とある町に越して来た青年オーリィ君。商店街のはずれにある「トロワ」のサンドイッチに魅了され、通い詰めるうちに店主の安藤さんとその息子の小学生、リツ君と言葉を交わすようになる。オーリィ君は昔の日本映画も好きで、映画館へ足を運び同じ映画を繰り返し観る。それは彼が恋をした銀幕の女優に出会う為だった。あたたかくてささやかな日々が、やがて彼に時を越えた出会いをもたらす。
オーリィ君や安藤さん、リツ君が暮らす町、この物語の世界では、私が生きる世界と比べて時間がゆっくりと流れているような気がした。私たちはいつも時計を気にして、時間に追われる日々を送っている。しかし物語の人々にはそんなせかせかした様子は見られず、朝日が昇り、働いて、映画を見て、日が暮れて1日が終わる、その流れを受け入れ、ゆったりとした気持ちでそれを繰り返しているような気がした。また物語自体が過去へ向かっている為に、時間の流れにブレーキがかかっているように感じた。オーリィ君が観るのは昔の映画ばかり。リツ君は幼い頃に亡くなった母親を想って十字架を見上げる。オーリィ君の下宿の大家である屋根裏のマダムは、過去に結婚していた時のお義母さんへの憧れを口にする。そのような過去への志向性が時間の感覚を鈍らせているのかもしれない。
この物語にはサンドイッチに始まり、おいしそうな食べ物がいくつか登場する。身近で素朴な食べ物ばかりだが、どれもおいしそうに描かれていてとても魅力的だった。おいしいものを口にすると、誰でも心がほぐれて笑顔になる。ゆったりとした時間の流れとおいしい食べ物で現実世界を忘れさせ、ほっこり癒してくれる物語だった。
- 感想投稿日 : 2013年11月16日
- 読了日 : 2013年11月13日
- 本棚登録日 : 2013年11月16日
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