石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門 [Kindle]

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  • 文藝春秋
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感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。
    副題の「エネルギー情報学入門」の通り、エネルギーについての基礎知識が短時間で得られる新書。

    実際、我々は、石油について、説明できないことが多い。
    例えば、
    なぜ、日本は高いLNGを輸入しなければならないのか?
    なぜ、ロシアや中国ではなく、米国でシェールガス革命が起きたのか?
    なぜ、石油の埋蔵量はゼロにならないのか?


    著者は、三井物産入社後、一貫してエネルギー事業に携わってきたサラリーマン。エネルギー論議になると、原発の是非といったバイアスがかかってしまう場合があるが、この本は、実務の中心で働いていた人が書いているだけあって、記述は客観的で分かりやすい。
    石油の先物取引については、分かりにくい部分もあるが、これは誰が書いても分かりにくいだろう。

    現在の原油安が始まる前に書かれた本なので、原油安に関する直接的な説明はない。しかし、その世界的な影響について考察するだけのヒントは与えてくれる。
    読んで損はない★4つ。

  • 著者の岩瀬昇氏は三井物産に入社後、三井石油開発に出向し、世界各地で海外勤務を行いながら、エネルギー関連業務に携わってきたエネルギー分野のエキスパートといえる人です。
    本の内容は大雑把に言うと副題のエネルギー情報学入門としての、教科書的な印象が強いかなと思いました。
    更にいえば著者は石油関連が一番知識豊富とは思いますが、それ以外のエネルギーに関してもイデオロギーに囚われず、公正に分析をしております。
    エネルギーに興味のある方には読んでほしい内容でした。

  • 石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?
    エネルギー情報学人間

    著者 岩瀬 昇
    2014年9月20日発行
    文春新書

    なぜ石油埋蔵量は増えている?

    著者が三井物産に入った40数年前、いわゆる石油埋蔵量は30年と言われていた。今は、50年強となっている。
    そういえば、石油の埋蔵量って、50年とか言われていたのに、今も変わってないなあ、と思っている人は、多いのではないか。なぜだ?

    我々の誤解は、埋蔵量とは、地球に埋まっている原油の総量だと勘違いしている点ようだ。地中に存在するすべての炭化水素量は「資源量」といいい、不確実性の高い順に「未発見資源量」、「推定資源量」、「原始資源量」と呼ぶ。
    さらに、一番確実な「原始資源量」のうち「技術的に回収可能な資源量」というのがある。「埋蔵量」とは、この「技術的に回収可能な資源量」のうち、通常の方法で経済的な採掘が可能なものを言い、回収可能性の度合いに応じて「確認埋蔵量」、「推定埋蔵量」、「予想埋蔵量」という。一般的には90%以上の回収可能性がある場合を「確認埋蔵量」といい、50%以上の場合を「推定埋蔵量」、10%以上の場合を「予想埋蔵量」と呼ぶ。
    通常、「埋蔵量」と言うとき、それは「確認埋蔵量」を指し、ほぼ全量を、経済性をもって生産することが可能である。

    つまり、我々が「埋蔵量」と勘違いしていたうちのほんの一握りが、本当の「埋蔵量」だったわけで、これは新しく発見されたり、回収技術が開発されたりしたら、どんどん増えていくことになる。

    最近、シェールガスの登場により、天然ガスの価格が下がっているはず。でも、日本の電力会社は割高な石油リンク価格で買わされている。アホなんじゃないか?と批判が出ているが、そのからくりも書かれていた。
    天然ガスは、出てきたとしても、陸続きでないところにはLNGという液化天然ガスにして、タンカーで日本に運ぶ必要がある。ガス田の開発、現地にLNGのプラント建設、タンカーの建造などが必要で、1兆円ほどかかる。当然、銀行が中心となってファイナンスを組成するが、厳しい条件がつく。豊かな埋蔵量だけでなく、長期にわたって買い取ってくれる契約が必須。また、もし買い取れなくても一定の代金を払うという条件もつける。そして、他社への転売禁止という条項もある。
    日本の電力会社は、そうした条件をのまないといけない。スポットで買えばいいじゃないか、とも思うが、スポットはいつ生産が止まるか分からないので、電力の安定供給が条件の日本の電力会社はそれに頼れない。

