独裁者と小さな孫 [DVD]

監督 : モフセン・マフマルバフ 
出演 : ミシャ・ゴミアシュヴィリ  ダチ・オルウェラシュヴィリ  ラ・スキタシュヴィリ  グジャ・ブルデュリ  ズラ・ベガリシュヴィリ 
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4988021145190

感想・レビュー・書評

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  • 長きに渡り独裁者として一国をその手中に収めてきた老人が、クーデターでその全てを失った。可愛がっていた孫とともに生き延びる為、変装し身をやつして国中を彷徨い歩いていく。嘗ての己が国には貧困と不条理と悲哀が満ち溢れていた。行く先々で疲弊した国民と交わり、自らが如何に罪深かったのかを省みることに。
    栄枯盛衰…奢れる者久しからず…そんな物語だった。

  • とても残酷で、それでいて深く胸を打つ、一言では言い表せない色んな感情が押し寄せてくる。
    監督がこの思いを世界に今伝えたいというエネルギーで溢れていて最後の海辺のシーンで訳も分からないまま泣いた。

    クーデターによって立場を追われ、村人から奪ったボロボロの布を身に纏い、亡命するために旅芸人に扮して海に向かいながら、独裁者と孫は自らの行った独裁政治によって罪もなく殺害された人間の家族や、テロリストとして何年も拷問された人たちに出会い、今も続く民衆の苦しみや独裁者への憎しみを知ることになる。

    内乱の中であちらこちらに横たわる死体から衣服を剥ぎ取って暖を取ったり、兵士たちによる搾取をうける人民の姿などを次々に見せつけられるリアリティの中で、孫である5歳の少年のとてもあどけない無垢な言葉や、旅芸人に扮した祖父のギターの音に合わせてコミカルに踊るシーンが所々心を綻ばしてくれる。
    彼のダンス相手だったマリアとの楽しかったころの回想が、彼の苦しい現実を少しだけ和ませいつか彼女と踊れる日がくると信じているのが切ない。

    逃亡中に出会う人民たちの中で、独裁者の息子を暗殺したというテロリストの傷を手当てし、おぶって彼の自宅まで運んであげる独裁者。旅の途中で見せる彼の対応力や順応性を見ても、独裁国家の悪の根源が本当に彼自身だけのものだったのかどうなのかも分からなくなってくる。
    勿論彼が行ったきつい税の徴収によって食べるものが無くなった国民の苦しみや罪のなく殺された人たちの命は戻すことは出来ない。
    ただ、これらの憎しみは別の方向の欲望や醜悪な支配欲に変貌していく可能性もあり、監督自身の分身である政治犯が叫んだように「暴力はまた新しい暴力を生む。」にすぎない。

    私だって愛する家族が残虐な殺され方をされたら、きっとその犯人を殺したいほど憎むと思う。
    でも、もし世の中に目には目をの精神が連鎖していまの世界を作っているのだとしたら、憎しみや暴力をどこかで封印しなければ終わりがない。
    そして自分たちだけが完全に「善」だと思いこんで他人を抹殺し、新たな支配を生む可能性がある意味一番恐ろしいのだ。
    この作品はとある架空の国で起こった独裁国家として描かれたストーリーではあるけれど、これは今の時代なら独裁国家でなくてもどこの国でも起こりうる現実ということ。
    ラストの孫が踊る無垢なダンスは、監督が伝えたかった「憎しみの連鎖」の不毛さを教えてくれているようで、悲しみとともに今も目に焼き付いている。

  • 革命や内戦、難民がどういうものなのか、仮想ではあるが体験させてくれた作品。何気ない日常と悲劇は地続きだと感じた。

  • 「民主化のために踊らせろ」

  • つくづく、人間って自分勝手だなぁと思う。そして残酷。
    それは、主人公たちも国民も同じ。
    痛みを与えたのに自分たちはそれから逃げようとする。
    痛みを知ってるのに同じことをやり返そうとする。
    ただ一人、「復讐は連鎖しか生まない」と言う人がいたのが救いだった。

  • 丈の高い草の間を抜けていく人々。
    これがこの人の原風景なのかもしれない。

    芸術で人の心を変えることができる、ことを信じたい。

  • 引き込まれました。
    復讐は復讐を生む。
    独裁者が下々の生活を目の当たりにして改心していく映画です。
    田村由美先生のBASARAを思い出しました。
    許すって難しいですね、、、

  • THE PRESIDENT
    2014年 ジョージア+フランス+イギリス+ドイツ 119分
    監督:モフセン・マフマルバフ
    出演:ミシャ・ゴミアシュウィリ/ダチ・オルウェラシュウィリ
    http://dokusaisha.jp/

    製作国のジョージアってどこの国のことかと思ったらグルジアのことなのか~!(アメリカ風の読み方?今は日本でもジョージアが正式みたいですね)監督は亡命中のイラン人ですが映画はグルジア語。とはいえ、映画の舞台になっているのはイランでもグルジアでもなく「どこにでもある架空の独裁国家」。圧政を敷き宮殿で贅沢な暮らしをする大統領とその家族。しかし息子夫妻は暗殺されてすでに亡く、大統領の後継者は「殿下」と呼ばれる5歳の孫。ある日、革命軍によるクーデターが起こり、大統領は孫を連れて逃避行を続けるが・・・。

