- Amazon.co.jp ・映画
- / ISBN・EAN: 4571390739628
感想・レビュー・書評
-
綾野剛、菅田将暉、池脇千鶴という豪華出演陣による本作品。
先ほど録画していた「MIU404」を観ていて、その後今日も何か映画を観るかー、とAmazonプライムのウォッチリストを徘徊。「MIU404」で共演している二人を見たくなって鑑賞。
人懐っこくて短気、その日暮らしの生活を送る拓児を菅田将暉、
過去から抜け出せない、苦しみを抱える達夫を綾野剛、
家族の生活のために身体を犠牲にする拓児の姉、千夏を池脇千鶴が、それぞれ好演!
閉塞した田舎町で、欲望と憎悪と暴力性が、人々の心の中を渦巻いている。
そのエネルギーは、発出の場所を探している。
何もない田舎町、それらはさまよい、出口を失い、屈折し、いつしか人間に向かう。
中盤から、拓児のその人懐っこさは牙をむく。彼は、勝手に向けてきた人懐っこさを、なすりつけてくる。
達夫の過去も明らかになり、千夏が抱えている家族の秘密も明かされる。
3人それぞれが、現状に折り合いをつけられずにもがき苦しんでいる。
みんな、そうじゃない自分を思い描き、あの頃の、そうじゃなかった自分に思いを馳せる。
けれどもう、後戻りできないし、先へ進むには現状に立ちふさがる壁が高すぎて進めない。結局、今の苦しみからは逃れられない。
ここに、屈折したエネルギーの力が加わる。
「そこのみにて光輝く」
三者にある、「そこ」とは。
悪いセックスはほどほどに、良いセックスはこれでもかというくらい堪能させてくれる。
そんな心遣いを感じました。 -
私には‘辛い’想いのみ残った作品でした。
共に‘訳あり’の境遇に有る男女が惹かれあって行く様を描いた作品でしたが、評価の高い作品を観る以前の胸弾んだ想像とは異なってしまった鑑賞後の印象でした。
池脇千鶴さんがお気に入りだった私には彼女のあの姿は観たくなかった。そんな姿を含めリアル感溢れる青春の姿を見事な演技陣が見せてくれた作品で高評価は理解できますが本当に辛かった作品でした。 -
池脇千鶴が良いと言うので観ました。
自分の中の『日本映画』という物そのもの、という印象。
主題に閉塞感・行き詰まり感が入っているところ。そして画面が暗い。
役者たちの演技力が素晴らしく凄まじかった。
特に菅田将暉、先日アニメ「打ち上げ花火、上から見るか下から見るか」でなんだこの下手くそは、と思った人だとは信じられない。
バカでうるさいだけの青年の心の機微をこんなにも演じることができるものなのかと。怒りのシーンの迫力に打ちのめされた。
それからラストシーンの池脇千鶴の美しさと、タイトルが表示される余韻がほんとに印象的で、ああ、これは芸術だと思った。
それとやっぱり海中シーンが良かったな〜。
ストーリーも嫌いではないけど、なにより画作りについて素晴らしいと思った映画でした。 -
約1年前に小説を読み、自分のベスト10小説に入ると思い、映画の評判を聞き及び期待値も高いという、辛口になりがちな状態で見たにもかかわらず、あぁ、いい映画だ!と感嘆詞をつけずにはおれない。
彼女が彼女なりのやり方で一生懸命生きている場所、つまり、脱することをどこか自ら頑なに拒否しているかのような貧しく(映画ではちょっと強調され過ぎた感のある)おぞましい家族の境遇を、私は「そこのみにて」の「そこ」だと理解したのだが、ラストの海岸のシーンで、朝日が当たって彼女がほほ笑む「光り輝く」シーンが、悔しいほど腑に落ちるようにえがかれている。
彼女の、水商売の匂いがする疲れた感じの身体にただよう色気と化粧っけのない潔い顔のコントラストがいい。
貧乏と情のループにとらわれているかのようにみえて、どこかでしがらみに甘んじているようにみえる彼女。その袋小路から積極的に出ようとはしないが、なんとも健気に生きている彼女に、私も主人公の佐藤同様、すごく惹かれるのだ。なんていい女なんだろう。
彼女が輝いて見えたのは、泳ぐシーンと、佐藤が山に行く決意をし彼女を家から連れ出すと告げたとき、そしてラストの、悲惨だけど新しい展開を予感させる瞬間。それ以外のときは彼女はほとんど自分の望んだのではないことをしている。
生きるために「処理」でしかない性をこなしてきた彼女が彼と「愛をかわす」濃密なシーンはこの流れでは欠かせないし、効果的だ。
綾野剛は演技も素晴らしかったし美男だが、私は小説から一貫して、彼女の一挙手一投足に目が釘付けである。諦念の中で精いっぱい生きてかわいくて自分がしっかりとあって男に媚びたり迎合したりしない。彼女の境遇が辛ければ辛いほど輝きが増すようだった。私は彼の目線でずっとこの物語をみていたのだと今になって思う。
彼女は、自分を救い出させることによって彼自身を救う。そういう女。 -
佐藤泰志の同盟小説を映画化した作品です。
閉鎖感ただよう水の町で無為で無気力な日々を
送っていた主人公の運命が社会の底辺で行き場
を失った一組の姉弟との出会ったことによって
少しずつ動き出していく姿を描いています。
仕事辞め堕落した生活を送る達夫は、家族を養
うために必死で働く千夏と出会います。二人は
惹かれ合うが、そのことが千夏の弟や愛人など
