秘密 (文春文庫 ひ 13-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2001年5月10日発売)
3.96
  • (4603)
  • (4342)
  • (3979)
  • (455)
  • (101)
本棚登録 : 41902
感想 : 3299
4

妻と娘を乗せたバスが崖から転落。娘だけが助かるも意識は妻が生き残り… 家族の悲劇と絆の物語 #秘密

■あらすじ
妻と娘を持つ主人公が事故の知らせを受ける。家族を乗せたバスが崖から転落したというのだ。残念ながら妻は亡くなってしまい、娘だけかろうじて助かることになる。
しかし娘が意識を取り戻すと、体に宿っていたのは妻の意識だった。夫と娘の奇妙な暮らしが始まっていく。

■きっと読みたくなるレビュー
東野圭吾先生お得意の家族の絆を描いた名作、人体と意識が入れ替わるという不思議な世界観で綴られるミステリーです。

まず一番の魅力は、人と人との関係性の描き方。
さすが東野圭吾先生ですよ、ミステリー界では日本一じゃないですか。

・夫が妻を不満を察して譲る→妻はさらに引いて夫を慮って譲る→そんな妻を愛しむ
・夫が妻に不満を言う→妻が反論する→夫が妻に代替案を出す→妻がさらに代替案を出す→結局夫の不満は解消しない

こんな感じの会話が繰り広げられ、絶妙な距離感に痺れるんすよね~ 自然と気持ちが引き込まれちゃうの。めっちゃ上手いですよ。

そしてキャラクターの人間性が抜群に描けていて最高。
こうあるべきという思いを胸に前向きに生きているはずが、弱さや情けない部分をあえて痛烈に描いていて、あたかも自分自身のことのように感じることができる。

私も父親であり男であるので、妻や娘を守りたくなる気持ちに反し、嘆かわしい我欲が沸いてしまったり、悲しいケンカをしてしまう主人公の気持ちがよくわかります。
それに対して母が娘や夫に対する思いが切ないよ…葛藤が胸に刺さる。やっぱり女性と母は強く、カッコイイですね。懐の大きさと温かみ伝わってきました。

また本作は、当時の社会問題性も描かれているんですよね。
かつて2000年くらいに貸切バスの規制緩和があり競争化が激しくなりました。それによる従業員の労働環境へのしわ寄せも当然あったのでしょう。そしてなぜバスの運転手は我武者羅に働く必要があったのか。ここも本作品の読みどころなので、しっかり感じ取らせていただきました。

■推しポイント
本作のタイトルでもあり、キーワードでもある「秘密」という単語。
非常にシンプルですが、重い。この重さがイイ。

私は東野圭吾先生で一番好きな作品は『白夜行』なんですが、本作『秘密』は『白夜行』と相対する作品のような感じがしますね。
重く重く心に響く、素敵な名作でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2023年2月27日
読了日 : 2023年2月26日
本棚登録日 : 2023年2月26日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする