世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか (講談社+α新書) [Kindle]

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  • 世界で最初に飢えるのは日本。
    実に刺激的なタイトルです。
    何を根拠に、そんな恐ろしいことを断言できるのでしょうか。
    言うまでもなく、我が国の食料自給率の低さです。
    自給率は半分どころか、37%と4割にも満たないのです。
    しかも、種と肥料の海外依存度を考慮すれば、10%に届かないというではありませんか。
    「でも、海外から輸入できるんだから良いじゃないか」
    そう主張する人が少なくありません。
    実際、実業家の「ひろゆき」こと西村博之さんが、自身のYouTubeチャンネルで「食料を自国で自給しなければダメなんて、馬鹿の言うことですからね」と断じていたのを見たことがあります。
    ただ、本書でも指摘しているように、世界で食料危機が発生すれば、アメリカもヨーロッパも日本を助けてくれる保証はありません。
    自国の食料確保が最優先なのは、火を見るよりも明らかでしょう。
    国民を飢えさせてまで他国へ食料を輸出していれば、へたをすれば政権が倒れてしまいますから。
    我が国の農家は過剰に保護されているという、マスコミで盛んに流布されている情報も、本書によれば誤りです。
    たとえば、アメリカの農業は、日本よりよほど「補助金漬け」だそう。
    穀物輸出補助金だけで、多い年では実に1兆円も使うといいます。
    日本の農業が高関税で守られているというのも事実とは異なります。
    OECDのデータによれば、日本の農産物関税率は11・7%。
    これは、農産物輸出国の2分の1から4分の1くらいの水準です。
    こうした事実をしっかりと頭に入れた上で、食料安全保障をしっかり考えないと、日本国民は本当に将来飢えかねないと、恐ろしくなりました。
    個人的に驚いたのは、戦後、「米を食うとバカになる」という主張が堂々と世の中でまかり通っていたことです。
    慶応大名誉教授の林某という人は、著書「頭脳―才能をひきだす処方箋」(光文社)の中で、日本人が欧米人に劣っているのは、主食のコメが原因だと書いています。
    もちろん、科学的根拠は全くないですが、発売3年で50刷を超える大ベストセラーとなったというのですから唖然とします。
    しかも、天下の朝日新聞までが、これに追随して「親たちが自分の好みのままに次代の子供たちにまで米食のおつき合いをさせるのはよくない」と書く始末。
    背景には、米国が日本人の食生活を無理やり変えさせてまで、日本を米国産農産物の一大消費地に仕立て上げようと宣伝・情報耕作を繰り広げたことがあります。
    さすがに、「米を食うとバカになる」などという暴論はその後、跡形もなく消えましたが、日本の食文化が米国の思惑通りになっているのが現代ではないでしょうか。
    ウクライナ戦争で穀物が欠乏し、円安で日本が食料を買い負ける場面が目立つようになってきた今、読んでおくべき良書だと思いました。

  • レビューが長くなったので、本書の評価を低くした理由を端的にまとめておく。それは「内容が薄い」&「分析が甘い」から。

     本書は「食糧自給率が低いことは問題だ。誰もが自国を優先するのだから「いざ」というとき日本は飢える」と繰り返しかかれている。そして、その危機意識が薄いのだと何度も批判する。
     まあ、最もだ。
     だが、その「最もで正しいこと」に対してそれだけに100%の力をそそぐことはできない。財政にも制限がある。
    「人命が一番大切」である一方で、年間3,000人弱が交通事故で死ぬけれど、経済や生活のために自動車を規制しないように。
     自給率が低いこと自体をどんなに叫んでも、「そうですねー」としか言いようがなく、自給率が何%だとどれだけ危険で、どこまで対応が必要かという具体論に踏み込まなければ意味がないと思う。
     そして本書は、他の書籍と同様、そこまで踏み込んでいないので、価値が低いと感じる。
     また、全体的に数値的な根拠が薄く、分析・考察が甘い。
     著者の考察が甘い、分析が具体的ではない、と感じる点を下記3点あげるておく(下記3点以外も分析が甘いと感じる内容であるが)。


