観察力を磨く 名画読解

  • 早川書房 (2016年10月6日発売)
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借りたもの。
絵画鑑賞で養われる、観察力の有用性を事例を挙げて説く本。
それは自身の知覚に偏り(バイアス)があることを自覚し、客観的事実に基づくことを訓練するものだった。
美術の見方であったり、そのノウハウを紐解くようで、それに留まらない。
所々に、科学的な話――認知傾向を表す名称――についても取り上げ、裏付けがされている。

美術鑑賞は教養であり、日常とは異なるもの――非日常体験であり、息抜きである――という考えとは違う。
美術館賞は日常に役立つ能力――それは審美眼ではなく、観察眼――を鍛えるものとして著者は推奨する。
活かせる場所は陪審員であったり、夫婦関係(男女におけるすれ違いあるあるの解消)、ビジネス等……生活の全てである。
著者が提案する知覚セミナーの事例などを取り上げて言及されている。

美術館賞を通して、認知とその伝達方法を説明してゆく。その過程で昨今話題のフェイクニュース問題に通じる、気づきをくれる。
個人の経験や信条に基づく先入観、それにより見落としや、誤解が起こる、偏見が発生するということの……

人間の先入観の強固さは昔から指摘されているし、この本で紹介されている認知特性に関する情報で、私には目新しいものは無かった。

それを回避するための客観的な姿勢が必要であり、心得なければならない。
“ ルール一、バイアスを自覚し、悪いバイアスは排除する
ルール二、バイアスを事実と混同しない。バイアスは事実を見つける道具と心得る
ルール三、結論を第三者に聞いてもらう
(p.305)”

烏賀陽弘道『フェイクニュースの見分け方』( https://booklog.jp/item/1/410610721X )も参考になると思う。
知覚のバイアスに関しては、本田真美『医師のつくった「頭のよさ」テスト 認知特性から見た6つのパターン』( https://booklog.jp/item/1/4334036899 )に取り上げられたような、個々人の認知の差も影響していそうだ。

この本を読んで私が一番驚いたことは、マグリットの絵画を通して、描かれている“あるはずのないもの”を見つけるよりも、“描かれてないもの”を指摘するのは難しいと思ったことだった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 美術
感想投稿日 : 2018年3月3日
読了日 : 2018年3月3日
本棚登録日 : 2018年2月4日

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