    とりあえず孫が超可愛い。ちやほや育てられたからワガママで小生意気なんだけど、それでもやはり子供らしい天真爛漫さがありとにかく可愛い。老いた大統領はそんな事情もわかっていない孫を連れ、ときに貧しい理髪師をピストルで脅しつけ、ときに羊飼いの群れに紛れ、寒村で押し込みのように衣類やギターを奪い、無情にも死体から衣服を剥ぎ取るなどして、孫を女装させて女の子に偽装し、旅芸人のふりをして、逃亡先の海を目指す。

    自分でお尻も洗ったことのない独裁者とその孫だけれど、意外にも逃亡生活中の彼らはタフで適応力が高い。大統領なのにギターの腕前はなかなかだし、幼少時から社交ダンスのレッスンで鍛えた(?)孫を踊らせて、危地を切り抜ける。この哀愁のギター(民俗音楽風の)がまたいい。時折差し込まれる独裁時代の孫の回想なども、皮肉だけどユーモラスで、物語の重いテーマを緩和してくれる。

    その旅の途次で、貧しい人々の暮らしや横暴な兵士たちの非道っぷりを目の当たりにし、無償の親切にも預かり、さらに解放された元政治犯たちと同道するうちに、横暴だった大統領は自分のしてきたことの意味を知り変わってゆく。その心理の変化はある意味ベタな展開だけれど、ひとつひとつのエピソードが印象的で飽きさせない。大統領は改心しつつある、孫も可愛い、できることなら彼らの逃避行を見逃してあげたい。しかし、独裁者の圧政に苦しめられた人々の怒りの前ではそんなことは無意味で無力だ。

    拷問で歩けなくなった政治犯たち、息子を殺された母、その他独裁政権下で辛酸を舐めた人々の大統領に対する殺しても殺したりない憎悪。復讐の連鎖を止めなくてはならないという元政治犯の訴えは、正論だけど偽善的で、実行するのは難しい。でもこの正論がなければ救いもないので複雑。ラストは観客の想像に委ねられる形だけれど、ではどんな結末を求めるかと問われるとやはり難しい。色々考えさせられるけど現代の寓話として映画自体はとても面白かった。

  • 中盤あたりまで「どうせ傲慢な独裁者が世間の実情を知ってわざと捕まって自分にかけられた懸賞金を貧しい誰かにあげるんでしょ」と思っていたけれど、そうはならなかったので一安心。「独裁者」は民衆の心を掴んでいるうちは「救世主」なのだな、としみじみと感じた。独裁者は独裁者の役割を果たしているうちに感覚が麻痺してしまうのだろうか。役割を演じることの恐ろしさ。元陛下が何を感じてどう思ったのかは明確にされないけれど、それは同時に観客に想像の余地が与えられているということだと思う。自分なりに解釈していく映画というか。最後のシーンで元陛下の殺し方云々で揉める人間たちに民衆の最たる部分が現れている。身勝手で移り気で扇動されやすい!本当ならあの場で元陛下を庇った青年は「まず俺の首を落とせ」と言った時点で殺されていたんじゃないのかな。諸悪の根源が見つかったというのに人々が熱狂しない訳がない。さっさと元陛下も孫も青年も殺されておしまい、とならないのは都合が良すぎる気もする。でも一連の台詞と行動はとても格好良い。暴徒に立ち向かうたった一人の人間の精神的強さ。クラレッタのスカートを直しに行くようなものだ。ラストが明確にされていないけど斧の持ち方、力の入れ具合でなんとなく分かってしまうような演出。ずるい!一方では一番初めに元陛下が革命を防ぐためといって16歳の少年を処刑したこと、それがラストに繋がるという見方もできる。民衆は再び独裁政治が台頭することを恐れて孫も殺してしまうような最後なのかもしれない。これが一番現実的な気もするし、観る人の解釈、人間の本性の捉え方によってラストについての考えも変わってくるんじゃないか。

  • 本当に惜しい作品だと思う。
    テーマも着眼点も面白く、蔦屋の紹介本を見てとても興味を惹かれたのだが、肝心のテーマ部分が殆ど活かされていない。
    シーン切り替えもぶつ切りで一貫性が薄く、カット場面が唐突で前後の繋がりがすんなりわからない。
    また、肝心の主人公が「独裁者」から民衆へ心を寄せていくような描写も殆どない。ので納得ができないし、結局ラストどういう心境だったのかわからなかった。
    というよりむしろ、独裁者的な描写も少なく悲惨さや冷酷さがあまり伝わってこなかったので、主人公目線で物語を追うと普通にそっちに感情移入してしまう。特に普通に孫には優しいのでただの口の悪いおじいちゃんにしか見えなかったりもする。もうちょっとギャップがあったら独裁者感あったかも。暴動や革命を起こす国民たちの方を「人でなし」とさえ思う。
    それも目的かもしれないけれども……

    でも孫はとにかく子供らしくてかわいい。わがままで物分りが悪いが、それがいかにも子供らしくていい。ラスト付近の孫にはとにかく胸を締め付けられた。
    そして全体の空気感、画もとても良い。前述したがテーマも良い。とにかく惜しい!でも好き。監督の他作品が気になる。
    静かな物語をいろいろ考えられる人は充分楽しめるかもしれない。私は物足りなかった。

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著者プロフィール

1957年、イランのテヘラン生まれ。映画監督として著名。最新作『カンダハール』(来春日本公開予定)は、ユネスコのフェデリコ・フェリーニ・メダルを受賞。

「2001年 『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない、恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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