厚みを見せてくれると、嬉しくなります。一瞬と一生が交差する、そんな感覚。
エステル役のエマニュエル・セニエのぼんやりとした視線や、優しく微笑んでいるのにどこか悲しげな口元、と対照的な、キャサリン・スコット・トマスの赤いフレームのメガネ、ショートカット、話すと筋の出る首元(皺ではなく)。
エルンスト・ウンハウアー演じるクロードが書いた物語が、どこまでが現実でどこまでが虚構なのかは、永遠に謎のまま。結局、彼の結末はどこまで彼が望むものだったのか。
エルンスト・ウンハウアーがべらぼうに美しかったです。繊細さや残酷さ、脆さや無謀さを内包しつつも、あまり目立たない生徒のひとり、を崩さない彼の立ち居振る舞いは素晴らしかった。薄い唇で笑うと、天使にも悪魔にもなれる。ルキーニの演技はもちろん素晴らしかったですが、この作品はウンハウアーによるところも大きかったのだろうなと思います。と同時に、ウンハウアーを良く活かせたオゾンとルキーニにも脱帽。
エンディングが意味するものが何なのかは結局明かされないままですが、クロードは家族を欲しているのだろうな、というのは瞭然だと思うので、クロードは「誰を」本当に欲していたか、なのかなと。クロードに絡みとられてしまったのは、ジェルマンなのでしょうね。
中だるみもまったくせず、とても良い映画でした! -
フランソワオゾンのセンス、好きだなーと再認識した作品。
現実と幻想が錯誤し、淡々と語られる流れるように進む様は観ていて気持ちが良かった。主人公のクロードがミステリアスで美しい。
意味や意図を考えるのはナンセンス。原題は家の中だそうで、絶妙な邦題!
物語を紡ぐ美しい少年がリアルなのかそうでないのかの、同級生や担任教師の周囲を巻き込みながらギリギリのラインで描き、どういうラストを迎えるのか楽しみにしていたのだが、こうきたかというラスト。まさに現実は小説より奇なり。