    1.戦後の米離れと洋食のおしつけ論
     戦後、米国でだぶついていた小麦や脱脂粉乳を輸出するために給食で洋食をごり押しした。従来の日本食では知能は育たないなどの、根拠のない本を大学教授の名前で出しかなり出回った。などなど。
     戦後そのような言説が流布しており、米国の押しつけで洋食化が広まったことは否定はしないが……それが現代の米あまりと結びつけるのは無理があるのではないだろうか。
     日本食では知性が育たないなどという論は今では信じる人はいないし、グローバル化し金持ちになれば、肉食が増えることは統計的な事実だ。
     せいぜい米国の政策でそれが早まったレベルだろう。
    「米の需要が減った」……そういうと、パンや麺など小麦の消費が増えたからだという印象が一般にあるのではないだろうか?
     著者も明言はしないが、その前提で論がすすむように読み取れる。けれど、実際は違う。
     そもそも米を戦後に比べて現在食べないのは、「食生活が豊富になったことと(主食以外の食品の割合の増加)」と「高齢化」。この2点が大きい。
     具体的に米の消費量を見ると、ひとりあたりの米の消費量が多かったときは、1962年で、118.3kg/人/年で1日324g(炊飯後754g)だ。そして2022年は50.7kg/人/年で1日139g(炊飯後320g)だ。
     これを茶碗で換算するとピークの1962年は1人あたり1日茶碗4杯(やや大盛)で、今は1日1人2杯(小盛)といったところ。
     現在の1日1人小盛2杯……これは寝たきりの老人から赤子までを含めた平均だ。
     単純に戦後高齢者が少なく、働き盛りが多かった戦後と比較し米の消費量が落ちたことは、現在の年齢構成をみれば当然だ(1965年の65歳以上は6.3%に対し令和2年は28.9%が65歳以上)。
     そして戦後の弁当を思い浮かべてほしい。真っ白なお米を敷き詰めて真ん中に梅干し。日の丸弁当。おかずがはしっこにちょぴっと。……いやー、今はこんな弁当食べる人、いないでしょう。
     食卓の半分以上がおかずの方が一般的ではないだろうか。
     宮沢賢治の「アメニモマケズ」では質素な食事の例として1日4合とうたっているが、今の時代でこれを聞くと結構驚く。昔と今とで日常の食の中で米の占める割合が異なるから。
     本書の著者は言う。日本食の需要を増やす施策が大事だと。
     それはわかる。大事だよね……でも、昔のようなおかず少量、米中心の生活に戻れる? 自分は無理だよ。
     どんなに自給率が大切だとか日本食が大事って言っても1日平均4杯……いや、赤子でも高齢者でもない自分の世代の平均は1日平均で5杯くらい……?たまにパンを食べたりすることを考えると1日6杯ごはんを食べる日もあるのか……など考えていると、うーん、自分は絶対に無理だなあ、と。
     1日1人茶碗2杯。働き盛りでご飯の消費が多い自分の世代だと1日2.5杯くらいかになるのだろうか。1日3食で、ランチで麺や惣菜パンを食べる人もいて平均でこれ、と考えれば、この数値……なかなか米の消費を維持できている方では?
     これ以上米の消費をあげるなら、本当になにか大きな変革をしなければ無理ではないでしょうか(それこそ米価8割は国が補助するレベルの)。
     まあ、そういった現状分析を本書ではなされておらず、戦後の政策がどうの、需要をあげる政策がどうのと言っていますが、戦後の政策でこのような米あまりの現状ができたという結論は無理があるし、意識改革とかちょっとした政策で、これ以上米の消費をあげるのは難しいんではないという感想。
     もう少し数値をつかって具体的な方策を示してほしいものである。


    2.ひろゆき氏の自給率意味なし論への反論
     2ch創設者が「自給率は向上が大切論者」は理論的な説明ができていない、自給率は欺瞞、という主張に対し、著者はいざというとき「飢える」ということがどんなに危険か、そのためにカロリーベースの自給率がどんなに大切な指標かを説いていた。
     で、そのひろゆき氏の主張を見てみると、「そもそもカロリーベースの自給率の無駄さを主張しているのは世界的に見ると日本と韓国などごく一部の地域でしか使われていない。そんな指標など無駄」「野菜などカロリーが低いものをどんなに自給率をあげても貢献しない」などというものがあり、確かにそれへの反論は著者の主張でできるかもしれない。
     けれど、ひろゆき氏の主張には、「どうせ戦争になれば機械を動かす燃料も入ってこないのに、現在の生産体制が前提の自給率を計算してそれを上げることに意味があるのか」というものもある。それに対しては一切反論せず、「いざというとき飢えるからカロリーベースの自給率は大切」という反論のごり押しはどうかと思う。
     少なくとも、相手の意見を採り上げて反論するなら、相手の意見をも、う少しきちんと採り上げるべきだ。
     本書にはひろゆき氏の主張はごく一部の抜粋しかしておらず、そこからも著者の分析・討論する姿勢を疑ってしまった。


