順列都市〔下〕 [Kindle]

  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • ポール・ダラムという男は、自分の記憶をそっくり持ち込んだ<コピー>をデータ世界に送りこむという実験を繰り返すことで、永遠の生命に関する独自のアイデアを構築する。それはコンピュータが膨大なデータに対する計算能力には限界があるという課題を抱えたなかで、データ処理は遅くならざるを得ない。<コピー>たちが仮想世界のなかで生きる時間の流れは、現実世界より遙かに遅く進むということだ。たとえば現実世界に対して120分の1倍の速度で進むデータ世界があるとすれば、前者が1分経過すると後者は2時間経過することになる。このような考え方に基づき、コンピュータの演算処理を遅くすればするほど、現実世界に対するデータ世界の時間は永く進むわけだから、仮に現実世界の1億分の1の速度で動くのであればデータ世界では190年が経過する。この仕組みを突き詰め、1兆分の1では190万年というように、計算の遅延が進めば進むほど、データ世界は無限の時を刻むことになる。では自律的なコンピュータに計算を任せ、この遅延をさらに続けていくとどのようになるのか? それは<永遠の命の獲得に至る>とダラムは考えた。ただしこれを実現するには、そのスタートにおいても無限に大きなリソース(資源)を配置しなければならないことになる。そこでマリアというプログラマーに依頼し、原子の段階から生命の誕生という過程を経て惑星上に生命があふれる世界を構築するプログラムを作成してもらうことにする。ついにプログラムが出来上がり、誕生した<新世界>に入り込んだ大金持ちの顧客はわずか17名。彼らに対してはパーソナルな世界を提供しつつ、メイン世界には壮大な天地創造物語を組み込んだのだった。しかしそこに誕生した新しい知的生命体である<ランバート人>は生命や意識というものに対して、その見かけや生き方以上に、人類とは根本的に異なる思想を獲得していた。彼らと仮想人類(エリュシオンン人)との干渉による科学的背景の説明の乗り出したダラムたちは大きな挫折を味わうことになる。そしてダラムの作り上げた<仮想世界>は急速に崩壊しはじめる…。
    デビュー2作目にして壮大なスケールの物語を上梓したイーガン。残念ながら理系に疎く、物語の意味を十分に理解して堪能するとまでは行かなかったが、門外漢であっても理解可能な大筋だけで十分読むに値する。
    本書のコアは<永遠の時間の流れ>にある。哲学者のゼノンは、「飛んでいる矢は厳密な意味での<今>という<瞬間>には動かず静止している」と説いた。アリストテレスはゼノンの考えを掘り下げ、「どのようなものであれ、それ自身と等しい動きのものと対応しているなら両者はつねに静止している」と説いた。いわゆる相対速度のことだ。アリストテレスは続けて、「この議論は、時間が今の集積から成り立っているとの誤解から生じている」と説く。移動は時間の概念があってこそ成り立つが、<いずれの時点でも静止している>という概念に時間は存在しないからだ。イーガンはこの考えを逆手に取り、あるデータ処理を行う場合、時間が遅くなればなるほど処理は多く行えるという考えを思いついたのかもしれない。量子論など持ち出さなくも、あるいは時間の不可逆的流れに棹ささなくても、さらには多次元宇宙(世界)を前提にせずとも、なるほど、という仕掛けを用意してくれた時点で、物語を十分に楽しめた。

  • 後半一気に面白くなった。鳥肌が立ったのは、シミュレーションしていると思っていた側がシミュレーションされる側になっていると気がつく下り。仮想環境内のシミュレーションの話でありながら、神と人類の話としても読める。

  • 最高に面白かった!
    上巻でコピー記憶や人格をスキャンしてVR空間に自分のコピーを作れるようになった世界をなんとか理解したと思ったら。下巻ではそのコピーとして何百年(リアル時間では何千年)か過ごした後の主人公たちの世界が描かれていた。そのコピーがVR空間(作品中では呼び方が違う)のシミュレーションソフトで惑星を作ったら、知的生命体が誕生し、ファーストコンタクト物語が始まった。と思ったら、彼らの世界と自分たちの世界の主従関係(どちらがシミュレーションなのか)が逆転し・・

    という怒涛の展開。
    つたない言葉じゃ伝えきれない面白さ。

  • ダラムとマリアが作った世界が動き出し,7000年の時が経過。物語は順列都市を舞台にし,時を経て変化していったオートバースが問題になってくる。物語はやはり分かりにくかった。最終的に心に残ったのは,ありがちな倫理観とかそういった問題ではなく,永遠を生きるという哲学的な問題提起だった。

  • また面白いものを読んでしまった…
    正直前半パートというか、現実世界パートが結構長かったので、自分的には少しだれたのですが、その収束と、さらに発信後の世界でのファーストコンタクト、終幕に向けての流れは圧巻で舌を巻いていました。前半の中で出てきたオッカムの剃刀というか宇宙はその時に最善な理論を採用しているのであって、それを上回るものが出た場合は、そちらを採用するという理論、塵理論など、途中でなんだっけ?となりつつ、後半パートで回収された時の鳥肌。

    そして引き続きアイデンティティとは何か、自分とは何かという問い。コピーは自分なのか?気分を変える薬・記憶を調整しだしたらどこまでが自分といえるのか?そこの境目はどこなのか…といった問いがドストレートに扱われている。そういう意味でトマス、好きでした。
    正直ここまで技術が進む前に、自分というものがまだ確固として自分の手元にあるうちに、消えてなくなりたいと思います笑

