笹の舟で海をわたる [Kindle]

著者 :
  • 毎日新聞出版
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感想・レビュー・書評

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  • 笹の舟で海に出なくても、川にいる時点で十分にもまれているだろう。
    なんて深い。

    犬を飼っていれば感じることだと思うけれど、彼らは家族が帰ることを心待ちにしている。そして、帰ってきたら全力でお迎えする。愛らしい。
    愛娘百々子が幼稚園くらいのころ、恐らくそうだったに違いない。
    可愛くてたまらなかったはず。
    犬と違うところは、子離れしていくこと、ちょっとした言葉や気持ちのすれ違いが起こり、それが持続することだ。

    思い返すと、貧乏だったけれど…、忙しかったけれど…、あの頃は楽しかった、充実していた、そんなことを思い返していたのだろうな、と思います。
    時間は戻せない。本当に戻せない。あの時こうだった、あの時楽しかったという後悔で人生を終えるのではないか、そう感じながら読み終える本なので、ちょっと重い、という感想が増えるのでしょう。

    親は、子どもがどこにいても元気で幸せに暮らしていてほしい。そう思っている、というくだりがあったと思うけれど、自分も本当にそう思っています。帰ってこなくてもいいよ~。地球上のどこかで幸せでいてくれれば、ね。自分の価値観を押しつけるつもりはなく、子どもと家族のただ幸せを願っています。
    改めてそう思えるだけでも、この本はすばらしいです。

  • 心が劈かれるような小説でした。
    私は妻を持ち、子供もいますが、言いようのない不安にかられることがあります。これから先、本当にいつまでも楽しく幸せに暮らせているのかと。
    この小説には、人生のままならなさ、自身の弱さ(といってよいものか)によって引き起こされる家族との行き違い、それらを示唆するようで本当に苦しかったです。
    百々子と左織の確執が特に辛い。
    というのは、現実、実際に知っている例があるからです。決してフィクションでも特殊な例でもないのです。今でも、連絡は取るも、どこか壁を隔てた関係。子が親を見放し、失望、絶望する関係。
    胸に抱え「可愛いベイビー」と歌ってあげたころ。そういう時があったはずなのに。

    小説自体は、敗戦後の日本を阪神淡路大震災後くらいまで徐々に追いつつ、世間にあわせ、何もかもが流転していく世の中にどこか置いてかれたままの主人公の目線で、家族の変遷が語られます。
    この流されるような生き方も自分に覚えがあって辛い……。
    だからこそ白眉は、自身で掴み取った未来。

    今までと同じような仲違いで霧散するかと思えた風美子との関係を取り戻したこと、みんなに反対されようとも(それこそアナ雪のエルサのように城に閉じ籠る感じ)、自分で決めた家に辿り着いた終盤。

    この先、辛いこといっぱいあると思うけど、頑張って自分も海を渡っていきたいと思います。

  • とても読み応えがあっておもしろかったし、すごく引き込まれて読んだのだけれども、なんだかずっと暗い気持ちになっていた。。。
    ストーリーは、戦争中、疎開先で出会った女の子ふたりが大人になって再会してその後義理の姉妹になり、っていう、昭和を生きた女性の話、大河小説みたいな感じで。
    主人公の佐織が、ちょうどわたしの母親くらい、今七十代後半くらいの年代で、その世代が生きてきた時代がよくわかって、昭和に起きたあれこれはもちろんわたしも懐かしいような気持ちで読んだ。
    でも、疎開先でのいじめの話も暗い気分になったし、まあ、長い年月の話だからだんだん人が死んでいくのは当然なんだけれども……。主人公の親、義理の親が死んでいき、主人公も子どもたちが巣立ち、夫が死に、って、なんだか人生っていうのは、だれがなにをしてどう生きても、結局はひとりになって病気になって死ぬんだな、って思って気が沈んでしまったみたいで……。

    佐織は、自分でいろいろなことを選ばず決断せず、流されるままに人まかせに生きてきて、人生無意味だった、みたいなことを感じるんだけど、でも、じゃあ、どうすればよかったの?、普通に生きてきただけなのにそれじゃいけないの?とかわたしは思ってしまい……。