    3.種苗法と種の確保についての問題
     種苗法と自家採種についてとりあげているが、著者の言う「いざというときに飢えないために日本の種を確保すべき」という理論であるならば、「主要農作物種子法」の廃止についてとりあげるべきだ。
     種子法は、日本にとって米・麦・大豆は重要でその種子を確保する責任を国が負うというもの。それを廃止したのだ。
     これこそ著者の主張ど真ん中の出来事である。
     けれど、それについははふれない。
     種子法の廃止は突然国会で取り上げられて、とくに話題になることも議論されることもなく、数ヶ月でさーっと廃止案が可決された。
     世間で話題にならなかったから、あまり著者も意識していないのだろうか?
    (結局、この状況はよろしくないと判断した各都道府県が条例をつくって各県で種子の確保を行うようになったので、大問題に発展はしなかったが……これこそ国が対応する問題だろうに)

     他にも、遺伝操作の食物=危険でとくに根拠も示さず論を展開したり、日本の農薬問題に必須の、湿気と虫が発生しやすい気候状況にふれなかったり、最初から最後まで、主張は表面的で、そして分析があまいと感じた。

  • 有名なフレーズ「今だけ金だけ自分だけ」の生みの親、鈴木宣弘先生の著書。

    政府は酪農家へ援助政策をすることで米国の怒りを買うことを恐れているそうだが、国産牛乳を廃棄させながら同量を輸入するなど、どんだけ恐れてるんだよ?という政策の数々に呆れること間違いなし。

    最後のほうで希望が書かれているのが救いだった。

  • ふむ

  • 安全保障の観点から食料の自給率を上げるべきと言う意見はよく分かります。
    アメリカはまさにそれ武器にして世界中に食料を輸出しまくっていますよねー。
    そして何かあったら輸出止めるでーって相手は白旗。いやあ、旨い、いや、上手い戦略ですわな。

    特に衝撃を受けたのは、日本の農業は補助金漬けで世界の中でも守られまくている超過保護で親ガチャ成功みたいな印象でしたが、実は全く恵まれていなくて、アメリカの食料生産に対する補助はおぼっちゃまくん以上の、そりゃあ、食料を国家戦略のひとつとして実行しているわけですから、この本でその内容を知ると、凄い事になっておりますわ。ほんま。日本は貧乏っちゃまだったんですよー、後ろから見たら尻まる出しです。

    と言う事から、もっと日本の食糧生産に補助金を出して育てろと、日本を守る為に核と食料は自力で確保しろと、そこは賛成です(核はゆーてません)。そしてあのMMT理論により日本はいくらでもお金を刷れるので、もうこれは無敵じゃないですか、日本大勝利!ありがとう!みんなー!

    ただですねー、米をもっと食って農家を助けろとおっしゃいますが、これだけおいしいパン屋さんだらけの日本で、急に米食に切り替えられる分けがないでしょーね。食生活を変える事は有事じゃない限り無理ですし。

    また農協推しですが、農協はほぼ金融業じゃないですか、まず農協の有り方をよく考えられた方がよろしいのではないでしょうか。そうそう農協と言えば、以前偶々隣の部屋で農協の忘年会が行われておりまして、もうセクハラ三昧で、昭和の忘年会を見ているような清々しさを覚えた記憶がございます。絶対娘には農協には入るなと伝えました。

    とは言え、日本の農薬に対する緩さが半端なく、その章は読んでいて怖さを覚えましたね。他、日本のやばさは十分伝わりましたし。まあ新書ですから、細かい突っ込みは無しとしてこれは今後の日本の食文化および食糧生産に対する警告だと受け止めます。怖いなー、もー。

  • 衝撃的なタイトルに違わず内容も衝撃的で考えさせられた。
    日本の食料自給率の低さは「土の貧しさ」ゆえでなく「国の政治の貧しさ」だったとは。

    他国は自国の食料、農畜の保護を当たり前のように考えた政策なのに、日本は自給可能な米を捨て、伝統的循環型農業を捨て、経済優先・アメリカ優先による間違った政策へ舵取り。結果、他国民がその危険性ゆえ自国から排除しているものを受け入れている。
    でも国民も目先の利益優先で同罪か。イタリアでは国民が税金を使って農家を直接支える制度があるそうな。返礼品ばかりが話題の日本のふるさと納税とは大きな違い。