    またイーガンそういうとこおしゃれすぎるツボを本作も私は押されていて、信頼感が高まっています笑
    「ボッシュ、ダリ、エルンスト、ギーガーといった画家たちのポスターでさえ、異様なものではなく、ごく日常的に見える」
    この前、『ブラッドミュージック』でもエルンスト出てきたけれど、グレッグ師弟好きなんだなあ笑

    「ボッティチェリやミケランジェロに対するメディチ家の偉大なるロレンツォのセル・オート万理論版」「ロレンツォ・デ・保険外交員?」
    「堕落しすぎ、罪をおかしすぎたマリアは、ひとかけらの同情も覚えられず、それならいっそ、何も感じまいとしていた」
    マリアーーーーーマリアも好きなキャラでした。ロレンツォ・デ・保険外交員?面白すぎて声出して笑ったし、堕落しすぎ、罪をおかしすぎた…という形容詞をつけるためだけにマリアという名前が選ばれたのだと思うとニヤニヤしてしまう。

    「わたしは生きてなどいいない。わたしが生きていると思いますか?<コピー>が人間でないなら、わたしは何だ?」
    「それでかまわない。わたしがあなたに求めたのは、魂だけだ」
    私この「浜辺のアインシュタイン」を流すダメ男にひっかかりそうな気がします。痛切な叫びに抱きしめてあげたくなっちゃう…ポール・ダラムが死ぬシーン、『ブラッドミュージック』ウラムが死ぬシーンと重なりまくってるんですが、そういえば名前も似てるな…

    (ぼくをぼくにしてくれ。きみなしでは、ぼくはぼくじゃないーばらばらな時間、ばらばらな言葉、ばらばらな感情でしかない。ぼくに意味をあたえてくれ。ぼくをひとつにしてくれ)
    トマスが毎回自分が自分でいるためにアンナを殺害し続けるの、きついけど理解できるからトマス…ってなってた。

  •  上の時の感想に書いたとおり、登場人物が覚えきれなくて話の流れがうまく理解できなかったんだけれど、物語自体は面白かった。

     いろんな登場人物がそれぞれ考える、「自分とは何か」という問いに、それぞれの答えや悩み方があった。自分とは何か、どこまでが自分か、問い続けたラストがあれなのは結構放り出された感覚がある。でも長く存在してたらそうもなってしまうのかな。マリアのお母さんの考え方にはけっこう共感したし、自分を見失いたくなくて感情制御などを最小限にした人たち(名前忘れた)も見ていて好きだった。
     いざ「コピー」できるようになったよ、って言われたら、わたしも拒んでしまうかもな。

  • 第3長編▲オートヴァース内に、惑星さらに高知能生命体に進化する原始有機体の設計依頼。プログラムを走らせるコンピュータは存在しないにもかかわらず…▼恐るべきは塵理論なのか?ランバート人の逆襲というより、停止できない仮想環境。リーマンが罪を繰り返し≒神からの許しを拒否したこと。やはりイーガン世界には神は存在しないようで。マリアは地母神となり、ポールは観察者となった。ピーの唯我論者国家は「俺がガンダムだ」に至る。アイデンティティーだけのドラマではない。数多のガジェットを詰め込みつつ、語るは人間賛歌(1994年)

  • 仮想人格についてはこの作品が金字塔とのことで読んでみた。

    実際、「コピー」(=コネクトーム)というアイディアについて、とにかく徹底的に考え抜かれた作品だった。その技術を応用したらどこまでのことができてしまうのか(人格の自己改変や自己クローニング)、社会制度的なところまで、深く深く掘り下げられ、かつ、それらがきちんとエピソードを通して物語られていた。
    物理・電子・化学・生物(脳科学)などのディテールも造詣が深い。

    特に面白かったのは次の点かな:
     -減速されつつ、富裕層はコピーとなっても現実世界に影響力を保持
      (それが人権や、いつ死ぬのかという問題にもつながっている)
     -アイデンティティをめぐる問題(コピー対オリジナル、人格自己改変と同一性)
     -仮想世界で生きることの自由度の生活視点での描写

    仮想人格についての考察は、予想とは若干違う方向性だったが(もう少し総花的に色々な派生的アイディアがあるかと思っていた)、核心のところは掘下げられていた。派生的なところは他の作品で補われていくのだろう。

    ストーリーは必ずしもページをめくらされるわけではないが、とはいえ物語がどこに着地するかは興味深く読めた。読んでおけてよかった一冊。

  • とにかくおもしろい。不死に憧れない人の気持ちがちょっとわかった。
    宇宙人との遭遇の仕方と彼らに不死(=無限)を否定される展開がおもしろすぎる。
    〈ピー〉が唯我論者国家として〈ピー〉するの熱い。

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著者プロフィール

1961年、オーストラリア西海岸パース生まれ。SF作家。西オーストラリア大学で数学理学士号を取得。「祈りの海」でヒューゴー賞受賞。著書に、『宇宙消失』『順列都市』『万物理論』『ディアスポラ』他。「現役最高のSF作家」と評価されている。

「2016年 『TAP』 で使われていた紹介文から引用しています。」

グレッグ・イーガンの作品

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