    本の内容をすべて信じてはいないが、なかなか厳しい状況にはあることが分かる。

    ほかにこの本には、石油価格のイニシアティブが、セブンシスターズといわれた石油メジャー →OPEC →商品市場と変化していった歴史も書かれていて興味深い。

    今後のエネルギーについても考えている。
    一番、興味深かった点は、
    我々は電気こそエネルギーだと思いこんでいるが、これも誤解のようだ。
    二次エネルギーの一つである電気は、投入エネルギーこそ43%だが、発送電ロスが大きいため、使用エネルギーの中の4分の1程度でしかない。さらに、発電ロス、輸送ロス、自家消費等で最終消費に廻らない分が供給エネルギー量の約31%にも上っている。
    ということだった。

  • 筆者も書かれているように、エネルギーと言えば普段使う電気や石油しかイメージがなかった。しかし、現実にはそれら二次エネルギーの前に一次エネルギーが存在し、地下資源に乏しい我が日本では政治リスクも考慮した上で備蓄や調達をする必要がある。なんとなくは理解できたが、まだまだ入門。シェールガスが話題になる昨今再読に値する一冊。

  • 結論として、今後を長期的な視点で考える上で役立つ良書です。エネルギー、資源問題は現代人としてつきまとう問題のため本書はそれを考えさせる一冊でした。
    ディベートの課題図書として使いたい本です。

    著者はライフネット生命の岩瀬社長のお父様が書かれた本で、エネルギー業界に関わらない人間からすると資源の輸送インフラ整備、採掘のタームの長さ、中東・アメリカの関係性、シェールガスと新鮮な話ばかりでした。
    但し、1点最大の欠点を言えば単純な単語一つを取っても素人には分からない内容があり、それをいちいち調べるのが古典でもないのになかなかに大変でした。
    特にそもそもシェールガスって?液化天然ガスって定義ってなんなの?とか。

    エネルギーなしではもう生活できない現代人なら是非読んでおきたい1冊です。

  • OPECは2015年の原油見通しを日量2892万バレルと従来予想から28万バレル引き下げた。サウジアラビアは11月に8万バレル減らし、リビアの政情不安などを背景に10月から39万バレル減少したというがそれでも、3005万バレルあり来年見通しは更に100万バレルの原産になる。サウジアラビアのシェールつぶしという話もあるがそれ以上にロシアやベネズエラが苦しんでいる様だ。

    2014年4月エネルギー庁が中心となり「エネルギー基本計画」を策定したが著者の岩瀬氏はその内容に違和感を覚えたという。「国の根幹に関わるエネルギー基本政策が、エネルギーミックスに関する比率目標を持たず、もっぱら電源エネルギーをどうするかを中心にきじゅつされているからだ。また、我が国における「緊急事態」「非常時」が「3.11」のように国内でしか発生しない前提で書かれているのも気になる。エネルギー基本政策とは、「根本的な脆弱制を抱えている」一次エネルギーをどうするか、から始まるのではなかろうか。地下資源に乏しい我が国が先ず考えるべきは、一次エネルギーをいかに確保するか、であろう」

    日本の一次エネルギー比率@2013(BP統計集2014)は石油44.1、ガス22.2、石炭27.1、原子力0.7、水力3.9、再生エネルギー2.0となっている。原発が稼働していた2010と比べると石油+4、ガス+5、石炭+2.4、再生+1で原子力の減を補った。次に消費の面から見てみると2011年で投入が21.1百万テラJに対し最終消費が14.5百万、6.6百万がロスとして熱になって消えている。2次エネルギーでは発電で投入が9.2百万に対し発電ロスが5.4百万で自家消費と送電ロスを除くと電力として使用されるのが3.4百万このうち百万が産業用で、家庭が同じく百万、民生の業務用が1.2百万ほどだ。最終消費は民生家庭が2.1百万、民生業務が2.9百万、運輸旅客が2.1百万、運輸貨物が1.3百万そして産業用が6.2百万となっている。電気が足りる足りないと言ってるのは一次エネルギー投入からすると16%ほどのことなのだ。運輸と産業用はまず石油が一番で鉄鋼などは石炭が必要になる。石化製品も石炭や天然ガスから作られるC1ケミカルが増えて来ているとは言えまだまだこれから。

