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- / ISBN・EAN: 4988104095640
感想・レビュー・書評
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The lunchbox (2013)
メインのストーリーより、インドの生活が垣間見えるところがおもしろい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
最近のインド映画の快進撃にはほんとに目をみはるものがありますね。多くの秀作が公開された2014年の締めに観たこの映画も、しみじみとした味わい深い佳品でした。
妻を亡くした後、他人と関わらず、感情も失ってしまったかのように会社と家を往復するだけの毎日を過ごしてきた初老の男サージャン。手違いで彼のもとに届けられるようになったイラのお弁当を、最初のうちは礼もなく批評していた気難しい顔のサージャンが、しだいしだいに心を奪われ、昼食時間を待ち切れずにそわそわと手紙を開くさまが微笑みを誘います。
イラとのささやかな文通と並行して、後任として配属されたシャイクも、早期退職を決めたサージャンの平穏すぎる日常をかき乱し始めます。押しが強すぎて気に入らない、しかし、いかにも若者らしい向こう見ずな希望に満ちたこの男もまた、サージャンの生活に精気を吹き込むと同時に、自分の若さが終わってしまったことをサージャンに深く知らしめることになるのです。
いつまでも恋愛とセックスを楽しみ、若々しくあってこそ人生なのだと主張するようなハリウッド映画を観すぎた観客にとっては肩透かしのようなサージャンの決断。元いた場所へと戻っていく彼の表情に諦念はあっても、それは決して苦く辛いだけのものではなく、ゆったりとした深さとほの甘さを伴っている。独りの家で隣の家族が食卓を囲むさまを見守るサージャンの表情には、実に実に繊細で奥ゆかしい味わいがたゆたっています。
そして、なおも心からさまよいだすあくがれを追いかけるようなラストシーンの、イラのたたずまい。ほんとうに、間違った電車に乗っても、正しい場所にたどりつけるのでしょうか。大都市を血球のようにかけまわるダッバーワーラーたちの歌声には、たしかに小さき人から神への切実な問いかけがこめられているように聞こえてくるのです。