ナミヤ雑貨店の奇蹟

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2012年3月28日発売)
4.02
  • (1287)
  • (1788)
  • (910)
  • (116)
  • (25)
本棚登録 : 10849
感想 : 1559
4

コソ泥の3人、敦也、幸平、翔太が夜明けまで身を隠すために入りんだ、ナミヤ雑貨店。

「誰かが郵便口から手紙を投入した。こんなに時間に、こんな廃屋に郵便が届くわけがない」誰が、なぜ、誰もいない廃屋に封書を投函したのか?そして封書の内容は悩みの相談なのであろうか?

その理由は、すぐにわかった。
悩みの相談郵便は、その回答が現代と未来の時空を超えて行われる。シャッターの郵便投入口と牛乳箱は、過去と繋がっている。過去の誰かが、その時代のナミヤ雑貨店に手紙を投げ込むと、現在ここにある店に届く。ナミヤ雑貨店に入ると実際の時間の流れよりもゆっくりと時が流れる。そして、家の裏口の戸を閉めると、過去のある時代にタイムスリップする。外に出ようと思って戸を開けると、現代に戻り、家の中と外の時間が同じように進む。となんとも不思議な生きているような家である。

大変なところに隠れたものだと思わずにはいられない。家そのもののトリックもさることながら、ポストから投函される悩み相談にが答えるなんて、責任重大である。コソ泥トリオの知能では、適切な受け答えができるのだろうか?と、心配しながら、2通目を読み始める。そこで、私はこの3人が過去を経験してきた現代人であったことを思い出した。つまり過去から現在の歴史を知っている、しかも3人が知らなくてもネットで調べることができる。今の人間だからこそ書ける回答を返信することができるのだ。つまりはこの3人でも、どうにかなる、いや未来を知っているだけ、より適切なアドバイスができるかもしれない。

他人の悩みなんて関心がなければ、誰かのためになるなんてことも考えたことなどなかった彼等が、不思議な廃屋に導かれ過去の人から相談を受ける立場になる。今まで、人に頼られたこともないであろう彼等が、自分が頼られていることがわかった時、今まで持つことのなかった責任感と思いやりが芽生えたのだろう。それ故、真剣に、わからない時は質問までして、誠意を持って対応をしている。しかも彼等の稚拙な文章は稚拙ではあるものの、著者の力で相談者がいいように理解をしながら進んでいく設定となっている。これも彼らの誠意の延長線上にある結果として捉えてしまう。

相談者は自分の手紙が未来のしかも店主・浪矢雄治ではない人間に届き、それが未来からのアドバイスであるということは知らない。そして相談者にそれを知らせることはできない。そのことは彼等もわかっているので、「悪いことは言いません。そうしなさい。いうことを聞いてよかったと必ず思うはずです。」とか「信じるか信じないかはあなた次第です。でも信じてください。信じてくれることを心から祈っています。」と、自分たちが未来の人間であることについては説明しない。説明しても信じてもらえないと思っているのかもしれないが、説明しないことが彼等の誠意であるように思う。

『ナミヤ雑貨店』の店主・浪矢雄治は、もともと近所の子供たちの挑発に乗り、相談箱を設置するようになった。意外と好評で店の前に貼られる相談のアドバイスを読むために遠くから人が集まってくる。子供からの些細な相談に真剣に回答する雄治の姿が、真面目すぎるが、誠実さと優しさが感じられて微笑ましい。
そして、ナミヤ雑貨店店主・雄治が見た不思議な夢のお告げを信じて、自分の33回忌に1日だけ相談の結果についての意見を求める日を設定し、息子・浪矢貴之にたくす。なぜ、33回忌なのか、私が読み飛ばしているか、よくわからない。
しかも病院から雄治が戻る日と33回忌が、繋がっていたのはなぜなのかというのが、よくわかっていない。

が、とにかく自分が真剣に向かい合った結果について、気にするほど、雄治の真剣さが伺える。
そして、雄治にとって初めての大人の相談・不倫の相手との子供の出産についての女性からの相談について子供からの意見がある。これを読んだ時、作者から雄治への最後のプレゼントのように感じた。

相談者の殆どが、「丸光園」との関わりがある。これが相談者のキーワードである。

慰問演奏に来た松岡克郎は、「丸光園」の火事で、セリという少女の弟・タツユキを助けに行き亡くなった。セリは、その後、天才女性アーティストとして人気を博し、克郎のオリジナル曲「再生」を歌い続ける。
和久浩介は、親の夜逃げ中に逃げ、藤川博として保護されて「丸光園」に入所する。そこに武藤晴美がいた。
武藤晴美は、コソ泥トリオの助言により、成功した。晴美は、丸光園の再建を考えていたが、コソ泥トリオが、世間の噂を信じ晴美の家にコソ泥に入る。そして、彼等もまた丸光園出身であった。
「ナミヤ雑貨店」と「丸光園」の不思議なつながりを考えるほど、絶対に雄治が操っているように思える。

そして、雄治が32年前に受けったら白紙の手紙、それは彼等が雑貨店を後にするときに何気なく投函したものであった。時を越え、未来から白紙の手紙を受け取った雄治は、「白紙の地図を手に、道も目的地もわからない人からの悩み相談」として返事を返したことが印象的であった。

「あなたの地図は、まだ白紙なのです。だから目的地を決めようにも、道がどこにあるかさえもわからないという状況なのでしょう。
地図が白紙では困って当然です。誰だって途方に暮れます。
だけど見方を変えてみてください。白紙なのだから、どんな地図だって描けます。すべてがあなた次第なのです。」

人は人生の中で必ずいくつかの岐路に立つ。その時にどうすべきかということを教えてくれる物語であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年7月20日
読了日 : 2020年7月20日
本棚登録日 : 2020年7月20日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする