表題『最悪』が示すように読中も読後も読み心地は「最悪」である。
途中で止めようかと何度か思ったが、中盤から展開がスピードを上げて最後きっちりひとつの作品として纏まりきる。
奥田さん上手だなあ。
3人の全く関わりのない人間の群像劇。
生い立ちに恵まれずパチンコやカツアゲでその日暮らしをする若者。
「ものづくり」の3次4次請けを自覚しながらも自ら立ち上げた町工場でこつこつと受注した作業に向き合う中年男性。
再婚した母が創る家庭のなかでどこか居場所を見つけられずにさしずめ目の前の暮らしのために銀行の窓口業務を担当する女性。
立場異なれど三人三様で何か寄る辺なさや現状への居心地の悪さを日常の些事に紛れこませ、やり過ごす。
「こうしたい」「こうありたい」よりも日常の流れの中で「こうするしかない」という選択肢を無意識のなかに優先してしまう人間の哀しさ。
果たしてその選択が正しかったのか、否か。
3人の「こうするしかない」というその場の舵の切り方は物事を予想以上に悪化させ、道を転がり落ちるような顛末に繋がる。
登場人物たちが次第に追い込まれ、他人に助けを求めることもできず視野狭窄で苦悩する様は、読み手をもその閉鎖空間に追いやる。奥田さんの巧みな筆致の技。
教訓やハッピーエンドによる満足感とは無縁。ジェットコースターのような展開に振り回され、「最悪」の気分になれる一流のエンタメ作品でした。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2022年1月15日
- 読了日 : 2022年1月15日
- 本棚登録日 : 2021年12月16日
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