    日本が高いLNGをスポットで買っているのもちゃんと理由がある。元々天然ガスは消費地が近くにないと輸送と貯蔵に問題がある。天然ガスのほとんどは生産地で消費されており、貿易量は生産量の30%さらにその70%がパイプラインで輸送されている。LNGは生産量のわずか10%しかなくそのうち37%が日本向けだ。日本では公害対策として発電用に使われたのがきっかけのため原油連動になった。電力価格が原価積み上げ方式だったため天然ガスも熱量等価で原油リンクとしたわけだ。その後アメリカでは天然ガス先物市場が確立しスポット売買が始まるとともに価格も日本向けとはリンクしなくなっていった。現物決済をしなくていい先物市場ができたからこそ、買い手の決まっていない天然ガス開発プロジェクトも進められる様になった。天然ガス田の開発プロジェクトをするためにはどうやって需要地まで運ぶかもセットになり新たにパイプラインを作るにせよLNG基地とタンカーを作るにせよ1兆円規模のプロジェクトになる。売り手ー買い手と輸送方法がセットできないと銀行団のファイナンスが組成できない。これが長期契約の日本のLNGが高いといわれた原因となっている。

    中国の空気汚染の大きな原因は石炭だがこれも多くは国内で消費され世界最大の産出国の中国も輸入している。輸出余力があるのはオーストラリア、インドネシア、ロシアと南アぐらいしかない。これにアメリカ、インドを加えると世界生産の9割ほどになる。一次エネルギー全体では上位13カ国で需要の7割を消費している。中国とアメリカの2国で4割、5位の日本が3.7%となっている。産油国のイランとサウジが11、12位でイギリスよりも多いのが興味深い。日本が誇れるのはエネルギー効率でGDP当たりのエネルギー消費を見るとドイツには少し負けるがイギリスやイタリアと並んで高い。一人2000キロカロリー程度を食事として消費している人類はそれ以外に22万8千キロカロリーを別の形で消費している。1900年代以降人口が爆発的に増え、寿命も延びたのは基本的にはこのエネルギー消費によって支えられている。気候変動の対策が必要とは言えそうそうエネルギ消費を減らすことは出来ないし、途上国の人口増と経済発展は更なるエネルギーを要求する。

    エネルギーミックスを考える上ではダニエル・ヤーギンが「探求」の中で1章を割いた第5のエネルギー「省エネ」がおそらく日本の最大の2次エネルギーになる。札幌地下鉄の様に暖房オフにするというのも一つの考え方だが、輸出できるのは快適な省エネ技術だろう。ノーベル賞を受賞した天野教授は青色LEDのGaNの技術を次世代パワー半導体に生かそうと研究している。交流から直流への変換やや変圧に使われるパワー半導体がどれくらいの効果かというと送電ロスが5%に対しスイッチングや変圧のロスは最大50%となっている。発電ではコジェネやコンバインドサイクルなどがあり個人的には高温超伝導送電なども楽しみだ。

    化石燃料に関してこれ一冊でおおよそのイメージがつかめ、あまり難しいことは書いていないお勧めの入門書でした。

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著者プロフィール

エネルギーアナリスト。1948年、埼玉県生まれ。埼玉県立浦和高等学校、東京大学法学部卒業。1971年、三井物産に入社後、2002年より三井石油開発に出向、2010年より常務執行役員、2012年より顧問、2014年6月に退任。三井物産に入社以来、香港、台湾、二度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクでの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。現在は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」の代表世話人として後進の育成、講演・執筆活動を続ける。
著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』『原油暴落の謎を解く』(以上、文春新書)など。

「2022年 『武器としてのエネルギー地政学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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