    彼女の夫が言っていた、「何者かになれる人間なんてほとんどいない、何者かになれなくてもいいじゃないか」っていうような言葉が心に残った。

    ラストは、でも、佐織がそういう自分の生き方を少し納得する、といった感じがして、ちょっとほっとした。

  • 戦時中に少女だった女性2人がメインの一代記といった感じか。
    自分で人生を掴み取っている人、身近にこんな人がいたらどう思うのだろうか。佐織のように、流されるがまま一生を大部分過ごしてしまうのだろうか。自分の子供とそりが合わないと思った事を引きずり、1人で老後を迎える、、、うーん。でも、きっとやはり被害妄想なんだと思いたい。自分が子供の百々子だったとしたら、日記を読まれた母親に対して離れたくなるのはわかる。妻が華やかな活動するほどダメになって行く純司の気持ちもわからなくはない。
    どの登場人物も割と全部は理解できないけれど、分からなくもない気持ちで見ていた。複雑な心理が描かれている感じが、やはり角田さんだなぁと感心しながら。

  • kindleでセール中に購入。
    知らない作品だけど、作者への信頼だけで読み始めてみる。

    戦中育ちの女性が主人公で、自分と被るところがほぼないシチュエーション。
    だけど「似たようなことを感じることがよくある」と思いながら読んだ。

    途中までは、「他人を振り回す人ってどうなの!?ぷんぷん」みたいな話かと思ったけれど、感動するぐらい違った。
    「自分で動けばいいんだ!」と目が覚めて終わるわけでもない。さらに先を行く。

    ただ、在る。
    それはどうしても変わらないのだから、楽しんで感謝したほうがずっといい。

    良い作品を読んだな、と感じた。

  • 激動の戦後の時代を生き抜いた左織と風美子。幼い頃に疎開していて誰もが辛い思いをしていたがいつまでも抱えていたのは左織だったのか
    疎開先でいじめていたのは自分だったのか
    少女たちは今、しあわせになったのか、大作に感動した。

  • 疎開先で一緒だったときとても良くしてもらったと主張する風美子という女性に再開した左織はしかし、彼女をまったく覚えておらず戸惑う。

    お姉さんのように慕う風美子を無下に出来ず一緒に行動するうちに、義理の姉妹になり、娘と息子と自分よりも絆を深めているような気がしてしまう左織。

    物語の始まりからほぼずっと疑心暗鬼で、風美子は実は疎開時代に自分が虐めてしまっていた(かもしれないため)ため復讐しに現れたのではないかと疑い、読みながらいついじめた事実があるのか心していた。

    しかし特にそのような事実が明かされるでもなく、もしかしてただの左織の被害妄想だったかもしれない可能性が見え、疑ったまま人生を終えた左織と、疑ったまま1冊を読み終えた自分が重なって、もっと心を開いておけばよかったー!としてやられた。

  • 思う様にままならない人生を生きた彼女を丁寧に描いていると思う

  • 正統派文学作品だとは思うけれど、すごく暗い。どんよりする。

  • 戦時中疎開した経験をもつ主人公の、疎開先で一緒だったという女性との関わりを軸に淡々と人生を綴る物語。
    何が起こるでもないが、日本の時代の変遷とともに物語が進み、漫然と読んでいて面白い。

    主人公の左織たちは私の祖父母世代で、よくいる「時代に置いてかれた保守的おばあさん」である。
    身内にいたらちょっと疎んじてしまいそうな人物だが、こういう人となりがどうやって醸成されるのか、何となくエンパシーをもてた気がする。
    戦争という大きな体験が幼少期にあり、若い頃は時代に求められる女性像(=良妻賢母)を目指し、自身の価値観はいつの間にかアップデートされなくなっている人。
    憎めないが好きにはなれない。好きになれないがこの世代には沢山いそうだ。

    主人公は自分の「家族」が自分の思い描いた通りでないことに失望するが、そのあたり中野信子さんが仰っていたオキシトシンと愛の関係についてを彷彿とする。

    何も持たない人間はやはり寂しいと思う。その点、主人公の左織は反面教師のようであり、図太く生きる風美子が対照的な存在として描かれている。

著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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