周囲の人間に波紋を広げ悲劇を招いてしまう。
綾野剛と池脇千鶴が互いを求める男女の切実な
思いを体を張った大胆な演技で表現していまし
た。二人の演技が見物です。 -
登場人物の殆どが心に傷や闇を抱えながら生きています。観ていて救いようのない気分に陥ります。それでも、何かにすがろうとする登場人物たちに感情移入をします。キャストの方々の熱演、素晴らしいです。私的には、池脇千鶴さん。いい役者さんだと思いました。
-
キネマ旬報で2014年の日本映画ベストテン第1位、第38回モントリオール世界映画祭でも最優秀監督賞を受賞している。
佐藤泰志(41歳で自死)の小説の映画化であるが、函館を舞台に、原作の重い空気感を生かしながら、密度が濃く、完成度の高い作品に仕上がっている。
呉監督は最初自分で脚本を書き始めたが長くなりすぎてうまくゆかず、高田亮に預けたという。さりげない会話の中に、ドキッとさせられるセリフが随所にあって、脚本の上手さが光る。
「女の顔して・・・」
「元から女ですけど・・・」
主人公と恋人、その弟という3人の役者の演技は息が合っていて見応えがある。達夫を演ずる綾野剛は、まだ若いのに背中で演技のできる俳優だ。自分自身を外から俯瞰する眼差しを獲得しているのだろう。恋人夏子を演ずる池脇千鶴は、表情の豊かさが魅力的だ。達夫とは対照的な憎めない男拓児を、菅田将暉が見事に演じている。思ったことをすぐ口に出し、行動に移してしまう屈託のなさが達夫には好ましく映ったらしいことが伝わってくる。
足、痣、自転車、墓、アジサイ、鼻歌、流れる血・・・。様々の暗喩に溢れる映像は、映画的な魅力で光輝いていて、奥行きがある。心に傷を負った青年達夫は底辺に追いやられた家族と出会うことで、人との繋がりを取り戻す。繋がりとは身体と身体のぶつかり合いであり、「絆」などというやわで薄っぺらなものではないということを思い知らされる。
人は一人では生きて行けないという自覚に至る、回復と家族誕生の物語である。『そこのみにて光輝く』という題名は、どん底にある家族の中にこそ人間の本質が垣間見えることを暗示している。
今は亡き原作者佐藤泰志は、自分の作品が30年後に光輝く映画作品となって生まれ変わったことを墓場の陰で喜んでいるに違いない。
蛇足ながら、『キネマ旬報(2014年4月上旬号No1659)』に掲載されている綾野剛のインタビュー記事と四方田犬彦の批評を読むと、この映画の輝きがさらに増すことは間違いない。 -
ある出来事がきっかけに仕事を辞め、目的もなく毎日を過ごしていた佐藤達夫(綾野剛)は、ある日パチンコ屋で使い捨てライターをあげたことをきっかけに、粗暴だが人なつこい青年・大城拓児(菅田将暉)と知り合う。
拓児に誘われるままについていくと、そこは取り残されたように存在している一軒のバラックだった。
そこで達夫は拓児の姉・千夏(池脇千鶴)と出会う。
互いに心惹かれ、二人は距離を縮めていくが、千夏は家族を支えるため、達夫の想像以上に過酷な日常を生きていた。
それでも、千夏への一途な愛を貫こうとする達夫。
達夫のまっすぐな想いに揺れ動かされる千夏。千夏の魂にふれたことから、達夫の現実が静かに色づきはじめ、達夫は失いかけていたこの世界への希求を取り戻していく。そんなとき、ある事件が起こる。
佐藤泰志の傑作小説の映画化。
山での落盤事故をきっかけに明日を考えず生きる達夫が何気ない幸せを諦めていた千夏と地を這うような暮らしをしている拓児と出会い、少しずつ家族として千夏や拓児と生き直そうとする達夫や達夫と愛し合って生きようとする千夏や仮釈放中で姉の千夏の世話になりっぱなしの生活から抜け出そうとする拓児の再生と希望と絶望をドキュメンタリータッチで描いたストーリー、仕事があまりなく函館の実力者にすがらなくては人並みな暮らしが出来ないし痴呆症の父親と仮釈放中の弟を抱え体を売りながら暮らしている千夏と姉を愛人として弄んでいるのを知りながら仮釈放の身柄引き受け人の植木屋の社長に取り入りながら這い上がろうとしている拓児の閉塞感、達夫と拓児の義兄弟のようなマブダチのような男同士の友情、綾野剛の漂うような淋しさ、池脇千鶴の生活や人生に疲れた女の色香、菅田将暉の人懐っこいヤンチャさ、地を這うような生き方をしながら精一杯生きる希望を求めて生きる人が息づいている傑作ヒューマンドラマ映画です。
こんばんは!
コメントありがとうございます。
そうですね。原作についての知識がほとんどなかったので調べてみ...
こんばんは!
コメントありがとうございます。
そうですね。原作についての知識がほとんどなかったので調べてみたのですが、佐藤泰志さん、お若くして亡くなられたのですね…
本作品のみならず「きみの鳥はうたえる」「オーバー・フェンス」はいずれも映画が気になっていた作品で、今回魚雷屋の読書録さんのコメントがなければ佐藤泰志さんだと気がつかなった作品かもしれません。ありがとうございました。
どの作品も明るくはない空気が漂う作品であることと、佐藤泰志さんが若くして亡くなられたことを、どうしても重ねて考えてしまう自分がいます。
長々とすみませんでしたm(__)m