    なお、一時SNSで話題になった「種苗法改悪」の件もこの話と関係してくるんだね

  • 今まで薄々と感じていた、食糧事情の危機的な状況が、わかりやすい文章でとても理解できた。
    しかしながら、国民の賃金が上昇しないことには、安全安心な食べ物を手に入れることは難しいのである。まずは経済をしっかりと見つめて監視していかねばならない。

  • 仕事が少し農業に関係があること、自分でも野菜を作ること、親せきに農家がいること、農業が盛んな街に住んでいることなどがあり、食糧問題にかなり関心を持っている。

    この本を読んで印象深かったことをいくつか
    ・日本が鎖国できたのは、食糧自給率が100%だったから
    ・企業は生産を合理化することには長けているが、需要を創出できるとは限らない
    ・ビル・ゲイツ氏はアメリカ最大の農場所有者
    ・学校給食を無償化し、国産農産物を税で買うと、農家の収入も上昇するなどで経済波及効果が大きい

    そういえば学校給食の産業連関分析ってやったことないな。
    やったことある人いるのかな。

  • 「世界で最初に飢えるのは日本」
    というタイトルですが、
    この本で触れている論文を読むと、
    「世界で最初に飢えるのは日本」
    ではなく
    「世界で最初に飢えるのはノルウェー」
    であることが分かる。

    書名から間違っている素晴らしい本です。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/495468613.html

  • 〖本から
    アメリカの赤身牛肉から、通常の六百倍もの濃度の「エストロゲン」が検出。エストロゲンとはいわゆる女性ホルモンであり、アメリカなどでは、牛を早く成長させるための成長ホルモンとして使われている。だが、エストロゲンは乳がんの増殖因子となるという指摘があり、使用を禁止している国も多い。

    日本の食料自給率は、2020年度で約37%と、極めて低い水準

    コメ中心の食を壊滅させた「洋食推進運動」
    1973年、当時のバッツ農務長官は「日本を脅迫するのなら、食料輸出を止めればいい」

    昔の人は、「三里四方の食によれば病知らず」

    食料自給率が約37%ということは、大雑把に言って、いざという時に国民の役六割が餓死してしまう計算

    台湾でアメリカ産豚肉の輸入禁止が議論された理由は、ラクトパミンにある。(略)
    ラクトパミンはとは、牛や豚などの飼料添加物として使われる化学物質で、興奮剤・成長促進剤としての効果がある。アメリカの養豚業者は、食肉処理場に出荷する前の数週間、豚の成長を早め、赤身肉を増やすために、このラクトパミンを与えているとされている。
    ラクトパミンには人体への有害性があると懸念されている。

    「成長ホルモン牛肉」の処分地にされる日本

    「輸入小麦は危険」の理由
    グリホサート

    「日米レモン戦争」とポストハーベスト農薬の真実
    防カビ剤が検出

    日米貿易協定が2020年に発効し、アメリカ産牛肉の関税が大幅に引き下げられると、その最初の一か月のあいだに、成長ホルモンをたっぷり使用したアメリカの、日本における輸入額が1.5倍になったという。
    食の安全を守るのは、一人一人の消費者自身だということを、日本人は肝に銘じなければいけない。

    「アメリカだけが利益を得られる仕組み」が食料危機をもたらす

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著者プロフィール

1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学教
授を経て、2006年より東京大学教授。1998~2010年(夏季)米国コーネル大
学客員教授。2006~2014年学術会議連携会員。一般財団法人「食料安全保障
推進財団」理事長。『食の戦争』(文藝春秋 2013年)、『亡国の漁業権開放~協
同組合と資源・地域・国境の崩壊』(筑波書房 2017年)、『農業消滅』(平凡社
新書 2021年)、『協同組合と農業経済~共生システムの経済理論』(東京大学
出版会 2022年 食農資源経済学会賞受賞)、『世界で最初に飢えるのは日本』
(講談社 2022年)、『マンガでわかる 日本の食の危機』(方丈社 2023年)他、

「2023年 『もうひとつの「食料危機」を回避する選択』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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