ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス 51)

  • 白水社 (1984年5月20日発売)
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ホールデン・コールフィールドは、ペンシルヴェニアの高校を退学になった16才の男の子。富裕層の家庭の次男である彼は、自意識過剰で、繊細で、あらゆることに批判的です。本書では、彼がクリスマス直前のある土曜の午後に寮を出て、月曜の午後に妹と動物園を訪れるまでの二日間を、絶望と希望の狭間で目まぐるしく過ごす出来事が描かれています。
学校を出た彼は、悩み、考え、出かけて行き、たくさんの人に会います。最近の日本で考えると、精神を病んだ人というのは家に引きこもりがちだと思いますが、ホールデンは、悪態をつきながら、そして有り金を使い果たしながら、思い付くままに行動していきます。悩んだ末の行動なはずなのに、結局は突発的に行動し、退廃的な結果に終始します。やることなすことうまくいかない彼の行動ですが、この当時の若者達に、正に心の代弁者として熱狂的な支持を受けたそうです。
本書が出版されたのは1951年、私が初めて読んだのは1995年。当時の私にとっても既に古典的だった本書ですが、繊細な心の苦しみがあまりにも生々しく伝わってきたことを覚えています。今回久しぶりに読んでみると、多少客観的に読むことができ、ホールデンを「大丈夫だよ」と抱き締めてあげたい、母親目線での自分を感じました。
所々に、村上春樹が影響を受けたのであろう文体(例えば、『…自分で西半球一の美男子だと思ってやがんだよ。そりゃなかなかの美男子ではあったーそいつは僕もみとめるさ。しかし、奴はだな、生徒の親たちが、学校の年間の写真を見て、「この子は誰?」 と、すぐそう言ったりなんかする、そういう種類の美男子なんだな、大体において。…』)が見え隠れして、村上少年がどっぷりとサリンジャーの世界に浸っていたことが想像できました。いつか、村上春樹翻訳のものも読んでみたいと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年8月13日
読了日 : 2022年8月13日
本棚登録日 : 2022年8月13日

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