データで見る行動経済学 全世界大規模調査で見えてきた「ナッジの真実」 [Kindle]

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  • 「ナッジとは、強制や金銭的動機付け(インセンティブ)に頼らず、選択の自由を残しながらも、望ましい方向に誘導する、ちょっとした工夫」

    具体的な例としては、コンビニの床に描かれた足跡の絵(並べという命令をしたわけではないのに客は自らの意思で並んでしまう)、レストランメニューでのカロリー表示(個人単位では好きなものを選んぶのだが、社会全体では健康へと向かっていく)。
    そのような、主体の選択権を奪わずに良い方向へ導く手段。

    本書のメインは各国でのナッジへの賛否のリサーチである。

    当然、国によって細かい違いがあるのだが、日本のナッジへの拒否感は異様なほどらしい。
    たとえば「食品の交通信号システム(食品に健康度を表す青黄赤いずれかのマークをつけること)」は、たいていの国で過半数が賛成するのだが、日本だけは半分ほどである。「免許証を取得する際に臓器提供の意思を確認すること」なども、日本とロシアだけ賛成が半分を割っている。「公共機関のカフェテリア方式の食堂に肉料理を提供しない日をつくることを義務付ける」は、他国は過半数が賛成し、日本だけは三割を切っている。

    著者は「日本人の政府への不信(政府主導で行うことにろくなことはない)」という理由を仮に挙げている。監修者は「ナッジに強く反応してしまうことを知っているからこそ(まわりに流されてしまうからこそ)ナッジに対して慎重になってしまう」と考えている。

    どちらにしろ、はっきりした理由はわからない。
    ただ、ひとつ思ったのはナッジの「選択の自由を残している」という部分が日本人に合わないのではないかということ。

    いまだに選択的夫婦別姓さえ採用されていないのだが、この理由のひとつに「同姓でも別姓でもいいが、本人が選ぶのはいやだ」という話を聞いたことがある。
    要は、なにかを選択するということは、なにかの価値観を明示し、選んだ責任を負うからである。

    選択的夫婦別姓が施行された場合、同性を選べば保守的で頭の固い人間だと思われるかもしれない。別姓を選べば意識が高いリベラル気取りだと思われるかもしれない。どちらを選んだとしても、それを理由に子どもがいじめられたり不都合が生まれた場合、自分の選択を責めることになるかもしれない…。

    自由は好きだが、自由意志を扱うことは苦手なのではないかと思う。それは世間体や空気が支配する国ということもあるし、丸山眞男的な無責任の体系や、とにかく同調圧力が強い国であることも関係する気がする。
    なにかを選択するということは、なにかを選択しないということであり、それは結果としてまわりとの差異が生まれることになる。

    「食品の交通信号システム」は、もちろん赤を選ぼうが青を選ぼうが自由である。しかし、赤を選ぶ人間であることを表明したくないのではないか。カゴが赤のマークでいっぱいだと世間からの目を気にしてしまうのではないか。
    それこそがナッジの効果(ついかっこつけて青を選んでしまう、結果として健康的になる)なのだろうが、そこへの拒否感がことさら強いのではないか。

  • kindle キャンペーンで半額になってたのを機に、サンプルダウンロードして読んでみてます。ナッジについて有効性の面だけでなく、人々からナッジがどのように捉えられているのかについて考察されてるのがおもしろいです。
    →サンプル読み切ったので、購入

  • 政府が市民を特定の方向に導く方法としては、法律による禁止・命令や税金・補助金による経済的インセンティブの付与がありますが、行動経済学の発展とともに注目を集めるのが「ナッジ」です。もともとナッジ(nudge)は、「肘で軽く小突く」という意味の単語ですが、行動経済学の文脈では、「一人ひとりが自分自身で判断してどうするかを選択する自由も残しながら、人々を特定の方向に導く介入」という意味になります。
    ただし、ナッジを活用した政策は、「人の不合理な部分につけ込んで、操作している」というように捉えられる場合もあり、倫理的な懸念もあります。本書では、このナッジは受け入れられるけど、このナッジは受け入れられないという人々の受け止め方を、全世界の大規模アンケート調査によって明らかにしています。そこから見えてくる特徴としては、ナッジの目的が正当であり、大半の人々の利益につながったり価値観と一致したりすると考えられるときは、多くの人がナッジに賛成しています。たとえば、「チェーンレストランでカロリー表示を義務付ける」といったものです。逆に、金銭的負担を強いるデフォルトルールを設定したり(例:税還付時に50ユーロを赤十字に寄付することを義務付ける)、過度に操作的なもの(映画館で喫煙と過食をやめさせるためにサブリミナル広告を上映する)は拒否される傾向にあります。
    また、国によってもナッジへの支持の傾向が異なります。欧米諸国に比べて、中国・韓国はナッジに対する支持が高く、日本・デンマーク・ハンガリーは支持が低い傾向があります。著者の仮説は、政府への信頼が高いとナッジへの支持も高いというものですが、デンマークは政府への信頼が高い国というデータもありますので、どうなんでしょうか。またこれは私見ですが、日本のナッジへの支持の低さもそれだけで説明がつくのかは疑問です。とはいえこれといった仮説もないのですが。
    ナッジは強制力を伴うことなく、しかもお金をあまりかけずに政策が打てますので、うまく使われていってほしいと思います。ただし、市民に受け入れられないものは効果があっても使うべきではないし、間違えるとプロパガンダに使われちゃうという不安も無視できないでしょう。本書は、政策でナッジを使う際の重要なデータの1つになると思います。

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著者プロフィール

ハーバード大学ロースクール教授。専門は憲法、法哲学、行動経済学など多岐におよぶ。1954年生まれ。ハーバード大学ロースクールを修了した後、アメリカ最高裁判所やアメリカ司法省に勤務。81 年よりシカゴ大学ロースクール教授を務め、2008 年より現職。オバマ政権では行政管理予算局の情報政策及び規制政策担当官を務めた。18 年にノルウェーの文化賞、ホルベア賞を受賞。著書に『ナッジで、人を動かす──行動経済学の時代に政策はどうあるべきか』(田総恵子訳、NTT出版)ほか多数、共著に『NOISE──組織はなぜ判断を誤るのか?』(ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー共著、村井章子訳、早川書房)ほか多数がある。

「2022年 『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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