イスラーム国の衝撃 (文春新書) [Kindle]

著者 :
  • 文藝春秋
3.78
  • (11)
  • (25)
  • (15)
  • (1)
  • (2)
本棚登録 : 200
感想 : 19
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (184ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 昨年あたりから急に関心が高まり、邦人人質の殺害でピークに達した感のあるイスラム国(もしくはIS、ISIS、ISIL、Daash)。その性質や来歴、中東に与えた影響を概説。時事的な内容を扱いながらも、歴史的経緯も含めて多面的に分析がなされ、極めて濃度の高い一冊になっている。一冊読むならこれでいいのではないでしょうか。
    とくに、イスラム国の台頭を、シリア・イラク周辺の地政学的な文脈だけでなく、近年のグローバル・ジハード運動の文脈とも絡めて分析している点がとてもよい。イスラム教の支配を回復しようとするこの思想的・行動的な運動の大きな流れの中に、イスラム国もまた位置付けられる。こうすることで、ほかのグローバル・ジハード運動との関連性も相違も見えてくる。(アルカイダやボコ・ハラムもまたその文脈から分析さることができるだろう)
    そうして捉えると、ただ残酷な軍事集団としてのイスラム国ではなく、政治的・宗教的に極めて重要な論点をもった姿が浮かび上がってくる。そこを理解しないことには、イスラム国という現象と対峙することは難しい。中東、イスラムと、なかなか馴染みのない事柄であるからこそ、その背景を含めた理解が大切になる。
    余談。グローバル・ジハード運動のそのものは、かなり理論的に精緻な思想を持っているよう。アブー・ムスアブ・アッ=スーリーの『グローバルイスラーム抵抗への呼びかけ』などは、本書の概略を読む限り、ネグリ=ハートの『<帝国>』と近しい構図を持っているように思える。西欧的価値観の支配という<帝国>に抵抗するマルチチュードとしてのグローバル・ジハード運動。その分散化され中心を持たない運動は、必然的にドゥルーズ=ガタリとも共鳴する。そうした理論的背景が実際に実践されているかどうかはともかく、20世紀の重要な思想的問題をしっかりと踏まえているようだ。

  • フランチャイズ化されたアル・カーイダとか、分かりやすかった。

著者プロフィール

東京大学先端科学技術研究センター教授。専門はイスラーム政治思想史・中東研究。著書に『アラブ政治の今を読む』(中央公論新社)、『増補新版 イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社)『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)、『シーア派とスンニ派』(新潮選書)など多数。

「2022年 『UP plus ウクライナ戦争と世界のゆくえ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

池内恵の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×